賃金水準サーベイ

↓ 以下をご覧ください。

統計調査の入手方法「e-Stat」

Q.統計調査のデータを入手するには、どうすればよいですか?

A.「 e-Stat 」を活用するのが早いでしょう。

 一昔前であれば、政府刊行物センター等に行って出版物になっているものを購入するのが通常でしたが、現在ではインターネットを通じて無料で簡単に入手することができます。ネットサーフィンをしながら探すこともできますが、政府統計の総合窓口である「e-Stat」を活用するのが早いでしょう。代表的な賃金統計である「賃金構造基本統計調査」を例にとり、その手順を確認したいと思います。

 まず、「ヤフー」や「グーグル」などの検索サイト欄に「e-Stat」と入力し、検索ボタンをクリックします。そして、「政府統計の総合窓口(e-Stat)」のページに入ったら、そのキーワード検索欄に「賃金構造基本統計調査」と入力し検索ボタンをクリック後、選択候補の中から改めて「賃金構造基本統計調査」を選択します。以降は、入手したいデータ(該当年別、労働者の種類別、産業分類別など)によって、該当項目を選択していくことになります。

 「e-Stat」のデータは膨大でありメニューの階層が深いので、慣れないと使いにくいと思う人がいるかもしれません。その場合は、統計データをコンパクトにまとめた出版物で確認してから「e-Stat」を使うのもよいでしょう。そのような時は「活用労働統計」が重宝します。情報が限られていることから短時間で把握することができると思います。

 また、様々な統計について総務省統計局が「統計メールニュース」を無料で配信していますので、日頃から統計に関する情報を集めておくのもよいのではないでしょうか。

 統計メールニュース・サービス URL⇒ http://www.stat.go.jp/info/mail/index.htm

 

賃金水準の確認方法

Q.コーヒーの商社です。自社の賃金水準をチェックする良い方法は?

A.賃金構造基本統計調査を用いるのがよいでしょう。

 

自社の賃金水準がどのようなレベルにあるのか、人事担当者であれば当然気になるでしょう。いろいろなチェック方法があるでしょうが、やはり賃金構造基本統計調査を用いることが王道といえます。
 賃金構造基本統計調査は、日本政府が政策決定のために指定する基幹統計の一つです。基幹統計は、あまたある統計の中で53(令和元年5月24日現在)しか存在しない選び抜かれた統計なのです。統計としては、最高レベルのものであり安心して使用できます。また、賃金構造基本統計調査は、業界別の平均値だけでなく、性別、学歴別、年齢階級別など、個人の属性別のデータを詳細に確認することができます。
 この統計を用いる際には、まず御社の属する業界が「日本標準産業分類」の中で、どのように分類されているかを確認しなければなりません。コーヒーの商社であれば、大分類Ⅰ(卸売業・小売業)、中分類52(飲食料品卸売業)、小分類522(食料・飲料卸売業)、その中の5226(茶類卸売業)と位置づけられるでしょう。本来であれば、5226(茶類卸売業)の賃金データを使用したいところですが、集計単位として公表されていません。実際に使用するのは、中分類または大分類ということになるでしょう。
 全ての統計に共通していえることですが、統計で分かるのはある部分であり全てが分かるわけではありません。そのため、正解として捉えるのではなく、参考データとして用いるスタンスが必要だと思われます。
 

賃金水準を比較する方法

Q.自社の賃金水準を同業他社と比較したいのですが、統計以外に何かよい方法はありませんか?

A.ベンチマークを試みるか、または有価証券報告書を活用することもできます。

 自社の賃金水準を同業他社と比較する場合に、統計などの資料を活用する他には、ベンチマークをする方法が考えられます。ベンチマークをする場合には、同業者組合などでお付き合いのある企業に対して、自社のモデル賃金と相手先企業のモデル賃金を相互に交換してもらえるよう、お願いをすることになります。若しくは、労働組合を通じて同様のことができるケースも見受けられます。

 実際の支給データを交換することは、賃金という秘匿性から困難だと思われますので、やむを得ずモデル賃金ということになりますが、モデルが実態を表しているかどうかは分かりませんので注意が必要です。

 このようなベンチマークが難しい場合に、副次的な手法として有価証券報告書を活用することも考えられます。株式上場会社であれば、必ず有価証券報告書を発行していますので、従業員数、平均年齢、平均年収が記載されています。あくまでも参考程度ですが、チェックしてみる価値はあるのではないでしょうか。

 

地域別賃金水準の把握

→ 関連資料

賃金構造基本統計調査(左図棒グラフ部分)は、都道府県別にも集計されていますので、地域別の賃金水準比較が可能になっています。この調査は約150万人分のサンプル数を有する巨大な調査ですが、都道府県別、業界別、男女別、学歴別、企業規模別に分割するとサンプル不足となり、統計が不安定になる可能性があります。ですから、そういった点に注意しながら、都道府県別の集計データを扱わないといけません。

 また、初任給はどの企業でも新卒採用の際には公表しているのが通常であり、安心して使用できるものですので、都道府県別に大学卒および高校卒に分けて初任給の水準比較をするのもよいと思われます。

退職金の統計

Q.自社の退職金水準をチェックするには、どのような統計があるのでしょうか?

A.中央労働委員会の賃金事情等総合調査や東京都の中小企業賃金・退職金事情が代表的なものです。

 賃金に関する統計は、賃金構造基本統計調査等、優れた統計がたくさんありますが、退職金に関するものとなるとやや難しくなります。

 退職金は勤続期間と退職時の賃金が強く影響しており、個人の退職するタイミングによって支給額は大きく変動します。また、一時金を年金化することもありますので、個人差の大きい退職金の平均値を算出したとしても、他の賃金統計のような精緻な分析は難しいということです。そして、退職金は退職しなければ支給されないので、月例給与のようなサンプル数を確保することは困難です。

 そこで、退職金については、モデル退職金として統計をとるケースがあります。退職した実在者ではなく、モデル賃金と退職金支給率を組み合わせて、モデル退職金を作成するわけです。

 中央労働委員会による「賃金事情等総合調査」および東京都による「中小企業賃金・退職金事情」は、退職金の統計としては信頼性が高いものですが、以上のような経緯からあくまでも参考データとして捉える必要があります。

 

定期昇給の賃金統計

Q.定昇、ベアに関する統計には、どのようなものがありますか?

A.状況により異なるでしょうが、「賃金引上げ等の実態に関する調査」が使いやすいかもしれません。

 定期昇給やベース・アップの世間動向を調べたい場合、たくさんの調査や統計がありますが、まずは厚生労働省のデータから確認してはいかがでしょうか。

 厚生労働省では、7月頃に「民間主要企業春季賃上げ要求・妥結状況」、11月頃に「賃金引上げ等の実態に関する調査」を公表しています。これらの調査には、それぞれ特色があります。前者は、資本金10億円以上かつ従業員1,000人以上の労働組合のある企業(約300社)について集計したもの、後者は、常用労働者100人以上を雇用する企業(約2,000社)について集計したものです。端的にいうと大企業と中小企業以上という違いがありますので、前者の数値が高く出るのはもっともなことでしょう。

 この他には経団連や連合の集計結果もあります。ただし、どちらも特定の団体のものであり、データが偏らないようにサンプル抽出されているわけではありませんので、世の中全体を平均した結果であるような錯覚に陥らないよう注意が必要でしょう。

 このように、定期昇給やベース・アップの調査には、特色がありますので自社に適したものを選択する必要があります。なお、「賃金引上げ等の実態に関する調査」では、「賃金の改定の決定に当たり最も重視した要素」についても調べています。これによると、「企業の業績」が最も重視されていますので、世間相場は“あくまでも参考”として捉えることが重要かもしれません

 

ベースアップの実施方法

Q.「ベースアップ」は、どのように実施したらよいのでしょうか?

A.定期昇給の実施後、定額と定率に分けて実施するのが一般的だと思われます。

 賃金実務を担当する人事担当者でも、ベースアップを実施していない企業では、実務の経験が乏しくなっているかもしれません。ベースアップ(ベア)については誤解も多いようですので、基本を確認しておくことは大切でしょう。

 春闘における昇給率(額)は、定期昇給(定昇)とベースアップ(ベア)を一体として、“定昇ベア込み”で決定されることが多いと思われます。定昇は、制度として運用されるものであり交渉の必要がないものですので、評価の結果等が集計されれば自動的に算出されます。その後、“定昇ベア込み”のトータル部分から定昇部分を除いた残りが、ベアの部分になります。一方、ベアとは、“ベース=賃金表”をアップさせることを言いますので、個人の賃金に直接反映させるものではありません。まずは、前年度の賃金表にベア率(額)を反映し、新年度の賃金表を作成してから、個人の賃金を変更することになります。

 なお、ベアを実施する場合には、定率及び定額による配分が考えられますが、実際にはどちらか一方ではなく、定率と定額をミックスして配分する企業が多いのではないでしょうか。この場合、“定率”部分を厚く配分すると、高賃金ほど金額が大きく、低賃金ほど金額が小さくなります。一方、“定額”部分を厚く配分すると、高賃金ほど昇給率が低く、低賃金ほど昇給率が高くなります。一般的に、中高年者の賃金を是正したいときは“定率”部分を厚く、若年層を是正したいときは“定額”部分を厚く、配分することになります。どのようにベアを配分するかは、その会社の賃金の状態、または、政策により異なることになります

 

定期昇給で上昇しない人件費

Q.定期昇給で人件費が上昇しないというのは本当ですか?

A.本当です。しかし、実際にはそうもいかないでしょう。

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 定期昇給は、よくエスカレーターに例えられます(左図)。
まず、20歳の新入社員が1階で上り方向のエスカレーターに乗ると考えます。次に、定年退職予定者は60歳になる時に、今まで長く乗ってきたエスカレーターを2階で降ります。このエスカレーターは40段で構成されており、各段には1歳刻みで20歳から59歳までの社員が1人ずつ乗っています。1階で1人乗ってくる(入社)度に、各段に乗っている社員が階段を1段(1歳)ずつ上り、最上段の社員が降りること(定年)を繰り返すと、エスカレーターに乗っている人数は常に40人であり変化しないことになります。

 このような人員構成の会社はほとんどないでしょうが、新卒定期採用と定年制度がこのエスカレーターのように運用されていれば、人件費はさほど変化しないことになります。ただし、早期退職や新卒採用の凍結などで、人員バランスが崩れていれば、このエスカレーターは機能しません。定期昇給の原資は、人員構成によって左右されるともいえます。結果として、人件費が上昇しないはずの定期昇給でありながら、実際には昇給原資で企業経営を悩ませることになっているのが現状かもしれません

 

定期昇給とベースアップ

Q.賃上げ5%は達成可能でしょうか?

A.経営サイドの英断が必要になりそうです。

 毎年春が近づくと「定昇ベア込みで●円(●%)獲得」などと春闘のニュースが流れます。ベアが注目されるようになったのは比較的最近のことだと思います。長期におよぶ景気の低迷で、ベアの実務を経験したことのない人事担当者がいてもおかしくありません。

 いわゆる“賃上げ”は、定期昇給とベースアップで構成されます。前者は人事制度上のものであり、後者は交渉等で決定されるものです。定期昇給は、評価制度と賃金制度を運用した結果、半自動的に上昇することになり交渉の必要はありません。一方、ベースアップは賃金表(ベース)の書き換えのことであり、消費者物価の変動による実質賃金の確保などの観点から労使交渉で議論が交わされるわけです。ベースアップは交渉等に基づくため交渉相手である労働組合のない企業では実現が難しいものだと思われます。

 「賃金引上げ等の実態に関する調査(2021年)」によると賃上げは1.9%になっています。仮に賃上げ5%を達成するためには、この公表値に対してさらに2.7%程度のベースアップを乗じることが必要です。労働組合の推定組織率が16.9%(2021年公表値)と低迷する現状においては、労使交渉に委ねることで社会全体のベースアップを実現することは困難かもしれません。大幅な賃上げを達成するためには、経営サイドの英断が必要になりそうです。

 

定期昇給と賃金プロットの近似線

Q.賃金表のない会社では、定期昇給額をどのように決めたらよいですか?

A.賃金プロットの近似線から昇給額をみる方法があります。

 賃金制度を検討する場合に、従業員の賃金プロット図(散布図)を作成することがよくあります。例えば、グラフの縦軸に基本給、横軸に年齢を置き、従業員の基本給と年齢の交点に印を付けます。この作業を全従業員について1人ずつ実施すると、賃金プロット図の完成です。実際には、エクセル(表計算ソフト)が作図してくれますので、基本給と年齢の一覧表があれば、簡単に作成することができます。賃金プロット図を眺めれば、全社員の賃金分布が一目瞭然です。

 また、エクセルには近似線を作成する機能が付属しています。近似線とは、作成した賃金プロット図の傾向を分析し、その傾向に最も近い1本の直線を引くものです。これもエクセルが作図してくれますので、瞬時に完成します。この1本の直線は、例えば「Y = 5,000X + 100,000 」のような数式で表現することが可能です。中学校の数学で習ったような気がしますね。ここでは、「5,000」が直線の勾配を現しています。つまり、X(年齢)が1歳上がると、Y(基本給)は5,000円上昇するという意味です。この傾向から今まで実施してきた定期昇給は、だいたい5,000円だとみなすこともできるでしょう。仮に、今後の定期昇給額を5,000円と設定すれば、人件費の傾向は大きく変化しないことになります。

 この方法は、ある時点の状態を切り出したものであり、過去の経緯を網羅したものとはいえませんが、定期昇給額の目安として用いることは可能だと思います。

 

基幹統計は55個

Q.人事の仕事に関係する統計には、どのようなものがありますか?

A.様々なものがありますが、まずは基幹統計を確認するとよいでしょう。

 統計には、国、地方公共団体、民間等様々な実施機関がありますが、数ある統計の中でも頂点に君臨するのが「基幹統計」といってよいでしょう。わが国の基幹統計は、55個存在します(2014年4月現在)。国勢統計をはじめとする基幹統計は、行政機関の実施する最も重要な統計と位置付けられるものです。「統計法13条」を実施の根拠とし、統計の報告を求められた者は法律上の義務を負います。なお、統計の報告を拒んだ場合には、50万円以下の罰金に処せられることが定められていますので注意が必要です。民間の統計と比べて回収率が高くなるのは当然といえそうです。

 基幹統計の中で人事に直接関係しそうなものは、次のようなものが挙げられるでしょう。厚生労働省の「賃金構造基本統計」や「毎月勤労統計」、国税庁の「民間給与実態統計」、総務省の「労働力統計」や「就業構造基本統計」、文部科学省の「学校基本調査」などです。この中では、「賃金構造基本統計」と「毎月勤労統計」に対する馴染みが深いかもしれません。もし、賃金水準を調べるためにどちらを選択するか迷ったときは、まずは「賃金構造基本統計」から調べることをお勧めします。「賃金構造基本統計」は、労働者個人の賃金を調べていますが、「毎月勤労統計」は、事業所の労働者の“支払総額”を調べていますので、細かいことが分からないからです。

 このように、統計には特色がありますので参考にする場合には、用途に適したものを選択する必要があります。ほとんどの統計には“利用上の注意”などの説明がありますので、丁寧に読むことで安心して使用することができます

 

新卒一括採用と若年失業率

Q.先進国の中で日本の若年失業率は、なぜ低いのでしょうか?

A.新卒一括採用が、若年失業率を低めていると言われています。

 完全失業率は、総務省の実施する「労働力調査」で確認することができます。2015年の全体平均では「3.4%」、15〜24歳では「5.5%」になっていますので、若者の失業率は高めといってもよいでしょう。この傾向は、日本だけでなく諸外国も同様です。

 国ごとに事情が異なるため、失業率の国際比較はなかなか難しいものです。しかし、先進7カ国ではILO基準に準拠して失業率を算出しているので、失業の定義が完全には一致しないものの比べることは可能です。比較可能なデータについて、先進7カ国の失業率(2014年平均)を低い順に並べると、日3.6%、独5.0%、米6.2%、英6.2%、加6.9%、仏9.9%、伊12.7%となっています*。私たちの持っているイメージに近い数値といえるでしょう。同様に、15〜24歳の失業率では、日6.3%、独7.8%、米13.4%、加13.5%、英16.3%、仏23.2%、伊42.7%となっており、若者の失業率が高いことに驚かされます。この中で、日本とドイツの若者の失業率は1ケタ台ですが、なぜ低いのでしょうか。

 仮に、日本が欧米のような新卒一括採用の乏しい国であれば、経験のあまりない新卒者が経験豊富な中途採用者と労働市場で競い合うことになり、就職できる可能性が低くなってしまうと言われています。一方、ドイツの特殊性の背景にあるのは、「デュアル・システム」だといわれています。これは、学校に通いながら企業内で職業訓練を受ける本格的なもので、短期間で実施される日本のインターンシップとは異なります。この「デュアル・システム」が、若者の失業率を低く保つことに貢献しているようです。

 新卒一括採用には批判もありますが、世界に誇る日本の慣行だといってよいのかもしれません。そして、この慣行を支えているのが企業の人事担当者なのです。自信をもって新入社員を迎えてよいのだろうと思います。

 * OECD database(http://stats.oecd.org/)“LFS by sex and age-indicators” 2016年3月現在

 

諸手当に関する賃金統計

Q.家族手当に関する統計調査には、どのようなものがありますか?

A.①厚労省、②人事院、③中労委、④東京都の4つが代表的なものといえるでしょう。

 家族手当など諸手当に関する統計調査には、いろいろなものがありますが、次の4つが代表的なものといえるでしょう。ただし、それぞれに特徴がありますので、調査対象や実施時期などに注意して用いる必要があります。

 ①厚生労働省      :「就労条件総合調査」

 ②人事院     :「職種別民間給与実態調査」

 ③中央労働委員会  :「賃金事情等総合調査」

 ④東京都   :「中小企業の賃金・退職金事情」

 まず、①厚労省調査は、従業員30人以上の事業所を対象としており、サンプル数も多く信頼性の高い調査ですが、諸手当については数年に1度の頻度でしか実施されていないのが玉に瑕です。

 次に、②人事院調査の対象は、企業規模50人以上かつ事業所規模50人以上ですので、中小企業というよりは大手に近い状態の企業とみてよいでしょう。家族手当について全国規模で毎年実施している調査では、この調査が代表格といえます。

 そして、③中労委調査は、資本金5億円以上や従業員1,000人以上の大手企業を対象としています。通常の統計調査では、調査対象が偏らないようサンプルを抽出して実施されますが、この調査は特定の会社を有意抽出して実施されていますのでやや特殊な調査といえるでしょう。

 最後に、④東京都調査は、従業員10〜300人未満の中小企業を対象としており、東京都のデータを確認するのであれば、毎年実施されていることもあり使いやすいでしょう。

 また、各統計調査では、諸手当の水準に関するデータも載っています。しかし、諸手当は賃金を構成する一部に過ぎませんので、その水準については月例給与の合計で比較しないとよくわかりません。そのため、諸手当の水準については、あくまでも参考として捉えることが重要でしょう

 

賃金構造基本統計調査の所定内給与額とは

Q.賃金構造基本統計調査の所定内給与額とは何ですか?

A.残業を含まない月給と考えてください。

 賃金構造基本統計調査でいう所定内給与額とは、労働契約等であらかじめ定められている支給条件、算定方法により毎年6月分として支給された現金給与額 (きまって支給する現金給与額) のうち、超過労働給与額 (時間外勤務手当、深夜勤務手当、休日出勤手当、宿日直手当、交代手当として支給される給与をいう。) を差し引いた額で、所得税等を控除する前の額をいいます。要するに、残業代を含まない月例給与と考えれば、親しみが沸くでしょう。

 自社の賃金と比較するときに、残業部分を含んだ状態で比較するのも面白いとは思いますが、残業は大きく変動しますので、残業部分を含まない”所定内給与額”と比較をする方が、自社の水準を確認するためには、ベターだと思われます。なお、賃金比較をするときは、自社の賃金についても上記の手当を含めないよう注意しなければなりません。

 

女性のM字カーブとは

Q.女性のM字カーブとは何ですか

A.女性の年代別就労割合(労働力率)を表す曲線で、日本の特色と言われてきました。

 総務省が実施する「労働力調査」では、労働力人口(就業者+完全失業者)を調べています。15歳以上の人口に占める労働力人口の割合は「労働力率」と呼ばれます。この労働力率(%)を縦軸にとり、横軸に年齢(5歳刻み)をとると、年齢階級別労働力率のグラフが出来上がります。

 男性について、この折線グラフを作成するとアルファベットの「U」を逆さまにしたような形になります。このグラフの形は、先進国共通のものです。成人男性が働くのは、当たり前ということなのでしょう。一方、女性について、この折線グラフを作成するとアルファベットの「M」のような形になります。これが、M字カーブです。結婚・出産期に当たる時期に低下し、育児が落ち着いた時期に再び上昇する傾向です。これは、日本の特色と呼ばれており、先進国には見られない現象です。他国では、韓国にもM字カーブの傾向が見られます。

 M字カーブは、日本の特色と言われ続けてきましたが、近年、M字の谷底が上昇し男性のような「逆U字型」に近づく傾向が見られます。この要因として、配偶者を有する女性の労働力率の上昇が指摘されています。いわば、結婚し子供ができても働き続ける女性の姿がイメージされるわけです。1991年に育児休業法が成立し、女性にとっても働きやすい社会の実現に近づいたとみることも可能です。女性活躍推進法も成立しており、今後、人口減少局面が進む日本において、好ましい傾向ということができるでしょう

 

ホワイトカラーとブルーカラーの賃金カーブの違い

Q.ホワイトカラーとブルーカラーでは、賃金カーブの形が違うのですが、これは一般的な傾向なのでしょうか?

A.ホワイトカラーは、ブルーカラーよりも賃金カーブの上昇角度が大きい傾向があります。

→ 関連資料

 この職種別賃金カーブの角度が違うのは、毎年の昇給ピッチの差ということになります。当たり前に感じるかもしれませんが、ホワイトカラー(左図折線グラフ赤)の昇給額は、ブルーカラー(左図折線グラフ青)よりも高い傾向があるということです。これは重要なポイントです。

 一方、賃金カーブが右上がりになるのは、慣例による年功序列だと断定することには問題があります。賃金カーブの角度は、能力開発のスピードや仕事の習熟度合に対する生産性の上昇の代理指標とみることもできますので、悪しき慣習だという決め付けは控えるべきでしょう。なお、ホワイトカラーに関する限り、右上がりの賃金カーブは先進国共通の傾向です。

 

等級と賃金の分析手法

Q.賃金レンジとは何ですか?

A.賃金の幅であり、等級毎に比較すると課題が見えてきます。

→ 関連資料

 賃金を分析する場合、統計などを用いて水準比較のグラフを作成するのが王道でしょう。それだけでなく、賃金構造を分析する時に便利なのが等級毎の賃金レンジです。等級相互の位置関係を把握することができますし、名ばかり管理職の確認にも使用できます。

 賃金レンジとは、文字通り賃金の範囲のことを指します。まず、等級区分毎に基本給、所定内給与、年間賞与、理論年収について、そのTOP(一番上)とBOTTOM(一番下)に位置する実在者賃金の一覧表を作成します。このTOPとBOTTOMの範囲が賃金レンジです。作成した一覧表から棒グラフを作成するとより明確に把握することができます(左図参照)。

 賃金レンジは、①重複型、②格差型、③連続型の3タイプに分かれると言えます。

 ①重複型は、等級毎のレンジが相互に重なっており実際の賃金表でよくみられるタイプです。年功的になりやすい反面、一定のレベルまでは定期昇給できるので、たくさんの従業員のモチベーションを維持することが可能です。

 ②格差型は、等級間の間隔が広いため昇格すると賃金が一気に上昇します。昇格者のモチベーションを鼓舞することに有効です。ただし、等級間の間隔が広いということは、必然的に賃金レンジは短くなります。何年か定期昇給すると頭打ちになってしまい、昇格しない従業員のモチベーションを維持することが困難になります。

 ③連続型は、重複型と格差型の折衷案です。“いいとこどり”をしてはいますが、両者のデメリットを合わせ持っています。

 実在者のグラフに加えて制度上のグラフ(理論値)を作成すれば、運用上の課題だけでなく設計上の問題が把握できるかもしれません。いずれの賃金レンジも一長一短がありますので、自社の状況に応じて会社が選択することになるでしょう

 

ジョブ型と定期昇給

Q.ジョブ型の人事制度にすると定期昇給はどうなりますか?

A.仕事で賃金が決まるのであれば、定期昇給はなくなるでしょう。

 「ジョブ型人事制度は、導入した会社によって様々な形態があると思いますが、「ジョブ=仕事」で賃金が決まるのであれば、いわゆる職務給と同義になるはずです。職務給は、定期昇給とは馴染まないタイプの賃金類型といってよいでしょう。仕事で賃金が決まるはずなのに、同じ仕事をしていながら毎年、賃金が上昇(定期昇給)することは矛盾するからです。一方、ベースアップは賃金表の水準を上昇させることですので、職務給や職能給を問わず実施することが可能です。

 賃金には幅のあるものとないものがあり、前者を「レンジレート」、後者を「シングルレート」と呼びます。職務給は、仕事と賃金が「1対1」で決まるので「シングルレート」になるのが基本です。つまり、昇給しないのが基本形なのです。

 困難度等から仕事を分類し格付ける「ジョブグレード(職務等級)」を用いる人事制度があります。一般的には、「レンジのある職務給」としているケースが多いのではないでしょうか。この場合には、同じ仕事をしていても、グレード内で賃金が変動すると思います。これは、定期昇給といえるのかもしれません。しかし、見方を変えれば仕事で賃金を変動させるのではなく、その他の要素で変動しているわけです。

 本来の「ジョブ型」人事制度であれば、定期昇給はないことが前提だと思いますが、実際には定期昇給が存在するケースが多いのだろうと思います。人事制度の名称を「ジョブ型」とするのは会社の自由ですが、「レンジのある職務給」として機能する制度なのであれば、実質的には職能資格制度とほとんど変わらいないものと考えられます

65歳への定年延長

Q.60歳定年を65歳に延長すべきでしょうか?

A.会社の考え方次第ですが、世の中の状況の推移を見守るという考え方もあるでしょう。

 高年法(高年齢者等の雇用の安定等に関する法律)第8条は、「定年は、60歳を下回ることができない」と定めています。つまり、定年は60歳以上となります。また、定年を定める会社では、雇用確保措置を講じる必要があります(同法第9条)。雇用確保措置は、①定年年齢の引上げ、②継続雇用制度の導入、③定年の定めの廃止、の3つのうちいずれかを講じなければなりません。結果として、77.9%の会社が継続雇用制度を導入しています(令和元年「高年齢者の雇用状況」集計結果)。定年年齢を引き上げる会社も19.4%存在しますが、まだまだハードルが高いようです。一方、努力義務とはいいながら、2021年4月1日施行の改正高年法は、65歳から70歳までの雇用確保措置を定めました。

 社会全体として継続雇用制度が定着してきましたので、60歳から65歳への定年延長を検討する必要性が高まっています。その場合には、賃金カーブの角度をねかせること、つまり標準的な昇給率を低下させることになるでしょう。「もし定年を延長するのならば、年功賃金のカーブをもっとゆるやかなものにしなければいけないことは明らか」だと有力な労働経済学者も提唱しています(清家篤『雇用再生』NHK出版)。

 しかし、今すぐに定年を延長し賃金カーブを修正することにはリスクもあります。同業他社に負けない賃金水準を持っている会社は別として、若い世代の賃金を低下させれば採用力が低下してしまいますし、中高年層の賃金を低下させれば働く意欲が低下する可能性は高く、“名ばかり管理職”問題の再燃も心配です。そのような会社の場合には、急いで定年を延長するよりも時間をかけて移行するのもよいのではないでしょうか。いずれ定年を延長するとしても、しばらくは定年後の継続雇用制度を活用しながら、世の中の状況の推移を見守るという考え方もあると思います