なぜ賃金は上がらないのか ~日本経済30年の陥穽

 賃金が上がらない理由の一端が示されます。

 本書の冒頭で、2022年以降、名目賃金は上昇しているのに対して、実質賃金が低下に転じたグラフが示されます。説明するまでもなく、消費者物価が上昇しているからです。ただし、実質賃金の低下傾向は最近始まった現象ではありません。デフレ・円安の時期に関わらず、過去30年に渡っています。著者は、「実質賃金の低下を、2022年以降に生じた出来事として捉えると、原因を見誤る」と指摘しています。つまり、欧米とは異なる構造上の問題です。

 働く人からは「春闘なんて、うちにはまったく関係がない。そもそも定期昇給もありませんから」という声があり、経営者からは「人はほしい。でも、いまの賃金では採れない。かといって、それ以上の賃金を払えば採算が合わない」いう声があると書かれています。「人手が不足していれば、本来、賃金は上がるはずではないだろうか」という素朴な疑問が湧いてきます。

 著者は、「賃金や価格をめぐる交渉や調整が、本来あるべき形で機能してこなかったこと」が問題の背景だと言います。その背景にある「交渉が成立する条件」として、(1)企業内部の問題とならないこと、(2)分配が争点になること、(3)交渉結果が競争条件として広く共有されることの3点が重要だと述べます。労働組合の問題だけではないと書かれていますが、企業内労働組合ではない産業別労働組合の発展が解決の方向性のようにも聞こえてきます。

 賃金が上がらない理由には、いろいろなものがあるのでしょう。このテーマに関する書籍はたくさん出版されていますが、著者は厚生労働省の審議会にも多数登場している注目の研究者ですので、この機会に改めて賃上げに関する見識を高めておくのも良いと思います

書影

著    者:首藤 若菜

出 版 社:講談社

発 売 日:2026年6月

カテゴリー:新書(労使関係)

●本屋さんはコチラ●