人的資本の論理 ~人間行動の経済学的アプローチ

 流行ってますね、“人的資本経営”。

 ゲーリー・ベッカーの『人的資本』の和訳版が日本で発行されたのは1976年です。ほぼ半世紀前になります。人的資本を新しいもののように扱う書籍があったとすれば、疑った方がよいかもしれません。ベッカーといえば、1992年にノーベル経済学賞を受賞したシカゴ学派の学者として有名です。著者は、シカゴ大学大学院でベッカーの薫陶を直接受けたというのですから、非常に限られた研究者の一人といえるでしょう。

 著者は、アダム・スミスの『国富論』から始まる歴代の人的資本理論の基本をおさらいしてくれます。ドーリンジャー&ピオレの「内部労働市場論」など懐かしく感じる人もいるでしょう。また、「シグナリング理論」の解説は面白いと思います。情報が不完全な状態では、新卒採用における大学ブランドが優秀さのシグナルになると言われたりします。それを残業に当てはめ、「残業が減らない一要因としては、残業はプラスのシグナルとして、また定時に帰宅することはマイナスのシグナルとして解釈されることの懸念があるのだろう。」と記述しています。頷く人事担当者が結構いるかもしれません。

 著者いわく、本書は「専門書に近い一般書」だそうです。ベッカーの『人的資本』には、多くの数式が登場しますが、本書では「(中学生でもなじめる二次方程式を上限に)難しい数式」は使用せず、「図表をふんだんに」使う工夫をしたそうです。流行のものではなく、本物の人的資本理論について勉強したい人事担当者にお薦めしたいと思います。

著    者:小野  浩

出 版 社:日本経済新聞出版

発 売 日:2024年4月

カテゴリー:専門書に近い一般書(人的資本理論