仕事と賃金のルール ~「働き方改革」の社会的対話に向けて

 「普通」を疑うことは、重要です。

 人事担当者は、人事制度を運用しています。一般社員は、上司によって評価され定期昇給します。そして、選抜された結果、管理職になっていく人もいます。それが普通の会社だといってよいでしょう。自分たちの普通は、どこの国でも普通のことだと思っていたりします。一方、他国と異なる部分は日本が遅れていると解釈し、欧米を美化する風潮が未だにあるように思います。

 この書籍では、繰り返し同じ表現が出てきます。英米の企業に「人事考課はない」と記述されています。著者は、たくさんの企業を調査しこの事実に驚いたそうです。つまり、ジョブ型雇用が普通である英米では、一般社員は評価されないということです。他の研究者も同様の指摘をしていますので、自分自身の普通を確認する必要があるでしょう。

 また、日米の自動車工場の調査事例が出てきます。日産・ホンダ・トヨタとGMの比較です。著者は、次のように述べます。これらの「本質的違いは内部労働市場の相違である。」GMには「組合員内部の階層性は存在せず、したがってキャリアも存在しない。他方、」日本の工場には「複数の階層があり、個々人は人事考課を通じて昇格(昇級)していくキャリアが存在する。重大な違いである。」と記述されています。米と日本の企業の違いがくっきり出ています。キーワードは、キャリアの断絶です。日本は、一般社員から管理職まで昇進ルートが連続していますが、米ではそうでないケースが多いということです。

 この書籍に記載される調査は、少々時期が古いため批判される部分もありそうですが、伝統的な労働経済学の知見がふんだんに盛り込まれています。長い研究者生活を費やして著者が得た見識を提供してくれる書籍だと思います。通念を確認したいと思う知的欲求豊かな人事担当者にお薦めします。

著    者:石田 光男

出 版 社:法律文化社

発 売 日:2023年10月

カテゴリー:一般書(労働経済