雇用契約と労働契約の違い

Q.「雇用契約」と「労働契約」は、異なるものですか?

A.大きな違いはありませんが、適用範囲の点では若干の差があります。

 民法では「雇用契約」、労働基準法からみた場合には「労働契約」と表現されます。民法には雇用契約の定義がありますが、労働基準法に労働契約の定義はありません。ただし、労働者に関する定義はあります。これらの条文を咀嚼し、対比すると次のように表現できるでしょう。 

  民法623条   :「労働に従事する  + 報酬を与える」

  労働基準法9条:「事業に使用される + 賃金を支払われる」  

 民法では、労働を提供し賃金を支払う合意が要件となり、労働基準法では使用従属関係と賃金支払の実態が要件となっている点で異なります。労働基準法は、「事業」という概念が独特なのです。民法では、契約の自由が尊重され、労働基準法では労働者保護のための規制が念頭にあります。労働基準法は、取締法規として事業(会社等)を規制する役目を負っている点で民法とは異なるようです。また、労働基準法116条には、「同居の親族のみを使用する」場合などの適用除外が定められています。民法には、このような規定はありません。適用範囲の点においては、雇用契約と労働契約には相違があるということができます。

 一方、最高裁では、次のように扱われています。三菱樹脂事件(最大判昭48・12・12)では、「解約権留保の特約のある雇傭契約」とされ、大日本印刷事件(最二小判昭54・7・20)では、「解約権を留保した労働契約」と表現されています。従業員としての地位の存在を争う地位確認訴訟では、雇用契約と労働契約の間に違いはないようです