労働時間の経済分析 〜超高齢社会の働き方を展望する

 日本人は、働きすぎなのか?

 「そもそも「働きすぎ」という言葉は感覚的なもの」だと著者は説明します。感覚的なものである以上、実態を確認しなければなりません。そこで、様々な統計分析から解説をしてくれるのが、この書籍のお役目ということになります。本書では、各章の最初で「分析の結果」を端的にまとめています。以下、特に気になった部分です。

 第1章:「分析の結果、1980年代末以降、1人当たりの平均労働時間は趨勢的に減少しているが、その要因はパートタイム雇用者比率の上昇と時短政策に伴う週休二日制の普及である」、「さらに、1990年代後半から2000年代初めには、壮年男性正規雇用者を中心に不況期に労働時間が増加するという特異な現象が観察される」

 第3章:「分析の結果、1990年代から2000年代にかけての日本では、日中に働く人の割合が低下する一方で、深夜や早朝の時間帯に働く人の割合が趨勢的に増加しており、この傾向が特に非正規雇用者に顕著に観察される」

 第6章:「分析の結果、〜欧州に赴任した日本人の労働時間は、現地の同僚の働き方から影響を受け、有意に減少していた」

 第8章:ワーク・ライフ・バランス施策について、「分析の結果、どのような企業でも施策の導入によって生産性が上昇するわけではなく、逆に、中小企業などでは、施策の導入によって生産性が低下してしまうケースがある」

 第10章:「分析の結果、長時間労働、とりわけサービス残業という金銭対価のない労働時間が長くなると、労働者のメンタルヘルスが悪化する危険性が高くなる」

 この書籍は、データから数量的に論証していきますので説得性が高いのですが、統計分析を多用しているため、多少難解です。そうであっても、感覚的に日本人の働き方を捉えていた人事担当者にとっては、多くのことを学ばせてくれるでしょう。「第57回 日経・経済図書文化賞」を受賞していることもあり、日本人の働き方を考えるためには、おさえておくべき書籍といえそうです。 

著    者:山本 勲、黒田 祥子

出 版 社:日本経済新聞出版社

発 売 日:2014年4月

カテゴリー:学術書(労働経済)