就業規則

↓ 以下をご覧ください。

就業規則が必要な理由

Q.なぜ、就業規則は必要なのでしょうか

A.法律の定めというよりも、効率的な会社運営に必要だからです

 労働基準法第89条には、「常時十人以上の労働者を使用する使用者は、次に掲げる事項について就業規則を作成し、行政官庁に届け出なければならない。」として、就業規則の作成及び届出の義務が定められています。法律上の遵守義務なので、当然に就業規則は必要なものです。一方、たくさんの従業員が協働する職場では、労働条件を統一的に管理する必要性が出てきます。個人ごとの労働契約を管理することだけでは、効率的な集団的労務管理を実現することはできないからです。

 例えば、ほとんどの就業規則には、人事異動や出向に関する条文があるでしょう。仮に、この条文が存在しないとしたら、会社は従業員を人事異動させることができません。会社は強力な人事権を持っているのが通常でしょうが、個別の労働契約に特別の条項でもない限り会社にその権限は発生しないのです。その権限の根拠は、就業規則の定めによって発生しています。

 また、ほとんどの就業規則には、時間外労働に関する条文があるでしょう。仮に、この条文が存在しないとしたら、会社は従業員に残業をさせることができません。従業員に残業をさせる場合、36協定が必要なことは誰でも知っています。この36協定を含め多くの労使協定の目的は免罰効果にあります。免罰効果とは、文字通り罰則の適用を免れる効果を発揮するものです。そのため、36協定は各従業員に対して時間外労働を命じる根拠にはならないのです。時間外労働を命じる権限は、就業規則の定めによって発生しています。

 上記のように、就業規則のおかげで個別の労働契約で定めずとも効率的な会社運営ができることになます。就業規則の重要性をきちんと認識しなければなりません

 

同一労働同一賃金と就業規則

Q.同一労働同一賃金について、就業規則の注意点はありますか

A.「不合理な労働条件」とならないようにする必要があります

 企業によって様々だとは思いますが、契約社員就業規則やパートタイマー就業規則などの名称をよくみかけます。いわゆる正社員とは異なる働き方の雇用グループですので、正社員とは別の就業規則が必要になることは容易に想像できます。

 契約社員等の就業規則を作成する場合には、パート有期雇用労働法を念頭に置く必要があるでしょう。第8条には「基本給、賞与その他の待遇のそれぞれについて、(中略)不合理と認められる相違を設けてはならない」と記述されています。これは、正社員と契約社員等の間に処遇の格差があったとしてもバランスが必要だという考え方です。正社員と異なる雇用区分で処遇水準に格差が存在するのはよくあることです。その場合でも、不合理といえるレベルでなければ許容されることになります。いわゆる同一労働同一賃金に関する規定の一部です。

 就業規則は、労働時間や賃金についてのルールを規定しています。正社員と契約社員等で別々の就業規則が適用され、ある程度の処遇格差が許容されるとしてもバランスが必要になるわけです。例えば、慶弔休暇や特別休暇、休職、諸手当などについて、明確な理由もなく処遇格差が存在すれば不合理とされます。裁判例では、会社が敗訴しているものがたくさんあるので要注意です。また、契約社員等から処遇格差について説明を求められた場合、会社には説明する義務もありますので、説明できる範囲内の処遇格差である必要があります

 

非正規従業員の就業規則

Q.パート社員専用の就業規則は必要でしょうか

A.正社員の就業規則を適用しないのであれば必要です。

 就業規則で一番重要なものは、「適用範囲」といっても過言ではないでしょう。適用範囲が明確になっていない就業規則は、正社員だけでなくパート社員を含む全ての従業員に適用される可能性があります。例えば、退職金規程がパート社員に適用されたら、困る会社がたくさんあることでしょう。労働条件を定めていれば、その他の規程も就業規則の一部となります。

 正社員の就業規則をパート社員にも適用するなら別々の就業規則は必要ありません。しかし、パート社員が正社員と完全に同じということは、あまりないのではないでしょうか。例えば、一つの賃金規程が両者に適用されることになれば、パート社員に対しても正社員と同じように諸手当を支給することになります。こう考えると、パート社員には正社員とは別の就業規則を設ける必要性が高そうです。

 また、労働契約法の定めにより無期転換したパート社員の問題もあります。「期間の定めのある者」に適用すると書いてあるパート就業規則をよく見かけます。パート社員専用の就業規則であっても、このような適用範囲を定めていると、無期転換したパート社員には適用できなくなりますので、部分的な改定が必要となるでしょう

 

就業規則の構成

Q.就業規則の構成で注意することはありますか?

A.見出しをつけ、条項号の3階層が分かりやすいと思います。

 法律上の問題ではありませんが、従業員にとって分かりやすい就業規則とするためには、構成についても気にする必要があるでしょう。

 まず、見出しはあった方が良いと思います。一条ずつ見出しがあれば、読みたい条文だけをピンポイントで探すことができます。例えば、「第2条(適用範囲)」のようにカッコ付きにすると見やすいでしょう。その際、見出しは条文番号の後ろに設けた方が良いと思います。労働基準法は、条文番号よりも先にカッコ付きの見出しが出てきます。縦書きなので構わないのかもしれませんが、条文番号は通し番号ですので、数字が最初にあった方が見やすいように思います。

 次に、条文は「条・項・号」の3階層が分かりやすいと思います。労働基準法では、4階層になる場合には、「イ・ロ・ハ」を用いています。3階層までであれば、何とか読みこなせるとしても、4階層だと改行と文章量が多くなり読みにくくなるのではないでしょうか。4階層目を設けたくなった場合には、次の条文番号を採番した方が、従業員にとって分かりやすい就業規則になると思います。

 また、一つの条文の中にたくさんの「項」を設けている例を見かけることがあります。一般的に「項」には見出しが付いていませんし、この場合にも文章量が多くなり読みにくくなるので、次の条文番号を採番した方が良いかもしれません。なお、条文の数が多くなった場合には、「章」や「節」を設けてもよいと思いますが、少ない条文数の場合には無理をして章立てにする必要はないでしょう。いずれにしても、 従業員にとって分かりやすいことが重要です。

 

届出が必要な就業規則の範囲

Q.届出が必要な就業規則に、旅費規程は含まれるのでしょうか?

A.”相対的必要記載事項”に該当し、届出る就業規則に含まれます。

 会社の設立当初であれば1つの就業規則で足りるかもしれませんが、組織が大きくなるに伴って別規程として細分化されるのは一般的なことでしょう。賃金規程がよい例だと思いますが、多くの会社に様々な就業規則体系が存在するのをみかけます。

 就業規則には、必ず定めなければならない“絶対的必要記載事項”と、定める場合には記載しなければならない“相対的必要記載事項”があります。旅費は“絶対的必要記載事項”として列挙されていませんので、ここで問題となるのは、旅費規程が“相対的必要記載事項”に当たるか否かです。

 労働基準法89条第10号は、“絶対的必要記載事項”のほか「当該事業場の労働者のすべてに適用される定めをする場合」について、就業規則を作成し届出ることを求めています。これがいわゆる“相対的必要記載事項”のことです。旅費規程は、労働者のすべてに適用される日当の金額や交通費の支給基準を定めているのが通常でしょうから、“相対的必要記載事項”に該当することになります。

 なお、旅費に関する定めについて、通達(昭25.1.20基収3751号、平11.3.31基発168号)では次のように記述されています。「旅費に関する事項は、就業規則の強制的記載事項ではないから、就業規則中に旅費に関する定めをしなくても差支えないが、旅費に関する一般的規定をつくる場合には 〜就業規則の中に規定しなければならない」

 

就業規則の記載事項

Q.就業規則には、何を書けばよいのでしょうか?

A.就業規則には、必ず記載しなければならない絶対的必要記載事項があります

 常時10人以上の従業員を使用する会社は、下記に関する事項について就業規則を作成し、所轄労働基準監督署へ届け出なければなりません(労基法89条)。これは、作成した場合だけでなく変更したときも同様です。下記①〜③の項目は、絶対的必要記載事項とされ必ず就業規則に記載しなければならないものです。④〜⑪の項目は相対的必要記載事項とされ、ルールを決めた場合には就業規則に記載することになります。

 なお、就業規則の作成・変更については、事業場ごとに過半数を代表する労働組合または従業員に意見を聴く必要があります。この従業員の代表者等が、会社からの一方的な指名などにより選任されていた場合には、実質的に過半数の従業員の信任を得ていないことになってしまうので注意が必要です

(絶対的必要記載事項)

始業及び終業の時刻、休憩時間、休日、休暇並びに労働者を2組以上に分けて交替に就業させる場合においては就業時転換に関する事項
賃金(臨時の賃金等を除く。以下この号において同じ。)の決定、計算及び支払の方法、賃金の締切り及び支払の時期並びに昇給に関する事項
退職に関する事項(解雇の事由を含む。)

(相対的必要記載事項)

退職手当の定めをする場合においては、適用される労働者の範囲、退職手当の決定、計算及び支払の方法並びに退職手当の支払の時期に関する事項
臨時の賃金等(退職手当を除く。)及び最低賃金額の定めをする場合においては、これに関する事項
労働者に食費、作業用品その他の負担をさせる定めをする場合においては、これに関する事項
安全及び衛生に関する定めをする場合においては、これに関する事項
職業訓練に関する定めをする場合においては、これに関する事項
災害補償及び業務外の傷病扶助に関する定めをする場合においては、これに関する事項
表彰及び制裁の定めをする場合においては、その種類及び程度に関する事項
前各号に掲げるもののほか、当該事業場の労働者のすべてに適用される定めをする場合においては、これに関する事項

届出のない就業規則

Q.労基署に届け出ていない就業規則は有効ですか?

A.何らかの方法で労働者に周知されていれば、効力が発生します

 どこの会社でも、ときどき就業規則を改定することがあるでしょう。ご存知のように、「常時10人以上の労働者を使用する使用者」は、就業規則を改定する場合、事業場毎の過半数を代表する労働者の意見を聞かなければなりません。労働組合があればあまり問題にはなりませんが、そうでない場合には労働者代表の選出に注意をはらう必要があります。会社からの一方的な指名等ではなく、選挙等の民主的な手法によることが求められているのです。なお、労働者代表からの意見聴取をしていなくとも就業規則自体の効力に影響はありません。その場合には、意見聴取義務違反として労働基準法の罰則が適用されることになります。

 労働者代表の意見書の取得など準備が整えば、事業場を管轄する労働基準監督署長に「遅滞なく」届け出なければなりません。この「遅滞なく」とは、具体的な期限を指定しているわけではありませんが、なるべく早く届け出た方がよいでしょう。なお、労働基準監督署長に届け出が遅れたり、届け出ていなかったりしても就業規則自体の効力に影響はありません。その場合には、届出義務違反として労働基準法の罰則が適用されることになります。

 そうすると、就業規則の効力が発生するのは、どの時点なのか、という疑問に至ります。この点につき、最高裁は次のように述べています。「就業規則が法的規範としての性質を有するものとして、拘束力を生ずるためには、その内容を適用を受ける事業場の労働者に周知させる手続きが採られていることを要するものというべきである」(平15・10・10最高裁 フジ興産事件)

 以上のように、何らかの方法で労働者に周知されたときに、就業規則は効力を発生することになります

 

就業規則と労使協定の周知義務

Q.就業規則は、個別に配布する必要がありますか?

A.労使協定を含め、いつでも従業員が閲覧できる方法を取る必要があります

 労働基準法第106条第1項には、「就業規則、〜協定〜を、常時各作業場の見やすい場所へ掲示し、又は備え付けること、書面を交付することその他の厚生労働省令で定める方法によつて、労働者に周知させなければならない。」と書かれています。

 従業員に周知ができていれば問題はないので、就業規則を印刷して個別に配布する義務を会社が負っているわけではありません。最近は、IT環境が整備され職場にパソコンが配備されているのが通常でしょう。社内のイントラネットの掲示板等に就業規則を掲載し、いつでも従業員が閲覧できる体制を取っているのであれば、この義務を果たしたことになります。

 ここで注意すべきは、就業規則だけではなく労使協定が含まれている点です。36協定をはじめとする各種労使協定は、就業規則と同様に周知する義務が会社にあります。イントラネット等に就業規則を掲載していても、労使協定を掲載していないことは、法律の義務を履行できていないことになります。労使協定の周知義務違反により、労働基準監督署の是正勧告を受けるケースもありますので注意が必要でしょう

 

規定と規程の違い

Q.給与規定の場合、「規定と規程」どちらが正しいのでしょうか?

A.正しくは、「給与規程」とするべきでしょう

 就業規則には、いろいろな規程が付属するのが一般的でしょう。平成10年の労働基準法改正までは一部の規則に制限されていましたが、現在では委任規定を設けなくとも自由に別規則化することができるようになりました。規程の名称はさまざまですが、“○○規定”という名称の“規程”を見かけることがあります。この規定と規程の違いについて疑問を持つ方も多いようです。

 歴代の内閣法制局長官が執筆者として名を連ねる『法令用語辞典』*では、次のように書かれています。“規定”は、「1個の法令における個々の条項の定をいう」とされる一方、“規程” は、「一定の目的のために定められた一連の条項の総体を一団の定として呼ぶときに用いる」とされています。つまり、“規定”が指すのは細かな個別の条文であり、“規程”はより大きな条文がまとまったものを指しています。例えば、「第○条の規定」は個別の条文であり、「●●規程」は規則の名称として用いることになります。

 法律で使用方法が強制されているものではありませんが、できればこの用法に従い根拠を明確にする方が使いやすいのではないでしょうか。 

 *佐藤達夫編[1950]『法令用語辞典』学陽書房(初版)

 

従業員代表者の意見書と同意

Q.従業員代表者が反対意見を表明した場合、就業規則の効力はどうなりますか

A.意見を聞くことが重要であり同意までは求められませんので、効力に影響はありません

 会社が、就業規則を作成・変更する場合には、以下のような手続きをふむことになります。

就業規則の作成
従業員の過半数を組織する労働組合または従業員の過半数を代表する者からの意見聴取
所轄労働基準監督署への届け出
従業員への周知

 ご質問はこの内、②「労働組合等の意見聴取」に関するものですが、ここで求められているのは、あくまでも“意見を聴く”ことであって、 “同意の取得”ではありません。例えば、労働組合や従業員代表者が就業規則の改定に反対なのであれば、反対意見を記述した意見書を就業規則に添付して労働基準監督署へ届け出れば受理されます。

 なお、労働組合や従業員代表者が意見書を提出しないことがあり得るかもしれません。その場合には、意見を聴いたことが分かる書類(依頼状やメールの控え等)を添付すれば、労働基準監督署は就業規則の届け出を受理することになっています。ちなみに、就業規則の受理について通達では次のように記述されています。「労働組合が故意に意見を表明しない場合 〜意見を聴いたことが客観的に証明できる限り、これを受理するよう取扱われたい。」(昭23.10.30基発1575号)

 以上のように手続きに関しては問題ありません。しかし、反対意見がありながら就業規則を変更することは、望ましいことではないでしょう。やはり、時間をかけて丁寧な説明をすることが王道だと思われます。

 

就業規則の不利益変更

Q.就業規則の不利益変更は可能でしょうか?

A.原則は禁止、例外として可能になることがあります。

 労働契約法第9条は「使用者は、労働者と合意することなく、就業規則を変更することにより、労働者の不利益に労働契約の内容である労働条件を変更することはできない。ただし、次条の場合は、この限りでない。」として原則禁止を定め、その例外を規定しています。次条である第10条は「労働者の受ける不利益の程度、労働条件の変更の必要性、変更後の就業規則の内容の相当性、労働組合等との交渉の状況その他の就業規則の変更に係る事情に照らして合理的なものであるとき」は、変更後の就業規則が有効だと定めています。

 そうすると、様々な事情から変更後の就業規則が合理的なものであるか否かが問題になります。ここが難しいところです。何をもって合理的とされるのか、大きなグレーゾーンが広がっているといえるでしょう。最終的には、裁判で決することになるわけです。そのため、就業規則の不利益変更は会社にとってリスクになるので避けた方が賢明です。しかし、どうしても実行しなければならないと会社が考えるのであれば、不利益の程度をなるべく緩和し従業員に丁寧な説明をする必要があるでしょう。

 例えば、家族手当を減額・廃止するのであれば、減額分を基本給へ統合したり調整給を支給したり、調整期間をなるべく長くとったり繰り返し従業員に説明することなどで、合理性が高まっていくと考えられます。相当の時間をかける心構えが必要になるでしょう。なお、過半数労働組合がある場合には、合意した労働協約を締結することが重要な意味を持つことになります。組合員であれば、その労働協約に拘束されることになるからです

 

就業規則の効力順位

Q.「家族手当が、就業規則は2万円、労働契約は1万円」の場合、どちらが有効になりますか?

A.就業規則が優先して効力を発揮します。

 労働契約法第12条には、「就業規則で定める基準に達しない労働条件を定める労働契約は、その部分については、無効とする。この場合において、無効となった部分は、就業規則で定める基準による」とあります。このケースでは、1万円と定めた労働契約は無効になり、就業規則で定める2万円の家族手当が支給されなければなりません。つまり、就業規則の効力は労働契約に優先するわけです。

 この件と労働基準法第92条を合わせると次の構図が浮かび上がります。最も効力が強いのは、当然のことながら法令であり、次に優先されるのが労働協約、その次が就業規則であり、この中で最下位に位置するのが労働契約になります。

【 法令 > 労働協約 > 就業規則 > 労働契約 】

  一方、労働契約法第7条は、「労働契約の内容は、その就業規則で定める労働条件によるものとする。ただし、労働契約において、労働者及び使用者が就業規則の内容と異なる労働条件を合意していた部分については、第十二条に該当する場合を除き、この限りでない」と例外を規定しています。設問の例を反対にして考えると、「家族手当が、就業規則は1万円、労働契約は2万円」の場合には、就業規則ではなく労働契約の内容である2万円の家族手当が支給されなければなりません。つまり、個別に有利な合意があった場合には、労働契約が就業規則に優先することがあるわけです。

 

合併による就業規則

Q.会社が合併すると、消滅会社の就業規則はどうなりますか?

A.消滅会社の就業規則は、引き継がれることになります

 合併には、吸収合併と新設合併がありますが、2つの企業、「A社」と「B社」の場合で想定してみましょう。吸収合併の場合、A社がB社を文字通り吸収するのであれば、吸収されたB社は消滅します。新設合併の場合には、新しい会社が設立され、従前から存在するA社とB社は両方とも消滅することになります。

 会社法750条1項は、「吸収合併存続株式会社は、効力発生日に、吸収合併消滅会社の権利義務を承継する。」とし、同754条1項は、「新設合併設立株式会社は、その成立の日に、新設合併消滅会社の権利義務を承継する。」としています。つまり、吸収合併、新設合併いずれであっても、権利義務が承継されますので、就業規則は当然に引き継がれることになります。

 そうなると新会社では、旧A社と旧B社で異なる水準の就業規則が、並存する場合がでてきます。しかし、就業規則は事業場毎に作成されるので、事業場に変更がない限りは、そのままの状態で存続します。ただし、一つの会社で2つの水準の就業規則が、並存することは様々な問題を引き起こすことになるでしょう。そのため、A社とB社で合同の“合併に関する委員会等”が組織され、合併後に使用する統一された就業規則を準備することが一般的だと思われます

 

親と子の就業規則

Q.親会社の就業規則を子会社で使用するのは問題でしょうか

A.子会社の視点で作った方がベターでしょう

 子会社が設立される場合、最初はほとんどの従業員が親会社の出向社員で構成されることがあります。その後、子会社が成長していく過程では、出向社員が少しずつ帰任し、いわゆる “プロパー社員”が増える局面を迎えるでしょう。出向社員がたくさんいる間は、親会社の就業規則をそのまま子会社で用いることに違和感はありませんし、運用しやすいだろうと思います。しかし、その後問題となるケースが出てきます。

 例えば、休職の場合です。長期間の休職を認める大企業の就業規則をよく見かけます。しかし、収益力の発展段階である子会社にとっては、重荷になってしまうことがあります。特に最近では、メンタルヘルス等で休職をする従業員が増えていますので、自社の体力に見合った休職期間を設定することも必要でしょう。また、所定労働時間は1日7時間、年次有給休暇は入社日に10日を付与する大企業もあります。親会社には労働組合があり、長年の労使交渉の積み重ねによって獲得された就業条件であるため、世間相場を上回っていることもあります。グループ企業とはいえ、親会社と子会社は別々の法人格を持つ異なる企業ですから、自社にフィットする就業規則を使用するべきでしょう。

 なお、いったん就業規則を作成すれば、就業条件を引き下げることは不利益変更とされ簡単に実施はできません。つまり、最初が肝心だといえるでしょう

 

就業規則の一括届出

Q.本社で一括して就業規則変更届を提出することはできますか

A.要件を満たせば、本社で一括して届け出ることができます。

 労働基準法は、事業場を単位として適用されており、就業規則の届け出も事業場ごとに実施しなければなりません。ただし、下記要件を満たせば本社を管轄する労働基準監督署長に他の支店や工場等を含めて、本社が一括して就業規則変更届を提出することが認められています。これは、労働基準監督署間の回送システムだと考えれば分かりやすいでしょう。

 就業規則の本社一括届の要件として、以下5つのことが求められます。

本社と各事業場の就業規則の内容が同一であること
本社を含む事業場の数に対応した必要部数を提出すること
各事業場の名称、所在地、所轄労働基準監督署長名を記載した事業場一覧表を添付すること
事業場一覧表に「本社の就業規則と同一内容である」旨、「変更前の就業規則の内容は本社の就業規則と同一内容である」旨を明記すること
労働者代表の意見書は、事業場ごとに作成し添付すること

 なお、各事業場の労働者の過半数が単一組織の労働組合に加入している場合であって、各事業場の過半数労働組合の意見が同意見である場合は、労働組合本部の意見書に「全事業場の過半数労働組合とも同意見である」旨を記載することで、「⑤事業場ごとの労働者代表の意見書」に代えて、労働組合本部の意見書の写しを添付することができます

 

グループ経営の就業規則

Q.グループ経営強化のため、就業規則を統一することに問題はありますか?

A.“不利益変更”と“コストアップ”に注意が必要です

 複数の企業が一つのグループを形成し、機動的な人員配置や効率的な人事政策を実現するために、就業規則を統一するケースがあり得ます。複数の企業間の就業条件を統一するわけですから、合併に準じたスタンスが必要になるでしょう。ここで問題となるのは、“不利益変更”と“コストアップ”だと思われます。

 よくいわれるのは、就業規則の不利益変更の問題です。就業規則について労働契約法第9条は、労使の合意なく従業員の不利益に変更できない旨を定めています。そして、同第10条ではその例外を定めていますが、不利益変更は相当にハードルの高い問題です。反対に、従業員の利益になる変更であれば、もちろん労働契約法の問題はありませんが、コストアップの可能性がありますので、これも簡単な話ではありません。

 このような場合、賃金表を除いて統一する方向性が考えられます。“不利益変更”と“コストアップ”をクリアするための現実的な選択だろうと思われます。ただし、この場合であっても問題になることがあります。例えば、休職について子会社が親会社の水準に合わせた結果、体力の強くない子会社にとっては、重荷になってしまうことがあります。特に最近では、メンタルヘルス等で休職をする従業員が増えていますので、賃金表だけでなく休職等についても、よく吟味する必要があるでしょう。

 なお、グループ企業をあたかも一つの企業として一体運用した場合には、稀なケースではありますが“法人格否認の法理”といわれる考え方が適用される場合があります。例えば、親会社が子会社の人事政策の決定に過度に関与し、子会社の法人格が形骸化していた場合には、親会社が使用者に当たるとして、子会社の労働組合から労使交渉を挑まれるケースも考えられますので注意が必要です

 

就業規則の適用単位

Q.本社と少し離れたビルに営業所があります。就業規則は、別々に作成・届出するのでしょうか

A.別々に作成・届出るのが原則ですが、例外もあります

 就業規則は、一つの会社であっても本社や事業場毎に作成して届出る必要があります。これは、労働基準法が“事業”を単位として適用されるためです。ただし、一つの場所に所在していても別々の事業とした方がより適切に法律を運用できる場合や、事業の規模が著しく小さい場合には例外も認められています。

 これらの点について厚生労働省の通達(平11.3.31基発168号)では、「一の事業であるか否かは主として場所的観念によって決定すべきもので、同一場所にあるものは原則として分割することなく一個の事業とし、場所的に分散しているものは原則として別個の事業とする」と、まず原則を示しています。

 次に、その例外として「同一場所にあっても、著しく労働の態様を異にする部門が存する場合に、〜主たる部門と切り離して適用を定めることによって労働基準法がより適切に運用できる場合には、その部門を一の独立の事業とする」と記述し、「工場内の診療所、食堂」を例示しています。

 また、「場所的に分散しているものであっても、〜規模が著しく小さく、〜事務能力等を勘案して一の事業という程度の独立性がないものについては、直近上位の機構と一括して一の事業として取り扱う」として、「新聞社の通信部」を例示しています。

 御社の営業所がこの例外に該当し、事業場としての独立性がないのであれば、本社と一括して一つの事業場として扱われる可能性がありますので、“所轄の”労働基準監督署に確認するとよいでしょう

 

本社と工場の就業規則

Q.本社と工場で同じ就業規則は問題ですか?

A.もし、年間所定労働時間が異なれば問題が出てきます。

 本社と工場の始業・終業時刻が異なることはよくあることでしょう。しかし、だからといって就業規則を2種類用意する会社はあまりないと思います。一つの会社に複数の就業規則が存在したのでは、労務管理が複雑になってしまいますし転勤があった都度、大変そうです。その場合には、一つの就業規則に全ての事業場に関する始業・終業時刻の一覧表を記載することで、共通の就業規則とするのが通常でしょう。ただし、事業場間で所定労働時間が異なる場合には、就業規則の一部である給与規程で問題が生じます。

 例えば、本社の所定労働時間が7時間、工場は7時間15分だったとします。両事業場で共通の給与規程(=賃金表)を使用した場合、基本給の金額が同じに見えても時間当たりの単価は異なります。そして、残業単価や欠勤時の日割計算をする場合の計算式も異なるものになります。このような場合には、出勤日数を調整し年間所定労働時間を合わせることで対応するのが通常でしょう。また、手当によって年間所定労働時間の格差を補う方法も考えられます。所定労働時間が異なる会社間を異動する出向の場合にはよくみられるケースです。

 上記のように各事業場で就労条件が異なる場合でも、なるべく一つの就業規則にまとめることが効率的な労務管理につながると思います