能力主義管理研究会オーラルヒストリー ~日本的人事管理の基盤形成

 「ジョブ型」導入を志向する人事担当者に是非読んで欲しい1冊です。

 その昔(1964年)当時の日経連は、「職務分析センター」を設置し、職務給の導入に取り組んでいました。しかし、この取り組みはうまくいかず職能給に舵をきることになります。その時、出版されたのが『能力主義管理 その理論と実践(1969年)』でした。この書籍は当時、日経連に組織された「能力主義管理研究会」のメンバーが分担して執筆したものであり、一世を風靡したそうです。ここに書かれていることは、いまでも十分通用する内容だと思います。

 その後(2010年)に出版されたのが、本書です。オーラルヒストリーとは、文書資料ではなく聞き手の問題意識に従って当事者から証言を取るスタイルのことです。『能力主義管理 その理論と実践』が出版から40年の時を経て、当時の研究会のメンバーに改めてインタビューを実施することで、能力主義管理の実態に迫ろうとしたわけです。この書籍が出版された2010年当時は、成果主義ブームがありました。成果主義もいろいろですが、職務主義(職務給)の導入が志向された時代でしょう。結果として、人事制度の改定で失敗を経験した会社もあるはずです。そういった背景の中で、人事管理を問い直すために出版されたのが本書といえるでしょう。

 そして(2023年)、「ジョブ型」が提唱されています。「ジョブ型」については、本来の用語法とは異なる論説が散見され、多くのケースで職務主義(職務給)の導入を志向しているように聞こえます。そう仮定した場合、過去に大きく失敗した2つの時代(1964年・2010年)と同じ轍を踏む可能性があります。失敗を繰り返さないためには、職務主義(職務給)が定着しなかった理由を踏まえた上で、「ジョブ型」の意味を考える必要があるでしょう。そのための参考資料として、大きな役割を果たしてくれる書籍だと思います。

著    者:八代充史など編、藤田至孝など著

出 版 社:慶応義塾大学出版会

発 売 日:2010年1月

カテゴリー:オーラルヒストリー(人事管理)