評価・人事制度

↓ 以下をご覧ください。

ジョブ型正社員とは

Q.ジョブ型正社員とは、どのような社員をいうのでしょうか?

A.いわゆる正社員と同じく「期間に定めがなく」、かつ、正社員とは違い「仕事に限定性のある」社員といえるでしょう。

 ジョブ型正社員は、限定正社員や多様な正社員とも呼ばれる雇用区分ですが、メンバーシップ型正社員と対比させると分かりやすいと思います。メンバーシップ型正社員とは、人事異動や転勤等がある“いわゆる正社員”のことです。その提唱者である濱口桂一郎先生は、日本の「雇用契約の性格は、一種の地位設定契約あるいはメンバーシップ契約」と考えられるとして、”メンバーシップ型正社員”と名付けたそうです。

 一方、ジョブ型正社員は、その反対ということになります。例えば、技術職という職種の限定があり営業職には人事異動をしない人や、働く場所が限定されていて引越を伴う転勤のない人が、ジョブ型正社員です。つまり、仕事(ジョブ)に限定性がないのがメンバーシップ型正社員の特徴であり、何らかの限定性を伴う労働契約を結ぶ人がジョブ型正社員になります。なお、どちらも正社員なので、雇用期間の定めのない労働契約を前提としています。

 また、労働契約法の改正により5年を超えて反復更新された有期労働契約は、本人の申し出により無期転換することが基本となりました。一般的に、有期労働契約は転勤や人事異動がないなど何らかの限定性を持つことから、この無期転換後の社員を指して、ジョブ型正社員ということもあります。

 メンバーシップ型正社員(いわゆる正社員)は、採用した後にその配属を考える新卒一括採用者がその典型です。反対に、特定の仕事があってその仕事をしてくれる人を採用するのが、ジョブ型正社員です。つまり、「人に仕事がつく」のがメンバーシップ型正社員(いわゆる正社員)、「ジョブに人がつく」のがジョブ型正社員ということもできるでしょう。

 参考:「日本の雇用と労働法」 濱口桂一郎 著

 

雇用区分と法改正の影響

Q.労働契約法や高年齢者雇用安定法の改正は、どのような影響を与えるのでしょうか?

A.正社員や有期雇用社員等、それぞれの役割を明確にする必要性が高まっています。

 企業によって異なるとは思いますが、有期雇用社員が正社員に登用されるハードルは高く、社員登用制度が存在したとしてもガラスの天井に阻まれることが多かったのではないでしょうか(左図左側)。そこで、労働契約法は“無期転換社員”という中間ゾーンを設けることで、正社員化へのハードルを引き下げると伴に、正社員へ転換しない場合でも期間の定めなく安定的に働くことができる雇用社会の実現を意図したわけです(左図右側)。

 一方、高年齢者雇用安定法が改正されたことで、多くの企業で希望者全員(原則)が65歳まで継続雇用されることになりました。これは期間の定めのない正社員が、有期雇用社員に転換することを意味しますので、大きな変動です(左図右側)。

 これらの法改正は、期間の定めの“ある”労働契約と、“ない”労働契約を相互に新しい雇用区分へ導きますので、労務管理は当然に複雑化するでしょう。例えば、有期雇用社員から無期転換した社員は、正社員のように長期間働くことになりますので、モチベーション確保の視点から、定期昇給や退職金制度を導入する必要があるかもしれません。また、長期雇用は長い時間をかけて能力開発をすることができますので、正社員だけでなく“無期転換社員”にも、より重要な仕事を任せることを可能にするでしょう。一方、正社員から定年後再雇用になる社員は、企業の中で次第に大きなウエイトを占めていくでしょうから、この労務管理の上手下手が、会社の業績に影響を及ぼすといっても過言ではありません。

 以上のように期間の定めのアリ・ナシという大きな線引きが変動しているわけですから、改めてそれぞれの雇用区分に対して会社が求める“役割”を明確にすべきタイミングが来たのかもしれません。

 

役割等級制度とは

Q.役割等級制度が注目されているそうですが、どのような制度なのでしょうか?

A.役割等級制度は、企業によって千差万別であり、定義付けることが難しい状況です。誤解を恐れずにあえて説明すれば、“人基準”と“仕事基準”の間に役割基準を設けた制度と言えるかもしれません。

 大手企業を中心に、役割等級制度の導入が進んでいるようです。運用しやすいメリットが強調される人事制度ですが、その実態は企業により千差万別であり、定義付けることが難しい制度でもあります。おそらく共通しているのは、“役割”という基準を持っていることでしょう。

 この“役割基準”はファジーな表現のため、企業により千差万別になっているのだと思いますが、“人基準”と“仕事基準”の定義をミックスしたものから、求められる役割の基準を作成し、等級の序列感とフィットさせたものが、役割等級制度といえるのではないでしょうか。

 上図は、左に人(能力)基準、中央に役割基準、右に仕事(職務)基準を置き、人事制度の三大要素である、等級、評価、賃金との関係を表したものです。

 人(能力)基準から作成する代表的な等級制度が職能等級制度ですが、柔軟な運用ができる反面、年功的に運用され人件費の面で経営を圧迫することが問題になることがあります。一方、その対抗馬としてよく挙げられるのが、職務等級制度です。各職務を定義し序列化した“職務記述書”を作るのが一般的でしょうが、仕事と賃金がマッチする反面、仕事分担の融通性やポスト不足への対応が困難で、社員の“ヤル気”を向上させにくいと言われています。

 役割基準は、これらの“能力基準”と“職務基準”の持つメリットを享受した折衷案と言えるかもしれません。また、役割等級制度は、いいとこ取りをした結果、どのようにも運用することが可能な制度ですので、管理職の運用力が優れている企業に向いていると言うことができるかもしれません。

 

等級制度と役職制度の違い

Q.等級制度と役職制度は異なるものなのでしょうか?

A.等級制度は人事制度上のもの、役職制度は組織上のもの、ということができます。

 多くの企業では、人事制度の一部として等級制度が定められています。例えば、職能資格制度であれば、「一般従業員層である間は、能力の進捗を測るマイルストーン」、「管理職層の場合には、組織上のポスト不足に対応するモチベーションの確保策」として効果を発揮すると考えられます。

 一方、役職は組織上の要請で与えられるもの、つまり、部下を持つ管理職を念頭においたものであり、従業員区分である等級制度とは似て非なるもの、といって良いのではないでしょうか。要するに、組織図上に部署があるから、その部署を管理する従業員=管理職が必要になるわけです。

 等級制度は、役職だけでは処遇しきれない部分に対して、よりきめ細かな対応を可能とするものであり、一定規模の企業では欠くことのできない人事制度といえるでしょう。

 

役職定年制のメリットとデメリット

Q.役職定年制のメリットとデメリットを教えてください。

A.メリット=人事の活性化、デメリット=年配者のモラールダウン、といったところでしょうか。

 役職定年制は、団塊の世代を中心とした社員構成の高齢化に伴うポスト不足への対応策として、90年代に脚光を浴びた人事制度です。(財)労務行政研究所が2010年1月に実施した「人事労務諸制度実施状況調査」で、役職定年制の実施率は28.1%であり減少傾向が続いています。年齢ではなく成果による処遇がクローズアップされた時代を経た現在では、その重要性は薄くなってきているように感じます。

 メリットとしては①人事の停滞解消、②人事の若返り・抜擢、③人件費の有効活用が挙げられますが、デメリットとして、①役職定年に近い役職者のモラールダウンから組織全体の生産性が低下する危険性、②特定人物の例外による制度の形骸化、③役職定年者の再配置および業務設定の困難さ、④役職定年に近い上司の命令に従わない部下の可能性が挙げられ、これから導入するには、弊害が目につく制度になっているような気がします。

 

職務評価と役割評価の違い

Q.役割評価と職務評価は、どのように違うものなのでしょうか?

A.企業によって様々だと思いますが、職務評価は“仕事基準”であり、役割評価は“仕事+人基準”だと言えるでしょう。

 評価制度にもいろいろありますが、能力評価や職務評価と比べて、役割評価はまだ新しい制度と言えるかもしれません。役割評価は、ファジーな“役割”に基準を置くため企業によって千差万別になっているのだと思いますが、能力評価と職務評価をミックスしたものといえるのではないでしょうか。

 左図は、左に人(能力)基準、中央に役割基準、右に仕事(職務)基準を置き、人事制度の三大要素である、等級、評価、賃金との関係を表したものです。人(能力)基準で評価する代表的な評価制度が能力評価ですが、柔軟な運用ができる反面、年功的に運用され人件費の面で経営を圧迫することが問題になりました。

 一方、その対抗馬としてよく挙げられるのが、職務評価です。担当した職務を評価するので、仕事と賃金がマッチする反面、仕事分担の融通性やポスト不足への対応が困難で、社員の“ヤル気”を向上させにくいと言われています。また、本来の職務評価は、仕事の出来栄えを評価するものではなく、仕事そのものの価値を評価する点に注意が必要です。

 役割評価は、能力評価と職務評価の持つメリットを享受した折衷案と言えるでしょう。また、能力評価と職務評価のいいとこ取りをした結果、どのようにでも運用することが可能な評価制度ともいえます。役割評価は、管理職の秀でた運用力が試される評価制度なのかもしれません。

 

コンピテンシー評価と能力評価の違い

Q.コンピテンシー評価と能力評価は異なるものなのでしょうか?

A.相違点はありますが、どちらも能力を評価することに違いはないと思います。

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能力評価は過去のものだが、コンピテンシー評価は新しい概念であり今の時代にフィットしている、などという話を聞くことがありますが、本当でしょうか?

 コンピテンシーの考え方はアメリカで生まれたもので、1970年代には、ホワイトによって既に提唱されています。その後、マクレランド、スペンサーなどの人物が登場し、コンピテンシー理論を発展させてきたと言われています。コンピテンシーをコンピテンスという人もいますし、発音のアクセントの置き方も人によって違うようですが、和訳すると“能力”になります。

 一方、能力評価は、能力に関する評価基準を作成し運用することで、定性的な評価対象でありながら、納得感を持たせようとしたものです。しかし、能力評価は可視的で把握しやすいものに限られてしまい、能力の源泉部分を評価することが困難でした。

 コンピテンシー理論を発展させたマクレランドの氷山モデル(左図)によると、目に見えている氷山の部分だけでなく、海中に沈んでいて見ることができない要素であっても、コンピテンシーを用いることで、把握することが可能だそうです。

 能力評価が、潜在能力ではなく観察可能な顕在化した能力(知識・技術)を重視することに対して、コンピテンシー評価は、海面下にあって見えないはずの“動機や特性”にもスポットを当て、可視的な行動特性として捉える点が相違点といえそうです。

 コンピテンシー評価が万能だという考え方には反対ですが、目で確認することができる行動特性に注目したことは、能力評価を一歩進めた、優れた点のように感じます。

 

コンピテンシー評価の作成手法

Q.コンピテンシー評価の項目は、どのように作るものなのでしょうか?

A.一般的には、ハイパフォーマーのコンピテンシーを抽出して評価項目にする。 といいますが・・・。

 コンピテンシーという言葉と一緒によく出てくる言葉に“ハイパフォーマー”がありますが、ハイパフォーマー=成績優秀者ということでよいのではないでしょうか。以下、コンピテンシーの評価項目の作成手順を示しますが、これは最大公約数的なものといってよいでしょう。

社内でハイパフォーマーと言われる複数の従業員にヒアリングをして、その行動パターンを抽出
ハイパフォーマーの行動パターンを集約・整理し、評価項目のベースとなるコンピテンシー・ディクショナリーを作成
コンピテンシー・ディクショナリーから、該当する職種にフィットするコンピテンシーを選択し、職種別に評価シートを作成

 このコンピテンシー(評価項目)の達成を目指すことで、標準的な従業員でも成果が出やすくなるわけです。

 本当にそうなのでしょうか?ハイパフォーマーのマネをすれば、業績が出やすくなるのでしょうか?

 私は思います。AさんにはAさんなりの、BさんにはBさんなりの業績を導き出す手法があるのだと。優秀者の行動パターンを参考にすることまで否定はしませんが、過信は禁物です。ですから、ハイパフォーマーの行動パターンというよりは、その仕事なりの“あるべき行動様式”を社内で議論して、コンピテンシー項目を作成することの方が重要だと思うのですが、いかがでしょうか。

 その場合には、考えられる行動パターンから仮のコンピテンシー項目を作成して、社内でアンケートを実施します。その結果から得られたコンピテンシー・ディクショナリーを原案にすれば、議論が活発になりやすく納得感のある評価項目の作成につながると思いませんか?

 完璧な評価制度が存在しないことは誰でも知っているはずですが、“コンピテンシー”というカタカナが万能なものだと過信することのないよう注意が必要だと思います。

 

360度評価の使い方

Q.客観的で公平なものとするために、360度評価を用いるのはどうですか?

A.100%の客観性・公平性を求めるよりも、妥当性のある上司の評価が大切でしょう。

 評価制度は、客観的で公平であることが重要だと言われます。確かにその通りでしょう。それを実現するために、360度評価(多面評価)を用いる会社もあります。360度評価は、被評価者の上司・同僚・部下から多面的に評価される制度であり、被評価者へ“気づき”を与えることに有効です。周囲からの視線について、被評価者に気づかせることで育成につながります。管理職への昇進時に活用すると有意義だと思います。管理職は、自身の業績だけでなく部下を育成する役割を担うからです。

 一方、360度評価が直接処遇に反映されるケースは多くないようです。そもそも、評価をするためには被評価者の仕事を十分に理解している必要があります。その仕事を被評価者に与えているのは直属の上司です。上司と部下は、命令と報告の関係で結ばれており、この関係の間に第三者は介入できません。つまり、部下の仕事を一番よく把握し責任を負っているのは、命令した当事者である上司だけです。

 評価が客観的で公平であることは理想ですが、部下を評価できるのが上司だけだとなると、神様ではない人間のすることですから、データを活用するにしても上司の主観で判断せざるを得ません。ただし、上司によってこの主観に大きな格差が存在すると組織として大きな問題になります。そこで、会社は考課者訓練などで上司の主観(評価眼)を一定レベルの範囲内に調整しようとするわけです。人間誰しも甘い・辛いがあるものです。組織としてコントロールされた上司の主観を用いることが、合理的なことのように思われます。

 

業績評価で重要なこと

Q.業績評価で注意することはりますか?

A.業績評価は、運用が大切だといえるでしょう。

 業績評価に限らず、評価制度が重要なことに異論をはさむ人は少ないと思います。しかし、自社の評価に何らかの問題があると考える人事担当者は多いかもしれません。また、評価制度は制度設計とその後の運用に分けることができると思いますが、運用に関する課題をよく耳にします。

 「就労条件総合調査(2010年)」では、この“運用の難しさ”について把握することができます。まず、評価側の主な課題として「部門間の評価基準の調整が難しい」や「評価者の研修・教育が十分にできない」などが挙げられています。次に、制度の主な問題点として「評価によって勤労意欲の低下を招く」や「評価結果に対する本人の納得が得られない」などが挙げられています。これらの課題や問題点への対処法としては、「業績評価制度に基づく評価結果を本人に通知している」が最も多くなっており、いわゆる“評価のフィードバック”の重要性が認識されているようです。

 これは、業績を計ることの難しさを物語っているのだと思います。とはいっても業績を無視するわけにもいきません。業績を重要な指標としながらも、部下を納得させるための上司の総合的な評価が求められているのではないでしょうか。緻密な制度設計にこだわるよりもバランス感覚をもった上司を育成すること、増やすことが業績評価制度のカギといえるかもしれません

 

絶対評価と相対評価

Q.「絶対評価」と「相対評価」 どちらが適切でしょうか?

A.1次評価は「絶対評価」、2次評価は「相対調整」になるでしょう

 評価制度の運用において、「絶対評価」と「相対評価」のいずれが適切なのか、議論になることもあるでしょう。これは、会社の意思決定の問題であり、どちらの評価であっても構わないと思います。ただし実務では、1次評価は「絶対評価」になるだろうと思います。

 例えば、1次評価者である課長の抱える部下の人数を考えます。部下の人数が30人もいれば、十分に「相対評価」は可能でしょう。しかし、少人数の部下を抱える課長が「相対評価」を実施しようとしても、相対的な分布構成をとるのは困難です。組織の構成人数にもよりますが、一般的な日本の企業で一つの「課」に所属する従業員の人数を想像すると、やはり「相対評価」は難しく「絶対評価」にならざるを得ないのではないでしょうか。

 次に、2次評価者は「相対評価」ではなく、「相対調整」を実施することになるでしょう。ここでは、「相対評価」と「相対調整」の違いが疑問になるかもしれません。「相対評価」は、従業員を直接に評価し、各従業員を対比することで評価を決定します。一方、「相対調整」は、従業員を直接に評価するのではなく、1次評価者の“甘い・辛い”を間接的に調整する点で「相対評価」と異なります。

 例えば、2次評価者である部長は、「絶対評価」を実施した当事者ではありませんので、第3者として客観的に、1次評価者である課長の“甘い・辛い”に気づきやすくなります。どんなに“評価眼”に優れているといっても人間のすることですから、“甘い・辛い”はあるものです。そのため、部長は課長に対してアドバイスを加えて1次評価の再提出を指示します。これは、課長を育成する部長の仕事の一つと言って良いかもしれません。

 実務の世界では、スケジュールの制約の中で評価制度は運用されますので、原則通りにはいかないことが多いかもしれません。そうであっても、「あるべき姿」とのバランスを意識した評価制度の運用が求められていると思います

 

評価の段階数

Q.評価制度では、何段階評価がよいのでしょうか?

A.決めごとの問題ですが、「標準」レベルを設定すると運用しやすいでしょう

 評価の段階数に制限はありません。会社が自由に意思決定できるものです。

 そうは言いながら、評価の段階数で一般的に多いものは、5段階や7段階の奇数の段階数だと思います。会社によっては4段階や6段階のような偶数の段階数もあるでしょう。当たり前のことですが、偶数の段階数を設けた場合、真ん中がなくなります。中心化傾向を避けメリハリを効かせるために、意識的に偶数の段階数を設けるわけです。偶数の段階数は、プラスなのかマイナスなのかを明確にできるメリットがありますが、標準や平均的なレベルを設定することが難しくなります。奇数の段階数は、真ん中のレベルを標準や平均的なレベルとして中央を設けることで、「その上」と「その下」という位置関係が明確になることから使いやすいと思います。評価制度を運用するのは現場の管理職ですので、管理職が運用しやすい段階数にすることが重要でしょう。

 一方、3段階評価や9段階評価も考えられます。しかし、3段階評価では大雑把になりやすく、9段階評価だと段階数が多すぎて差が分からなくなってしまいます。ちょうど使いやすいものが5段階や7段階評価ということなのでしょう。

 業績のような定量的評価は、数値を伴いやすくある程度明確になりやすいので7段階評価、能力評価やコンピテンシー評価などの定性的評価は、基準がファジーになりやすく格差が明確になりにくいので5段階評価が適する傾向があるのだと思います。評価の中央値を標準評価として位置付け、標準からプラス・マイナス2〜3段階の5段階または7段階評価とするのが、オーソドックスな評価の段階数ではないでしょうか

 

職種によって異なる評価の段階数

Q.当社では、総合職が5段階評価、一般職が3段階評価であり、職種によって評価段階が違うので、評価者から付けにくいとクレームがきます。変更した方がよいのでしょうか?

A.法律上の問題ではないので会社の自由ですが、運用しにくいのであれば、統一した方が良いかもしれません。

 職種によって評価の段階数が異なることには、それなりの理由があるのかもしれません。例えば、総合職は仕事のレベルに差がつきやすいので、評価にも差を設けやすく5段階評価とするが、一般職の仕事は困難度に大きな差がなく、評価に差を設けることが難しいので3段階評価としている、と考えることもできます。

 一方、評価者にしてみれば、評価の尺度が様々では混乱しますので、評価の段階数とレベル感を統一した方が、運用しやすいでしょう。

 どのようにするかは会社の考え方ですが、一般職の3段階評価を5段階にしたとしても、一番上と一番下の評価レベルの定義を適切に実施すれば、結果は極端には変化しないのではないでしょうか。

 

評価を逆算する上司への対応

Q.当社の制度は、項目ごとに評価したものを100点満点で集計し、最終的にはアルファベットで評価レベルを表現しています。評価者の中には、アルファベットを先に決め、後から点数を配分してしまう上司がいるようです。どうしたらよいでしょうか?

A.精緻な積み上げ評価には限界がありますので、より妥当性の高い評価項目にするため、定期的なヒアリングをしたらいかがでしょうか。

 評価項目毎のポイントを合計し、評価アルファベットに当てはめていくというやり方は非常にオーソドックスな手法だと思います。しかし、評価者によっては、御社のように最終的なアルファベットを先に決めてしまうケースもあるでしょう。では、なぜ、そのような評価手法を取るのか、それを考える必要があると思います。一言でいえば、その評価者にしてみれば、評価項目に対する信頼感が薄いからではないでしょうか。

 もちろん、全ての評価者が納得する評価項目など存在しないでしょうが、少しでも納得感を高めるためには、評価者に対して定期的にヒアリングを実施し、制度と評価者の間にあるギャップを埋める努力が必要だと思います。

 また、点数から精緻に評価を積み上げれば、精緻な評価結果が得られる、というのは正しいようで森に迷い込んでいる可能性はないでしょうか。評価を精緻にすればするほど内容は細かくなり、だんだん何を評価しているのか分からなくなるような気がします。

 少し古いデータではありますが、1998年に日本労働研究機構が実施した調査によれば、「まず全体の評価を決めてからそれに合わせて項目ごとの評価を決める」と回答した管理職が約3割いたそうです。これは御社だけの問題ではなく、評価にまつわる永遠のテーマなのかもしれません。

 

年俸制と成果主義

Q.年俸制を導入することで成果主義を徹底することができるのでしょうか?

A,年俸制と成果主義には関係性がなく、成果主義は評価制度で実現するものです。

 賃金の支払い方には、月1回以上という労働基準法24条の制約がありますが、賃金の決め方には、一部の例外を除けば、会社が自由に決めることができます。年俸制の場合には、1年間で1つの金額を定め、それを12分の1や16分の1として、月当たりの支給額を決定するわけです。つまり、これは支払い方の問題であり、年俸制の決め方とは別の問題です。

 一般的に年俸制のメリットとしては、働く時間(量)に応じて賃金が決まるのではなく、働いた成果(質)によって決まるので、成果主義の考え方にフィットしており、時代にマッチしたものだと言われます。しかし、いわゆる管理職を除けば年俸制であっても法律上、残業代を支払わなければならないので、働く時間(量)を無視して、賃金の決定はできません。かえって本当に年俸制であれば、賞与相当部分も残業の計算基礎に含めなければならないので、人件費は割高になるはずです。

 もし、会社が成果主義を徹底したいと思うなら、年俸制の導入という支払い方にこだわるよりも、その決め方である評価制度の改定に注力することの方が重要だと思われます。

 

年功賃金からの脱却と成果主義

Q.年功賃金からの脱却を実現するため、成果主義を導入しました。何か気をつけることはありますか?

A.人事制度の変更は労使の自由ですが、バランスを取る必要はあるでしょう。

 昨今の成果主義ブームに乗り、人事制度を成果志向型の制度に変更した企業はたくさんあると思われます。労使で合意した結果であれば、基本的に問題はないと思いますが、いくつかの気になるポイントを記述したいと思います。

 まず、制度変更の前後で総額人件費が減少していないでしょうか。もし、総額人件費が大きく減少しているならば、成果主義の徹底のためではなく、人件費抑制のための変更だったと社員に思われ、モチベーションのダウンにつながりかねません。

 次に、成果主義の導入により、成果が上がらない従業員は賃金が低下する傾向になると思いますが、減額幅が大きい場合には、調整給などで段階的に下支えをする必要もあるでしょう。そして、その成果主義が、一部の従業員にのみ不利益にはたらいたとすると問題があります。もし、従業員が提訴するようなことがあれば、会社は人事制度の合理性を立証しなければならないので、そういったリスクを低減させるためにも、緩和措置は必要です。

 

年功賃金の理論的背景

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年功賃金制度を改定する場合、肯定的なのは若手従業員で、年配者は否定的という構図になるのが普通です。年配者は既に年功賃金制度の恩恵を受けており、制度の改定となれば、賃金が下がる可能性も大きくなるので当たり前でしょう。しかし、年配社員が反対することは自分勝手なのでしょうか。

 年功賃金の理論的説明には諸説ありますが、労働経済学では”投資と回収モデル”を用いて説明し、定年制と合わさって定説になっています(左図)。説明が複雑になるので、ひとことで言うと、生涯を通じて投資(賃金)と回収(会社への貢献)が定年という精算時点で釣り合うものが、年功賃金および定年制だと説明するものが有力です。

 つまり、中高年になるまでは会社への貢献よりも低い賃金、中高年になってからは、貢献よりも高い賃金を受け取り、その貸し借りを清算する時点が定年だというわけです。 そうだとすると、年配社員は過去に預けた賃金を回収する局面にきているだけで、不当に高い賃金を得ているわけではない、ということになります。

 経済情勢が厳しい中、会社が積極的に賃金制度を管理したいと思うことは誰にでも分かる今日的課題です。しかし、年功賃金を正しく理解すれば、年配社員に対して丁寧に説明する必要性も感じるでしょう。会社の経営からどうしても、年功賃金を改定せざるを得ないのであれば、やはり、時間をかけながら、その必要性を丁寧に説明することが重要だと思います。

 

部門別の賞与額

Q.部署ごとに賞与の箇月数を変えることに問題はないでしょうか?

A.これは、組織業績評価制度の手法の一つと考えられます。

 会社の業績に応じて賞与の原資が変動することは、当たり前のことだと思いますが、部門別採算管理が徹底する中では、部門別に賞与の原資を変動させる企業も多く存在します。

 賞与の支給箇月数を部門別に変動させるということは、賞与の原資配分を部門別に変化させるということになります。高業績の部署は、その部署に所属する従業員の賞与が増える方向にシフトしますので、部署としての一体感を醸成することができ、モチベーションのアップに役立つでしょう。

 ただし、組織業績を評価するルールが明確になっていないと、恣意的だと誤解を受けることも考えられますので、部署別に支給箇月数を変動させるには、その根拠を明確にすることが必要と思われます。

 手法としては、営業部門であれば、予算達成率と達成額のようなものが考えられますが、気をつけなければいけないのは、達成率のような定率だけにしてしまうと、極端なケースに対応できなくなる場合もありますので、達成額のような定額の基準を兼ね合わせた指標が必要になると思います。