日本の人材育成とキャリア形成 ~日英独の比較

 イギリス、ドイツと比較することで、日本の特徴を明らかにしてくれる書籍です。

 日本は「年功序列」だと言われることがあります。言葉の意味をきちんと捉えれば、すぐにウソだと分かるはずです。学卒の新入社員全員が一度に課長になり、一度に社長になるのであれば「年功序列」ですが、そんな会社はありません。通常の組織は、ピラミッド型の構造をしているので、年功的昇進管理を行うことは不可能です。遅かれ早かれ、昇進選抜が行われることを私たちは知っています。では、「年功序列」の実態とは? 日本は遅い昇進選抜だといわれています。この書籍は、その実態についてデータを基に示してくれます。

 「同一年次の社員間でそれ以上昇進の見込みがなくなるのは入社何年目か」という問いに対して、イギリスとドイツは約6年、日本は約13年だというデータが示されます。これを「キャリアプラトー出現期」というそうです。このデータについて大企業の管理職でみると、イギリスは5.5年、ドイツは6.0年、日本は15.6年となっており、日本が遅い昇進選抜であることを確認することができます。

 また、「ファストトラック」と呼ばれる昇進ルートの存在も比較されています。大企業管理職の選抜について、「入社後早い時期に選抜するためのキャリアルートがあると思いますか」という問いに対して、「入社時点からある」と回答した割合は、イギリスは38.1%、ドイツは33.6%、日本は19.5%だそうです。イギリスとドイツは、いわゆる“キャリア組”の割合が高いことに対して、日本は多くの従業員が参加できる雇用社会であることを窺わせます。

 直接的に国際比較をしている文献は、意外と少ないものです。誤った日本の言説を正してくれる書籍の一つとして、ご紹介させていただきたいと思います。 

著    者:佐藤  厚

出 版 社:中央経済社

発 売 日:2022年11月

カテゴリー:学術書(労働経済学)