人事の本100冊

 どの本を読めば、仕事の役に立つのか? 読んでみないとなかなか分からないものです。

 このコーナーでは書評という大所高所からではなく、人事担当者の皆様のお役に立つかどうかの視点から、簡単に書籍のご紹介をしたいと思います。少しずつ定期的にご紹介していきますので、時々、チェックしてみてください。このコーナーが人事担当者の皆様の少しでもお役に立てば幸いです。

 

労働経済・人的資源管理など

●考える力を高めるキャリアデザイン入門

●改訂新版 ベア・定昇の実際 ~これからの賃金決定と配分政策

●日経連の賃金政策 ~定期昇給の系譜

●日本の会社のための 人事の経済学

●日本の労働経済事情(2023年版) 〜人事・労務担当者が知っておきたい基礎知識

●メンバーシップ型雇用とは何か ~日本的雇用社会の真実

●日本型人材育成の有効性を評価する ~企業内養成訓練の日仏比較

●日本の人材育成とキャリア形成 ~日英独の比較

●日本のキャリア形成と労使関係 ~調査の労働経済学

●能力主義管理研究会オーラルヒストリー ~日本的人事管理の基盤形成

●データブック国際労働比較 2023

●活用労働統計 2023

●あなたを変える行動経済学

●雇用か賃金か 日本の選択

●日本社会のしくみ ~雇用・教育・福祉の歴史社会学

●女性自衛官 〜キャリア、自分らしさと任務遂行

●虹を渡った人たち ~ボクの心に火を点けた 挑戦者の物語

●ジョブ型雇用社会とは何か 〜正社員体制の矛盾と転機

●AIの経済学

●日本的雇用・セーフティーネットの規制改革

●人事の組み立て 〜脱日本型雇用のトリセツ〜

●統計で考える働き方の未来 〜高齢者が働き続ける国へ

●労働経済

●企業中心社会を超えて 〜現代日本を<ジェンダー>で読む

●働き方改革の世界史

●ブラック職場があなたを殺す

●治療と就労の両立支援ガイダンス

●年金不安の正体

●新しい人事労務管理 [第6版]

●欧州の教育・雇用制度と若者のキャリア形成

●働き方の哲学 〜360度の視点で仕事を考える

●「AIで仕事がなくなる」論のウソ

●その幸運は、偶然ではないんです!

●心療内科産業医と向き合う職場のメンタルヘルス不調

●悪いヤツほど出世する

●「超」進学校 開成・灘の卒業生 〜その教育は仕事に活きるか

●仕事と人間性 動機づけ―衛生理論の新展開

●生涯発達の心理学

●経営学で考える

●戦後労働史からみた賃金

●Excelでできる統計データ分析の仕方と人事・賃金・評価への活かし方

●なぜ日本企業は強みを捨てるのか

●労働時間の経済分析 〜超高齢社会の働き方を展望する

●「就活」と日本社会 〜平等幻想を超えて

●検証・学歴の効用

●アメリカ自動車産業 〜競争力復活をもたらした現場改革

●日本の雇用と中高年

●雇用再生 〜持続可能な働き方を考える

●仕事と組織の寓話集 〜フクロウの智恵

●わかりやすい労働統計の見方・使い方

●日本労使関係史 1853-2010

●若者と労働 〜「入社」の仕組みから解きほぐす

●組織デザイン

●現代雇用論

●もの造りの技能 〜自動車産業の職場で

●能力主義管理 〜その理論と実践

●日本産業社会の「神話」 〜経済自虐史観をただす

●大卒就職の社会学 〜データからみる変化

●人的資源管理論 【理論と制度】 第3版

●賃金とは何か―戦後日本の人事・賃金制度史

●Excelで簡単 やさしい人事統計学

●人材を活かす企業  「人材」と「利益」の方程式

●仕事の経済学 [第3版]

 

↓ 以下をご覧ください。

考える力を高めるキャリアデザイン入門

 キャリアデザインに関する書籍です。

 藤村博之、德山誠、齋藤典子、斎藤貴久が共著で執筆を分担したものです。各章は以下の通りです。キャリアデザインに興味をお持ちの方は、参考になるかもしれません。

 第01章-キャリアとは何か、第02章-大学で学ぶ意味、第03章-社会を見る目を養う~新聞を読み比べる、第04章-労働の連鎖を追ってみる、第05章-アルバイトは就業経験になるのか、第06章-働くことの意義~身近な人に聞いてみる、第07章-やりがいはどこで生まれるのか、第08章-ライフキャリアと職業キャリア~女性の視点から、第09章-ライフキャリアと職業キャリア~男性の視点から、第10章-グローバル人材とは、第11章-仕事の未来を考える、第12章-変化対応力を鍛える、第13章-世界の中の日本、終章-考える力を高める

【あとがきの一部】

 本書のもとになったのは,2018 年度に法政大学で行われた「キャリアデザイン入門」という講義です。藤村が基本構想を描き,德山,斎藤,齋藤の3名との議論を通して,14 回の講義を創り上げました。3 週ごとに集まり,それぞれが作成した講義資料を持ち寄って,よりよい内容にするように研鑽を重ねました。その意味で,本書の各章は,4 人の共同作業の結果であるといえます。

著    者:藤村博之/編、德山誠、齋藤典子、斎藤貴久

出 版 社:有斐閣

発 売 日:2022年12月(第3刷)

カテゴリー:教科書(キャリアデザイン)

 

 

改訂新版 ベア・定昇の実際 ~これからの賃金決定と配分政策

 ベース・アップ、できていますか?

 ベア(ベース・アップ)は、ベース(賃金表)をアップ(プラス方向への書換)させることですが、実施されない期間があまりに長かったため、その手法が継承されていない会社があるかもしれません。いわゆる春闘でメディアに登場する昇給額や率は、たいてい「定昇+ベア」の数値です。人事担当者が実務に臨む時には、定昇とベアを分ける必要があります。定昇とベアは、「加減」ではなく「乗除」の関係になります。

 定昇(定期昇給)は、人事制度の運用そのものなので悩みませんが、ベアは政策的に実施するのでどのように配分するかの意思決定が必要です。例えば、初任給と中高年への対策では、ベアの配分は大きく異なる方向になるでしょう。適切な意思決定をするためには、日頃から自社の賃金カーブの状況を把握しておく必要があります。ベアの配分は、頭を使う仕事といってよいでしょう。ちょとした数学の世界です。

 上記のような賃金実務を実施する人事担当者は、当然に勉強が必要です。その助けになるのが本書です。ベアが盛んだった頃、ベストセラーになっていたと思います。著者である「楠田 丘」先生は、職能資格制度の普及に尽力された方です。キャリアを積んだ人事担当者の中には、セミナーでお世話になったりこの書籍で勉強したりした人が数多くいるだろうと思います。

 今となっては懐かしい部類の書籍ですが、実務的に詳細に理解できるよう書かれており、今日でも大変役立ちます。図書館でも構いませんし中古であれば入手できるようですので、一度手に取っていただく価値のある書籍だと思います。人事担当者として定昇とベアの実務について、基本的な手法を理解しておくことは重要でしょう

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著    者:楠田  丘

出 版 社:経営書院

発 売 日:1991年4月

カテゴリー:実務書賃金実務

 

 

日経連の賃金政策 ~定期昇給の系譜

 「賃上げ」とは、何かが理解できます。

 かつて「財界労務部」と呼ばれた日経連(日本経営者団体連盟)の足跡をたどることで、定期昇給の果たした役割を理解することができます。日経連は、2002年に経済団体連合会と統合し、経団連(日本経済団体連合会)として現在に至っています。

 戦後、労働組合の過激なベース・アップの要求により賃金上昇圧力を抑えきれず、企業の経営権が脅かされる時代がありました。そこで、日経連は経営者が経営権を奪還するために、定期昇給による賃上げを提起します。その都度、労働組合に要求されるベース・アップよりも、制度的な定期昇給による賃上げの方が低額で済むと考えたわけです。

 日経連は、「定期昇給は内転原資により賄われるため、企業の財務的追加負担はほとんどない」と考えていたそうです。これは、階段のようなものと言ってもよいでしょう。階段の各段(20歳~60歳の約40段)に1人ずつ、従業員が立っているとします。一番下の段に20歳の新入社員が乗るのと同時に60歳の定年退職者は一番上の段から降りることを繰り返します。毎年、1段上がることで各自の賃金は上昇しますが、この人員構成が維持される限り常に40人分の賃金が発生するので、人件費全体はあまり変動しないことになります。

 もう一つ、日経連が定期昇給を提起したのには大きな理由があるそうです。「1950年代から60年代における日経連の最大の関心は、定期昇給においては考課的昇給の確立であった。経営側が従業員を自らの意志で序列化し、賃金に基づく企業内の秩序を維持することが、賃金決定における労働側からの「経営権の奪還」と意味づけられるものであった。」と記述されています。このような歴史が現在につながっているのですね。賃上げが注目される今だからこそ、その歴史を学ぶのも面白いと思います。

著    者:田中 恒行

出 版 社:晃洋書房

発 売 日:2019年2月

カテゴリー:賃金(学術書)

日本の会社のための 人事の経済学

 “ジョブ型雇用”を理解するのに役立ちます。

 著者は、ジョブ型の「最も重要なポイントは分業である」と解説します。「一人で全部の作業工程を行えば一日20本もつくることができないが、作業が多数の部門に分割され、分業されることにより、一日10人で4800本以上のビンをつくることができた」とアダム・スミスの「国富論」からビン職人の事例を紹介しています。つまり、仕事のプロセスを細かく分割し単純化することで、生産効率を高めることができるのが「ジョブ型の本質といえる」ようです。

 世の中には、能力主義や成果主義を徹底するためにジョブ型の人事制度を導入する事例があるようです。著者は、この点について次のように批判します。「採用のときにその職務が遂行できるかどうか適切な判断がされていることが前提であり、決められた職務を淡々とこなす、最低限・必要以上のことはやらないというのが、ジョブ型の本来的なイメージなのである。」としています。また、「成果主義=先進的・効率的と無条件に信じることがいかに愚かであるかがわかるであろう。」とも書いています。

 2013年当時、著者は政府の規制改革会議・雇用ワーキンググループの座長として、ジョブ型雇用の普及を掲げていた当事者です。当初、意図していたものとは異なる形でブームとなったジョブ型雇用について、改めて解説したのが本書と言ってよいでしょう。ジョブ型雇用で悩まされる人事担当者の処方箋といえそうで。 

著    者:鶴 光太郎 

出 版 社:日経BP 日本経済新聞出版

発 売 日:2023年4月

カテゴリー:一般書(経済学)

 

 

日本の労働経済事情(2023年版) 〜人事・労務担当者が知っておきたい基礎知識

 “新入社員の教育用にいかがでしょうか?”

 労働経済というと難しそうですが、至ってやさしく簡単です。私は、新任人事スタッフセミナーの参考文献にしています。人事部門の社内勉強会に用いるのも面白いと思います。

 主な内容として、Ⅰ労働市場の動向・雇用情勢・労働時間と賃金の概況、Ⅱ労働法制、Ⅲ人事・労務管理、Ⅳ労使関係、Ⅴ労働・社会保険、Ⅵ国際労働関係の概ね6つに分かれています。法改正や人的資本経営の開示なども記述されており、昨今のトピックスにも配慮されているようです。人事に関するほとんど全てのテーマが網羅されているのではないかと思うほど、広く浅く一通りのことが書かれています。基礎知識とはいいながら、主な労働統計調査も扱われていますので、人事担当者としての見識を高めるためにも十分役立ちそうです。

 書籍のサイズはA4版でやや大きいものですが、ちょっとした研修資料のような出で立ちです。1テーマにつき1ページを基本として、図表を用いてわかりやすくまとめられており、読者に配慮した見やすいものになっています。研修のテキストからちょっと手元に置いておきたい資料集まで幅広い使い方が出来そうです。机の引き出しに1冊、保管するようなイメージで購入いただくのもよいかもしれません。 

著    者:日本経済団体連合会

出 版 社:経団連出版

発 売 日:2023年7月

カテゴリー:資料集(雇用、労働など)

 

 

メンバーシップ型雇用とは何か ~日本的雇用社会の真実

 流通業の経営史や労働組合史について学べる書籍です。

 例えば、「丸井」が出てきます。丸井は、百貨店というよりは月賦販売店チェーンであり、百貨店協会には加盟していないそうです。月賦店は、もともと愛媛県発祥のビジネスであるため、月賦販売店の創業者は愛媛県出身者が多く、草分けは今治の呉服問屋の丸善です。その縁で、月賦販売店には「丸」のつく屋号が多いとのことです。また、「十字屋」の歴史についても紹介されています。創業者である山藤氏が信心深いキリスト教徒であったため、正義と愛のシンボルである十字架から屋号をとって開業したものだそうです。このようなミニ経営史も交えながら、簡単に流通業の労働組合についても学べます。

 一方、タイトルにあるメンバーシップ型雇用について紙幅の多くは割かれていませんが、最近目立つ「ジョブ型雇用」について著者は警鐘を鳴らしています。ジョブ型雇用の用語法や考え方は誤っており、その原因が「ゴミ箱モデル」にあると次のように説明します。

 「私はジョブ型雇用論議の錯綜には、別の理由もあると考えている。経営学を学んだ者からすれば、すぐ直感することだが、「ゴミ箱モデル」の状態になっているからである。さまざまな人々がその問題意識やそこから考えた問題解決の選択肢を投げ込んだゴミ箱から、別の人が別の選択機会に解決策として決定するという意思決定の考え方ができる。このため、問題意識や解決策は常に変動しタイミング次第となる。経営者は労働者や雇用だけに心を砕くわけではない。広く(浅く)考え、「いいとこどり」の決定に至る傾向は否めない。」

 何とも耳の痛い指摘です。人事担当者は、安易にジョブ型人事制度などと言ってはいけないようで

著    者:本田 一成

出 版 社:旬報社

発 売 日:2023年6月

カテゴリー:一般書(労使関係)

 

 

日本型人材育成の有効性を評価する ~企業内養成訓練の日仏比較

 人事制度について、フランスと日本の違いを理解することができます。

 国際比較は困難を伴うものですが、これが人事制度であれば更にハードルが上がるでしょう。人事制度は、制度設計だけでなく運用された結果を見なければ何も分からないからです。このような時には、質問紙調査よりも聴き取り調査が有効に機能することがあります。著者は、約3年間を費やし人事スタッフのキャリアについて、フランスと日本の企業に聴き取り調査を実施しています。

 まず、注目されるのは採用です。フランスでは、「カードル」として採用されることが、その後の出世に大きく影響します。いわば“キャリア組”というイメージでしょう。日本のコース別雇用管理の総合職に対応するものだと著者は説明しますが、それよりもエリート色の強いものだと感じます。初任給は、職務内容と出身大学によって決まるそうです。

 127ページに次の記述が出てきます。「評価制度は①業績評価と能力評価から構成され、いずれも年1回実施される。②前者は目標管理制度が、後者は行動プロセス評価あるいは目標管理制度が用いられ、③両評価結果を合わせた総合的な評価結果が賞与と昇給に、能力評価の結果が能力開発に反映される。」細かい部分では、異なる部分もあるのでしょうが、日本の企業と似ているような雰囲気を感じます。

 その他にも、参考になりそうな記述が盛沢山です。他国について学ぶことで初めて日本の特徴を理解することができます。人事制度について見識を深めたいと思っている人事担当者にお勧めしたいと思います。 

著    者:関屋 ちさと

出 版 社:中央経済社

発 売 日:2021年12月

カテゴリー:学術書(人的資源管理)

 

 

日本の人材育成とキャリア形成 ~日英独の比較

 イギリス、ドイツと比較することで、日本の特徴を明らかにしてくれる書籍です。

 日本は「年功序列」だと言われることがあります。言葉の意味をきちんと捉えれば、すぐにウソだと分かるはずです。学卒の新入社員全員が一度に課長になり、一度に社長になるのであれば「年功序列」ですが、そんな会社はありません。通常の組織は、ピラミッド型の構造をしているので、年功的昇進管理を行うことは不可能です。遅かれ早かれ、昇進選抜が行われることを私たちは知っています。では、「年功序列」の実態とは? 日本は遅い昇進選抜だといわれています。この書籍は、その実態についてデータを基に示してくれます。

 「同一年次の社員間でそれ以上昇進の見込みがなくなるのは入社何年目か」という問いに対して、イギリスとドイツは約6年、日本は約13年だというデータが示されます。これを「キャリアプラトー出現期」というそうです。このデータについて大企業の管理職でみると、イギリスは5.5年、ドイツは6.0年、日本は15.6年となっており、日本が遅い昇進選抜であることを確認することができます。

 また、「ファストトラック」と呼ばれる昇進ルートの存在も比較されています。大企業管理職の選抜について、「入社後早い時期に選抜するためのキャリアルートがあると思いますか」という問いに対して、「入社時点からある」と回答した割合は、イギリスは38.1%、ドイツは33.6%、日本は19.5%だそうです。イギリスとドイツは、いわゆる“キャリア組”の割合が高いことに対して、日本は多くの従業員が参加できる雇用社会であることを窺わせます。

 直接的に国際比較をしている文献は、意外と少ないものです。誤った日本の言説を正してくれる書籍の一つとして、ご紹介させていただきたいと思います。 

著    者:佐藤  厚

出 版 社:中央経済社

発 売 日:2022年11月

カテゴリー:学術書(労働経済学)

 

 

日本のキャリア形成と労使関係 ~調査の労働経済学

 「本書は、現在の人事制度改革を検討しつつ、将来の制度改革の展望に向けて書かれた研究書である。」

 これは、序章に出てくる宣言です(P43)。著者は、成果主義ブームや最近の人事制度改革の論調を正すべく、基本から確認してくれます。

 例えば、年功序列はウソ。それがわかります。日本には、もともと年功序列などは存在せず「遅い選抜方式」が存在しました。きちんと労働経済学を勉強した人事屋なら知っていることです。過去、キャリアツリー法などによって昇格・昇進を分析した研究はたくさんあり、その代表的な研究結果が一覧表にまとめられています(P32)。

 また、生産労働者の仕事を分析するためには、仕事表(スキルマップ)が重要です。仕事表とは、その職場にどのような仕事が存在し、各従業員がどの程度その仕事を修得したかが分かる一覧表です。これがなければ、仕事の分析は困難になるでしょう。通常、社外には出ないものだと思いますが、この書籍には貴重な仕事表のサンプルが載っています(P59・60)。

 そして、「メンタル不調者の職場復帰の事例」は参考になります。上司が復職者を観察する際に、「論理的な思考による発言」、「他者との連携ができること」、「アウトプットが仕事として評価できること」の3点に注意して、より難しい仕事への移行の判断材料としていた場合には、職場復帰がうまくいっているという事例が出てきます(P174)。

 本書は、労働政策研究・研修機構の第45回 (令和4年度)労働関係図書優秀賞を受賞しており、高い評価を受けている書籍です。改めて、労働経済学の知見を整理したい人事屋の皆さんにお薦めしたいと思いま

著    者:梅崎  修

出 版 社:慶応義塾大学出版会

発 売 日:2021年12月

カテゴリー:学術書(労働経済学)

 

 

能力主義管理研究会オーラルヒストリー ~日本的人事管理の基盤形成

 「ジョブ型」導入を志向する人事担当者に是非読んで欲しい1冊です。

 その昔(1964年)当時の日経連は、「職務分析センター」を設置し、職務給の導入に取り組んでいました。しかし、この取り組みはうまくいかず職能給に舵をきることになります。その時、出版されたのが『能力主義管理 その理論と実践(1969年)』でした。この書籍は当時、日経連に組織された「能力主義管理研究会」のメンバーが分担して執筆したものであり、一世を風靡したそうです。ここに書かれていることは、いまでも十分通用する内容だと思います。

 その後(2010年)に出版されたのが、本書です。オーラルヒストリーとは、文書資料ではなく聞き手の問題意識に従って当事者から証言を取るスタイルのことです。『能力主義管理 その理論と実践』が出版から40年の時を経て、当時の研究会のメンバーに改めてインタビューを実施することで、能力主義管理の実態に迫ろうとしたわけです。この書籍が出版された2010年当時は、成果主義ブームがありました。成果主義もいろいろですが、職務主義(職務給)の導入が志向された時代でしょう。結果として、人事制度の改定で失敗を経験した会社もあるはずです。そういった背景の中で、人事管理を問い直すために出版されたのが本書といえるでしょう。

 そして(2023年)、「ジョブ型」が提唱されています。「ジョブ型」については、本来の用語法とは異なる論説が散見され、多くのケースで職務主義(職務給)の導入を志向しているように聞こえます。そう仮定した場合、過去に大きく失敗した2つの時代(1964年・2010年)と同じ轍を踏む可能性があります。失敗を繰り返さないためには、職務主義(職務給)が定着しなかった理由を踏まえた上で、「ジョブ型」の意味を考える必要があるでしょう。そのための参考資料として、大きな役割を果たしてくれる書籍だと思います。

著    者:八代充史など編、藤田至孝など著

出 版 社:慶応義塾大学出版会

発 売 日:2010年1月

カテゴリー:オーラルヒストリー(人事管理)

 

 

データブック国際労働比較 2023

 海外旅行のお供にいかがでしょうか?

 “日本は~”などと私たちは口にしますが、外国のことを知らなければその対比ができないために、日本の特殊性など議論できないはずです。私たちの諸外国に関する知識は、安易な思い込みや中途半端なマスコミの報道から形成されていることも多いのではないでしょうか。

この本を“読む”と自分が知らなかったことがたくさんあることに驚かされます。“読む”といっても文章はほんの少しで、ほとんどはグラフと表の資料集です。ですから、眺めることになります。現在では、書籍として発行されていませんが全文ダウンロードが可能です。つまり、無料でこの資料集を使うことができます。

 皆さんが海外へ出張や旅行に出かけることがあれば、この本を“眺めて”から出発していただくことをお勧めします。観光ガイドブックに書かれていないその国の労働環境を理解することができます。アカデミックな視点から海外旅行を楽しむことも一興かもしれません。

 ●ダウンロード https://www.jil.go.jp/kokunai/statistics/databook/2023/index.html

著    者:労働政策研究・研修機構 編

出 版 社:労働政策研究・研修機構

発 売 日:2023年3月

カテゴリー:資料集(雇用、労働など)

 

 

活用労働統計 2023

 「今年、賃上げ5%は達成可能でしょうか?」 人事担当者であれば、気になるところです。

 今年と言うからには、今までを確認しておく必要があります。毎年の賃上げ状況について、正確に把握している人事担当者は、それほど多くないかもしれません。そんな時、ハンディで必要なデータを揃えているのが、この書籍です。過去50年以上にわたる毎年の賃上げ状況について、たった1ページを見るだけで把握することができます。そして、大まかではありますが、業種別、規模別又は調査機関別に確認することも可能です。その他にも、雇用・労働に関するデータが盛りだくさんです。

 巻末の「用語の解説」は、知識の整理にも大変役立ちます。「名目賃金」と「実質賃金」の違いや、「労働力人口」や「完全失業者」の定義など、普段何気なく使っている用語について簡潔に説明してくれます。また、「主要統計一覧」では、どのような調査が存在しどの調査を調べればよいか、当りをつけるのに重宝します。

 とりあえず知りたいことが何でも揃う。そして小さく軽くて扱いやすい。人事担当者にとってハンディなデータ資料集の決定版といえるでしょう。

著    者:生産性労働情報センター 編

出 版 社:日本生産性本部 生産性労働情報センター

発 売 日:2023年1月

カテゴリー:資料集(雇用、労働など)

 

 

あなたを変える行動経済学

 「ナッジ」ってご存じですか?

 肘でつつくことを「ナッジ」と言うそうです。肘でツンツンして「やらないの?」と聞くような感じでしょうか。「お金を使うこともなく、選択の自由を確保した上で人の行動を予測可能な形で変えるような選択肢を設計すること」だと著者は説明します。人事担当者と「ナッジ」には、一見何の関係もなさそうですが、そうでもないようです。

 看護師の残業時間を減らすことに成功した熊本市の病院の事例が出てきます。この病院では、日勤は赤、夜勤は緑に、看護師のユニフォームを分けたそうです。そうすると、日勤の時間帯に夜勤の看護師が残業しているとユニフォームの色が違うので目立ちます。早く帰るようにと無言のプレッシャーがかかるようです。また、医師や患者から見ても残業している看護師が分かるので、その人には頼みにくくなるそうです。つまり、残業時間を減らす方向にものごとが進むわけです。

 男性の育児休業取得率の向上に成功した千葉市の事例が出てきます。千葉市は、育児休業を取得しない職員に対して、上司が休業しない理由を聞き取る制度を2017年度に導入しました。すると、2016年度に12.6%だった男性の育児休業取得率が、2017年度に28.7%、2018年度に65.7%に急上昇したそうです。デフォルトの設定を変えたわけです。

 「ナッジ」の考え方を用いることで、様々な人事施策に応用できる可能性を感じます。難しそうな経済学の世界ですが、この書籍は平易な言葉を巧みに用いることで、とてもわかりやすく表現されています。ちょっとしたヒントを模索する人事担当者にお薦めしたいと思います。

著    者:大竹 文雄

出 版 社:東京書籍

発 売 日:2022年1月

カテゴリー:一般書(行動経済学)

 

 

雇用か賃金か 日本の選択

 欧米と日本では、航空会社の選択が違ったようです。

 中国発のパンデミックにより、人の往来が究極のレベルまで制限されました。未だコロナ禍の余韻は残っています。人の流れが止まれば、当然に航空会社は飛行機を飛ばせなくなります。経営危機そのものでしょう。どの国の航空会社も危機を乗り越えるために様々な対応に迫られたはずです。国際比較は、様々な要因が複雑に絡むため困難を伴います。しかし、国境を越えて活動する航空業界が同一の時期に同様の対応を迫られたわけですから、国際比較をしたときのコントラストはつきやすくなるでしょう。著者の優れた視点を感じます。

 まず、ANAグループの事例が出てきます。2020年4月から一時休業から始まり、新卒採用の停止、6月から賞与の大幅カット、10月から出向の拡大や希望退職の募集が決定されます。ただし、退職を強要された従業員はいなかったようです。その点では、賃金よりも雇用を守る意識が高かったと言えそうです。

 欧米からは、サウスウエスト航空、ブリティッシュ・エアウェイズ、ルフトハンザ航空などが登場します。サウスウエスト航空は、日本の会社と似たような労務管理をすると言われていました。創立以来、一度も一時解雇を実施したことがなかった同社でも、最終的には他の欧米企業と同様に一時解雇に至ったようです。つまり、雇用よりも賃金を選択したのが欧米の航空会社とみることもできます。

 「雇用か賃金か」どちらを選択するのが良いか一概にいえるものではありませんが、国や企業によって異なる対応には興味深いものがあります。政労使の間に存在する労使関係について、学び直したい人事担当者にとっては、改めて勉強することができる書籍といえそうです。

著    者:首藤 若菜

出 版 社:筑摩書房

発 売 日:2022年10月

カテゴリー:学術書(雇用システム)

 

 

日本社会のしくみ 〜雇用・教育・福祉の歴史社会学

 この書籍で多くの疑問を整理することができます。例えば、次の3つの背景が分かります。

 P361:「企業別の混合組合は日本の文化的伝統などではなく、戦争と敗戦による職員の没落を背景として生まれたものだった」と書かれています。戦前、日本でもホワイトカラーとブルーカラーの処遇格差は激しかったようです。特別待遇を受けていたホワイトカラーが戦後の貧困状態に陥ったことで、ブルーカラーとの連帯感を生み、世にも稀な企業別労働組合の誕生につながったようです。

 P418:「日本の経営者たちは、たしかに一時は、職務給と横断的労働市場を称賛した。〜だが企業横断的な労働市場が本当にできたら、企業内だけで職務や賃金を決定できなくなる」と書かれています。かつて経営者たちは、「中高年の賃金引下げ」と「労働者の解雇を容易にしたい」という動機から職務給の導入を志向しました。しかし、職務給が定着すれば職種ごとの労働市場が次第に形成され、転職しやすい社会が生まれます。結果、市場に意思決定を左右され、経営の裁量が狭まることになります。これが、職務給を転換し職能給を導入する方向性につながったようです。

 P571:「日本の経営者が、経営に都合のよい部分だけをつまみ食いしようとしても、必ず失敗に終わる。なぜなら、それでは労働者の合意を得られないからだ」と書かれています。これが、成果主義を含めて様々な改革が失敗する理由です。働く仕組みは「慣習の束」なので、経営側の一方的な意思決定だけでなく、働く側にもそれなりの合意が必要なようです。

 圧倒的な数の参考文献が、著者の論理性を支えています。学術的に深く介入することを避け、他の研究者の成果をテンポよくつなげていくことで、素人であっても深く理解できるよう配慮されています。日本の特色を歴史から追いかけ、その形成プロセスを理解することで今後の方向性を考えさせられる書籍です。この1冊を自分のものにできれば、どこへ出ても恥ずかしくない人事担当者といえるでしょう

著    者:小熊 英二

出 版 社:講談社

発 売 日:2019年7月

カテゴリー:ちょっと長い新書(雇用システム)

 

 

女性自衛官 〜キャリア、自分らしさと任務遂行

 女性のキャリアについて、まじめに書かれた書籍です。

 女性活躍推進や女性管理職の増加など、提言されて久しい雇用社会が存在します。男性優位の社会の中で、どのように女性のキャリアを考えるべきかについて悩んでいる会社も多いことでしょう。少し視点を変えると、女性の活躍が進行している組織がありました。それが、幹部自衛官の世界です。階級社会である自衛隊は、適材適所の考え方が強く存在し、性別ではなく階級がものをいう世界であり、女性にとって働きやすい部分があるようです。 

 著者は、合計20人(30代が6人、40代以上が14人)にインタビューした結果をまとめており、この書籍の中で彼女たちの考え方にふれることができます。インタビューの対象者は、自衛官の中でも上級幹部とされる「佐官」クラスで、子供をもつ女性自衛官です。「「佐官」は、連隊長、艦長、飛行隊長等として、より大規模な部隊の指揮官や司令部等の幕僚という立場」で活躍するそうです。一般企業の課長よりも相当に高いレベルであることを想像させます。

 仕事と家庭の両立について、次の文章が出てきます。「子育てとの葛藤の乗り越え方の一つは、長い時間軸の中で「今」を考える、ということでしょうか。大変なのは今、ここを過ぎれば何とかなる、という前向きな気持ちも重要です。」長い時間軸という考え方は、キーワードなのかもしれません。

 女性の活躍推進について、女性管理職の割合や男女の賃金格差について公表しなければならない時代になっています。このような課題に悩む人事担当者にとっては、何かヒントになりそうな書籍です。あまり馴染みのない自衛隊の組織について学ぶこともできま

著    者:上野友子、武石恵美子

出 版 社:光文社

発 売 日:2022年3月

カテゴリー:新書(キャリアデザイン)

 

 

虹を渡った人たち 〜ボクの心に火を点けた 挑戦者の物語

 小説です。「人事の本」では初めてです。

 著者は、伝えたいことを分かりやすく、かつ実感できるよう小説形式にしたそうです。全体を通してキャリアデザインがテーマになっていますが、著者の“生きざま”を想像させる内容です。本の中では、何人かの人物が登場し名言を残していきます。例えば、

 「それは笑顔だ」

 「笑顔を忘れないこと。それと情熱と勇気。」

 「人を変えるのは、指導ではなく環境なんだ。」

 「成長するためには、とにかく行動することだ。」

 「一生の終わりに残るのは、集めたものではなく与えたもの」

 残念ながら、この本が発行された5月に著者は帰らぬ人となりました。ガンが判明し余命との闘いの中で、自分の人生をかけて伝えたいことが、この本の中には詰まっています。

 あとがきは、次の言葉で締めくくられます。

 「人は、志の大きさに比例した人物になる。」

  命を賭した著者の言葉を謹んでお受けしたいと思います

著    者:宮崎 雅啓

出 版 社:文芸社

発 売 日:2022年5月

カテゴリー:小説(キャリアデザイン)

 

 

ジョブ型雇用社会とは何か 〜正社員体制の矛盾と転機

 とりあえず、読んでみてください。

 いつもながら人事に関する言葉の使い方には辟易することがありますが、さすがに今回のジョブ型ブームは問題です。「ジョブ型」という言葉は、著者である濱口先生が提起したものです。誰もが認める超一流の研究者です。著者は、「メンバーシップ型」と「ジョブ型」雇用を対比させ、日本の雇用システムを見事に説明してきました。しかし、メディアや人事コンサルタントが中途半端な説明を繰り返した結果、現在の似ても似つかぬジョブ型論がはびこることになりました。

 ジョブ型という新しい発想を取り入れた人事制度を導入したいと考える会社があります。もちろん、会社の自由です。導入にはいくつかのハードルがありますが、やはり第一には会社が人事権を放棄できるか否かにかかっているでしょう。ジョブ型は、労働契約のまん中にジョブがありますので、会社の一方的な都合でジョブを変更することはできません。この点において、人事異動を当たり前のこととして受け入れるメンバーシップ型とは異なります。メンバーシップ型は、労働契約のまん中にジョブではなく、「会社のメンバーになること」を据えているため、ジョブの変更に対応することができるのです。

 また、新しいという部分について、著者は「ジョブ型は全然新しくありません。むしろ、産業革命以来、先進産業社会における企業組織の基本構造は一貫してジョブ型だったのですから、戦後日本で拡大したメンバーシップ型の方がずっと新しいのです。」と記述しています。

 メディアの中途半端な論説にのせられないようにするためにも、この機会に本家本元の解説を確認し、改めて日本の雇用システムや自社の人事制度を考えるきっかけにしていただければ幸いで

著    者:濱口 桂一郎

出 版 社:岩波書店

発 売 日:2021年9月

カテゴリー:新書(雇用システム)