欧州の教育・雇用制度と若者のキャリア形成

 海外の制度を見習えば、日本はよくなる。

 などと言ってはいけません。それを実感させてくれる書籍です。EU諸国の教育システムから就職・昇進への繋がりを理解することができます。そして、EU諸国も悩んでいる状況が伝わってきます。

 新規学卒一括採用が批判される局面が増えている気がします。新規学卒一括採用は、日本が世界に誇れる慣行であり、そのおかげで若年失業率を低く抑えることに大きく貢献しています。しかし、仮にそうであるならば、なぜ、諸外国には新規学卒一括採用が存在しないのか? 答えは簡単です。学生の卒業時期が一定ではないためです。EU諸国では、中等教育の段階から進級や卒業のタイミングが人それぞれであること、教育費が無償で入学しやすいかもしれませんが進級管理が厳密に行われることから卒業できない、または卒業時期がバラバラになるようです。これらをデータに基づき解説してくれます。また、EU諸国の学生は就職する時に仕事経験のある中途採用組と競い合う構図となるため、仕事経験を身に着けようと必死でインターンシップの機会を模索するそうです。

 「同期入社」という言葉の意味合いについても考えさせられました。「日本企業特有の「強い同期意識」は、必ずしも、日本型雇用システムの結果だけでなく、むしろ、同年齢の学生は同時入学することが当たり前という教育制度とも大いに関連している」と書かれています。日本人には意識しづらいことのように思います。雇用社会は、教育システムとシームレスにつながっているので、別々に改革することは難しいようです。

 EU諸国について書かれたものですが、日本と対比して分析もされていますので、日本の採用と昇進管理を学び直すきっかけになるかもしれません。勉強熱心な人事担当者にお勧めしたいと思いま

著    者:藤本 昌代、山内 麻里、野田 文香

出 版 社:白桃書房

発 売 日:2019年11月

カテゴリー:学術書(教育社会学と雇用)