日本のキャリア形成と労使関係 ~調査の労働経済学

 「本書は、現在の人事制度改革を検討しつつ、将来の制度改革の展望に向けて書かれた研究書である。」

 これは、序章に出てくる宣言です(P43)。著者は、成果主義ブームや最近の人事制度改革の論調を正すべく、基本から確認してくれます。

 例えば、年功序列はウソ。それがわかります。日本には、もともと年功序列などは存在せず「遅い選抜方式」が存在しました。きちんと労働経済学を勉強した人事屋なら知っていることです。過去、キャリアツリー法などによって昇格・昇進を分析した研究はたくさんあり、その代表的な研究結果が一覧表にまとめられています(P32)。

 また、生産労働者の仕事を分析するためには、仕事表(スキルマップ)が重要です。仕事表とは、その職場にどのような仕事が存在し、各従業員がどの程度その仕事を修得したかが分かる一覧表です。これがなければ、仕事の分析は困難になるでしょう。通常、社外には出ないものだと思いますが、この書籍には貴重な仕事表のサンプルが載っています(P59・60)。

 そして、「メンタル不調者の職場復帰の事例」は参考になります。上司が復職者を観察する際に、「論理的な思考による発言」、「他者との連携ができること」、「アウトプットが仕事として評価できること」の3点に注意して、より難しい仕事への移行の判断材料としていた場合には、職場復帰がうまくいっているという事例が出てきます(P174)。

 本書は、労働政策研究・研修機構の第45回 (令和4年度)労働関係図書優秀賞を受賞しており、高い評価を受けている書籍です。改めて、労働経済学の知見を整理したい人事屋の皆さんにお薦めしたいと思いま

著    者:梅崎  修

出 版 社:慶応義塾大学出版会

発 売 日:2021年12月

カテゴリー:学術書(労働経済学)