あなたを変える行動経済学

 「ナッジ」ってご存じですか?

 肘でつつくことを「ナッジ」と言うそうです。肘でツンツンして「やらないの?」と聞くような感じでしょうか。「お金を使うこともなく、選択の自由を確保した上で人の行動を予測可能な形で変えるような選択肢を設計すること」だと著者は説明します。人事担当者と「ナッジ」には、一見何の関係もなさそうですが、そうでもないようです。

 看護師の残業時間を減らすことに成功した熊本市の病院の事例が出てきます。この病院では、日勤は赤、夜勤は緑に、看護師のユニフォームを分けたそうです。そうすると、日勤の時間帯に夜勤の看護師が残業しているとユニフォームの色が違うので目立ちます。早く帰るようにと無言のプレッシャーがかかるようです。また、医師や患者から見ても残業している看護師が分かるので、その人には頼みにくくなるそうです。つまり、残業時間を減らす方向にものごとが進むわけです。

 男性の育児休業取得率の向上に成功した千葉市の事例が出てきます。千葉市は、育児休業を取得しない職員に対して、上司が休業しない理由を聞き取る制度を2017年度に導入しました。すると、2016年度に12.6%だった男性の育児休業取得率が、2017年度に28.7%、2018年度に65.7%に急上昇したそうです。デフォルトの設定を変えたわけです。

 「ナッジ」の考え方を用いることで、様々な人事施策に応用できる可能性を感じます。難しそうな経済学の世界ですが、この書籍は平易な言葉を巧みに用いることで、とてもわかりやすく表現されています。ちょっとしたヒントを模索する人事担当者にお薦めしたいと思います。

著    者:大竹 文雄

出 版 社:東京書籍

発 売 日:2022年1月

カテゴリー:一般書(行動経済学)