雇用か賃金か 日本の選択

 欧米と日本では、航空会社の選択が違ったようです。

 中国発のパンデミックにより、人の往来が究極のレベルまで制限されました。未だコロナ禍の余韻は残っています。人の流れが止まれば、当然に航空会社は飛行機を飛ばせなくなります。経営危機そのものでしょう。どの国の航空会社も危機を乗り越えるために様々な対応に迫られたはずです。国際比較は、様々な要因が複雑に絡むため困難を伴います。しかし、国境を越えて活動する航空業界が同一の時期に同様の対応を迫られたわけですから、国際比較をしたときのコントラストはつきやすくなるでしょう。著者の優れた視点を感じます。

 まず、ANAグループの事例が出てきます。2020年4月から一時休業から始まり、新卒採用の停止、6月から賞与の大幅カット、10月から出向の拡大や希望退職の募集が決定されます。ただし、退職を強要された従業員はいなかったようです。その点では、賃金よりも雇用を守る意識が高かったと言えそうです。

 欧米からは、サウスウエスト航空、ブリティッシュ・エアウェイズ、ルフトハンザ航空などが登場します。サウスウエスト航空は、日本の会社と似たような労務管理をすると言われていました。創立以来、一度も一時解雇を実施したことがなかった同社でも、最終的には他の欧米企業と同様に一時解雇に至ったようです。つまり、雇用よりも賃金を選択したのが欧米の航空会社とみることもできます。

 「雇用か賃金か」どちらを選択するのが良いか一概にいえるものではありませんが、国や企業によって異なる対応には興味深いものがあります。政労使の間に存在する労使関係について、学び直したい人事担当者にとっては、改めて勉強することができる書籍といえそうです。

著    者:首藤 若菜

出 版 社:筑摩書房

発 売 日:2022年10月

カテゴリー:学術書(雇用システム)