新版 残業代請求の理論と実務

 固定残業代の危うさを感じさせる書籍です。

 固定残業代としての時間外勤務手当は、違法ではありません。例えば、1箇月の残業時間を事前に20時間と設定し、その時間に相当する時間外勤務手当を毎月支給します。ある月の残業が20時間を超えれば、超えた時間分の時間外勤務手当を追加で支給し、20時間に満たない場合は20時間分の時間勤務外手当をそのまま支給することになります。

 これが、基本的な固定残業代です。最初から時間外勤務手当が加算されているので、従業員に生活残業をさせないためのメッセージを送ることができるかもしれません。仕事は時間ではなく成果でみるべきというメッセージにはなります。しかし、会社にとって人件費を減らせるメリットは一切ありません。その点において、固定残業代を採用する会社の目的はサービス残業にある、と労働基準監督署に疑われるかもしれません。ある意味で、ブラック企業のイメージが伴います。

 この書籍は、会社に対して未払いの残業代をいかにして支払わせるかという視点から書かれています。労働側弁護士がこれだけ緻密に対策を講じていることを会社は知っておくべきでしょう。固定残業代の他にも、変形労働時間制など他の労働時間管理の手法について解説されており、残業代請求の実務が詳細に記述されています。ここまで詳細に記述された書籍は少ないかもしれません。

 時間外勤務手当の削減を検討しなければならない人事担当者もいることでしょう。しかし、中途半端な知識はリスクを伴います。裁判などで授業料を払うことにならないための警告書と捉えることができるかもしれません。本書には、やや難解な部分もありますが本格的な勉強の機会になるはずで

著    者:渡辺 輝人

出 版 社:旬報社

発 売 日:2021年10月

カテゴリー:実務書(労働法)