ジョブ型雇用社会とは何か 〜正社員体制の矛盾と転機

 とりあえず、読んでみてください。

 いつもながら人事に関する言葉の使い方には辟易することがありますが、さすがに今回のジョブ型ブームは問題です。「ジョブ型」という言葉は、著者である濱口先生が提起したものです。誰もが認める超一流の研究者です。著者は、「メンバーシップ型」と「ジョブ型」雇用を対比させ、日本の雇用システムを見事に説明してきました。しかし、メディアや人事コンサルタントが中途半端な説明を繰り返した結果、現在の似ても似つかぬジョブ型論がはびこることになりました。

 ジョブ型という新しい発想を取り入れた人事制度を導入したいと考える会社があります。もちろん、会社の自由です。導入にはいくつかのハードルがありますが、やはり第一には会社が人事権を放棄できるか否かにかかっているでしょう。ジョブ型は、労働契約のまん中にジョブがありますので、会社の一方的な都合でジョブを変更することはできません。この点において、人事異動を当たり前のこととして受け入れるメンバーシップ型とは異なります。メンバーシップ型は、労働契約のまん中にジョブではなく、「会社のメンバーになること」を据えているため、ジョブの変更に対応することができるのです。

 また、新しいという部分について、著者は「ジョブ型は全然新しくありません。むしろ、産業革命以来、先進産業社会における企業組織の基本構造は一貫してジョブ型だったのですから、戦後日本で拡大したメンバーシップ型の方がずっと新しいのです。」と記述しています。

 メディアの中途半端な論説にのせられないようにするためにも、この機会に本家本元の解説を確認し、改めて日本の雇用システムや自社の人事制度を考えるきっかけにしていただければ幸いで

著    者:濱口 桂一郎

出 版 社:岩波書店

発 売 日:2021年9月

カテゴリー:新書(雇用システム)