日経連の賃金政策 ~定期昇給の系譜

 「賃上げ」とは、何かが理解できます。

 かつて「財界労務部」と呼ばれた日経連(日本経営者団体連盟)の足跡をたどることで、定期昇給の果たした役割を理解することができます。日経連は、2002年に経済団体連合会と統合し、経団連(日本経済団体連合会)として現在に至っています。

 戦後、労働組合の過激なベース・アップの要求により賃金上昇圧力を抑えきれず、企業の経営権が脅かされる時代がありました。そこで、日経連は経営者が経営権を奪還するために、定期昇給による賃上げを提起します。その都度、労働組合に要求されるベース・アップよりも、制度的な定期昇給による賃上げの方が低額で済むと考えたわけです。

 日経連は、「定期昇給は内転原資により賄われるため、企業の財務的追加負担はほとんどない」と考えていたそうです。これは、階段のようなものと言ってもよいでしょう。階段の各段(20歳~60歳の約40段)に1人ずつ、従業員が立っているとします。一番下の段に20歳の新入社員が乗るのと同時に60歳の定年退職者は一番上の段から降りることを繰り返します。毎年、1段上がることで各自の賃金は上昇しますが、この人員構成が維持される限り常に40人分の賃金が発生するので、人件費全体はあまり変動しないことになります。

 もう一つ、日経連が定期昇給を提起したのには大きな理由があるそうです。「1950年代から60年代における日経連の最大の関心は、定期昇給においては考課的昇給の確立であった。経営側が従業員を自らの意志で序列化し、賃金に基づく企業内の秩序を維持することが、賃金決定における労働側からの「経営権の奪還」と意味づけられるものであった。」と記述されています。このような歴史が現在につながっているのですね。賃上げが注目される今だからこそ、その歴史を学ぶのも面白いと思います。

著    者:田中 恒行

出 版 社:晃洋書房

発 売 日:2019年2月

カテゴリー:賃金(学術書)