労働法入門 新版

 「フランスの皇帝ナポレオン・ボナパルトには、甥がいた。」 

 この本の2ページ目です。けっしてフランスの歴史本ではありません。労働法にとっては、ナポレオンに甥がいようといまいと関係ない話ですが、後にナポレオン三世となるこの甥は、当時の労働者の現状を分析した書籍を執筆していたそうです。このような歴史上の人物を登場させながら、労働法が成立していく背景が解説されています。一方、はしがきには働くよりも趣味に生きる「末広さん」が登場します。仕事の都合で休暇の予定を変更するよう上司から言われ、悩むシーンが出てきます。もし「末広さん」がフランスで働いていたならば、そんな問題は起こらないそうです。このような例を通して日本の労働法の特色を解説してくれます。

 ただわかりやすく労働法をなぞっただけでは、読者に興味を持ってもらえないので工夫をしたそうです。もちろん興味をひくだけでなく、体系的に労働法がわかりやすく解説されています。そして、最後の部分では「国家」と「個人」と「集団」の組み合わせを論じ、これからの労働法改革の方向性が示されています。明確に書かれてはいませんが、従来の労働組合とは異なる“労使協議制の法制化”を提言しています。

 “労働法入門”というタイトルの本はたくさんありますが、手始めの1冊として万人にお薦めできる本だといえるかもしれません

著    者:水町勇一郎

出 版 社:岩波書店

発 売 日:2019年6月

カテゴリー:新書(労働法)