解雇の金銭解決制度に関する研究

 解雇は、様々な問題を抱えています。

 日本は、解雇の難しい国だといわれますが、実際には“いろいろ”あるようです。違法な解雇が実施され、解決金が支払われずに泣き寝入りする労働者がたくさんいます。一方、会社と労働者の信頼関係が完全に崩壊し復職する意思がなくとも、高額な和解金を手にするためにタテマエとして復職の意思を示す労働者もたくさんいます。もし、解雇の金銭解決制度があれば、このタテマエを省くことで労使ともに時間の浪費をせずに済むかもしれません。様々な状況が存在する中で厚生労働省の審議会では、解雇の金銭解決について議論が繰り返されてきました。法制化の道筋が見えるのかと思いきや、労使双方の反対で消えてしまう。この状況が続いているようにも見えます。

 複雑な状況は、日本特有の問題でもないようです。似ているところとそうでないところなど、それこそ“いろいろ”なようです。それを理解することができるのが、この書籍です。例えば、ドイツでは「勤続年数×月収×0.5」が解雇の金銭解決制度の実務上の目安になっているそうです。ただし、一律ではなく裁判所によって幅もあるようで、一言では表現できない難しい問題です。この書籍の大部分は、日独の比較考察に費やされていますが、仏、英、伊、西、墺、中、台、韓の状況も概説されます。今後、日本の解雇の金銭解決制度を考えるためには、とても有益な書籍といえるでしょう。

 本書は、日本労働法学会の奨励賞や労働問題リサーチセンターの冲永賞を受賞しており、学術的に高い評価を受けています。ただし、読みやすい一般的な書籍とは異なるので、難解な部分があるのは仕方のないことかもしれません。解雇の金銭解決制度は、今後も話題になることが確実視されるテーマですので、一歩先を進みたい熱心な人事担当者にお薦めしたいと思います。

著    者:山本 陽大

出 版 社:労働政策研究・研修機構

発 売 日:2021年12月

カテゴリー:学術書(労働法)