転籍拒否の懲戒処分 

Q.転籍拒否の従業員を懲戒することは可能でしょうか?

A.転籍には個別同意が必要ですので懲戒処分は問題でしょう。

 基本から確認しましょう。民法625条第1項は、「使用者は、労働者の承諾を得なければ、その権利を第三者に譲り渡すことができない。」と定めています。つまり、“従業員の同意がない限り”、出向や転籍を命じることはできないということです。

 しかし、一般的には従業員に対して個別の同意など取らず、出向させているケースがほとんどではないでしょうか。これは、「出向させる場合があり、命令に従わなくてはならない」ことが就業規則で明確になっていれば、これをもって従業員からの“包括的同意”があったとみなされるからです。この点について、「出向規定は合理性があり、従業員の個別の承諾がなくとも出向義務が生ずる」ことは、「正当として是認できる」と最高裁が判断しています。(ゴールド・マリタイム事件 最高裁2小判決 平4.1.24)

 一方、転籍についてはどうでしょうか。出向が元の会社と雇用関係を継続しながら新しい会社で働くのに対して、転籍は元の会社と雇用関係を終了した上で新しい会社で働く点で異なります。この場合には、退職という重要な意思決定と地位の変動がありますので、大原則に戻り従業員の“個別の同意”が必要とされます。つまり、従業員の“個別の同意”がない場合には原則として転籍させることはできませんので、懲戒処分については見合わせていただくことになるでしょう。