賃金・諸手当

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派遣社員の休業手当

Q.新型コロナに伴う派遣社員の休業手当は、派遣(先)としてどう対応するべきでしょうか?

A.派遣(元)会社が支払うものですが、派遣(先)として考える部分も・・・。

 派遣社員の休業手当は、派遣(元)会社が支払います。法律上の直接的な責任は、派遣(元)会社が負っているわけです。ただし、厚生労働省は「派遣先の責に帰すべき事由により〜契約の解除を行おうとする場合には、〜損害の賠償を行わなければならない」と派遣(先)の責任についても言及しています(「派遣先が講ずべき措置に関する指針」告示第379号)。また、厚生労働省の「新型コロナウイルス感染症に関するQ&A」では、「労働者派遣契約の履行を一時的に停止する場合や、労働時間や日数など労働者派遣契約の内容の一部を変更する場合には、それに伴う派遣料金等の取扱いについては、民事上の契約関係の話ですので、労働者派遣契約上の規定に基づき、派遣元と派遣先でよく話し合い、対応してください」とされています。

 新型コロナウイルスの影響によって労働者を休業させる場合には、前例のないほど手厚い「雇用調整助成金」が用意されています。助成金を申請できるのは、派遣(元)会社です。

 仮に、派遣(先)に法律上の支払義務がない場合でも、契約上の責任の一端はあるでしょう。ある程度の負担は止むを得ないとも考えられます。例えば、派遣(元)会社が受給する雇用調整助成金と休業手当の差額相当部分について、派遣(先)が協力をするという考え方は、いかがでしょうか?大岡越前の「三方一両損」ではありませんが、当事者が少しずつ負担するという考え方があるかもしれません

 

年俸制とは

Q.素朴な疑問です。年俸制とは何なのでしょうか?

A.月給制と同じく賃金形態の一つです。それに尽きるでしょう

 年俸制は、日給制や月給制と並び賃金形態の一つであり、労使で自由に決めることができます。ただし、労働基準法24条では毎月1回以上の賃金支払が定められています。そのため年俸制の場合には、1年を単位とした金額であっても、それを12分の1や16分の1として月ごとに支給されるのが通常です。要するに、年俸制であっても月給として支払う必要があります。年俸制は、1年を単位に賃金を決定するのでわかりやすさが増すのかもしれません。しかし、年俸制と月給制はどちらも計算期間の問題であり、決め方の問題とは異なると考えるべきでしょう。重視すべきは賃金の決め方であり、それは評価制度で実現するものではないでしょうか。

 一般的に年俸制のメリットは、働く時間(量)に応じて賃金が決まるものではなく、働いた成果(質)によって決まるものだと言われます。これは、能力主義の考え方にフィットするということでしょう。しかし、管理監督者でなければ時間外労働に関する割増賃金が発生しますので、原則として働く時間を無視した賃金の決定は困難です。たとえ固定残業代としても、実際の労働時間と毎月清算する必要がありますので、手間が増えるだけとも考えられます。

 また、年俸制は自由に賃金を上げ下げできるという誤解があるようです。従業員から合意を得ず会社が一方的に年俸額を引き下げた場合には、評価等の合理性がシビアに問われ裁判で会社が敗訴する可能性もあり得ますので注意が必要です。

 

異なる所定労働時間と調整給

Q.当社では、本社と工場で労働時間と休日数が違うので、別々の就業規則をもっています。今回、本社から工場へ転勤する従業員がいるのですが、何か対応が必要でしょうか?

A.年間労働時間を算出し、その差額を調整給などで支給するのが一般的です。

 事業場毎に始業・終業時刻や休日が異なるために、年間所定労働時間が事業場毎に異なることはありえることです。これは、年間所定労働時間が異なる会社に出向する場合にも当てはまります。

 労働時間が長くなるのであれば、その時間相当分を調整給などで支給すればこの問題に対応することが可能ですが、反対に、労働時間が短くなる場合は賃金を減らすのか、という問題がでてきます。

 ノーワーク・ノーペイの原則からすれば、労働時間が短くなるので賃金が減っても理屈は通るのですが、会社の命令で人事異動をさせているわけですから、異動する従業員にとっては納得がいかないことになります。その場合には、一般的には減額せずに従前からの賃金を支払うことが多いと思われますが、仮に、減額する場合であっても、段階的に減らしていくなどの対応が必要になると思われます。

 

割増賃金の過誤清算

Q.誤って支給した割増賃金を次の給料日で相殺することは問題でしょうか?

A.「調整的相殺」とされ、実施可能だと思われます。

 割増賃金は、勤怠集計の結果として支給されますので、ちょっとした手違いで間違ってしまうことはあり得ることでしょう。実務では、従業員に丁寧に説明をして次の給料日で相殺させてもらうことが多いのではないでしょうか。しかし、労働基準法第24条1項には「賃金は、通貨で、直接労働者に、その全額を支払わなければならない。」と書かれています。皆さんご存知の「賃金の全額払いの原則」です。この実務対応に、法的な問題はないのでしょうか。

 この件とはやや異なりますが、学校の教職員が職場を離脱し勤務しなかったケースで、裁判所(福島県教組事件 最高裁昭44.12.18)は過払いとなった賃金の「調整的相殺」を認めています。ただし、「許さるべき相殺は、過払のあった時期と賃金の清算調整の実を失わない程度に合理的に接着した時期においてされ、また、あらかじめ労働者にそのことが予告されるとか、その額が多額にわたらないとか、要は労働者の経済生活の安定をおびやかすおそれのない場合でなければならない」と前提条件をつけています。

 また、ストライキの結果過払いとなった賃金について、「前月分の過払賃金を翌月分で清算する程度は賃金それ自体の計算に関するものであるから、法第24条の違反とは認められない」(昭23.9.14基発1357号)という厚生労働省の通達も出ていますので、過払いとなった割増賃金を次の給料日で相殺することは可能だと思われます

 

自宅待機と休業手当

Q.会社都合で自宅待機させる場合、休業手当が必要になりますか?

A.とりあえず、60%「以上」の休業手当が必要でしょう。

 この件には、2つの法律が関わっています。

 第1に、労働基準法第26条は、「使用者の責に帰すべき事由による休業の場合においては、使用者は、休業期間中当該労働者に、その平均賃金の百分の六十以上の手当を支払わなければならない。」と定めているので、会社都合の休業では、60%以上の賃金が必要になります。第2に、民法第536条2項では、「債権者の責めに帰すべき事由によって債務を履行することができなくなったときは、債務者は、反対給付を受ける権利を失わない。」と定めているので、会社都合による休業の場合は、100%の賃金が必要になります。これでは、手厚く保護するはずの労働基準法が、民法よりも低い水準になってしまいます。さて、どちらが適用になるのでしょうか?

 この2つの条文の違いは、補償される賃金率だけでなく、会社の責任の重さにも存在します。労働基準法の想定する会社の責任は、「民法における「債権者の責に帰すべき事由」より広く、経営者として不可抗力を主張し得ない一切の場合を包含するものと解され(労働基準法コンメンタール)」ているので、労働基準法は民法より広い範囲で会社の責任を認め罰則をもって強制しています。

 以上を要約すると、この責任の所在には3段階あり、①故意・過失など会社に責任があれば100%の補償、②過失がなくとも会社側の領域で生じた都合であれば60%以上の補償、③天災地変等の不可抗力の場合は、会社に責任がないので補償はない(0%)と分けることができるでしょう。ケースバイケースになりますが、会社都合で自宅待機させるのであれば、少なくとも60%の休業手当が必要になると考えてよいでしょう

 

賃金の振込手数料

Q.銀行振込で賃金を支払う際、振込手数料を控除することは可能ですか?

A.賃金支払の原則に反し、無効と考えられます。

 民法485条では、「弁済の費用について別段の意思表示がないときは、その費用は、債務者の負担とする」とされており、当事者の合意や慣行がない場合には、支払債務を負っている側が費用を負担することになっています。これを賃金の振込手数料で考えれば、会社が負担することになるでしょう。

 もし、就業規則に「振込手数料を賃金から控除して支払う」規定があった場合はどうなるでしょうか。就業規則は労働契約の一部となりますので、当事者の合意が存在すると考えることができます。民法の考え方からすれば、賃金から振込手数料を控除して支払うことが可能なはずです。しかし、労働基準法24条には、賃金支払の5原則(通貨、直接、全額、毎月1回以上、一定期日払)が定められていますので、全額払いに反することになりこの合意は無効となるでしょう。また、賃金は通貨(現金)で支払うことが原則であり、銀行振込は会社の事務上の都合とも考えられます。そのため従業員の同意があって初めて成立するものですので、振込手数料を控除することにはやはり問題があります。

 常識で考えれば疑問になるような問題ではありませんが、視点を変えて理屈を考えると、ちょっとした法律の勉強になって面白いかもしれませんね

 

家族手当の「こども手当」化

Q.家族手当の見直しは必要でしょうか?

A.「こども手当」化の動きがあります。

 諸手当の支給は、会社の考え方次第だと思います。ただし、支給する場合には主旨や目的を明確にする必要があるでしょう。特に注意したいのは、同一労働同一賃金の視点です。例えば、家族手当について正社員だけを対象として契約社員には支給しない場合です。支給しない理由に合理性がなければ、2020年4月施行の「パート・有期労働法」で問題になるケースが出てきます。正社員と契約社員の間で、均等・均衡処遇になっているか否かを問われます。

 一方、家族手当を「こども手当」に改変する会社が登場しています。この背景には、女性活躍推進の考え方があるといってよいでしょう。2016年4月、厚生労働省は「女性の活躍促進に向けた配偶者手当の在り方に関する検討会報告書」を公表しました。会社が、扶養を要件として家族手当(配偶者部分)を支給することは、配偶者の「就業調整」の要因となり、結果として女性の能力発揮を妨げているという考え方です。この報告書では、家族手当(配偶者部分)の見直しを提言しています。ただし、いきなり廃止してしまっては、単なる不利益変更になってしまいますので、賃金原資総額の維持や経過措置などが必要だと述べられています。

 家族手当(配偶者部分)を廃止し、その分を「こども手当」とすることで、賃金原資総額の維持をしながら結果として女性の活躍を推進することにつながるでしょう。もちろん個別従業員の損得は発生しますので、必要な経過措置や労使交渉などは重要です。また、同一労働同一賃金の視点から、改めて契約社員等を支給対象とする場合には、「こども手当」に改変してから適用することで、極端な人件費アップを抑えることが可能かもしれません。このような視点から家族手当の見直しの議論が活発になっているのだと考えられます。

 

管理職の深夜勤務手当

Q.「管理職」でも深夜勤務手当は必要でしょうか?

A.「管理監督者」であっても深夜勤務手当を支給しなければなりません。

 まず、「管理監督者」と「管理職」の違いを明確にした方が良いでしょう。

 「管理監督者」とは、「事業の種類にかかわらず監督若しくは管理の地位にある者」の略称で、労基法第41条1項2号に定められています。通達(昭63・3・14基発第150号)では「一般的には、部長、工場長等 〜経営者と一体的な立場にあるもの」とされていますので、会社の中でもトップに近い従業員になるでしょう。それに対して「管理職」は、会社の中だけで通用する俗称であり、多くの会社では課長以上のようなイメージがあるように思います。名称の問題ではありませんが、いわば部長と課長のギャップが「名ばかり管理職問題」と言えるかもしれません。

 労基法の言う「管理監督者」であれば、労働時間・休憩・休日に関する規制が適用されませんので、時間外勤務手当等を支給しないことも可能です。ただし、深夜業の割増賃金については、支払わなければなりません。前出の通達では、「労働時間等の適用除外を受ける者であっても、〜深夜業の割増賃金を支払わなければならない」とされています。労基法では、「労働時間」と「深夜業」を区別して文言を使用しており、ここでいう労働時間には、深夜業を含まないと解釈されているためです(労働基準法コンメンタール/厚労省労働基準局編)

 

事業場外みなし労働と営業手当

Q.事業場外労働のみなし労働時間制における営業手当について教えてください。

A.月額固定の支給方法には注意が必要です。

 営業手当を大別すると、割増賃金と外勤の苦労に報いるハードシップ手当の2つの要素に分かれると思います。ここでは、事業場外労働のみなし労働時間制と割増賃金の関係について考えたいと思います。

 残業が想定される場合の「事業場外労働のみなし労働時間制」は、通常必要とされる時間(残業時間を含む)について、労使協定を締結しなければなりません。しかし、「事業場外」で「労働時間を算定し難いとき」に導入される制度ですので、正確に残業時間を想定するのは困難です。そのため実態を一番よく知る労使が相談して労働時間を決めることになります。会社によっては人件費削減のために、残業相当時間があるにもかかわらず、所定労働時間とみなして割増賃金を支給しないケースがありますが、実態と異なるみなし時間は、当然に問題になります。

 割増賃金は、労使協定でみなした残業時間相当分を支給することになりますが、みなすことができるのは1日単位です。そのため「1日分×労働日数」を支給することになりますので、日数に応じて変動します。割増賃金について、営業手当などの月額固定の支給方法は難しくなります。また、労使協定によってみなすことができるのは「事業場外」の部分です。「事業場内」の労働時間については別途把握し、みなし時間と合算した上で割増賃金を支給する必要があります。オフィス内などの労働時間は、日々変化することが通常でしょうから、その意味でも月額固定の支給方法は難しくなります。どうしても月額固定の営業手当等にするのであれば、最大日数に合わせることで、実際の労働日数よりも多めに支給することになるでしょう。

 

割増賃金の算定基礎額

Q.残業代を計算する時、その基礎となる賃金に家族手当や資格手当は含まれますか

A.家族手当を除外することはできますが、資格手当は算定基礎額に算入しなければなりません。

 労働基準法では、時間外労働などに関する割増賃金を計算する場合、その母数となる算定基礎額から除外できる賃金項目が定められています(労基法37条5項、労規則21条)。具体的には、次の通りであり頭文字を取って「カ・ツ・ベ・シ・リ・イチ」の法則と呼ばれています。1999年の法改正により住宅手当も除外できる賃金項目に加わりましたので、ゴロ合わせが多少覚えにくくなってしまいました。

【割増賃金の基礎に算入しない賃金】

カ-  家族手当
ツ-  通勤手当
ベ-  別居手当
シ-  子女教育手当
リ-  臨時に支払われた賃金
イチ-  1箇月を超える期間ごとに支払われる賃金
-  住宅手当

 上記は、限定列挙であり例示されているものではありませんので、ここにない手当等については、当然に算定基礎額に含まれることになります。結果として、資格手当はこの列挙された中にありませんので、算定基礎額に加える必要があるのです。ただし、これは名称の問題ではなく実態で判断されることになります。例えば、家族手当という名称であっても、扶養家族の人数などに関係なく一律に支給されるものは、家族手当としては扱われません。なお、定期昇給やベースアップは直接的に残業単価を上昇させることになりますが、これらの手当を増額しても残業単価は上昇しないことになります。