人的資源管理論 【理論と制度】 第3版

 この書籍の169ページ。

 『 「全体から逆算して項目評定の鉛筆を舐める」管理職が28.1%と3割近くもいる 』 、 『 評価制度の「精緻化」によって評価の「精度」を上げられるという「信仰」がある 』  

 どちらも、“あるある”と言いたくなりそうな内容です。

 人的資源管理は、略してHRM(Human Resource Management)と表現されることも多いと思いますが、日本語がアルファベットやカタカナになると“カッコ良さ”がつきまとい、実態と乖離したニュアンスを醸し出すことがあります。著者である八代先生は、“人的資源管理”と“労務管理”や“人事管理”に違いはないというスタンスで本書を書かれており、その点からも人事担当者が正面から向き合うべき内容のオンパレードです。

 大学の学部生のテキストとして執筆されたそうですが、それだけでは”もったいない”。実務を経験した中堅人事担当者が、ご自身の知識を整理するために役立つ書物と言えそうです。

著    者:八代 充史

出 版 社:中央経済社

発 売 日:2019年8月

カテゴリー:学術書(人的資源管理論)

 

 

賃金とは何か―戦後日本の人事・賃金制度史

 「職能資格制度」の生みの親。

 楠田丘と言えば、泣く子も黙る賃金の専門家。齢を重ねても衰えを知らない鉄人です。たくさんの人事担当者が楠田理論を学び、育ったことでしょう。その楠田先生の伝記を通じて、“賃金とは何か”に迫る歴史本とも言える書籍です。

 皆さんは、オーラルヒストリーって、ご存知ですか? オーラル=口述、ヒストリー=歴史で、ヒアリングを通じて政策情報に関する遺産を学問的に後世へ伝えるために、実施されている学術的プロジェクトです。この本は、研究者が専門家にヒアリングをした結果を文章に残し、研究活動に役立てていこうという試みなのです。

 このオーラルヒストリーという手法をもって、第二次世界大戦後の日本の人事・賃金制度がどのように変化していったかを、生き字引である楠田先生の記憶を辿り明らかにしていくことで、手に取るように当時の状況を把握することができます。

 賃金の歴史を学びたい若手人事担当者、または、楠田理論と共にキャリアを重ねた人事担当者が自分の職業人生を振り返るためにも、有意義な書物だと思います。

著    者:楠田 丘

出 版 社:中央経済社

発 売 日:2007年4月

カテゴリー:学術書(オーラルヒストリー)

 

 

Excelで簡単 やさしい人事統計学

 “エクセルって使えますか?

 総ページ数149ページ。その薄さのおかげで、カバンに入れても邪魔になりません。数式があまり出てこない代わりに、エクセルの操作画面の説明が出てきます。要するに、パソコンが使える人なら理解することができます。

 統計というと難しくてあまり仕事に関係のないもの。そう思っている人も多いのではないでしょうか。使わなくても人事の仕事はできますが、使えると仕事がはかどるツールになってくれるかもしれません。

 人事担当者は、研究者が欲しくてもなかなか手に入らない自社の賃金データという良質なデータを持っています。それを活用しないのは、もったいないです。この本は、自社の賃金を分析するために、賃金構造基本統計調査など公表されている統計も紹介してくれますし、決して統計全般を説明するのではなく、ピンポイントで人事担当者が必要になる基本中の基本に限って説明してくれています。

 統計の入門書というよりは、人事担当者のための実務書であり、統計を理解するよりも使えればよいと考える実務家向きの書籍だといえるでしょう。 

著    者:大阪大学大学院国際公共政策研究科人事統計解析センター

出 版 社:日本経団連出版

発 売 日:2006年8月

カテゴリー:実務書(統計学)

 

 

人材を活かす企業  「人材」と「利益」の方程式

 フェファー先生、“なるほど”です。

 「市場から買い入れたもので競争力の維持や大きな成功を実現できない。自社が買えるものは、他社も買えるからである。」 つまり、人材について言えば、人材育成なくして企業は差別化できないし、競争力は伸びないのです。この部分だけでも人材育成の必要性や重要性を痛感させられます。また、賃金制度のあり方を考える場合にも、大変参考になる次の記述が、この書籍の171ページにあります。

 ①賃金は、多くの経営者が思うほど重要ではなく、労働コストを削減しても競争力の獲得にはつながらない

 ②業績給や出来高給は人々の支持が高くても、実際は問題が多く、調査結果によると、マイナスに作用することが多い

 ③給与の査定制度を導入すれば、生産性の問題がすべて解決すると信じるのは、破滅への道である

 アメリカの学者にこのように言われると、日本の成果主義とは何だったのだろうかと改めて思います。これが本当かどうかは、是非、お読みいただき真偽のほどをお確かめください。

 人により考え方は異なっても、参考にはなるはずです。

著    者:ジェフリー・フェファー 著/守島基博 監修/佐藤洋一 訳

出 版 社:翔泳社

発 売 日:2010年10月

カテゴリー:経営書(人材活用)

 

 

仕事の経済学 [第3版]

 労働経済学の重鎮である小池和男先生の名著であり、私たちが持つ数々の“通念”が非常に曖昧なものであることを、圧倒的なデータから教えてくれる書籍です。

 三種の神器と呼ばれた「終身雇用、年功賃金、企業別労働組合」は、日本の本当の姿だったのか?

 欧米と比較して日本は特殊なのか?

 年功賃金が発達した理論的背景とは?

このような様々な疑問に答えてくれます。

 人事担当者となって日が浅い方が読むのも良いですが、人事としてキャリアを重ねた皆さんに読んでいただくと非常に参考になると思われます。この本は、労働経済学の決定版です。読んで損はありません。

著    者:小池 和男

出 版 社:東洋経済新報社

発 売 日:2005年2月

カテゴリー:学術書(労働経済学)

 

 

 

労働法関連

 

↓ 以下をご覧ください。

社労士のための労働事件 思考の展開図

 弁護士から社労士への助言です。すなわち、人事担当者にも有意義な書籍です。

 論理的な法律の書籍というよりは、さまざまな運用の感覚について理解することができます。そのため、観念的に書かれている部分があり、読み出した直後は買って失敗だったと一瞬思いました(ごめんなさい)。しかし、読み進めていくと、とても有意義な書籍だと実感します。

 例えば、パワハラは○○円位、セクハラは○○円位など、解決金額の目安が載っています。著者の実感に基づくものなので確実ではありません。そもそも裁判などの紛争はケースバイケースであり、相場に言及することは著者にとってリスクがあるはずです。それを書いてくれるのだから参考になります。読者の自己責任という視点で読めば十分に参考になります。

 パワハラがあった場合には、その行為があった時点で直ちに指導書を出しておくことが重要だと書いてあります。口頭では、事後的に指導内容を確認できないからです。最終的に退職勧奨を提示するときの資料にもなりますので、面倒でも形にしておくことが重要だと著者は指摘します。その「業務指導書(例)」もあります。また、「パワハラやセクハラの加害行為の立証という目的であれば、秘密に録音されたものでも一般的に証拠」になるので、スマホなどで秘密録音されているものだと考えた方が良いそうです。

 その他にも「休職に関する確認書」や「退職勧奨の書面」などの事例や使い方の解説もあり、実務に役立つ内容になっています。“運用”という視点において優れた書籍だと思います。 

著    者:島田 直行

出 版 社:日本法令

発 売 日:2023年10月

カテゴリー:労働法(実務書)

 

 

全訂版 労務管理における労働法上のグレーゾーンとその対応

 人事は全てがグレーだと、昔の上司に言われたことがあります。

 “全て”は、言い過ぎだけれども、一理あると思ったものです。この書籍は、人事のグレーな部分に焦点を当てることで、人事担当者の頭の中を整理してくれます。18のテーマが設定されており、中でも「労働時間、名ばかり管理職、不利益変更、退職勧奨、雇止め、同一労働同一賃金、労働者性」などは、グレー中のグレーといえるでしょう。

 例えば、何をもって労働時間とするかは、けっこう難しい問題です。「使用者の指揮命令下に置かれている時間」と言いますが、どのような状態が「指揮命令下」といえるのかというと、だんだんグレーになっていきます。「黙示の指揮命令下」という言葉もあります。上司が明確に残業を指示していなくとも黙って見過していれば、それは労働時間と認定される可能性が高まるでしょう。これは、可能性が高まるのであってケースバイケースのグレーなのです。

 この書籍に絶対的で明確な基準を求めることには無理があります。グレーな部分を論理的に突き詰めていっても、シロクロがはっきりするとは限りません。しかし、それでは人事担当者の仕事が止まってしまいます。グレーとは言いながら、いろいろなケースについて考えられる可能性を事前に勉強しておけば、実務に応用することができます。グレーゾーンで悩む人事担当者への処方箋のような書籍といえるかもしれません。 

著    者:野口 大

出 版 社:日本法令

発 売 日:2023年3月

カテゴリー:実務書(労働法)

 

 

実務詳解 職業安定法

 参考になります。

 著者が指摘するように職業安定法に関する参考書は少ないと思います。労働基準法などと比較すると人事担当者には馴染みが薄い分野かもしれません。しかし、意外に関わっている部分も多く、放っておけない分野だと言えます。

 職業安定法第44条は労働者供給事業を禁止しています。業として労働者を他の会社へ派遣すれば違法になるわけです。この形態に該当するのが出向です。ただし、出向は雇用機会の確保や企業グループ内の人事交流などの目的が明確であれば、業として行っているとはみなされません。本書は、出向の位置付けについて、知識を整理するのにも役立ってくれるでしょう。なお、労働者派遣法も例外に該当します。

 人事担当者であれば採用面接の際にメンタル疾患等の既往症について確認したいと思うことがあるかもしれません。しかし、既往症は要配慮個人情報であるため、聞いても良いのか迷うこともあるでしょう。著者は次のように書いています。「個人情報保護法上、あらかじめ本人の同意を得ることが必要であるが、その取得自体は禁止されていない。なお、本人の同意を得ることとの関係では、「回答したくなければせずともよい」等として、回答するか否かは任意の形で質問するのが妥当と考える。」このような実務的なアドバイスも記述されています。

 また、直接の関係は薄いかもしれませんが、改正職業安定法(2022年10月1日施行)は、インターネット上の求人に関する届け出や許可などの規制を強化しています。少々読みにくい部分もありますが、人事担当者として見識を高めるために有意義な書籍だと思います

著    者:倉重公太朗、白石紘一(編)

出 版 社:弘文堂

発 売 日:2023年7月

カテゴリー:実務書(労働法)

 

 

解雇の金銭解決制度に関する研究

 解雇は、様々な問題を抱えています。

 日本は、解雇の難しい国だといわれますが、実際には“いろいろ”あるようです。違法な解雇が実施され、解決金が支払われずに泣き寝入りする労働者がたくさんいます。一方、会社と労働者の信頼関係が完全に崩壊し復職する意思がなくとも、高額な和解金を手にするためにタテマエとして復職の意思を示す労働者もたくさんいます。もし、解雇の金銭解決制度があれば、このタテマエを省くことで労使ともに時間の浪費をせずに済むかもしれません。様々な状況が存在する中で厚生労働省の審議会では、解雇の金銭解決について議論が繰り返されてきました。法制化の道筋が見えるのかと思いきや、労使双方の反対で消えてしまう。この状況が続いているようにも見えます。

 複雑な状況は、日本特有の問題でもないようです。似ているところとそうでないところなど、それこそ“いろいろ”なようです。それを理解することができるのが、この書籍です。例えば、ドイツでは「勤続年数×月収×0.5」が解雇の金銭解決制度の実務上の目安になっているそうです。ただし、一律ではなく裁判所によって幅もあるようで、一言では表現できない難しい問題です。この書籍の大部分は、日独の比較考察に費やされていますが、仏、英、伊、西、墺、中、台、韓の状況も概説されます。今後、日本の解雇の金銭解決制度を考えるためには、とても有益な書籍といえるでしょう。

 本書は、日本労働法学会の奨励賞や労働問題リサーチセンターの冲永賞を受賞しており、学術的に高い評価を受けています。ただし、読みやすい一般的な書籍とは異なるので、難解な部分があるのは仕方のないことかもしれません。解雇の金銭解決制度は、今後も話題になることが確実視されるテーマですので、一歩先を進みたい熱心な人事担当者にお薦めしたいと思います。

著    者:山本 陽大

出 版 社:労働政策研究・研修機構

発 売 日:2021年12月

カテゴリー:学術書(労働法)

 

 

「元労働基準監督官」がつくる就業規則・諸規程用例集

 監督官が、どのように就業規則を見ているかがわかります。

 就業規則は会社の数だけ存在すると言ってもよいでしょう。厚生労働省の雛形などモデル就業規則はたくさん存在しますが、自社の就業規則は世の中に一つしかありません。一言一句、雛形通りに作成されていることはないものです。労働基準監督官の臨検(立入調査)があれば、自社の就業規則をチェックされることになります。その時、人事担当者は不備を指摘されたらどうしようと心配になるものです。

 就業規則に関する書籍は、山のように出版されています。どれも参考になるとは思いますが、この書籍は、元労働基準監督官たちが執筆したものなのでやや色彩が異なります。いたるところに臨検のエピソードや経験談が盛り込まれており興味深い内容になっています。それらを通して、監督官がどのように就業規則を見ているかが伝わってきます。

 この書籍は、労働基準監督官だったらここに注意して就業規則を作成するというマニュアル本です。監督官の豆知識 もたくさん出てきます。熟練の人事担当者からしても、復習や再発見につながる記述も多数あるでしょう。書籍のサイズが大きくてやや重いので、電車の中で読むのは大変かもしれませんが、臨検に備える1冊としてお薦めしたいと思います。 

著    者:玉泉孝次 ほか著

出 版 社:労働調査会

発 売 日:2022年6月

カテゴリー:実務書(労働法)

 

 

労働判例百選 [第10版]

 判例に関する良書はたくさんあるでしょう。 ですが・・・。

 江戸に八百八町、大阪に八百八橋あろうとも、コレだけは読んでおかなくてはなりません。例えば、「秋北バス事件」や「第四銀行事件」から就業規則の不利益変更を学び、「東芝柳町工場事件」や「日立メディコ事件」から有期雇用社員の雇止めなどを勉強した人事担当者が数多くいるはずです。今となっては労働契約法に規定されたものですが、それまでは、判例を知らなければ手も足も出ない分野でした。他にも判例を知らなければ対処できない人事に関する多くの分野があります。前回、第9版が出たのが2016年11月です。約5年の間に重要判例が数多くありました。例えば、「ハマキョウレックス事件」がそうです。これらなくして、同一労働同一賃金を語ることはできません。

 最高裁の判例は確定判決なので別ですが、一つひとつの裁判例が判例と呼べるレベルに達したものかどうかは、なかなかに難しい問題です。この書籍であれば、専門家が吟味し判例として扱うことに問題がないという“お墨付き”が与えられているようなものです。労働判例百選に載っているというだけで、信頼性の証になります。 

 きちんとした人事担当者になるためには、労働法だけでなく判例に関する理解も必要です。重要判例について勉強を進めたい人事担当者の皆様へお薦めしたいと思います。

著    者:村中 孝史、荒木 尚志 編

出 版 社:有斐閣

発 売 日:2022年1月

カテゴリー:実務書(労働法)

 

 

新版 残業代請求の理論と実務

 固定残業代の危うさを感じさせる書籍です。

 固定残業代としての時間外勤務手当は、違法ではありません。例えば、1箇月の残業時間を事前に20時間と設定し、その時間に相当する時間外勤務手当を毎月支給します。ある月の残業が20時間を超えれば、超えた時間分の時間外勤務手当を追加で支給し、20時間に満たない場合は20時間分の時間勤務外手当をそのまま支給することになります。

 これが、基本的な固定残業代です。最初から時間外勤務手当が加算されているので、従業員に生活残業をさせないためのメッセージを送ることができるかもしれません。仕事は時間ではなく成果でみるべきというメッセージにはなります。しかし、会社にとって人件費を減らせるメリットは一切ありません。その点において、固定残業代を採用する会社の目的はサービス残業にある、と労働基準監督署に疑われるかもしれません。ある意味で、ブラック企業のイメージが伴います。

 この書籍は、会社に対して未払いの残業代をいかにして支払わせるかという視点から書かれています。労働側弁護士がこれだけ緻密に対策を講じていることを会社は知っておくべきでしょう。固定残業代の他にも、変形労働時間制など他の労働時間管理の手法について解説されており、残業代請求の実務が詳細に記述されています。ここまで詳細に記述された書籍は少ないかもしれません。

 時間外勤務手当の削減を検討しなければならない人事担当者もいることでしょう。しかし、中途半端な知識はリスクを伴います。裁判などで授業料を払うことにならないための警告書と捉えることができるかもしれません。本書には、やや難解な部分もありますが本格的な勉強の機会になるはずで

著    者:渡辺 輝人

出 版 社:旬報社

発 売 日:2021年10月

カテゴリー:実務書(労働法)

 

 

1冊でわかる!育児・介護休業法

 またも、法改正です。

 今回の育児介護休業法の改正で注目されるのは、何と言っても「出生時育児休業」でしょう。主に男性の育児休業を活性化させるための新しい育児休業です。今までは、(1)1歳まで、(2)1歳2か月まで、(3)1歳6か月までの延長、(4)2歳までの延長という4種類の休業スタイルでした。今回の改正で、(5)出生時育児休業(産後パパ育休)が加わり5種類になったと見ることができます。法改正についていくのも大変です。

 そんな時に役立ってくれるのが、この書籍です。6年前に出版された「1冊でわかる!育児・介護休業法、均等法、雇用保険法」と同様に、シンプルで分かりやすい解説がされています。まず、法改正のポイント15件について説明されます。改正の前後を比較して、1ページに1件ずつ計15ページで構成されています。読み進むうちに迷ってしまっても、最初の15ページに戻ればOKです。体系的に網羅されているわけではなく、法改正に絞って書かれていますので、これが簡潔さを導いているのでしょう。

 育児介護休業法は、法改正を重ねることで複雑な法律になってきました。手続きについても仔細に規定されるので、社内規程の改定で苦労する人事担当者がたくさんいるはずです。育児介護休業法をある程度知っている人が法改正の概略を把握するために、この1冊を読んでみるのも良いと思います

著    者:小磯優子、高橋 克郎

出 版 社:労務行政

発 売 日:2022年3月

カテゴリー:実務書(育児介護休業法)

 

 

すぐに使える 衛生委員会の基本と実務 第2版

 超初心者向けです。でも、意外と重宝しそうです。

 常時使用する労働者が50人以上の事業場であれば、衛生委員会を組織しなければなりません。労働者の人数には、派遣労働者を含みますので注意が必要です。衛生委員会は、毎月1回以上開催し議事の概要を労働者に周知する必要があります。また、委員会のメンバーは会社が指名しますが、その半数は労働者側の推薦に基づかなければなりません。労働基準監督署の臨検があった場合には、この推薦について確認されることがありますので注意が必要でしょう。このようなことが、マンガを交えて説明されています。

 初めて衛生委員会を組織した時は、衛生委員会規程を審議するところから始まり、審議しなければならないテーマがいろいろ出てくるかもしれません。しかし、いつしかマンネリ化することはよくあることでしょう。衛生委員会は、毎月1回以上開催する必要がありますので、少なくとも1年間に12個のテーマ設定が必要です。「次回のテーマは何にすべきか?」と悩む人事担当者にとっては、ヒントになるでしょう。

 例えば、「職場における食中毒予防」というテーマが載っています。社員食堂で食中毒が発生すれば業務災害となる可能性が高いため、その予防と対応について知っておくことは重要です。簡単な内容ではありますが、このようなテーマが45個記載されています。また、年間イベントカレンダーのような表が載っており、年間計画を作成するのにも役立ちます。衛生委員会のマンネリ打破を考えている人事担当者にお薦めしたいと思います

著    者:村木 宏吉

出 版 社:労務行政

発 売 日:2020年10月

カテゴリー:実務書(安全衛生)

 

 

教養としての「労働法」入門

 読み物としても面白いと思います。

 例えば、こんな話が載っています。職業紹介は、江戸時代に広まったそうです。事業として普及した背景には、参勤交代がありました。「参勤交代では多くの人員を必要とするため、参勤交代の最中は臨時的に人員を増やす必要」があったようです。いわゆるマッチングビジネスである現在の職業紹介は、労働者派遣事業が代表的な存在ですが、参勤交代と職業紹介を結び付けて語ることができるのは、まさに教養といってよいでしょう。

 こんな話も載っています。なぜ、1日の法定労働時間は8時間なのでしょうか? 「1日は24時間で、3分の1の8時間は休息に使われるため、残りの16時間を仕事と家庭とで半分ずつに分けようとの意味が込められていた」と記述されています。既にワークライフバランスの発想が含まれていたようです。

 「教養として」というタイトルがついていますが、著者は労働法の弁護士なので、当然に実務的な内容がたくさん出てきます。例えば、指針と告示が説明されています。指針は、下部行政機関に出す通達の場合と民間に向けた要望として出されることがあるので、「誰に向けての、何のためのガイドラインなのか」その性格を確認する必要があること。告示は、国民に対する情報発信であること。どちらも法的拘束力のないものです。理解しているようで、そうでもない。微妙な知識の整理に役立ちます。

 その他にも、たくさんの国際比較が出てきます。詳細に解説されているわけではありませんが、簡単に読み流すことができます。少しだけ話の幅を広げたい、と考える人事担当者に向いている書籍かもしれません

著    者:向井 蘭  編著

出 版 社:日本実業出版社

発 売 日:2021年4月

カテゴリー:実務書(労働法)

 

 

企業組織再編と労働契約

 企業グループには再編がつきものです。合併であったり、会社分割であったり、様々な再編が実施されます。会社法の世界のことであり、人事担当者には馴染みが薄いかもしれません。しかし、ことが動き出せば、労働契約がどのように存続するかなど、人事担当者の扱うテーマにはとても重いものがあります。上場会社のようにインサイダー取引に細心の注意が必要な場合には、企業再編の情報はトップシークレットでしょう。一般の人事担当者に知らされた時には、実行までわずかの時間しか残されていないことも珍しくありません。いざ、という時に慌てないためにも事前に学んでおくことは必要です。

 著者は、元日本労働弁護団の会長であり労働側弁護士として著名な存在です。経営側弁護士に相談する人事担当者からすれば、反対側の視点で書かれた書籍になります。これがかえって分かりやすい雰囲気を醸し出しているかもしれません。企業再編に際して従業員がどのような視点を持つのかが伝わってきます。例えば、「法人格否認の法理」が出てきます。子会社の問題であっても、親会社が過度に介入していると子会社の法人格が否定されるという考え方です。その場合、親会社が当事者となり子会社の労働組合と直接交渉しなければならない場合があります。親会社の人事担当者であれば、気を付けなければならないポイントでしょう。

 企業グループで働く人事担当者にとって、他人事とは言っていられない内容のオンパレードです。比較的読みやすいと思いますので、この機会にトライしてみるのもよいと思い

著    者:徳住 堅治

出 版 社:旬報社

発 売 日:2016年4月

カテゴリー:実務書(労働法)

 

 

実践!! 業務委託契約書審査の実務

 雇用契約と業務委託契約の違いで悩むことはありませんか?

 人事担当者にとって業務委託契約は管轄外だろうと思いきや、業務委託契約書というタイトルの雇用契約があり得ます。業務委託契約であれば、仕事をする場所や遂行の方法について指揮命令されることはありません。しかし、実際には会社の指揮命令に服した形で労務を提供する、いわば「名ばかり業務委託」が存在します。法律では、明確に区分できる前提なのでしょうが、実際には広大なグレーゾーンが存在するような気もします。

 労働法は、実態に基づいて判断されますので、業務委託契約だと思っていたものが、ある日突然、雇用契約と判断されれば様々な労働法の保護が及ぶことになります。それを追いかけるのはとても大変なことです。そのリスクを避けるため、個人との業務委託契約を避ける会社も多いことでしょう。そのため、本来は人事マターではないものの、業務委託契約については初歩的な理解が必要となります。

 この書籍は、読者として法務審査担当者を想定しているようですが、比較的わかりやすく解説されていますので、人事担当者が勉強するにも有益です。人事担当者にとっては、専門科目ではなく一般教養科目のような位置づけになるかもしれません。この書籍を通して基本的な知見を得ておくのも有意義だろうと思い

著    者:出澤総合法律事務所 編

出 版 社:学陽書房

発 売 日:2019年7月

カテゴリー:実務書(民法・契約書)

 

 

第2版 これ1冊でぜんぶわかる! 労働時間制度と36協定

 「痒い所に手が届く」書籍です。

 著者は弁護士ですが、人事担当者としての経験もあり実務家の知りたい細かいところを含めて解説してくれます。例えば、次の3点などは参考になります。

 ①法律上、「事業場外みなし労働時間制」を採用することは可能だが、スマートフォンが普及した現代では、導入の前提となる「労働時間の算定が困難」とは言いにくいこと。

 ②「36協定の本社一括届」を利用したいがために、時間外労働の上限時間を無理に統一するのは法の趣旨に反するので、事務の効率化を優先しないこと。

 ③「定額残業手当」を支給する際、「営業手当」などの割増賃金であることを連想できない名称は、そもそも割増賃金として支払われたものといえるのか、という裁判上の争点を増やしてしまうため「手当の名称」にも気を配ること。

 昨今、労働基準監督署の臨検では「事業場外みなし労働時間制」に対して厳しい視線が注がれていることを実感します。実務上、判断に迷うケースも出てくるため上記のようにはっきり記述してもらえると、見直しのきっかけになるかもしれません。

 この書籍は、新しい何かが書かれているわけではないのですが、厚生労働省の公表するパンフレットに「もう一言」を付け加えた感じです。簡単に読むことができます。いろいろな参考書に手を出す前に、取りあえずおさえておきたい情報です。新任の人事担当者にお薦めしたいと思いま

著    者:神内 伸浩

出 版 社:労務行政

発 売 日:2021年7月

カテゴリー:実務書(労働法)

 

 

逐条解説 労働基準法

 うすくて使いやすいです。とはいっても、400ページは超えています。

 法律の解説書といえば、法律の条文を一つずつ丁寧に解説してくれるコンメンタールが基本でしょう。コンメンタールはドイツ語だそうです。労働基準法のコンメンタールといえば、厚生労働省労働基準局編の『労働基準法(上)(下)』が最も重要な書籍でしょう。このコンメンタールは、上下巻合わせて1,114ページ、約1.5㎏、14,038円(2021年7月19日現在)であり、とても持ち歩ける書籍という感じではありません。その点において、携帯が可能なコンメンタールとして、実務に耐えるのがこの書籍です。

 もちろん、軽さが売りではありません。例えば、「労働時間とは何か」という項目を立て、「労基法には労働時間を定義する規定がないので、労働時間をどう定義するかについては議論があるところである。」と解説してくれます。とても助かる記述です。自分では理解していても、人事担当者があまり知識のない従業員に法律を説明する場合、分かりやすい参考資料を探すのは大変です。そういったとき、簡単に説明してくれる資料になります。厚生労働省のコンメンタールは、やや敷居が高いので、この書籍ならきっとお役に立つでしょう。

 著者は、元労働基準監督官です。監督官がどのように労働基準法を解釈しているのかを知る重要な資料にもなります。労働基準監督署の臨検があった時には、とても参考なるでしょう。何冊か労働基準法に関する入門書を読破し、さらに細かく勉強したいと考える人事担当者にとっては、“うってつけ”の1冊で

著    者:角森 洋子

出 版 社:経営書院

発 売 日:2019年12月

カテゴリー:実務書(労働法)