有期雇用法制 ベーシックス

 有期雇用について勉強したい人事担当者にお薦めです。

 改正労働契約法が施行され有期雇用法制が注目されている中、“期間の定めのある従業員”の労務管理は重要なテーマになっています。この書籍は、有期雇用法制に焦点を絞り、労働基準法14条(契約期間等)、労働契約法17条(契約期間中の解雇等)、18条(有期労働契約の期間の定めのない労働契約への転換)、19条(有期労働契約の更新等)、20条(期間の定めがあることによる不合理な労働条件の禁止)、について逐条解説しています。

 労働法に関する書籍には、基本事項を“広く浅く”解説しているものがたくさんありますが、それだけでは満足できない人事担当者も多いのではないでしょうか。その点では労働法の研究者が改正労働契約法の影響についてポイントを整理し、“狭く深く” 解説しているのでとても参考になります。また、改正労働契約法18条の“5年無期転換ルール”について、諸外国の状況にもふれています。日本では5年を超えて労働契約を反復更新すると従業員に無期転換権が発生しますが、ドイツは2年、オランダは3年、イギリスは4年、韓国は2年だそうです。

 昨今、ジョブ型正社員も話題となっており、“期間の定めのある従業員”と“いわゆる正社員”との位置関係を明確にする必要性に迫られています。これからの雇用区分を考えていくには、気になる1冊といえるでしょう

著    者:荒木尚志 編著

出 版 社:有斐閣

発 売 日:2014年6月

カテゴリー:学術書(労働法)

 

 

労働法入門 新版

 「フランスの皇帝ナポレオン・ボナパルトには、甥がいた。」 

 この本の2ページ目です。けっしてフランスの歴史本ではありません。労働法にとっては、ナポレオンに甥がいようといまいと関係ない話ですが、後にナポレオン三世となるこの甥は、当時の労働者の現状を分析した書籍を執筆していたそうです。このような歴史上の人物を登場させながら、労働法が成立していく背景が解説されています。一方、はしがきには働くよりも趣味に生きる「末広さん」が登場します。仕事の都合で休暇の予定を変更するよう上司から言われ、悩むシーンが出てきます。もし「末広さん」がフランスで働いていたならば、そんな問題は起こらないそうです。このような例を通して日本の労働法の特色を解説してくれます。

 ただわかりやすく労働法をなぞっただけでは、読者に興味を持ってもらえないので工夫をしたそうです。もちろん興味をひくだけでなく、体系的に労働法がわかりやすく解説されています。そして、最後の部分では「国家」と「個人」と「集団」の組み合わせを論じ、これからの労働法改革の方向性が示されています。明確に書かれてはいませんが、従来の労働組合とは異なる“労使協議制の法制化”を提言しています。

 “労働法入門”というタイトルの本はたくさんありますが、手始めの1冊として万人にお薦めできる本だといえるかもしれません

著    者:水町勇一郎

出 版 社:岩波書店

発 売 日:2019年6月

カテゴリー:新書(労働法)

 

 

元法制局キャリアが教える 法律を読む技術・学ぶ技術 [改訂第3版]

 「及び」と「並びに」の使い方に問題はありませんか?

 話し言葉であれば、気にするほどのことはないでしょうが、社内通達を発信する人事部のような部署で文案を作成する担当者であれば、必要になってくるかもしれません。この点について著者は、次のように記述しています。

 『 「及び」は一番小さなグループ分けのときだけに使い、その他のグループ分けのときには「並びに」を使ってその意味を表します。「鉛筆及び消しゴム並びにお弁当を忘れずに・・・」という具合です。「並びに」は、その部分でグループ分けがあるという合図といえるのです。』

 非常にわかりやすい解説だと思います。その他にも、「みなす」と「推定する」や「却下」と「棄却」の違いなど、知っていると重宝しそうな豆知識のオンパレードです。著者は、衆議院法制局で働いた経験を活かしてこの書籍を執筆したそうですが、平易な言葉を用いて読みやすく、専門書といった雰囲気はあまり感じません。手軽に読むことができますので、若手人事担当者の勉強用、“又は”ベテラン担当者の知識の整理にいかがでしょうか?(ちなみに、この“又は”と“若しくは”の使用法も解説されています。)

著    者:吉田 利宏

出 版 社:ダイヤモンド社

発 売 日:2016年5月

カテゴリー:実務書(法律)

 

 

労働法 第7版

 今までの労働法学者とは、一味違います。

 ホテルで実施されるようなセミナーでもジーンズで登壇し、この人は本当に東京大学の教授なのだろうか、と疑問に思わせておいて、カラタケを割ったような解説に頷かされてしまいます。労働法は難しいと感じても良いはずなのに、あまりそういう感覚にとらわれないのは、著者の情報処理能力とそのルックスが、スマートだからかもしれません。このような著者が執筆した労働法のテキストが、この書籍です。

 労働法のテキストでありながら、第1編では労働経済学が登場し、いわゆる三種の神器と呼ばれる「長期雇用慣行、年功的処遇、企業別労働組合」が解説されています。また、労働経済学の重鎮である小池和男先生の「仕事の経済学」から日欧比較の賃金グラフを引用し、年功賃金を分かりやすく解説してくれています。著者曰く、「労働法をめぐる問題を考察するにあたっては、その基盤にあるものに思いを致すことが重要」だからだそうです。このような読み手に対する配慮もあり、非常に分かりやすいと評判で、既に第7版になりました。

 労働法のテキストと言えば、まず思い浮かぶのは菅野和夫先生の「労働法」ですが、そのボリュームに圧倒されハードルが高いと感じる人事担当者も多いかもしれません。そういう場合は、まずこの書籍から読んでみるのも良いでしょう。ただし、この書籍も500ページを超えていますので、それなりの努力は必要です。体系的に労働法を理解するために本気で勉強したいが時間も節約したい。そのような人事担当者に向いているかもしれません

著    者:水町勇一郎

出 版 社:有斐閣

発 売 日:2018年3月

カテゴリー:学術書(労働法)

 

 

実務の現場からみた労働行政

 いしざき節満開です。

 労働法弁護士として有名な著者が、「サービス残業、偽装請負、名ばかり管理職」の3つの側面から語ったものであり、行政指導を是として解説する他の書籍とは一線を画しています。目次を見ると、次のようなタイトルが並んでおり、これだけでも他の書籍とは違う雰囲気を感じます。

 「 行政には「頭を下げていうことを聞くな」 」

 「 確定していない判決に振り回されてはいけない 」

 「 自社の足元をしっかり見る 」

 「 問題の本質は労働者の「安全と健康」にある 」

 やや過激な表現もありますが、いちいち納得させられる解説がなされていると思われます。

 サービス残業問題で悩む人事担当者もいらっしゃるでしょう。この書籍の123ページ以降では、サービス残業に関する遡及支払期間は、2年間ではなく3箇月間を前提とするべき、との貴重なアドバイスがされています。ひょっとすると、朗報になるかもしれません。その他、管理監督者についても詳細に解説されており、他の専門書よりも一歩深く踏み込んでいると評することができるでしょう。

 終盤のページには、次のような記述があります。「もう還暦を迎えたのですから、「労働行政被害110番」をつくりたいくらいなのです。」 なかなかここまで、言う人は少ないでしょう。法律を順守しようとするがゆえに、行政の行き過ぎた指導に警鐘を鳴らしているのだと思います。労働法に関する書籍としては、珍しいタイプだとは思いますが、違う角度から臨むことで、人事担当者としての実務能力を高めてくれる書籍といえるでしょう。

著    者:石嵜信憲

出 版 社:中央経済社

発 売 日:2009年6月

カテゴリー:実務書(労働法)

 

 

労働審判制度の利用者調査 〜実証分析と提言

 “早くて、おいしい。” 

 牛丼ではなく、労働審判制度の満足度です。この書籍は、東京大学社会科学研究所の実施した「労働審判制度利用者調査」について、分析・提言としてまとめられたものです。労働審判制度については、“和解金は?” “弁護士費用は?” など、利用したことのない企業にとっては分からないことがたくさんあります。労働審判はその迅速性から大変高い評価を受けていると言われてきましたが、本当はどうなのかを教えてくれる書籍です。

 例えば、解決金については、使用者側・労働者側とも全体の約8割が200万円未満の金額帯に属し、結果の評価については、労働者側では59.5%が「満足している」と回答しているのに対し、使用者側では52.5%が「満足していない」と回答しており、結果の評価が逆転しています。また、弁護士費用については、使用者側・労働者側とも約半数が“高い”と回答しており、その理由についても丁寧に考察されています。

 分析編では経済学的アプローチからやや難解なところもありますが、貴重なデータのオンパレードですので、個別労働紛争が気になる人事担当者にとっては、必須の1冊といえるかもしれません。

著    者:菅野 和夫、仁田 道夫、佐藤 岩夫、水町 勇一郎 編著

出 版 社:有斐閣

発 売 日:2013年3月

カテゴリー:学術書(労働審判の制度分析)

 

 

賃金の法律知識

 賃金に関する素朴な疑問は、たくさんありますよね。

 給与計算の仕事をしていると “ふと、気になること“ が出てきて、掘り下げたくてもつい業務をこなすことが優先になってしまう。そんなことを感じる人事担当者も多いのではないでしょうか。例えば、“賃金は月1回以上支払わなければならないのに、なぜ通勤手当は6箇月ごとに支給することが違法にならないのか?” これは、労働基準法の賃金5原則に反した取り扱いですが、実務ではよくあるお話です。

 このようなQ&A形式で、明確に解説してくれるのが本書です。数ある賃金の解説書の中でもこれほど分かりやすく記述している書籍は、そんなに多くはありません。 著者は元労働基準監督官だけあって細かな実務の積み上げから書かれており納得させられます。

 給与計算の担当者なら手元に置いておきたい1冊となるでしょう

著    者:中川 恒彦

出 版 社:労働法令協会

発 売 日:2005年9月

カテゴリー:実務書(労働法)

 

 

部下をもつ人のための人事・労務の法律〈第6版〉

 “人事担当者の入門書”ではありません。

 管理職になると部下の労務管理を担当するわけですから、労働基準法の基本的なことを知っていないといけないでしょう。また、会社と部下の間に立ってマネジメントをするには、管理職の職務権限や契約に関する知識なども必要です。

 労働法の解説書は、探せばいくらでもあるわけですが、入門書と言いながら難解だったり、詳細な部分にこだわったりする書籍も多いと思います。部下に接する上司のための法律書は意外に少ないのではないでしょうか。この点について著者である安西先生は「そこで、部下をもつ人のために必要な法律上の知識のうち、基本的な事項をまとめたものが本書です。」と、範囲を限定したことを記しています。いわば、“上司になったら読む本”といっても過言ではないでしょう。

 新書ですから気軽に読むこともできますので、人事部門から各部門の管理職へお薦めできる副読本として、ご紹介いただくと良いかもしれません。 

著    者:安西 愈(あんざい まさる)

出 版 社:日本経済新聞出版社

発 売 日:2016年11月

カテゴリー:新書(労働法)

 

 

労働事件審理ノート[第3版]

 裁判官の引継書であり、労働裁判のバイブルとして弁護士に愛用されている書籍です。

 他の訴訟と比較して労働裁判を担当することは、裁判官であっても大変な苦労を伴うらしく、「労働事件で得た知識、ノウハウは、先任の裁判官から後任の裁判官に引き継がれることもなく、後任の裁判官は、先任の裁判官と同じ苦労を繰り返すのが常」だそうです。そのため、先輩裁判官が後輩への技能伝承のために書いた引継書とでも言うべき性格をもった書籍です。

 解雇など事件の類型ごとに、1.要件事実→ 2.典型的な争点→ 3.基本的な事実関係→ 4.基本的な書証→ 5.訴訟運営上のポイント→ 6.関連書式という流れで構成されており、裁判のことを詳しく知らない者にもわかりやすく記述されています。中でも、裁判の証拠として提出すべき必要な書類が列挙されていますので、“いざ”という時の準備には、とても参考になるでしょう。

 昨今、個別労働紛争が増加していますので、人事担当者のたしなみとして読んでおくのも良いのではないでしょうか。 

著    者:山口 幸雄、三代川 三千代、難波 孝一 編

出 版 社:判例タイムズ社

発 売 日:2016年12月

カテゴリー:実務書(労働法)

 

 

新しい労使関係のための 労働時間・休日・休暇の法律実務 [全訂7版]

 『採用から退職までの法律知識』は、もう読みましたか?

 労働法のバイブルとして名高い書籍ですので、既に熟読されている人も多いことでしょう。実は、もう1冊、姉妹本とも言うべき実務書が、この本です。

 “採用から退職までの法律知識”は、タイトル通り人事全般の解説書になっていますが、その労働時間関連の“部分”を更に詳細に述べたものです。かの本も1,000ページを超えるボリュームですが、この本はそれ以上で、机に寝かせて置くよりも、立たせておいた方が使いやすい、という本です(そして重い)。

 事業場外みなし労働や裁量労働など、“もう一言の説明”が欲しい人、または、労働基準法に関する本を何冊も読んだけれども、未だ満足できない納得できない、そんな人向けの本です。労働時間に関して、この本よりも詳細に記述しているものはなかなかありません。人事としての一般的な知識範囲を超えており、プロユースといったところでしょうか。

 労働時間に関する知識を自分の武器として、キャリアを重ねたい人事担当者にお薦めしたいと思います。 

著    者:安西 愈(あんざい まさる)

出 版 社:中央経済社

発 売 日:2010年7月

カテゴリー:実務書(労働法)

 

 

詳説 労働契約法 [第2版]

 「小さく生んで大きく育てる」

と、労働契約法の成立時に、この書籍の著者の1人である菅野先生は、おっしゃったそうです。

 労働契約法は施行時点で全19条、非常に小さな法律です。新しいことが書いてあるわけではなく、判例で既に固まっているものを、法律の形にしただけだと非難する人もいたようです。しかし、この法律も改正法が成立し、順調に育っているといえるのかもしれません。

 労働契約法は、就業規則の不利益変更、解雇、雇い止め、など人事担当者として熟知しておかなければならないものが盛りだくさんです。しかし、文章量は少なく条文を読んだだけでは、その背景にあるものを理解することはできないでしょう。ですので、何らかの解説書が必要になります。

 この書籍の巻末には、研究会の報告書や審議会の答申などが、参考資料として付属しており、法成立までの経緯を追うことも可能です。日本の労働法を代表する3人の研究者による書籍であり、クオリティに心配はありません。

 この機会に、労働契約法をマスターしたいと思われる人事担当者にお薦めしたいと思います。

著    者:荒木尚志、菅野和夫、山川隆一

出 版 社:弘文堂

発 売 日:2014年5月

カテゴリー:学術書(労働法)

 

 

日本の雇用と労働法

 本を嫌いな方にお薦めします。だって新書ですから・・・。

 著者である通称“hamachan先生”といえば、超一流の研究者でありながら、キングブロガーの異名を持つ一風変わった出で立ちの方です。この先生のホームページをチェックしている専門家も多いことでしょう。

 日本はメンバーシップ型の雇用契約を結ぶ国であり、欧米流のジョブ型の雇用契約とは異なる雇用システムを持つ。ここから、この本はスタートします。この“メンバーシップ型” 雇用契約は、一言で日本の雇用システムの多くを物語っています。

 法政大学の授業用に執筆されたとのことですが、新書でありながら雇用システム、歴史、労働法と、よくこのスペースに押し込むことができると感心させられます。新書とは異なる次元に存在する書物だと思った方が良いでしょう。

 労働法を苦手としている人でも、この本なら好きになれるかもしれません。それだけ、分かりやすく面白く、深く、本当に勉強になる本です。

著    者:濱口 桂一郎

出 版 社:日本経済新聞出版社

発 売 日:2011年9月

カテゴリー:新書(雇用と労働法)

 

 

トップ・ミドルのための採用から退職までの法律知識 [14訂]

 労働法の弁護士では、ナンバー1とされる安西愈先生の書籍です。

 安西先生は、素晴らしいキャリアをお持ちの方で、高校卒業後、労働基準局で仕事をしながら中央大学法学部の通信教育課程を卒業、労働基準監督官として勤務の後、司法試験に合格し弁護士登録をされています。この経歴からしても尊敬に値する人物だと感じさせられます。

 この本はタイトルにある通り、採用から退職に至るまでの企業内で起こる様々な人事問題を網羅しており、人事のバイブルとまで呼ばれる実務書です。様々な法改正にもタイムリーに対応しており、現在14訂ということからしても、万人に評価されたロングセラーだということがよくわかります。

 この本は人事担当者に限らず、若手からベテランまで読者を選びません。また、1,000ページを超えるボリュームとなっていますので、通読する時間のない人には、問題への対応の都度、事典として利用することも有意義だと思われます。

 他の参考書を数冊購入する位なら、これを手元に置くだけで十分だと言ってよいでしょう。人事部署には、必ず常備すべき実務書と言っても過言ではない、究極の1冊です。

著    者:安西 愈(あんざい まさる)

出 版 社:中央経済社

発 売 日:2013年9月

カテゴリー:実務書(労働法)