なぜ日本企業は強みを捨てるのか

 「この本は、企業の役員会への従業員代表の参加を提言する。」、そして「なんとか長期の競争の重要性を強調したい。それが、この本の志である。」

 これは、はしがきの文章です。著者のメッセージだと思います。

 労働経済界の重鎮である著者が、“長期の競争”に着目してきたことは、広く知られるところでしょう。“グローバル化”が合言葉のようにいわれる中、短期的な国際競争に生き残るため“日本企業の強み“を捨てる方向に走っているのではないか?という著者の問題意識が、この書籍につながっているようです。

 一方、上場企業ではガバナンス確保のため社外取締役が注目の的になっています。某経済新聞によると人材不足とのことです。いくら見識の高い人材とはいっても、通常、社外取締役は非常勤です。そうであれば、情報収集について会社の中で仕事をする人に勝ることは難しいかもしれません。そこで、従業員代表の登場となります。例えば、労使協定の締結等のため事業場の過半数を代表する従業員は、社外取締役とは異なり会社から指名されるわけではありません。そして、自分や家族の生活を支えるためには、短期だけでなく長期にわたって会社に繁栄してもらわねばなりません。長期におよぶ経営を監督するという点では、適している存在だと言えるでしょう。また、EUでは従業員代表が参加する会議体(監査役会と訳されます)が、取締役の任命権を持ち、経営を監督してきたそうです。

 世の中の通念に疑問を呈し、戦い続けてきた著者ならではの書籍といえるでしょう。某経済新聞の紙面に踊るキャッチ・フレーズだけでなく、物事の本質に迫りたい人事屋にとっては、あの”小池節”に接するよい機会になるかもしれません

著    者:小池 和男

出 版 社:日本経済新聞出版社

発 売 日:2015年2月

カテゴリー:経営書(労働経済)