65歳への定年延長

Q.60歳定年を65歳に延長すべきでしょうか?

A.会社の考え方次第ですが、世の中の状況の推移を見守るという考え方もあるでしょう。

 高年法(高年齢者等の雇用の安定等に関する法律)第8条は、「定年は、60歳を下回ることができない」と定めています。つまり、定年は60歳以上となります。また、定年を定める会社では、雇用確保措置を講じる必要があります(同法第9条)。雇用確保措置は、①定年年齢の引上げ、②継続雇用制度の導入、③定年の定めの廃止、の3つのうちいずれかを講じなければなりません。結果として、77.9%の会社が継続雇用制度を導入しています(令和元年「高年齢者の雇用状況」集計結果)。定年年齢を引き上げる会社も19.4%存在しますが、まだまだハードルが高いようです。一方、努力義務とはいいながら、2021年4月1日施行の改正高年法は、65歳から70歳までの雇用確保措置を定めました。

 社会全体として継続雇用制度が定着してきましたので、60歳から65歳への定年延長を検討する必要性が高まっています。その場合には、賃金カーブの角度をねかせること、つまり標準的な昇給率を低下させることになるでしょう。「もし定年を延長するのならば、年功賃金のカーブをもっとゆるやかなものにしなければいけないことは明らか」だと有力な労働経済学者も提唱しています(清家篤『雇用再生』NHK出版)。

 しかし、今すぐに定年を延長し賃金カーブを修正することにはリスクもあります。同業他社に負けない賃金水準を持っている会社は別として、若い世代の賃金を低下させれば採用力が低下してしまいますし、中高年層の賃金を低下させれば働く意欲が低下する可能性は高く、“名ばかり管理職”問題の再燃も心配です。そのような会社の場合には、急いで定年を延長するよりも時間をかけて移行するのもよいのではないでしょうか。いずれ定年を延長するとしても、しばらくは定年後の継続雇用制度を活用しながら、世の中の状況の推移を見守るという考え方もあると思います