M&Aと雇用契約

Q.M&Aの際、雇用契約の承継はどうなるのでしょうか

A.合併は当然に承継、会社分割は分割計画書に従い、事業譲渡は従業員の同意が必要になります。

 M&A(合併と買収)には様々な形態がありますが、雇用契約の承継という点では、合併、会社分割および事業譲渡の3つの類型を考えることになるでしょう。ちなみに、「事業の譲渡」は会社法が平成17年に成立したことによって、旧商法の「営業の譲渡」から用語が整理されたものであり、概ね同様の意味と解して問題ありません。

 合併には、吸収合併と新設合併がありますが、どちらの場合であっても雇用契約は当然に引き継がれます。合併後の会社は、合併前の会社の権利義務関係を包括的に承継しますので、従業員の同意は必要ありません。

 会社分割の場合にも、吸収分割と新設分割がありますが、どちらの場合であっても、分割計画書に記載された権利義務関係は包括的に承継されることになります。「承継される事業に主として従事する」従業員が、この分割計画書の対象とされることで雇用契約は承継され、従業員の同意は必要ありません。ただし、「承継される事業に“従”として従事する」従業員が対象となっている場合、または「承継される事業に“主”として従事する」従業員が対象となっていない場合は、異議を申し出ることができます。

 最後に、事業譲渡の場合には、合併時の「包括承継」とは異なり、個別に承継されます。譲渡する会社と譲り受ける会社の合意により移転される権利義務関係が特定されますので、「特定承継」と呼ばれています。両者の合意により、特定承継の範囲に雇用契約が含まれた従業員は、自己の意思により譲渡する会社に残るか、譲り受ける会社に移動するかを選ぶことが基本になります。人事担当者からみれば従業員本人の個別の同意を得ない限りは、転籍させることはできないということです