企業中心社会を超えて 〜現代日本を<ジェンダー>で読む

 「企業中心社会は緩和されたのか」

 この書籍は、もともと1993年に出版されたものです。それから27年が経過し、これに付論を加えて文庫として再版されました。最初の出版当時は、企業中心社会が問題とされながらも女性という視点が弱く、企業と女性に関する十分な蓄積がなかったようです。そこに彗星のごとく現れたのが、この書籍というわけです。基本文献として位置づけられる重要なものなので再版になったのでしょう。著者は、雇用社会や社会問題などについて、ジェンダーという視点を加えて、データを示しながら的確に解説してくれます。

 このような経緯を知らずに読んでも、普通に読めてしまうのが不思議です。つまり、現在の状況と大きく変わっていないように感じます。過労死、長時間労働などは、企業中心社会がベースにある今日的なテーマです。著者は、本書のあとがき部分にある「なにを明らかにし、どう歩んだか」で、30年近く経過した現在でも「会社主義は依然として強固である」と述べています。

 この書籍は、文庫でありながら学術書です。学術文庫というジャンルになるそうです。文庫は、小さいサイズで扱いやすく価格も購入しやすいレベルなので、広く読まれるものだと思います。一方、学術書は勉強になるけれども分厚くて難しいことが書いてあるのでとっつきにくい、といったイメージでしょうか。両者のエッセンスを享受しているのでしょう。とても勉強になります。人事担当者として、ジェンダーの視点をきちんと持つために、必要な文献といえそう

著    者:大沢 真理

出 版 社:岩波書店

発 売 日:2020年8月

カテゴリー:学術文庫(雇用社会とジェンダー)