有期雇用・入退社等

↓ 以下をご覧ください。

同一労働同一賃金は絶対か

Q.「同一労働同一賃金」 どうしたらよいのでしょうか?

A.「均衡処遇」を意識し、労使の対話を重視すべきです。

 パートタイム・有期雇用労働法第9条は、「職務の内容が通常の労働者と同一の短時間・有期雇用労働者」について「差別的取扱いをしてはならない」と定めています。これは、「均等処遇」と呼ばれており、仕事の内容や人事異動の範囲など全てにおいて正社員と完全に同じケースですので、事例としては少数派になるでしょう。

 同じく第8条は、「短時間・有期雇用労働者の〜待遇のそれぞれについて」、「不合理と認められる相違を設けてはならない」と定めています。これは、「均衡処遇」と呼ばれており、不合理な格差は許されないが、ある程度説明がつく範囲であれば許容されることになります。通常は、こちらのケースが多く想定されるでしょう。そのため、「均衡処遇」としてある程度説明がつく範囲内に格差を縮小しなければなりません。また、従業員の同意や交渉過程は、「その他の事情」として、不合理性を否定してくれますので、時間をかけた丁寧な説明をすることも重要です。

 いわゆる正社員は、長期的な人材活用を念頭に置いた雇用グループになりますので、短期的な雇用を想定する短時間・有期雇用労働者と本当の意味での同一労働同一賃金までは求められないと考えることが可能で

 

派遣期間の制限

Q.労働者派遣法の改正により、派遣期間の制限はなくなったのでしょうか?

A.無期雇用では制限なし、有期雇用では原則3年の制限があります。

 2015年9月30日施行の労働者派遣法では、派遣元企業の雇用形態によって、派遣期間の制限の有無が決まります。

 改正法では、派遣元企業で「無期(期間の定めのない)雇用契約」を結んだ労働者について、派遣先企業での派遣期間に制限はありません。以前から、政令で定める業務(いわゆる26業務)については、派遣期間の制限がありませんでしたが、派遣労働者の担当する仕事の種類によっては派遣期間が制限されていましたので、働きたくとも働けない派遣労働者が存在しました。法改正により、業務による区分がなくなりましたので、今後は「無期雇用契約」を結んだ派遣労働者が、様々な種類の仕事に進出することで、派遣期間の制限を気にする必要のないケースが増えるかもしれません。この場合、派遣労働者の雇用の安定性は高まるでしょう。

 一方、派遣元企業で「有期雇用契約」を結んだ労働者は、派遣先企業で「原則3年」を超えて働くことができなくなりました。もともと、労働者派遣法には正社員の保護措置として、「常用代替防止」の考え方が強くあります。これは、正社員の仕事が派遣労働者に奪われることを防止するため、労働者派遣が短期間となるように制限しているのです。ただし、「原則3年」には例外規定があり、それを利用すれば長期的に労働者派遣制度を活用できることになります。この点では、経済団体等から評価をされているようです。

 労働者派遣法は、「派遣労働者の保護」、「正社員の保護」、「労働者派遣の活用」など、利害が相反する中でバランスを取る必要があり多くの問題をかかえていますので、今後も法改正は続くことが予想されます

 

無期転換の5年のカウント

Q.契約社員の雇用期間が5年を超えると無期労働契約になるそうですが、平成25年1月1日で1年契約を初めて更新した場合、5年のカウントは、いつスタートするのでしょうか?

A.次回更新する平成26年1月1日からカウントし、平成31年1月1日以降、無期労働契約に転換するスケジュールが想定されます。

 同一使用者との間で反復更新された労働契約が通算5年を超え、本人から申し出があった場合には、期間の定めのない労働契約に転換することが、改正労働契約法第18条に定められています。

 改正法第18条が適用される労働契約は、改正法の施行日以降に開始される契約ですので、このケースの場合、改正法施行日(平成25年4月1日)から、次回更新までの9箇月間は法律の適用がないので、平成26年1月1日の更新から初めて適用され、そこからカウントした5年後の平成31年1月1日以降、無期労働契約に転換することが想定されます。つまり、施行日以降に更新日がこない限り、5年のカウントはスタートしないことになりますので、平成25年4月1日から平成25年12月31日の間は、実務上の適用猶予期間といったところでしょうか。

 ただし、連続して更新しないことにより、労働契約に6箇月以上(原則)の空白期間(クーリング期間と呼ばれます)があった場合には、その前後の期間は通算されないことになっています。

 

無期労働契約への転換

Q.改正労働契約法では、労働契約を1回でも更新すると正社員になるって、本当ですか?

A.ある意味においては正解です。ただし、正社員とは限りませんし、平成30年4月以降のことです。

 改正労働契約法第18条は、更新された労働契約が通算5年を超え、本人から申し出があった場合に、期間の定めのない労働契約に転換することを定めています。ケースによっては1回の更新で、この定めに該当する場合があり得ます。

 労働基準法による契約期間の最長は3年(原則)と定められていますが、仮に3年間の労働契約を締結している場合で、同内容の契約を更新すると、4年目から6年目までの期間を契約することになります。この場合、更新した期間が通算5年を超えますので、本人の申し出により“期間の定めのない労働契約”へ転換させることができるようになります。

 ここで問題になるのは、契約の成立時期です。有期雇用社員である本人の申し出は、最初の更新から2回目の更新の間になるでしょう。仮に、その申し出が最初の更新の直後(例えば、入社から3年1箇月後)だとすると、そのタイミングで“期間の定めのない労働契約”が成立し、会社は拒むことができません。もし、更新した契約期間(満6年)の満了で、雇用を終了するのであれば、既に成立している“期間の定めのない労働契約”も解約(解雇)しなければなりませんので、簡単なことではありません。

 要するに、3年間の労働契約の場合、一度でも更新をすれば結果的に、“期間の定めのない労働契約”に転換することになるのです。ただし、別段の定めがない限り、直前の有期労働契約の内容で更新されますので、仮に時給制のパートタイマーであれば、“期間の定めのない”時給制のパートタイマーが誕生するのであって、いわゆる正社員に自動的になるわけではありません。

 

無期転換社員の就業規則

Q.労働契約法の改正により無期転換する契約社員には、正社員の就業規則が適用になるのでしょうか?

A.ケースバイケースですが、その可能性はあるので注意が必要です。

 労働契約法第18条は、無期転換した場合の労働契約の内容について、「現に締結している有期労働契約の内容である労働条件(契約期間を除く。)と同一の労働条件(当該労働条件(略)について別段の定めがある部分を除く。)とする」と定めており、“従前の労働条件”を前提としています。ただし、ここで出てくる「別段の定め」に“正社員の就業規則”が該当すると考えられるならば、無期転換した契約社員にも正社員の就業規則が適用されることになります。

 法改正による無期転換社員は新しい制度ですので一概には言えませんが、直ちに“正社員の就業規則”が「別段の定め」に該当するとは考えにくいと思われます。しかし、有期雇用社員の就業規則の適用対象者として“雇用期間の定めがある者”、反対に、正社員の就業規則に“雇用期間の定めがない者”という定義があった場合はどうなるでしょうか。

 正社員の就業規則を無期転換社員に適用しないのであれば、このような齟齬をうまないために、無期転換社員の適用除外を明示する必要があります。また、無期転換社員の独立した就業規則を設けることが紛争の予防に役立つことになるでしょう。 

 

定年後再雇用の対象者

Q.定年退職した従業員の一部社員を再雇用していますが、何か注意点はありますか?

A.改正高年齢者雇用安定法は、定年後に希望する全員の継続雇用を前提としていますので、再雇用の対象者を一部社員に限定することはできません。ただし、就業規則に定める退職事由や解雇事由に該当する社員を対象者から除外することは許されています(2013年4月1日以降)。

 高年齢者雇用安定法は、定年制度を持つ企業に対して、3つ(1.定年の引上、2.継続雇用制度、3.定年制の廃止)のうち、いずれかの措置義務を課しています。これは、年金の支給開始年齢と接続するために、65歳までの継続雇用を目指しているからです。
 この中で継続雇用制度を導入している企業が数多くありますが、希望者全員が対象になるとすると、就業規則の解雇事由に該当するような社員であっても、会社は継続雇用しなければなりませんので、「心身の故障のため業務に耐えられない場合」や、「勤務状況が著しく不良で引き続き社員としての職責を果たせない場合」等、就業規則に定められた事由に該当した場合には、継続雇用をしないことができるように定められたものです。
 なお、平成37年3月31日までは、法改正による経過措置として、別途、労使協定による継続雇用対象者の限定が許されています。

 

始末書不提出と再懲戒処分

Q.始末書の提出を命じたのですが、従わない社員を再度懲戒することは可能でしょうか?

A.始末書は強制できませんので、業務報告書としての提出を求めると良いでしょう。

 懲戒処分には、「戒告、譴責、減給、出勤停止、降格、諭旨退職、懲戒解雇」などがあり、就業規則等でどういった場合に懲戒処分になるかの事由が列挙されている必要があります。企業によって懲戒処分の種類や呼び方は多少異なるようですが、口頭によるものが「戒告」、始末書を提出させるものが「譴責」と呼ばれることが多いようです。

 この中で比較的軽い処分である譴責は、将来を戒めるために始末書の提出を伴うことが多いと思われますが、本来、思想について強制することは許されないことですので、始末書を提出しないからといって更に懲戒処分を課すことはできません。この点につき、代表的な裁判例である福知山信用金庫事件(大阪高裁 昭53.10.27)では、始末書の「提出の強制は個人の良心の自由にかかわる問題を含んでおり」、「提出しないこと自体を企業秩序に対する紊乱行為とみたり特に悪い情状とみることは相当でないと解する」とされています。

 譴責処分はその告知をもって既に成立していますので、始末書の提出要請に本人が従わなかったとしても仕方のないことでしょう。ただし、始末書が“ことの顛末”を記述した業務報告書であれば話は別です。将来を戒めるために提出を求めるものではなく、企業として事実確認のために、経緯やその顛末を報告させることは、業務命令として成しえます。この業務命令に従わないのであれば、改めて懲戒処分の対象にすることは可能です。

 

解雇の事由と就業規則

Q.就業規則には、解雇に関する全ての事由が必要ですか?

A.事由について、懲戒解雇は限定列挙、普通解雇は例示列挙といわれています。

 就業規則には、解雇の事由が記載してあります。この事由に該当した場合に、解雇が実施されることになります。仮に、事由が明らかでない状態で解雇されることになれば大問題です。

 就業規則の解雇の事由は、限定列挙と例示列挙、どちらなのかという論争があります。懲戒解雇の場合には、罪刑法定主義の考え方から就業規則に限定列挙されていなければならないが、普通解雇の場合にはそこまで求められず例示列挙が許される、というのが通説と言ってよいでしょう。

 ここでいう限定列挙とは、就業規則に記載されている事由に限って、解雇ができるという意味です。一方、例示列挙とは、就業規則に記載されている事由は、あくまでも例示であるので、完全に一致する事由が記載されていなくとも解雇ができる、という意味になります。ただし、就業規則の解雇事由には、「前各号に準ずる止むを得ない理由があるとき」といった条項を設けているのが一般的ですので、実質的にはあまり問題にならないようです。いずれにしても、解雇の事由について適性に記載することが法律上のリスクを軽減することになります。

 

休職期間満了による解雇と自動退職

Q.傷病休職の期間満了で復職できない場合、解雇することになりますか?

A.就業規則に定めがあれば、自動退職として問題ないでしょう

 休職は、労働基準法等に定めのあるものではありません。会社ごとの取り決め、つまり就業規則に従うことになります。そのため、休職の要件や休職期間の長さ等については会社によって千差万別です。

 私傷病休職は、従業員の私傷病のために長期にわたり労務提供不能の状態になるので、本来は普通解雇の対象になります。しかし、いきなり解雇することはあまりに酷であるため、猶予期間として位置づけられるのが休職制度といってよいでしょう。そして、休職期間が満了するまでに復職することができなければ、改めて解雇することになります。

 一方、退職事由に「休職期間が満了するまでに復職できないとき」と書かれている就業規則をよくみかけます。この記述に従えば、自動退職扱いとなりますが、この規定は有効なのでしょうか?この点につき、労働基準法コンメンタール(厚生労働省労働基準局編)では、「当然契約が終了するという定めが契約の当初よりなされているのであるから、一般には、定年制の場合と同様に契約の自動的終了事由が定められたものと解し、休職期間満了による契約の終了は解雇ではないとみるべきではなかろうか」と記載され、事前に就業規則に定められているのであれば、自動退職となることを肯定しています。

 以上のように、私傷病休職の期間満了により退社する場合には、解雇と自動退職の2通りがあり得ますので、就業規則の“規定ぶり”について注意をする必要があるでしょう

 

試用期間と解雇

Q.試用期間であれば、解雇は問題ないのでしょうか?

A.不可能ではありませんが、正当な理由が必要になるでしょう。

 試用期間には、2つの意味があると思います。労働基準法と就業規則が定めるものです。

 労働基準法は、労働者を解雇しようとする場合、少なくとも30日前にその予告をしなければならないと定めています。これは、解雇を禁止しているわけではなく、予告という手続きの遵守を求めるものです。ただし、試の使用期間中の者(14日以内)であれば、その手続きを取らなくともよい例外が記載されています(労基法第21条)。ここは、手続規制の問題です。解雇には正当な理由が求められます。

 就業規則で試用期間を定めることは会社の自由です。試用期間を3箇月と定めれば4箇月目に本採用になるでしょう。この時、本採用しないのであれば、試用期間満了をもって解雇することになります。既に14日を超えていますので当然に解雇予告が必要な状態です。ここでも、解雇には正当な理由が求められます。

 一方、労働契約法第16条は「解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。」と定めています。この規定も解雇を禁止しているわけではありませんが、解雇予告や試用期間の有無とは別に、解雇には正当な理由が求められていることがわかります。

 どのような場合であっても、解雇を行う場合には正当な理由が求められます。他の長期勤続の労働者を解雇することに比べれば、解雇予告の不要な14日間や試用期間満了による場合は、解雇の事由に求められる客観性・合理性の程度が緩和されることになるかもしれません。しかし、具体的には裁判で個別に判断されることになりますので、解雇を前提にした対応策をとることには注意が必要です。

 

転籍拒否の懲戒処分 

Q.転籍拒否の従業員を懲戒することは可能でしょうか?

A.転籍には個別同意が必要ですので懲戒処分は問題でしょう。

 基本から確認しましょう。民法625条第1項は、「使用者は、労働者の承諾を得なければ、その権利を第三者に譲り渡すことができない。」と定めています。つまり、“従業員の同意がない限り”、出向や転籍を命じることはできないということです。

 しかし、一般的には従業員に対して個別の同意など取らず、出向させているケースがほとんどではないでしょうか。これは、「出向させる場合があり、命令に従わなくてはならない」ことが就業規則で明確になっていれば、これをもって従業員からの“包括的同意”があったとみなされるからです。この点について、「出向規定は合理性があり、従業員の個別の承諾がなくとも出向義務が生ずる」ことは、「正当として是認できる」と最高裁が判断しています。(ゴールド・マリタイム事件 最高裁2小判決 平4.1.24)

 一方、転籍についてはどうでしょうか。出向が元の会社と雇用関係を継続しながら新しい会社で働くのに対して、転籍は元の会社と雇用関係を終了した上で新しい会社で働く点で異なります。この場合には、退職という重要な意思決定と地位の変動がありますので、大原則に戻り従業員の“個別の同意”が必要とされます。つまり、従業員の“個別の同意”がない場合には原則として転籍させることはできませんので、懲戒処分については見合わせていただくことになるでしょう。

 

減給の制裁 

Q.懲戒としての減給は、いくらまで可能ですか?

A.1回当たり0.5日分、複数回の合計で賃金の10%が上限です。

 労働基準法91条は、「減給は、1回の額が平均賃金の1日分の半額を超え、総額が一賃金支払期における賃金の総額の10の1を超えてはならない」と減給の上限を定めています。例えば、何らかの懲戒事項が1回あった場合について0.5日分(月給30万円なら約5,000円)を上限とし、同様の懲戒事項が複数回あった場合には、合計10%(月給30万円なら3万円)を上限として、賃金を減額することが可能になります。なお、合計10%を超える場合には、翌月の賃金に持ち越して減給することは可能です(厚生労働省労働基準局編『労働基準法下巻労働法コンメンタール3』)。

 また、賞与で減給することも可能ですが、賞与も賃金の一部なのでこの条文が適用されます。そのため懲戒による制裁として減額できるのは、前述の例でいえば1回当たり0.5日分(約5,000円)、懲戒事項が複数回あった場合でも賞与の10%が上限となります。賞与の支給額に比べれば、あまり大きな感じはしないかもしれません。一方、懲戒されるほどの問題を起こしているのであれば、個人の評価が低いことは当然に予想されます。人事制度である評価の運用の結果として、賞与の支給額が低くなることは、減給の制裁には該当しないことになります

 

出向者の懲戒処分

Q.当社から子会社へ出向している社員が、金品を横領したのですが、子会社側で懲戒処分をするのでしょうか?

A.軽い懲戒処分であれば出向先企業で、懲戒解雇は出向元企業で実施することになります。

 出向は、出向元との雇用関係を維持しながら、出向先の指揮命令下に入ることになるので、基本的な従業員の地位に関するものについては、出向元の就業規則が適用され、労務の提供に関する事項については、指揮監督権を有する出向先の就業規則が適用されることになります。つまり、解雇、退職などの従業員の身分に関することは、出向元の就業規則が適用されますが、労働時間や休日休暇に関すること、出張や仕事の遂行、服務規律事項、安全衛生などについては、出向先の就業規則が適用されることになります。

 今回のケースが、始末書の提出や戒告処分などの比較的軽い懲戒処分であれば、出向先で実施することになりますが、懲戒解雇のように従業員の身分に関わるようなものについては、出向先で実施することはできませんので、出向を解除した上で出向元企業が対応することになります。

 

無期転換前の雇止め

Q.無期転換前に期間満了による雇止めは可能ですか?

A.入社時に合意があれば可能でしょう。

 労働契約法第18条は、反復更新された「有期労働契約」が5年を超えた場合には、「期間の定めのない労働契約」へ転換できる旨を定めています。いわゆる労働契約法の無期転換の問題です。従業員が無期転換を希望したときは、定年まで働くことが想定されます。会社からみれば、雇用調整の裁量範囲を狭めることにつながるため、無期転換権が発生する前に労働契約を終了(雇止め)するケースが考えられます。

 この場合、入社時の労働契約で事前に「不更新条項」を定めておけば、無期転換前に労働契約を終了させることは原則として可能でしょう。「不更新条項」とは、通算の雇用期間や更新回数の上限を設けるものです。つまり、入社以前にあらかじめ合意されている契約内容であれば問題にならないわけです。

 一方、入社後に改めて「不更新条項」を設ける場合には、従業員の合意が必要になります。従業員が本当に合意していればよいのですが、合意しなければ契約が終了すると説明され仕方なく合意したケースとなると、後日、裁判でどのように扱われるかは微妙です。また、従業員が「不更新条項」に合意しないことをもって契約を終了(雇止め)した場合、紛争化まで考えると会社にとって困難な状況をむかえることが想定されます

 

雇い止めとは

Q.雇止めとは、どういうことを言うのでしょうか

A.有期労働契約を終了することですが、終了できない場合があります。

 労働契約は、「期間の定めのない契約」と「期間の定めのある契約」の2つに分かれます。「期間の定めのある契約」は、契約の終了時期が合意されているので、期間満了をもって当然に終了します。しかし、反復更新された労働契約について、会社が一方的に終了させる場合は“雇止め”と呼ばれ、会社の意志とは関係なく契約が更新されてしまうケースがあります。

 労働契約法第19条は、「客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められないとき」は、“雇止め”をすることはできず、「従前の有期労働契約の内容である労働条件と同一の労働条件」で、契約が更新されることを定めています。これは、更新の回数が多い場合(東芝柳町工場事件 最高裁 昭49.7.22)や従業員から見て更新が期待されていた場合(日立メディコ事件 最高裁昭61.12.4)などの判例が積み重なった結果として、条文化されたものです。

 このような場合、“雇止め”は会社にとって一定のリスクを伴うものになります。また、労働契約法では有期労働契約が5年を超えて反復更新された場合、労働者からの申出により「期間の定めのない労働契約」へ転換することが定められています。これらのことを考えると、有期労働契約を反復更新していくメリットは限られているのかもしれません。

 そうであれば、期間の定めのない“限定正社員”として雇用することも一考です。“限定正社員”とは、「期間の定めのない労働契約」を結びながら、勤務地や職種等に限定性を持たせることで、賃金水準等について“今までの正社員”とは異なる労働条件を設定する雇用形態のことです。この“限定正社員”の活用により、会社は“雇止め”のリスクを避けることが可能となります

 

派遣社員と契約社員の違い

Q.当社には派遣社員がいますが、契約社員との違いについて教えてください。

A.契約社員とは雇用関係があります。派遣社員とは雇用関係はなく、指揮命令権を行使するのみです。

 従業員の雇用区分には、契約社員、嘱託、アルバイト、パートなど様々なものがありますが、直接の雇用関係がある点では、さほど違いはありません。いわゆる正社員が、期間の定めのない労働契約であるのに対して、どの雇用区分も契約期間が定められている労働契約だということが一般的でしょう。

 しかし、派遣社員は異なります。労働者派遣法では、「自己の雇用する労働者を、当該雇用関係の下に、かつ、他人の指揮命令を受けて、当該他人のために労働に従事させることをいい、当該他人に対し当該労働者を当該他人に雇用させることを約してするものを含まないものとする。」(派遣法2条1項1号)と、労働者派遣を定義しています。

 つまり、派遣社員は派遣元企業と労働契約を結び、派遣先企業へ派遣されますが、派遣先企業との間には労働契約が存在しませんので、雇用関係はありません。そこに存在するのは、派遣先企業から指揮命令を受けて労働に従事する、ことのみです。

 やや複雑ですが派遣社員の場合には、雇用関係と使用関係が分離されていますので、労働基準法でいう派遣社員の使用者は誰なのか、という疑問が出てきます。ここで分かりにくいのは、案件に応じて使用者が変化する点です。労働契約を結んでいるのは派遣元企業ですので、使用者となるのは原則として派遣元企業になりますが、通常、仕事をしている場所も仕事の指示も派遣先企業ですから、一律にはいきません。

 労働者派遣法44条では、労働基準法の適用に関する特例として、労働時間に関する事項などは、派遣先企業が使用者としての責任を持つことを定めています。ですので、派遣労働者に仕事をしてもらうのであれば、派遣元企業に全てをまかせるのではなく、派遣先企業としての責任を認識する必要があることになります。

 

雇用契約と請負契約の違い

Q.「雇用契約」と「請負契約」はどのように違うのでしょうか?

A.雇用契約には指揮命令関係があり、請負契約にはありません。

 雇用契約について民法623条は「雇用は、当事者の一方が相手方に対して労働に従事することを約し、相手方がこれに対してその報酬を与えることを約することによって、その効力を生ずる。」と定めています。つまり、従業員は労働に従事することを、会社はその対価を支払うことを約束しています。

 一方、請負契約について民法632条は「請負は、当事者の一方がある仕事を完成することを約し、相手方がその仕事の結果に対してその報酬を支払うことを約することによって、その効力を生ずる。」と定めています。つまり、受諾者は仕事の完成を、会社はその対価を支払うことを約束しています。なお、民法では請負と呼んでいますが、業務委託契約と同じものと考えてよいでしょう。

 ここでは、「労働に従事すること」と「仕事を完成すること」が異なっているわけですが、 前者は会社の指揮命令下に入り労務に服しますが、後者は独立して仕事を為し達成の責任を伴って会社に提供することで、基本的に仕事をする場所、遂行の方法について指揮命令されることはありません。もし、請負契約でありながら、会社が受諾者に対して、指揮命令をしていたとなると、これは偽装請負になりますので、明確に区別しなければなりません。

 

雇用契約と労働契約の違い

Q.「雇用契約」と「労働契約」は、異なるものですか?

A.大きな違いはありませんが、適用範囲の点では若干の差があります。

 民法では「雇用契約」、労働基準法からみた場合には「労働契約」と表現されます。民法には雇用契約の定義がありますが、労働基準法に労働契約の定義はありません。ただし、労働者に関する定義はあります。これらの条文を咀嚼し、対比すると次のように表現できるでしょう。 

  民法623条   :「労働に従事する  + 報酬を与える」

  労働基準法9条:「事業に使用される + 賃金を支払われる」  

 民法では、労働を提供し賃金を支払う合意が要件となり、労働基準法では使用従属関係と賃金支払の実態が要件となっている点で異なります。労働基準法は、「事業」という概念が独特なのです。民法では、契約の自由が尊重され、労働基準法では労働者保護のための規制が念頭にあります。労働基準法は、取締法規として事業(会社等)を規制する役目を負っている点で民法とは異なるようです。また、労働基準法116条には、「同居の親族のみを使用する」場合などの適用除外が定められています。民法には、このような規定はありません。適用範囲の点においては、雇用契約と労働契約には相違があるということができます。

 一方、最高裁では、次のように扱われています。三菱樹脂事件(最大判昭48・12・12)では、「解約権留保の特約のある雇傭契約」とされ、大日本印刷事件(最二小判昭54・7・20)では、「解約権を留保した労働契約」と表現されています。従業員としての地位の存在を争う地位確認訴訟では、雇用契約と労働契約の間に違いはないようです

 

M&Aと雇用契約

Q.M&Aの際、雇用契約の承継はどうなるのでしょうか

A.合併は当然に承継、会社分割は分割計画書に従い、事業譲渡は従業員の同意が必要になります。

 M&A(合併と買収)には様々な形態がありますが、雇用契約の承継という点では、合併、会社分割および事業譲渡の3つの類型を考えることになるでしょう。ちなみに、「事業の譲渡」は会社法が平成17年に成立したことによって、旧商法の「営業の譲渡」から用語が整理されたものであり、概ね同様の意味と解して問題ありません。

 合併には、吸収合併と新設合併がありますが、どちらの場合であっても雇用契約は当然に引き継がれます。合併後の会社は、合併前の会社の権利義務関係を包括的に承継しますので、従業員の同意は必要ありません。

 会社分割の場合にも、吸収分割と新設分割がありますが、どちらの場合であっても、分割計画書に記載された権利義務関係は包括的に承継されることになります。「承継される事業に主として従事する」従業員が、この分割計画書の対象とされることで雇用契約は承継され、従業員の同意は必要ありません。ただし、「承継される事業に“従”として従事する」従業員が対象となっている場合、または「承継される事業に“主”として従事する」従業員が対象となっていない場合は、異議を申し出ることができます。

 最後に、事業譲渡の場合には、合併時の「包括承継」とは異なり、個別に承継されます。譲渡する会社と譲り受ける会社の合意により移転される権利義務関係が特定されますので、「特定承継」と呼ばれています。両者の合意により、特定承継の範囲に雇用契約が含まれた従業員は、自己の意思により譲渡する会社に残るか、譲り受ける会社に移動するかを選ぶことが基本になります。人事担当者からみれば従業員本人の個別の同意を得ない限りは、転籍させることはできないということです