労働時間・休日休暇
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Q.労働時間の管理制度には、どのようなものがありますか?
A.3グループあると考えれば、分かりやすいかもしれません。
労働時間の管理制度にもいろいろあるでしょうが、労働基準法では条文番号順に下記3つのグループがあると考えれば分かりやすいかもしれません。
第1は「労働時間管理グループ」です。第32条にぶら下がって、原則とは異なる変形労働時間制等の条文が4つ並んでいます。これら条文の形は違えども、まさに労働時間を管理するための制度です。第2は「時間計算みなしグループ」です。第38条にぶら下がって、3つのみなし労働について書かれています。「みなし労働」は、実際に働いた時間ではなく事前に取り決めた労働時間として計算するものです。いわば、労働時間を計算するための例外的なルールであり、労働時間の管理制度とは異なる趣です。第3は「適用除外グループ」です。第41条にぶら下がって、高度プロフェッショナル制度について書かれています。これは、労働時間を管理するものというよりは、労働時間を管理しないための制度といえます。
労働基準法の労働時間に関する条文は一見複雑に見えますが、条文の並び方に注目することで整理がつきやすくなり、理解を深めることにつながると思います。
(1)第32条は「労働時間」として、原則論が書かれています。
第32条の2(1箇月単位の変形労働時間制)
第32条の3(フレックスタイム制)
第32条の4(1年単位の変形労働時間制)
第32条の5(1週間単位の非定型的変形労働時間制)
(2)第38条は「時間計算」として、労働時間の通算等が書かれています。
第38条の2(事業場外労働)
第38条の3(専門業務型裁量労働制)
第38条の4(企画業務型裁量労働制)
(3)第41条は「適用除外」であり、管理監督者等の適用除外について書かれています。
第41条の2(高度プロフェッショナル制度)
A.平均年収の3倍を上回る水準とされています。
改正労働基準法が定める「高度プロフェッショナル制度」を導入するためには、様々な要件があります。その中でも、年収要件が気になるところでしょう。年収については1,000万円を超える金額がイメージされていますが、法律に明記されているわけではありません。厚生労働省の「省令」で定められるため、引き下げの可能性が心配されるからです。
改正労働基準法は、年収要件について「年間平均給与額の三倍の額を相当程度上回る水準」と定め、「毎月勤労統計における毎月きまつて支給する給与の額を基礎」とするとしています。毎月勤労統計調査(平成29年分確報)によると、毎月きまって支給する給与は「260,776円」となっていますので、これを年収に換算し3倍すると約940万円になります。つまり、毎月勤労統計調査の金額が下がるか、労働基準法が改正されない限り、年収要件が極端に下がることは考えにくいでしょう。
仮に、年収1,000万円超が対象者であれば、さほど大きな問題にはならないと考えることもできます。国税庁の「民間給与実態統計調査」によると、年収1,000万円超の給与所得者は約4.5%(平成29年分)であり、その多くは役員および管理監督者として既に労働時間管理の適用除外者だと想像できるからです。
なお、「高度プロフェッショナル制度」の対象者は、労働基準法の「労働時間、休日、深夜労働」の規定が適用除外されます。一方、管理監督者は、「深夜労働」の規定が適用除外されておらず、夜22時以降の労働に対しては、深夜勤務手当が必要になります。この点には注意をしておく必要があるでしょう。
Q,コアタイムだけのフレックスタイム制を採用することはできますか?
A.コアタイムが長すぎることには問題があるでしょう。
フレックスタイム制においてもっとも重要なことは、従業員自身に「始業及び終業の時刻をその労働者の決定に委ねる」ことだといって良いでしょう。ここでは、在社する時間の長さが問題になります。フレックスタイム制では、コアタイム(必ず勤務する時間帯)を設定することができます。出社時刻と退社時刻を従業員自身が決定できる制度ですので、コアタイムを設けておかないと打合せをするのも大変です。例えば、コアタイムを10:00〜15:00位に設定しているケースをよく見かけます。
一方、コアタイムを長く設定することで、9:00〜18:00勤務のような通常の労働時間管理をしながら、割増賃金を節約しようと考える会社があるかもしれません。仮に、休憩時間が1時間の会社でコアタイムを9:00〜18:00にすると、コアタイムだけで実働8時間になります。この場合は、コアタイム=1日の標準労働時間ということになるでしょう。これでは、始業・終業の時刻を従業員の自由意思に委ねているとは言えないと思われます。法律上の制約ではありませんが、少なくとも1時間位はフレキシブルタイム(出勤・退社の時間帯)として、従業員の自由意思で決定できないと、せっかくのフレックスタイム制の意味がなくなってしまうのではないでしょうか。
ちなみに厚生労働省の通達では、「フレキシブルタイムが極端に短い場合、コアタイムの開始から終了までの時間と標準となる1日の労働時間がほぼ一致している場合等については、基本的には始業及び終業の時刻を労働者の決定にゆだねたこととはならず、フレックスタイム制の趣旨には合致しないものであること(昭63.1.1基発1号)」とされています。
A.「外」かつ「把握困難」な場合に採用できる手法です。
労働時間を把握するには、タイムカード等の客観的な記録方法をとるの原則ですが、直行直帰のように出社しない場合にはそれが困難です。この原則に対して例外的に考えられたのが、事業場外労働のみなし労働時間制といえるでしょう。
労働基準法第38条の2には、「労働者が労働時間の全部又は一部について事業場外で業務に従事した場合において、労働時間を算定し難いとき」と記述されています。ここでいう「事業場外」が第1要件、「労働時間を算定し難いとき」が第2要件と考えられます。事業場外つまり会社の外であることは当然ですが、労働時間の算定の可否が問題となります。
この件に関する厚生労働省の通達には、“ポケットベル”の出てくるものがあります。現代の若者には、ポケットベルについて説明をしなければ理解できないでしょう。それだけ時代が変化したということです。現在では、GPS(全地球測位システム)機能を備えたスマートフォンが普及しています。いつ、どこにいるかを客観的に把握することが可能です。事業場外労働のみなし労働時間制が法定された時代と比較して、「労働時間を算定し難いとき」は限られたケースになってきたと考えられます。労働基準監督署の臨検では、「労働時間を算定し難いとき」について説明を求められる場合がよくあります。結果として、行政指導を受けることもありますので注意が必要でしょう。
Q.1日の残業時間について、30分単位で集計してもよいでしょうか?
A.集計単位は任意のものですが、1分単位が原則です。
よくあるご質問です。従業員の労働時間把握義務を果たし、時間外勤務手当を支給することはたいへんなことです。人事担当者であれば、事務処理を効率的に処理したいと考えることでしょう。
割増賃金について、厚生労働省の通達(昭和63年3月14日基発第150号)では、「1か月における時間外労働、休日労働及び深夜業の各々の時間数の合計に1時間未満の端数がある場合に、30分未満の端数を切り捨て、それ以上を1時間に切り上げること」は、「常に労働者の不利となるものではなく、事務簡便を目的としたものと認められるから〜違反としては取り扱わない」とされています。つまり、30分未満を切り捨てることは従業員にとって不利ですが、30分以上を切り上げれば有利になりますので許容範囲だといっているわけです。ただし、これは1か月単位で集計する場合のことであり、日々の端数処理は認められていません。日ごとの残業時間は、「1分単位」で把握することが大原則だといってよいでしょう。
仮に、1日ごとの残業時間を30分単位で把握する場合、全てについて切り上げるのであれば、従業員にとって不利はありませんので可能と考えられます。しかし、それではコストがかさんでしまいます。例えば、30分単位ではなく5分単位であれば、切り上げたとしても会社の負担は軽くなり、事務処理も軽減されますので現実的かもしれません。なお、端数処理については、労働基準監督署の臨検があった場合、疑いの目を持たれることもありえますので注意が必要です。
Q.長時間労働に伴う医師面談が必要とされる時間は、どのように計算するのでしょうか?
A.週40時間を超えた時間数ですが、労基法の時間外労働とは異なります。
月80時間超の長時間労働となり、疲労の蓄積が認められる従業員から申し出があった場合、原則として会社は医師による面接指導を受けさせなければなりません(安衛法66条の8、安衛則52条の2および3)。このケースと労基法の時間外労働の計算方法は異なりますので注意が必要です。労基法では、1週40時間・1日8時間を超えた場合または法定休日に労働させた場合、時間外・休日労働となります。一方、安衛法が定める医師面談が必要とされる時間は、「休憩時間を除き一週間当たり四十時間を超えて労働させた場合におけるその超えた時間」です。計算式で表現すると「1か月の総労働時間数(労働時間数+延長時間数+休日労働時間数)−(計算期間(1か月間)の総暦日数/7)×40」となります(平18・2・24基発0224003号)。
例えば、1日の所定労働時間が8時間、月の所定労働日数が20日、歴日数が30日、結果としての時間外労働72時間と法定休日労働8時間の場合、労基法と安衛法を対比すると下記のような計算式になります。
【労基法の時間外・休日労働時間の計算】
時間外労働72時間+法定休日労働8時間 = 80.0時間
【安衛法の医師面談が必要とされる時間の計算】
8時間×20日+72時間+8時間 −(30÷7)×40 ≒ 68.6時間
労基法では80時間、安衛法では68.6時間となり、11.4時間の差異が生じています。その月の歴日数と所定労働日数の関係等で、様々な組み合わせがありますので、人事担当者は事前に確認しておく必要があるでしょう。
Q.「遅刻・早退の時間」と「残業時間」を相殺することは問題でしょうか?
A.遅刻・早退と残業の時間を相殺することはできません。
ご存知の通り、労働基準法37条は週40時間および1日8時間を超える労働をさせた場合には、原則として最低25%増の割増賃金を支払うよう定めています。もし、遅刻・早退の時間を1箇月分の残業時間と相殺すると、通常労働時間(100%)とそれよりも高い割増率(125%以上)の残業時間を相殺しますので、従業員にとってはマイナス25%以上となります。これは、従業員にとって不利益になりますし、当然のこととして違法になります。ただし、1日という単位の中での相殺は、法定労働時間である8時間を超えたところから割増賃金が発生しますので、法律上の問題とはならないでしょう。
また、会社によっては遅刻・早退が3回あった場合に、欠勤1日分として賃金から控除することを就業規則に規定しているケースを見かけます。ノーワーク・ノーペイの原則に基づき、働かなかった分を控除することは何ら問題ありませんが、それを超えて控除する場合には、「減給の制裁(労基法91条)」に該当し、違法となる場合がありますので注意が必要です。
A.休職は労働を免除する期間、欠勤は労働義務の不履行といえるでしょう。
多くの就業規則には、休職について記述されており、私傷病など一定の事由に該当した場合には、休職することができると思います。ただし、労働基準法などには休職に関する定めはなく、休職を制度として設けるか否かは会社の自由です。そのため、休職期間の長さや賃金の支払いについては、会社によって対応に差があります。
一方、欠勤は労働契約で約束している労務の提供について履行できないことを指しますので、いわば契約違反となります。しかし、私傷病の場合など届け出ることで、会社が欠勤を認めるケースが少なくありません。例えば、交通事故などで長期療養が必要な場合、最初の1箇月間を欠勤として処理し、その後3箇月間を休職期間とするようなケースです。その際、欠勤も休職も会社を休むという点においては同じです。しかし、欠勤は労務提供の不履行をやむを得ず認められるのに対し、休職はルールとして就労が免除される点で異なります。私傷病などにおいては、欠勤は休職までの前置期間という位置付けがありますので欠勤期間は相対的に短く、休職期間の方が長めに設定されることが一般的でしょう。
また、欠勤の場合はノーワーク・ノーペイの原則に従い賃金控除の対象となるのが基本だと思われますが、休職中の賃金については、会社によって様々です。そのため、就業規則などに賃金の有無についてきちんと記述しておくことが重要になるでしょう。
Q.勤怠管理を簡便化するため、固定残業代にすることは問題でしょうか?
A.違法ではありませんが、毎月精算する必要があるでしょう。
時間外労働に関する割増賃金について、例えば月20時間相当として月額固定の手当として支給するケースがあります。これ自体は、違法ではありません。
固定残業代について判例では、「通常の賃金部分と時間外・深夜割増賃金部分が明確に区別でき、通常の賃金部分から計算した時間外・深夜割増賃金との過不足額が計算できるのであれば、その不足分を使用者は支払えば足りると解する余地がある。」(徳島南海タクシー事件 高松高裁判決平11.7.19、最高裁三小決定平11.12.14)とされています。つまり、時間外手当を月額で固定するためには、①月額固定額が何時間分に相当するかを事前に明確にすること、および、②実際にした残業時間と予定していた残業時間を月ごとに精算し、実際の残業時間が上回った場合には差額を支給すること、がその要件となるわけです。人件費を抑制するための施策として、固定残業代とすることには意味がないということになります。
一方、日本ケミカル事件(最高裁一小判決30.7.19)では、採用条件確認書の記載や説明の内容等で根拠が明確であり、実際の勤務状況と大きくかい離しないのであれば違法にはならない旨の判断がされています。前出の判例の判断枠組みを緩和しているようにも見えますが、実務上は前記2要件を踏まえた方が無難と思われます。
また、会社は労働時間を把握することが要請されており(平13.4.6基発339号)、時間外手当を月額で固定化したからといって、残業時間を管理する手間を省くことはできません。そして、2019年4月1日施行の改正安全衛生法では、法律として初めて労働時間の状況を把握する義務が定められましたので注意が必要です。
A.「振休は事前」、「代休は事後」と覚えると分かりやすいでしょう。
例えば、法定休日である「日曜日」に出勤し、同じ週の「水曜日」にお休みをするケースで考えます。
●振替休日は、「日曜日」に出勤する時には既に休日が「水曜日」と特定されており、「休日労働する日」と「実際に休む休日」が事前に入れ替えられます。
●代休は、「日曜日」に出勤する時には別の休日を特定することができず、とりあえず出勤します。後日、「水曜日」が「実際に休む休日」として、事後に特定されることになります。
どちらのケースも「日曜日」に出勤し「水曜日」に休んだ事実は同じです。しかし、振替休日の場合には原則として割増賃金が必要ないのに対して、代休であれば35%以上の割増賃金が必要になります。少し不思議に感じるかもしれませんね。振替休日の場合には、振り替えたことで休日労働ではなくなりましたが、代休の場合には「日曜日」に出勤したことで、いったん休日労働が確定し、後から別の休日があったとしても、既に成立した休日労働を無かったことにはできないからです。
また、休日を振り替える場合、その週内であれば問題になりませんが、週をまたぐと割増賃金が必要になるケースがでてきます。例えば、1日の所定労働時間が8時間で週休2日制の会社の場合、休日を翌週に振り替えると振替元の週は32時間労働で、振替先の週は48時間労働となります。このケースでは、振替先の週における8時間分が週40時間を超えているために、25%以上の割増賃金が必要となりますので注意が必要です。
A.原則として全員が対象となりますが、例外もあります。
会社は、年次有給休暇のうち年5日について時季を指定して取得させる義務を負っています。原則として、すべての従業員が対象になりますが例外的なケースもあります。
例えば、短時間労働者には年次有給休暇の比例付与が定められており、1週間に働く日数に応じて比例的に付与されるのが基本です。時季指定義務は、年10日以上の年次有給休暇が付与される場合に発生しますので、年10日未満の年次有給休暇を付与される場合には対象外となります。一方、年次有給休暇の時効は2年であり、翌年度に繰り越すことができます。繰越分を含めると10日以上の年次有給休暇になるケースが出てきますが、労働基準法が定めているのは、1年で10日以上付与される場合ですので、繰越分の年次有給休暇を含めなくとも大丈夫です。
また、育児休業取得者や休職者の場合なども気になるところでしょう。対象期間の全てについて休業・休職しているのであれば、付与できる日がないので時季指定しなくとも違法にはなりません。ただし、「残りの期間における労働日が、使用者が時季指定すべき年次有給休暇の残日数より少なく、5日の年次有給休暇を取得させることが不可能な場合には、その限りではない。(平30・12・28基発1228第15号)」という通達が発出されていますので注意が必要です。年次有給休暇の時季指定義務については、シビアに考える必要がありそうです。
A.はい。残念ながらそうなるでしょう。
働き方改革の一環として改正された労働基準法は、年次有給休暇の時季指定義務を定め、会社に新たな義務を課しました。年10日以上付与される従業員に対してそのうち5日について、会社は時季を指定して年次有給休暇を取得させなければなりません。加えて、年次有給休暇管理簿を作成し、3年間保管する義務もあります。
労働基準監督署の臨検(立入調査)があった場合には、さまざまな帳簿の提出を求められます。出勤簿や賃金台帳は、その代表的なものです。今後は、これらに加えて年次有給休暇管理簿の提出も求められるでしょう。年次有給休暇管理簿の作成は、法律上の義務ですので提出できなければ法違反を問われることになります。また、時季指定義務を果たせていない年次有給休暇管理簿を確認されれば、法違反は一目瞭然です。
年次有給休暇の時季指定義務を果たさなかった場合、労働基準法第39条第7項違反になります。就業規則に年次有給休暇の時季指定の方法等を記載していなかった場合には、同法第89条違反となります。どちらに該当しても同法第120条1号により最終的には、「30万円以下の罰金」に処せられる可能性があります。ただし、厚生労働省は「改正労働基準法に関するQ&A」の中で、「是正に向けて丁寧に指導し、改善を図っていただく」としていますので、いきなり罰則が適用されることは少なく、まずは行政指導として改善を指導されると考えられます。
Q.年休の時季指定について、従業員の意見に従う必要がありますか?
A.義務はありませんが、尊重する必要はあります。
2019年4月1日施行の改正労働基準法には、年次有給休暇の時季指定義務が定められました。会社は、年次有給休暇の時季を指定する際、従業員の意見を聴かなければなりません(労基則第24条の6第1項)。そして、その意向を尊重するよう努めなければなりません(同第2項)。つまり、従業員の意見を聴取することは法令上の義務ですが、従業員の意向通りに年次有給休暇の時季を指定する義務までは負っていないということです。もちろん、会社は調整する努力は必要でしょう。年次有給休暇の時季指定義務を果たすには、このプロセスが重要になります。
ところで、年次有給休暇の意見聴取義務は、初めて設けられたものではありません。戦後間もない1947年に施行された労働基準法には既に存在していました。労基則第25条は、「使用者は、法第三十九条の規定による年次有給休暇について、継続一年間の期間満了後直ちに労働者が請求すべき時季を聴かなければならない」と定めています。当初の労働基準法は、会社が従業員の意向を聞いて計画的に年次有給休暇を付与していくことを念頭に置いていたのです。しかし、行き過ぎた労働者の保護は戦後の復興を妨げるというような経営側からの圧力もあり、1954年の省令改正でこの規定は削除されます。それから60年余り経過し、従業員の請求によって成立する年次有給休暇が、部分的に会社の指定義務に転換されることになったわけです。ある意味において、労働基準法が成立した当初の考え方に近づいたといってもよいでしょう。
(参考:濱口桂一郎「日本の労働法政策」)
Q.年次有給休暇の時季指定義務を果たすには、どうするべきでしょうか?
A.年末調整方式は、いかがでしょうか。
2019年4月1日施行の改正労働基準法には、年休(年次有給休暇)の時季指定義務が定められています。会社は、年休の付与日数が10日以上の従業員に対し、5日について時季を指定して与えなければなりません。ただし、従業員が自ら5日を取得すればこの義務は発生しません。毎年のように5日以上、年休を取得している従業員には関係のない話かもしれませんが、仕事が大好きな従業員の中には、ほとんど年休を取得しない従業員もいるでしょう。従業員が取得したくないと言っても、会社は年休を取得させる義務がありますので、問題になることがあります。
このような場合、年末調整方式は、いかがでしょうか。例えば、毎年4月に年休の一斉付与をしている会社の場合に、次の4段階を実施します。
(1)4月から12月までは従業員の自主性に委ね、自由に年休を取得してもらいます。
(2)12月31日時点で年休取得状況を確認し、取得日数が5日未満の従業員を抽出します。
(3)年が明けた1月初旬に、取得日数が5日未満の従業員へ年休取得日の希望を改めて聞きます。
(4)その上で、年休取得予定日を確定し、当日を出勤禁止とします。
出勤禁止とするのは、少々やりすぎの感もありますが、ここまでしないと年休の時季指定義務を果たすことはできないかもしれません。特に、ワーカホリックな管理職の皆さんは、会社が労働基準法に違反しないよう、自ら率先して年休を取る必要があるでしょう。
A.半日単位はOKですが、時間単位は認められません。
もともとILO第52号条約(1936年)では、連続した年次有給休暇の取得が想定されていました。年次有給休暇は、休養をするために一定の期間まとまった日数を取得するものだと考えられたからです。この考え方は、日本の労働基準法にも共通しています。そのため、半日単位や時間単位の年次有給休暇については、例外的な取り扱いだと整理しておく必要があるでしょう。
日本の年次有給休暇は、1日が基本単位です。しかし、半日単位の年次有給休暇は広く普及してきました。厚生労働省の通達 基発150号(昭63・3・14)は、「年次有給休暇は、一労働日を単位とするものであるから、使用者は労働者に半日単位で付与する義務はない」としながら、年次有給休暇の取得促進に資するのであれば、違法とする必要はないというのが従来からの立場です。
2019年4月1日、働き方改革の一環として労働基準法が改正され、年次有給休暇の時季指定義務が法定されました。厚生労働省は、1日に満たない年次有給休暇について、次の通達を発出しています。「半日単位の年次有給休暇の取得の希望があった場合においては、〜年次有給休暇の時季指定を半日単位で行うことは差し支えない(基発1228第15号 平30・12・28)」 しかし、「時季指定を時間単位年休で行うことは認められない」とも書かれていますので、半日単位はOKですが時間単位で年次有給休暇の時季を指定することは困難だといってよいでしょう。
A.休日は労働義務のない日、休暇は労働義務が免除される日です。
会社をお休みする点では、休日・休暇・休業に違いはないかもしれません。しかし、人事担当者はこの違いを理解しておいた方がよいでしょう。「休日」は、もともと労働義務のない日であり、「休暇・休業」は、労働日であるにもかかわらず労働義務が免除される点で異なります。
例えば、会社全体がお休みする日は「休日」、会社は営業しているけれども従業員個人がお休みする日は「休暇」と表現できるでしょう。お盆と夏休みの関係でも例えられます。8月13日から15日を「お盆休み」として、全社一斉でお休みする場合は休日でしょう。一方、7月から9月の間で各自が調整して取得する「夏休み」は休暇となります。就業規則で「夏季休暇」と表現しながら、全社一斉の休日を規定している会社をみかけますが、少々気になるところです。
「休暇」と「休業」の違いは、もう一つ明確になっていないようです。労働義務のある日に会社が労働義務を免除する日(休暇・休業)には、年次有給休暇、産前産後休業、生理休暇、育児・介護休業、子の看護休暇、介護休暇などがあります。育児介護休業法では、「休暇」のうち連続して取得することが一般的であるものを「休業」としています(平21・12・28職発1228第4号)。
ちなみに、「育児休業中の数日に年次有給休暇を充当したい」というような申し出があるかもしれません。育児休業中は、賃金が発生しないので年次有給休暇で補うという考え方です。この場合、会社は受理しないことになるでしょう。休業中は、もともと労働義務が免除されているので、休暇を取得する余地がないからです。
A.書かせることはよいとしても、理由による取得制限は問題です。
年次有給休暇の申請書に理由を書く欄があるのをよく見かけます。これ自体は問題ないと思います。ただし、理由によって承認をしない、ということになると問題です。最高裁判例(白石営林署事件 昭48.3.2)では、「年次休暇の成立要件として、労働者による『休暇の請求』や、これに対する使用者の『承認』の観念を容れる余地はないものといわなければならない。」とされていますので、会社の許可を得る必要がないことは明白です。このような場合、会社の保持する権限は「時季変更権」のみということになります。時季変更権とは、“事業”の正常な運営を妨げる場合に年次有給休暇の取得“時季”を変更させる権限です。これは、会社の“事業”であり、個人の業務や小さな組織レベルの話ではないため、時季変更権を行使できるのは余程の場合ということになります。結果として、時季変更権が行使されない限り年次有給休暇は自動的に成立することになります。ちなみに「時季」には意味があり、季節をまたいで変更することができるといわれています。
そうすると、現場の上司は困ってしまう場合があるかもしれません。そのような時は、時季変更の“申込”をするとよいでしょう。申込・相談は自由ですから、上司が部下にお願いをすることになります。もちろん部下に拒否されればそれまでですが、“お互いさま”の部分もあるでしょう。法律で議論するのではなく運用面で支障がないようマネジメントすることになると思います。マネジメントとは、運用することなのかもしれませんね。
Q.当社では年次有給休暇の計画的付与を実行しているのですが、退職する社員が退職時にまとめて年次有給休暇を請求してきました。この場合にはどうしたらよいのでしょうか?
A.退職する社員に対しては、退職日以降の計画的付与を実行できませんので、請求を認めてあげてください。
年次有給休暇の計画的付与を実施している場合、従業員の時季指定権も会社の時季変更権も行使できず、お互いに変更の効かないシステムとなります。ここで問題になるのは、退職日以降に既に予定されている年次有給休暇の計画的付与日が変更できず、従業員はその分を捨てる他ないのか、という部分です。
この点について通達は、 「計画的付与は、当該付与日が労働日であることを前提に行われるものであり、その前に退職することが予定されている者については、退職後を付与日とする計画的付与はできない。したがって、そのような場合には、計画的付与前の年休の請求を拒否できない。」(昭63.3.14基発150号)として、退職する従業員については、退職後の年次有給休暇の計画的付与の対象としないことを示しています。
なお、このようなケースを想定して事前に労使協定に定めておくことが、スムーズな年次有給休暇の計画的付与の実施につながると思われます。
Q.半日単位で年次有給休暇を付与する場合、何時で分割すべきでしょうか?
A.午前と午後、所定労働時間の半分、などを就業規則で明示すべきでしょう。
国際労働機関の1970年「年次有給休暇に関する条約」(第132号)では、「年次有給休暇の分割された部分の一は、少なくとも中断されない二労働週から成るものとする。」(*)と書かれています。そもそも年次有給休暇は、長期休暇を念頭に置いているのかもしれません。ちなみに、日本は未批准国です。
今では法改正により時間単位の付与ができるようになりましたが、その前から半日単位の年次有給休暇は広く普及していました。これについて通達では、「年次有給休暇は、1労働日を単位とするものであるから、使用者は労働者に半日単位で付与する義務はない」(昭63.3.14基発150号)とされています。法律には、半日単位の年次有給休暇に関する定めがありませんので、就業規則でどのように規定するかによります。
ここで問題となるのは、1日をどこで分割するかです。通常の解釈では、半日とは暦日の半分ということになり、前半は0:00〜12:00、後半は12:00〜24:00ということになります。例えば、始業・終業時刻が、9:00〜18:00(実働8時間)の会社で考えると、前半が9:00〜12:00(実働3時間)、後半が13:00〜18:00(実働5時間)となります。前半と後半では2時間の格差があり従業員から不合理だと指摘される可能性も考えられます。
一方、年次有給休暇の半日を所定労働時間の半分とすると、前半が9:00〜14:00(休憩を除き実働4時間)、後半が14:00〜18:00(実働4時間)となります。ちょうど所定労働時間の半分になりますが、休憩時間をとらずに9:00〜13:00(実働4時間)まで働くと所定労働時間の半分となるため、解釈に違いが出てきそうです。
どのプランもすっきりした分割にはなりませんが、労使で検討した上で就業規則に明示する必要があるでしょう。
*出所:ILO駐日事務所ホームページ
http://www.ilo.org/tokyo/standards/list-of-conventions/WCMS_238104/lang--ja/index.htm