教養としての「労働法」入門

 読み物としても面白いと思います。

 例えば、こんな話が載っています。職業紹介は、江戸時代に広まったそうです。事業として普及した背景には、参勤交代がありました。「参勤交代では多くの人員を必要とするため、参勤交代の最中は臨時的に人員を増やす必要」があったようです。いわゆるマッチングビジネスである現在の職業紹介は、労働者派遣事業が代表的な存在ですが、参勤交代と職業紹介を結び付けて語ることができるのは、まさに教養といってよいでしょう。

 こんな話も載っています。なぜ、1日の法定労働時間は8時間なのでしょうか? 「1日は24時間で、3分の1の8時間は休息に使われるため、残りの16時間を仕事と家庭とで半分ずつに分けようとの意味が込められていた」と記述されています。既にワークライフバランスの発想が含まれていたようです。

 「教養として」というタイトルがついていますが、著者は労働法の弁護士なので、当然に実務的な内容がたくさん出てきます。例えば、指針と告示が説明されています。指針は、下部行政機関に出す通達の場合と民間に向けた要望として出されることがあるので、「誰に向けての、何のためのガイドラインなのか」その性格を確認する必要があること。告示は、国民に対する情報発信であること。どちらも法的拘束力のないものです。理解しているようで、そうでもない。微妙な知識の整理に役立ちます。

 その他にも、たくさんの国際比較が出てきます。詳細に解説されているわけではありませんが、簡単に読み流すことができます。少しだけ話の幅を広げたい、と考える人事担当者に向いている書籍かもしれません

著    者:向井 蘭  編著

出 版 社:日本実業出版社

発 売 日:2021年4月

カテゴリー:実務書(労働法)