日本社会のしくみ 〜雇用・教育・福祉の歴史社会学

 この書籍で多くの疑問を整理することができます。例えば、次の3つの背景が分かります。

 P361:「企業別の混合組合は日本の文化的伝統などではなく、戦争と敗戦による職員の没落を背景として生まれたものだった」と書かれています。戦前、日本でもホワイトカラーとブルーカラーの処遇格差は激しかったようです。特別待遇を受けていたホワイトカラーが戦後の貧困状態に陥ったことで、ブルーカラーとの連帯感を生み、世にも稀な企業別労働組合の誕生につながったようです。

 P418:「日本の経営者たちは、たしかに一時は、職務給と横断的労働市場を称賛した。〜だが企業横断的な労働市場が本当にできたら、企業内だけで職務や賃金を決定できなくなる」と書かれています。かつて経営者たちは、「中高年の賃金引下げ」と「労働者の解雇を容易にしたい」という動機から職務給の導入を志向しました。しかし、職務給が定着すれば職種ごとの労働市場が次第に形成され、転職しやすい社会が生まれます。結果、市場に意思決定を左右され、経営の裁量が狭まることになります。これが、職務給を転換し職能給を導入する方向性につながったようです。

 P571:「日本の経営者が、経営に都合のよい部分だけをつまみ食いしようとしても、必ず失敗に終わる。なぜなら、それでは労働者の合意を得られないからだ」と書かれています。これが、成果主義を含めて様々な改革が失敗する理由です。働く仕組みは「慣習の束」なので、経営側の一方的な意思決定だけでなく、働く側にもそれなりの合意が必要なようです。

 圧倒的な数の参考文献が、著者の論理性を支えています。学術的に深く介入することを避け、他の研究者の成果をテンポよくつなげていくことで、素人であっても深く理解できるよう配慮されています。日本の特色を歴史から追いかけ、その形成プロセスを理解することで今後の方向性を考えさせられる書籍です。この1冊を自分のものにできれば、どこへ出ても恥ずかしくない人事担当者といえるでしょう

著    者:小熊 英二

出 版 社:講談社

発 売 日:2019年7月

カテゴリー:ちょっと長い新書(雇用システム)

 

 

女性自衛官 〜キャリア、自分らしさと任務遂行

 女性のキャリアについて、まじめに書かれた書籍です。

 女性活躍推進や女性管理職の増加など、提言されて久しい雇用社会が存在します。男性優位の社会の中で、どのように女性のキャリアを考えるべきかについて悩んでいる会社も多いことでしょう。少し視点を変えると、女性の活躍が進行している組織がありました。それが、幹部自衛官の世界です。階級社会である自衛隊は、適材適所の考え方が強く存在し、性別ではなく階級がものをいう世界であり、女性にとって働きやすい部分があるようです。 

 著者は、合計20人(30代が6人、40代以上が14人)にインタビューした結果をまとめており、この書籍の中で彼女たちの考え方にふれることができます。インタビューの対象者は、自衛官の中でも上級幹部とされる「佐官」クラスで、子供をもつ女性自衛官です。「「佐官」は、連隊長、艦長、飛行隊長等として、より大規模な部隊の指揮官や司令部等の幕僚という立場」で活躍するそうです。一般企業の課長よりも相当に高いレベルであることを想像させます。

 仕事と家庭の両立について、次の文章が出てきます。「子育てとの葛藤の乗り越え方の一つは、長い時間軸の中で「今」を考える、ということでしょうか。大変なのは今、ここを過ぎれば何とかなる、という前向きな気持ちも重要です。」長い時間軸という考え方は、キーワードなのかもしれません。

 女性の活躍推進について、女性管理職の割合や男女の賃金格差について公表しなければならない時代になっています。このような課題に悩む人事担当者にとっては、何かヒントになりそうな書籍です。あまり馴染みのない自衛隊の組織について学ぶこともできま

著    者:上野友子、武石恵美子

出 版 社:光文社

発 売 日:2022年3月

カテゴリー:新書(キャリアデザイン)

 

 

虹を渡った人たち 〜ボクの心に火を点けた 挑戦者の物語

 小説です。「人事の本」では初めてです。

 著者は、伝えたいことを分かりやすく、かつ実感できるよう小説形式にしたそうです。全体を通してキャリアデザインがテーマになっていますが、著者の“生きざま”を想像させる内容です。本の中では、何人かの人物が登場し名言を残していきます。例えば、

 「それは笑顔だ」

 「笑顔を忘れないこと。それと情熱と勇気。」

 「人を変えるのは、指導ではなく環境なんだ。」

 「成長するためには、とにかく行動することだ。」

 「一生の終わりに残るのは、集めたものではなく与えたもの」

 残念ながら、この本が発行された5月に著者は帰らぬ人となりました。ガンが判明し余命との闘いの中で、自分の人生をかけて伝えたいことが、この本の中には詰まっています。

 あとがきは、次の言葉で締めくくられます。

 「人は、志の大きさに比例した人物になる。」

  命を賭した著者の言葉を謹んでお受けしたいと思います

著    者:宮崎 雅啓

出 版 社:文芸社

発 売 日:2022年5月

カテゴリー:小説(キャリアデザイン)

 

 

ジョブ型雇用社会とは何か 〜正社員体制の矛盾と転機

 とりあえず、読んでみてください。

 いつもながら人事に関する言葉の使い方には辟易することがありますが、さすがに今回のジョブ型ブームは問題です。「ジョブ型」という言葉は、著者である濱口先生が提起したものです。誰もが認める超一流の研究者です。著者は、「メンバーシップ型」と「ジョブ型」雇用を対比させ、日本の雇用システムを見事に説明してきました。しかし、メディアや人事コンサルタントが中途半端な説明を繰り返した結果、現在の似ても似つかぬジョブ型論がはびこることになりました。

 ジョブ型という新しい発想を取り入れた人事制度を導入したいと考える会社があります。もちろん、会社の自由です。導入にはいくつかのハードルがありますが、やはり第一には会社が人事権を放棄できるか否かにかかっているでしょう。ジョブ型は、労働契約のまん中にジョブがありますので、会社の一方的な都合でジョブを変更することはできません。この点において、人事異動を当たり前のこととして受け入れるメンバーシップ型とは異なります。メンバーシップ型は、労働契約のまん中にジョブではなく、「会社のメンバーになること」を据えているため、ジョブの変更に対応することができるのです。

 また、新しいという部分について、著者は「ジョブ型は全然新しくありません。むしろ、産業革命以来、先進産業社会における企業組織の基本構造は一貫してジョブ型だったのですから、戦後日本で拡大したメンバーシップ型の方がずっと新しいのです。」と記述しています。

 メディアの中途半端な論説にのせられないようにするためにも、この機会に本家本元の解説を確認し、改めて日本の雇用システムや自社の人事制度を考えるきっかけにしていただければ幸いで

著    者:濱口 桂一郎

出 版 社:岩波書店

発 売 日:2021年9月

カテゴリー:新書(雇用システム)

 

 

AIの経済学

 AIについて簡単に理解させてくれます。

 将来、AIが人間の雇用を奪うというような話を聞くことがありますが、過度な心配をする必要はないようです。著者は、「同じ職業でも業務の中には代替されるものとされないものがあるはず」だと述べます。また、「AIと強い補完性を持つ仕事、労働も出現してくることになる」と指摘します。その通りでしょう。仕事はさまざまな部分で複雑に構成されているため、全てについてAIが代替することはできないでしょうし、仕事は変化していきますので、新しい仕事も生まれてきます。

 AIとは何かを理解し難い部分がありますが、著者は椅子を例として説明してくれます。「AIが椅子の機能を理解したり、常識をもって判断しているわけではなく、あくまで膨大な数からパターンを学ぶことにより、人間特有と考えられてきた暗黙知の領域への浸食が起きていると理解すべきなのである。」人間は、いろいろな形の椅子であっても、常識的に「これは椅子だ」と判断できますが、暗黙知の領域が絡んでいるため機械にはそのような曖昧な判断をすることができないそうです。それをビッグデータ等から予測し、「トライ・アンド・エラーで自ら正解に近づくように「学習する機械」」がAIであり、「時間の経過とともにその予測精度を改善していくように設計されている」そうです。

 各章の最後には、まとめのコーナーがありAIに対する理解を整理してくれます。人事担当者にとっては、とっつきにくいAIですが、将来への布石として向学のためにお薦めしたいと思います

著    者:鶴 光太郎

出 版 社:日本評論社

発 売 日:2021年4月

カテゴリー:一般書(AI-人口知能)

 

 

日本的雇用・セーフティーネットの規制改革

 「安倍政権〜を反面教師として菅新政権が向かうべき政策の内容を明らかにすることが、本書の主たる目的である。」と書かれています。いわば「働き方改革総決算」のような位置づけでしょうか。各章のタイトルを見れば、それがわかります。

 第1章 安倍政権の経済政策を評価する

 第2章 日本的雇用慣行と働き方改革

 第3章 長時間労働の改革とテレワーク

 第4章 同一労働同一賃金と非正規社員問題

 第5章 解雇金銭解決のルール化

 第6章 高年齢雇用安定法の弊害 

 第7章 女性の働き方改革

 第8章 全世代型社会保障改革の理念と現実

 第9章 大きな改革を避けた年金改革法

 第10章 医療と介護保険改革

 また、低成長期には可能性の乏しい昇進機会を争うことは不毛な結果となるため、「出世競争は一部のワーカホリックな社員に委ねて、大部分の社員は、〜ジョブ型の働き方が相対的に増えることが望ましい」と書かれています。ふつうの社員は、もう頑張らなくてよいと言われているようにも感じるのでやや意気消沈しますが、その事実認識や解説には敬服します。

 この1冊を読むだけで、人事担当者が直面している現状の問題点とこれからの方向性を感じとることができるでしょう。情報収集に時間をかけることが難しい人事担当者にとっては、短時間で状況を把握し人事施策に活用できる概説書の位置づけになるかもしれません

著    者:八代 尚宏

出 版 社:日本経済新聞出版

発 売 日:2020年12月

カテゴリー:一般書(雇用システム)

 

 

人事の組み立て 〜脱日本型雇用のトリセツ〜

 「企業に一方的な人事権はない。これが欧米と日本の大きな違いなのです。」

 ここまで、はっきり言ってくれるとすっきりします。「ジョブ型雇用」に関するウソ撲滅運動の先頭に立っているのが、労働政策研究・研修機構の濱口桂一郎氏だとすれば、その応援団長が著者だといってよいでしょう。よくある典型的なウソは、ジョブ型雇用と成果主義を結び付けたものです。コンサルタントの“営業ネタ“に使われているといってもよいでしょう。「ジョブ型雇用」とは何か、を理解させてくれる書籍です。

 事例の一つとして、フランスが登場します。欧州では仕事に就くときに「職業資格」が要求され、その資格ごとに昇進できる限度が見えているそうです。仕事には職業資格が必要とされるため、別の仕事には移りにくくなります。フランスには「カードル」と呼ばれる学歴エリート層が存在し、通常の従業員のキャリアとは断絶されていることは有名です。「この職業資格と学歴の掛け合わせで就けるジョブが決まり、その中でキャリアを全うする」ことになります。ジョブが労働契約の中心にあり、人事異動がないので上にもヨコにも行くことができず、俗に「籠の鳥」と呼ばれるそうです。これが、「ジョブ型雇用」の一例です。

 ウソつきな人事コンサルタントに騙されないよう、人事担当者は正しい知識を持たなければなりません。まっとうな人事担当者にお薦めしたいと思います

著    者:海老原 嗣生

出 版 社:日経BP

発 売 日:2021年4月

カテゴリー:一般書(雇用システム)

 

 

統計で考える働き方の未来 〜高齢者が働き続ける国へ

 「年金財政の悪化を解決するには4つの方法がある」そうです。

 (1)年金支給額の引き下げ、(2)支給開始年齢の引き上げ、(3)保険料の引き上げ、 (4)GDPの拡大です。(3)または(4)を選択することは簡単ではないため、「年金支給額を引き下げる」か「支給開始年齢を引き上げる」かの選択肢が「近い将来、政治的に決断されるはず」だと著者は述べます。そして想定されるのは、それなりの年金+それなりに働く高齢者の組み合わせです。事務系職種で定年まで務めた人が、その後パートタイムで現業系職種に就くことが一つのモデルになるようです。事務系職種で管理職を務めたような人にとっては、現業系の仕事を物足りないと感じる可能性もありますが、それなりに満足している元管理職の事例が出てきます。

 また、定年後の「再雇用は主流足りえない」と言います。著者は、新規学卒一括採用からの長期雇用は日本の発展に貢献していると評価する一方、このような内部労働市場は高齢者に向いていないと述べます。高齢者の労働市場は、現役世代と切り離した方がうまくいくそうです。

 60歳台前半の雇用を考える場合、65歳まで定年を延長するべきか、または現状最も多い定年後再雇用でよいのか悩んでいる会社が多い中、高年齢者雇用安定法が改正され70歳までの雇用の努力義務が創設されました。まさに今後の方向性が模索されているところです。自社の中高年対策を検討している人事担当者の参考になる書籍かもしれません

著    者:坂本 貴志

出 版 社:筑摩書房

発 売 日:2020年10月

カテゴリー:新書(高齢者雇用)

 

 

労働経済

 労働経済学が、人事の仕事に役立つことが分かります。

 著者である清家先生は、元慶應義塾大学塾長であり、政府の審議会などでリーダーシップを発揮されてきた超大物です。この労働経済学の大家が、かつての教え子と一緒に書いたものです。この書籍も含めて労働経済学はやや難解な部分もありますが、人事担当者にとっては実務に役立つ学術的背景を身に着けることができます。

 例えば、日本の失業率が低い理由、新卒一括採用の重要性、成果主義を機能させる方法、学生が大企業志向になる理由、年功賃金が発達する理由、定年制の存在理由など、人事担当者が知っていれば必ず役に立つ理論を理解させてくれます。反対に、すぐ手に入る学術的根拠がありながら、知らずして語ることなかれ、といったところでしょうか。

 この書籍のはしがきには、「労働経済分析を仕事とするのでない一般読者」のために、「できるだけ平易な記述とするために数式的な説明などはかなり省いて」いると書かれています。それでも、実務家からすると少しだけハードルを感じるかもしれませんが、この機会に読んでみてはいかがでしょうか?人事担当者として見識を備えるためには必要なプロセスだと思います。自信をもってお薦めできる1冊

著    者:清家 篤、風神 佐知子

出 版 社:東洋経済新報社

発 売 日:2020年10月

カテゴリー:学術書(労働経済)

 

 

企業中心社会を超えて 〜現代日本を<ジェンダー>で読む

 「企業中心社会は緩和されたのか」

 この書籍は、もともと1993年に出版されたものです。それから27年が経過し、これに付論を加えて文庫として再版されました。最初の出版当時は、企業中心社会が問題とされながらも女性という視点が弱く、企業と女性に関する十分な蓄積がなかったようです。そこに彗星のごとく現れたのが、この書籍というわけです。基本文献として位置づけられる重要なものなので再版になったのでしょう。著者は、雇用社会や社会問題などについて、ジェンダーという視点を加えて、データを示しながら的確に解説してくれます。

 このような経緯を知らずに読んでも、普通に読めてしまうのが不思議です。つまり、現在の状況と大きく変わっていないように感じます。過労死、長時間労働などは、企業中心社会がベースにある今日的なテーマです。著者は、本書のあとがき部分にある「なにを明らかにし、どう歩んだか」で、30年近く経過した現在でも「会社主義は依然として強固である」と述べています。

 この書籍は、文庫でありながら学術書です。学術文庫というジャンルになるそうです。文庫は、小さいサイズで扱いやすく価格も購入しやすいレベルなので、広く読まれるものだと思います。一方、学術書は勉強になるけれども分厚くて難しいことが書いてあるのでとっつきにくい、といったイメージでしょうか。両者のエッセンスを享受しているのでしょう。とても勉強になります。人事担当者として、ジェンダーの視点をきちんと持つために、必要な文献といえそう

著    者:大沢 真理

出 版 社:岩波書店

発 売 日:2020年8月

カテゴリー:学術文庫(雇用社会とジェンダー)

 

 

働き方改革の世界史

 なぜ、こうなっているのか。足元に続く今までのことが分かります。

 日本の労働史を追うだけでも大変なのに、世界各国の労働史を把握するなんて尋常なことではありません。それを一気に、短時間で把握させてくれる書籍です。著者は、軽快なタッチで語ってくれます。

 次の12冊の古典を紹介しながら、現在の労使関係の成り立ちを教えてくれます。(1)1927年「産業民主制論」(2)1969年「サミュエル・ゴンパーズ自伝 70年の生涯と労働運動」(3)1954年「労働運動の理論」(4)1983年「経済民主主義-本質・方途・目標」(5)1961年「労使共同経営」(6)2004年「労働者問題とキリスト教」(7)1957年「労働者-その新しい地位と役割」(8)1969年「イギリスの団体交渉制-改革への処方箋」(9)1997年「対決に未来はない-従業員参加の経営革命」(10)1999年「会社荘園制」(11)1979年「自主管理への道」(12)1963年「労使関係と労使協議制」

 一番古いもので1927年、一番新しいもので2004年に出版されたものです。12冊の出版年を平均すると1971年(昭和46年)になります。第1次オイルショックが1973年ですから、その前約50年とその後約30年の間の出版です。この間には、英のコレクティブ・バーゲニング、米のジョブ・コントロール、独のパートナーシャフト、仏の自主管理思想、そして日本の労働組合など、いろいろな労使関係が模索された経緯がわかります。

 この書籍を読めば、今持っているご自身の知識をきっと補強してくれるでしょう。人事担当者として磨きをかける1冊になってくれそう

著    者:濱口 桂一郎、海老原 嗣生

出 版 社:筑摩書房

発 売 日:2020年9月

カテゴリー:新書(労働史)

 

 

ブラック職場があなたを殺す

 「 Dying for a Paycheck 」 給料のために死ぬ

 何ともショッキングな原題です。「 Karoshi 」過労死は英語の辞書にも載っているそうですが、この書籍はアメリカのお話です。過重労働は、日本だけの問題ではないようで、“職場のストレス”が従業員の健康や命に影響を及ぼすことが強調されています。日本でも名の知られているアメリカの大企業が、どれほど従業員を使い捨てているかが描写されています。意図しているわけではないかもしれませんが、従業員に対する無関心がまねいている問題のようにも感じます。また、日本の事例として「電通事件」がニューヨークタイムズで紹介されたことも載っています。

 著者は、スタックランキング・システムをやめることも提案しています。これは、「上位20%をA、下位10%をC、その中間をBという具合に評価」する制度のことです。GEの元CEOジャック・ウェルチが推奨して有名になったそうです。皆さんの会社でも、評価の分布規制を運用されてはいませんか。スタックランキング・システムは、「社員同士の対抗意識が強まり、ライバルを蹴落とす行為が横行して、社員の間の社会的な絆」を壊すことになると書かれています。

 この書籍のオビには、「ホワイトカラーこそ現代の「死に至る職場」である」と書かれています。見過ごすことができません。そこまでの認識をもって対応できている企業がどれほどあるでしょうか。特効薬があるわけではないですが、人事担当者として改めて考えてみる必要があるでしょう。問題提起として受けとめたい1冊で

著    者:ジェフリー・フェファー 著/村井 章子 訳

出 版 社:日本経済新聞出版社

発 売 日:2019年4月

カテゴリー:経営書(人材活用)

 

 

治療と就労の両立支援ガイダンス

 従業員がガンになったら、どのように対応しますか?

 ガン治療は、すさまじいスピードで進歩しており、治る病気になりつつあります。欠勤・休職を有効活用することで、復職する従業員が増えているのです。著者は、企業の従業員データを用いて、ガンの種別ごとに療養日数や復職率など、症状と就労の関係を統計分析しています。そして、十分な休職期間と復職時の短時間勤務制度の重要性を説きます。

 従業員のメンタルヘルス対応で、悩んでいる人事担当者も多いでしょう。信頼できる産業医がそばに居てくれれば、頼もしく感じるはずです。著者いわく、良い産業医には次の4つの基本条件があるそうです。①会社と連携できること、②約束した日に確実に来社すること、③メンタルヘルス不調社員の対応ができること、④社員と信頼関係を築けること、の4点です。メンタルヘルス対応ができることは、産業医の必要条件であり必ずしも精神科医でなくともよいそうです。また、信頼できる産業医を見つけるための1つの指標として、日本産業衛生学会が認定する「産業衛生専門医・指導医」の制度があるそうです。産業医学のトレーニングを受け試験に合格した「プロの産業医」の証です。上から目線の産業医など「白衣を着ているだけの」産業医とは契約を打ち切るべきだと書かれています。

 休職から復職への段取り、復職判定のチェックリストなど、参考になる情報も盛りだくさんです。従業員の健康関連実務で困っている人事担当者にお薦めしたいと思いま

著    者:遠藤 源樹

出 版 社:労務行政

発 売 日:2020年3月

カテゴリー:実務書(両立支援)

 

 

年金不安の正体

 コレ、わかりやすい。です。

 年金に賦課方式と積立方式があるのは誰しも知っています。知っているはずなのに、言われてみて改めて気づくことがあります。積立方式は「制度を導入してから年金がきちんと支払われるようになるまでに、40年以上の年月が必要となる」と書かれています。それが、積立方式です。現在の国民年金は、賦課方式ですが20歳から60歳まで保険料を40年間支払って、65歳からもらえるのが基本です、つまり、40年間を要しています。1960年に国民年金はスタートしました。積立方式で実施すると、初めて年金が支給されるのは、例えば、制度開始時点で20歳だった人が60歳になる2000年になります。それではその間、年金を必要とする高齢者は年金を受給することができません。米・英・独・仏など諸外国が賦課方式を導入しているのも頷けます。当たり前のことなのに。改めて学んでみる必要性を感じます。

 失礼ながら、著者である海老原先生は年金の専門家というわけではないでしょう。ジャーナリストとして、人事・雇用・労働などについて鋭い考察を発表し続けているのを知っています。今回、年金問題の第一人者である慶應義塾大学の権丈善一先生のアドバイスを受けて執筆に至っているようです。だからこそ、新鮮な視点で遠慮なく表現できているのかもしれません。「メディアのウソを暴き、問題の本質を明らかに」してくれるそうです。

 年金制度はわかりにくいと敬遠しがちな人事担当者のみなさんに、是非お読みいただき1冊

著    者:海老原 嗣生

出 版 社:筑摩書房

発 売 日:2019年11月

カテゴリー:新書(年金制度)

 

 

欧州の教育・雇用制度と若者のキャリア形成

 海外の制度を見習えば、日本はよくなる。

 などと言ってはいけません。それを実感させてくれる書籍です。EU諸国の教育システムから就職・昇進への繋がりを理解することができます。そして、EU諸国も悩んでいる状況が伝わってきます。

 新規学卒一括採用が批判される局面が増えている気がします。新規学卒一括採用は、日本が世界に誇れる慣行であり、そのおかげで若年失業率を低く抑えることに大きく貢献しています。しかし、仮にそうであるならば、なぜ、諸外国には新規学卒一括採用が存在しないのか? 答えは簡単です。学生の卒業時期が一定ではないためです。EU諸国では、中等教育の段階から進級や卒業のタイミングが人それぞれであること、教育費が無償で入学しやすいかもしれませんが進級管理が厳密に行われることから卒業できない、または卒業時期がバラバラになるようです。これらをデータに基づき解説してくれます。また、EU諸国の学生は就職する時に仕事経験のある中途採用組と競い合う構図となるため、仕事経験を身に着けようと必死でインターンシップの機会を模索するそうです。

 「同期入社」という言葉の意味合いについても考えさせられました。「日本企業特有の「強い同期意識」は、必ずしも、日本型雇用システムの結果だけでなく、むしろ、同年齢の学生は同時入学することが当たり前という教育制度とも大いに関連している」と書かれています。日本人には意識しづらいことのように思います。雇用社会は、教育システムとシームレスにつながっているので、別々に改革することは難しいようです。

 EU諸国について書かれたものですが、日本と対比して分析もされていますので、日本の採用と昇進管理を学び直すきっかけになるかもしれません。勉強熱心な人事担当者にお勧めしたいと思いま

著    者:藤本 昌代、山内 麻里、野田 文香

出 版 社:白桃書房

発 売 日:2019年11月

カテゴリー:学術書(教育社会学と雇用)

 

 

働き方の哲学 〜360度の視点で仕事を考える

 新入社員研修の参考文献にいかがでしょうか。参考文献といっても、半分はイラストで構成されています。

 入社したばかりの新入社員に会社や組織のことを説明するのは、結構難しいかもしれません。また、職業人生について“教える”のは大変でしょう。そんな時、“教える”のではなく、一緒に考えることができる素材が満載です。イメージしやすいイラストを添えて、研修レジュメを作成すれば、スムーズに共有感をいだけるかもしれません。この本は、次の6つのパートに分かれ、リーダーシップ論やモチベーション論などもまじえながら、それぞれにかわいいイラストで解説されています。

 PART1 仕事・キャリアについて

 PART2 主体性・成長について

 PART3 知識・能力について

 PART4 働く意味について

 PART5 会社の中で働くことについて

 PART6 心の健康について

 例えば、PART1の最初に「占有者としての仕事」というテーマがあり、仕事のとらえ方が出てきます。「1日8時間×35年=62,440時間を仕事に捧げる」という見出しからスタートし、「仕事がうまくいっていないとご飯もおいしくない」と展開します。そして「あなたの人生に占める仕事の割合はどれくらい?」と考えさせることで締めくくる構成です。わかりやすいなあ、と感じました。

 もし、新入社員研修のレジュメを作成中の人事担当者が手にしたら、ヒントを与えてくれる可能性大です。文章だけではなくイラストのイメージで考えさせてくれるので、きっとお役に立つでしょう

著    者:村山 昇

出 版 社:ディスカヴァー・トゥエンティワン

発 売 日:2018年3月

カテゴリー:絵事典(キャリアデザイン)

 

 

「AIで仕事がなくなる」論のウソ

 あるシンクタンクのレポートでは、「日本の労働人口の49%が人工知能やロボット等で代替可能に」なるそうです。このレポートでは、「ドライバー、警備員、ビル清掃員、人事係事務員」などがAI等による代替可能性が高い職業とされています。反対に、「経営コンサルタント、内科医、映画監督、ミュージシャン」などが、AI等による代替可能性が低い職業とされています。人事屋としては、人事係事務員がAIに代替されてしまうのは、とても悲しいです。

 ここで、「AIで仕事はなくならない」というのが、著者の主張です。AIが導入されるためには、費用対効果が問題であり、導入費用が労働単価を下回らない限り代替は起こらないそうです。確かに、AIが普及するためには、コストの問題が最優先されるでしょう。また、AIは指示・命令を出すことはできますが、物理的な動作を伴う「実作業=メカトロニクス」の部分が出来上がらなければ、AIの指示は実行できません。この点についても、著者はAIとメカトロニクスの両方の進化がなければ代替は起こらないと指摘します。一方、人間の行っている作業は、種類の異なった様々なタスクが組み合わさってできているため、これを機械化するとなるとメカトロ的に多機構が必要となり、結果として導入コストが上がってAIが導入できないそうです。映画で出てくるような“アンドロイド”が登場するまでは、人間の仕事がAIに代替されるには時間がかかることになりそうです。

 とはいえ、技術進歩のスピードは思ったよりも早いものです。人事担当者として、とりあえず世の中のAIの進捗状況をフォローしておくのも良いかもしれませ。 

著    者:海老原 嗣生 

出 版 社:イースト・プレス

発 売 日:2018年5月

カテゴリー:一般書(AI-人口知能)

 

 

その幸運は、偶然ではないんです!

 「もうキャリアプランはいらない」

 この本のオビに書かれたフレーズです。キャリア論が流行してから何冊の書籍が世に出たことでしょう。その中で、ひときわ異彩を放っているのがこの本です。

 「計画的偶発性理論(Planned Happenstance Theory)」という考え方があるそうです。偶然の出来事が起きるその前には、自分自身のさまざまな行動が存在し、その行動が次におきる偶然を決定する、と考えます。そのため、幸運を呼び込むためには、自分自身の行動を通して“偶然”という可能性を広げることが重要なんだ!と言われているような気がします。予期せぬ出来事を大いに活用することができれば、人生は良い方向へ向かうことになるのでしょう。

 本の中に出てくる著者自身の言葉をお伝えしたいと思います。

 「あなたは今までに失敗したことがありますか?」

 「あなたは覚えていないかもしれないが、何度も失敗してきた。」

 「初めて歩こうとした日、あなたは転んだ。」

 「失敗することは当たり前のことです。」

 「唯一確かなことは、何もしないでいる限り、どこにもたどり着かないということでしょう。」

 「どこからでもいいから、とにかく始めなくてはなりません。」

 参りました。降参です。こちらのことが見透かされているようです。下手な言い訳は通用しないかもしれません。とりあえず読んでみるのはいかがでしょうか?仕事に対する向き合い方が変化するかもしれません。 

著    者:J.D.クランボルツ、A.S.レヴィン 

出 版 社:ダイヤモンド社

発 売 日:2005年11月

カテゴリー:一般書(キャリア論)

 

 

心療内科産業医と向き合う職場のメンタルヘルス不調

 医師が、人事担当者のために書いた書籍といってよいでしょう。

 第1章では、職場でよく見かける精神疾患として、うつ病やパーソナリティ障害等の類型ごとに、1.医学的特徴、2.労務的問題、3.典型事例、4.対応策の順番で個別に解説する部分が出てきます。この分野に造詣が深くない人事担当者には重宝するでしょう。

 第2章では、厚生労働省の“メンタルヘルス指針”に出てくる「4つのケアと3つの予防」が紹介されています。「4つのケア」は、誰がケアをするのか?について「1.セルフ、2.ライン、3.会社内、4.会社外」に分かれています。「3つの予防」は、「1次:未然防止、2次:早期発見・対応、3次:再発予防」の段階的な対応策です。4×3のマトリックスで捉えることにより、メンタルヘルスケアのフレームを理解することができます。

 第3章は、この書籍の半分を占めるケーススタディです。著者が過去に経験した事例を基に、「従業員の主張」と「人事労務担当者の懸念」を対比させ、どのように対応すべきかを解説してくれます。労働法や労務管理の分野にも踏み込んで書かれており、医師の視点をはるかに超えています。

 この書籍では、人事担当者の視点が強く出されており、会社の安全配慮義務に関心が払われている点でも、医師の書く単なるメンタルヘルス対応本ではありません。労務管理をよく理解した社内の産業医のアドバイスとして読むことができるでしょう。 

著    者:石澤 哲郎  編

出 版 社:第一法規株式会社

発 売 日:2017年12月

カテゴリー:一般書(メンタルヘルス)

 

 

悪いヤツほど出世する

 「ジョブズも、ゲイツも、ウェルチも、みんな「いい人」     ではなかった!」

 この本のオビについているコピーです。スタンフォード大学で教鞭をとる著者は、リーダーシップ論をほとんど“ウソ”だと言い切ります。特に、リーダー教育産業を問題視しているのです。「誤ったリーダーシップ教育のあり方をなんとかしたい」と言っています。

 目次を見れば、著者の言いたいことが分かるものですが、次のような見出しが出てきます。「悪いリーダーははびこり、名リーダーはほとんどいない」、「上司を信じてよいものか」、「リーダーは、「社員第一」ではなく「我が身第一」」など。ちょっと言い過ぎでは?と言いたくなるほど、これでもか、というほど事例を挙げ反論を許してくれません。読んでいるうちにだんだん暗い気持ちになりそうです。そして、著者は言います。「リーダーシップについてよく耳にする教えの大半は、事実ではなく期待に、データではなく願望に、科学ではなく信仰に基づいているからだ」と。では、どうすればいいのか聞きたくなるのが人情でしょう。この問いに対して著者は、ある紳士と子供の会話で締めくくります。

 子供:「それで、お仕事はうまくいっているの?」

 紳士:「うまくいったと思う日もあれば、うまくいかない日もあるよ」

 子供:「がんばって続けてね、そのうちうまくいくから」

 「そう、リーダーだけでなくすべての人が、がんばって続けなければならない。」

 これが、著者の伝えたい最後の一言です。中途半端なご紹介で恐縮ですが、気になる方は是非読んでみてください。 

著    者:ジェフリー・フェファー /村井章子 訳

出 版 社:日本経済新聞出版社

発 売 日:2016年6月

カテゴリー:経営書(リーダーシップ論)