賃金とは何か ~職務給の蹉跌と所属給の呪縛

 「上げなくても上がるから上がらない日本の賃金」とオビにあるのを見て、その通りと思った次第です。これは、労使交渉で無理に賃金を「上げなくても」、定期昇給で個人の賃金は「上がるから」、結果として賃金水準が「上がらない日本の賃金」と読むことになります。この本の中(P289)にも出てきますが、過去30年間、先進7か国の賃金が軒並み上昇しているのに対し、日本だけがフラットな賃金カーブを描いています。これをもって、日本はひど過ぎるという論調がはびこっているように感じます。しかし、他国とは事情が異なります。ジョブ型社会では「日本のような定期昇給という仕組みはない」と、著者のような発信力のある人にはっきり言ってもらえると、実務を担当する人間はとても助かります。

 次のような記述も登場します。「明治時代に日本で工業化が軌道に乗り出した頃、日本の労働市場の特徴はその高い異動率でした。」 雇用の流動性を高めたいと考える現在とは、異なる日本社会が存在したわけです。当時、従業員の定着率を高めるために会社がとても苦労した時代です。いわゆる終身雇用が日本の文化的背景からくるものだというコンサルタントを信用してはいけない、とも言えます。

 この本は、歴史解説の要素が強く実務に使える書籍という感じではありませんが、人事担当者として備えておくべき素養を与えてくれます。「賃金とは何か」、「ジョブ型雇用社会とは何か」について、改めて学びたい人にお勧めします。

著   者:濱口 桂一郎

出 版 社:朝日新聞出版

発 売 日:2024年7月

カテゴリー:新(賃金史