Q&A 人事・労務専門家のための税務知識<第3版>

 税務で苦労している人事担当者はいらっしゃいませんか?

 人事担当者は、税金の専門家というわけではないでしょうが、所得税や住民税を源泉徴収し年末調整を実施している人がたくさんいると思います。労働法のような深い知識は必要ではないにしても、それ相応の知識は必要でしょう。従業員からいろいろ聞かれたりしますので、苦労する人も多いと思います。

 そんな時、オールマイティーに役立ってくれるのが本書です。例えば、「控除証明書が間に合わない時の年末調整」、「定年再雇用時の退職金」、「従業員が死亡した時の退職金」、「海外出張に配偶者が同伴した時」、「副業がある場合の源泉徴収」など、税務上どのように対処すればよいのでしょうか。このような様々なケースに対応するためのQ&Aが、200以上載っています。もちろん全てのケースに対応できるわけではありませんが、第一段階の一通りのことには対処できると思います。本書の構成は、平凡なものですが地味に役に立ってくれます。

 著者は、社会保険労務士、かつ、税理士です。人事を理解した上で税務を解説してくれるので分かりやすくなっているのだと思います。労務管理のための税務について簡便に書かれた書籍は、少ないのが実態ではないでしょうか。1度手に取っていただくと良いかもしれません。 

著    者:安田 大

出 版 社:中央経済社

発 売 日:2012年5月

カテゴリー:実務書(税法)

 

 

監督署は怖くない! 労務管理の要点

 「監督署は怖くない」のだそうです。

 そうはいっても、労働基準監督官に書類送検をされた結果、大手企業の社長が辞任に追い込まれるこのご時世です。労働基準監督官の臨検(立入調査)を歓迎する人事担当者はいないでしょう。そして、労働基準監督官は、ある日突然やって来ます。会社が臨検を断ることはできません。逃げられないのであれば、正面から向き合う他ないのかもしれません。

 労働基準監督官の臨検は、ランダムに実施されるわけではありません。厚生労働省が策定する「地方労働行政運営方針」および都道府県労働局が策定する「行政運営方針」を踏まえて、毎年、監督指導計画が作成されます。この書籍には、外部の人間では分かりにくい監督指導計画書の具体例があったり、サービス残業などの未払い賃金の遡及期間に関する説明があったり、大変役立ちます。また、労働基準法の前身である工場法時代の監督制度に関する解説もされていますし、最近の厚生労働省の対応状況も紹介されています。

 単なるノウハウ本ではなく、人事担当者が知りたい“もう一歩”について言及されているので、とても参考になるでしょう。労働基準監督官の臨検に対して正面から向き合うために、自己研鑽に励む人事担当者にお勧めしたいと思います。 

著    者:角森 洋子

出 版 社:労働調査会

発 売 日:2016年9月

カテゴリー:実務書(労働行政)

 

 

労働条件変更の基本と実務

 「第四銀行事件」と「みちのく銀行事件」は、両方とも55歳以降の賃金が減額された銀行の事案です。過半数組合の同意が得られている点も共通しています。しかし、前者では変更が有効とされ、後者では無効とされました。判例中の判例ともいうべき2つの裁判ですが、いわゆる“不利益変更”の問題です。人事担当者なので、私は知っている。けれども、いざ思いだしてみると「何だっけ?」というような事柄をズバッと明快に解説してくれる書籍です。

 就業規則の不利益変更で悩む人事担当者も多いかもしれません。例えば、休職と復職を繰り返す従業員について、前後の休職期間の通算規定を改めて設ける場合です。これは、不利益変更に該当しますので、簡単なことではありません。しかし、不可能というわけでもありません。この他にも、さまざまな労働条件の不利益変更について、裁判例の解説にとどまることなく実務的な対応方法を交えながら、考え方を解説してくれます。

 不利益変更について解説する書籍はたくさんあると思いますが、ここまで分かりやすいものは多くはないと思います。具体的な事例にかなり踏み込んだ解説もされています。また、合併により2社の労働条件を統一する場合などは、少なからず不利益変更の問題がでてきますが、そのような時にも役立つでしょう。久しぶりにアンダーラインを引きまくった書籍です。お勧めできる1冊だと思います

著    者:石嵜 信憲 編著、橘 大樹・石嵜 裕美子 著

出 版 社:中央経済社

発 売 日:2016年9月

カテゴリー:実務書(労働法)

 

 

取締役の法律知識<第3版>

 人事の本ではなく、取締役の本です。

 著者は、この書籍の第1の特徴として「取締役会に出席したとき、1人で決定するときなど、具体的な場面に即して」、「経営判断の原則」について、力を注いで解説したことを挙げています。取締役として知って置かねばならないことが書かれているわけです。ですので、取締役ではない人事担当者には、直接関係なさそうです。ところがどっこい、これが結構、参考になるのです。

 例えば、取締役、執行役、監査役、それぞれの違いと役割を解説してくれます。そして、執行役は会社法上のものですが、執行役員は法律上のものではないので、会社ごとに定義が異なります。そのため、会社によっては経営者に近い存在であるケースもあれば、従業員に近い場合もあり得ます。また、従業員との雇用契約に基づく「給与」が「労働の対価」であるのに対し、取締役との委任契約に基づく「報酬」は、経営のプロとしての「業務遂行の対価」である点が異なると解説されています。会社法が改正され、ますます理解が困難になる中、分かりやすく解説してくれるのでありがたいです。

 専門分野ではないものの、新聞レベルよりはもう少し知識を持っていたい。そんな人事担当者にお薦めできる書籍です。新書ですので、手軽に素早く知識を習得することができるでしょう

著    者:中島 茂

出 版 社:日本経済新聞出版社

発 売 日:2015年4月

カテゴリー:新書(会社法)

 

 

会社が「泣き」を見ないための労働法入門

 サッと読むのにちょうど良いと思います。

 労働法を体系的に学ぶというよりは、“会社が「泣き」を見ないため”特定のトピックに焦点を絞った書籍です。ブラック企業や過重労働など最近の動向を念頭に置き、以下のような章構成になっています。

 第1章:「ブラック企業」問題

 第2章:サービス残業

 第3章:過重労働

 第4章:パワーハラスメント

 第5章:若者の使い捨て

 第6章:その他の課題(追い出し行為等)

 第7章:ブラック企業と思われない組織づくり

 タイトル通り、入門書として書かれていますので詳細な部分までは立ち入らず、適切な文章量と平易な言葉使いのおかげで簡単に理解することができます。分かりやすさを重要視しているのでしょう。人事担当者が読むだけでなく、部下を抱える管理職に読んでもらうのもよいと思います。

 著者である北岡先生は、元労働基準監督官であり行政から見た視点が活かされていると思います。いわば、監督官から会社へのアドバイス集といえるかもしれません。入門書とは言いながら必要な情報も揃っていますので、あまり労働法に詳しくない人が、とりあえず1冊よみたいときに適しているような気がします

著    者:北岡 大介

出 版 社:日本実業出版社

発 売 日:2014年5月

カテゴリー:実務書(労働法)

 

 

「雇止めルール」のすべて

 2018年問題への対応はお済みですか?

 2018年問題とは、2013年4月に施行された改正労働契約法が5年を経過し、有期雇用従業員が無期転換権を行使できることを指しています。つまり、反復更新された労働契約が5年を超えた場合には、契約社員が正社員に近い存在になることを意味します。仮に、それを回避したい会社は、5年を経過する前に「雇止め」を実施するでしょう。その「雇止め」は有効になるのでしょうか?そもそも「雇止め」はどのような場合に、有効とされるのでしょうか。著者は、「雇止め」に関する基本について解説し、このような疑問に答えてくれます。

 また、この書籍では7つの要素から「雇止め」の効力をスコア化し、その有効性を検証する試みが為されています。次の事例であれば、「合計3点で、雇止めは無効になる」ことが予想されます。これら7つの要素から100件以上の裁判例について検証したコメントが載っているのです。自社の「雇止め」が有効とされる可能性が高いか否かの予想に役立つでしょう。

①永続性のある業務を担当している                   ±0点

②更新回数3回以上または通算雇用期間が3年超             +1点

③正社員とは、職務の点でも、権限・責任の点でも異なる          -1点

④毎回、契約書を作成しているが、面談や成績の検証はしていない     ±0点

⑤特段の事情がない限り更新するのを原則としている             +2点

⑥上司による更新を期待させる言動があった               +1点

⑦本件雇止め以前に、雇止めの実績がいくつかある            ±0点

 「雇止め」の問題で頭を悩ませている人事担当者はたくさんいるでしょう。2018年問題への対応も含め、「期間の定めのある労働契約」について、今後の方向性を見定める重要な参考書といえそうです

著    者:渡邊 岳

出 版 社:日本法令

発 売 日:2012年12月

カテゴリー:実務書(労働法)

 

 

労働基準監督署への対応と職場改善

 来てほしくないもの、でしょう。

 労働基準法の番人とされる労働基準監督官は、ある日突然やって来ます。それは、労働基準監督署が実施する臨検のことです。臨検が実施された事業場では、是正勧告書が発せられているケースが多くあります。そして、会社が是正勧告書を受け取ると、法違反状態を是正し指定された期日までにその報告書を提出しなければなりません。ただでさえ通常の業務で忙しい人事担当者にとっては、できれば避けて通りたいと思うところでしょう。そのような時の対処法が書かれた書籍です。是正勧告書のサンプルやその解説が少ないのは残念ですが、著者は元労働基準監督官であり、長年、臨検を実施してきた立場から、臨検や労働基準法などについて丁寧に解説してくれます。

 また、この書籍に中には、「コーヒー・ブレイク」というコラムが16箇所登場します。過去にあった出来事を記述しているのですが、労働基準監督官としての感想が記されており、現場の雰囲気が伝わってきます。その中で、労働基準監督官として初めて臨検を実施した時の記述があります。「緊張して見れども見えずという状態で、社長さんの話を聞くのが精一杯」だったそうです。労働基準監督官も人間だな〜、と親近感がわくでしょう。

 労働基準監督署への対策本で1冊購入したいとき、迷ったらこの書籍はいかがでしょうか

著    者:角森 洋子

出 版 社:労働調査会

発 売 日:2010年7月

カテゴリー:実務書(労働行政)

 

 

日本の雇用終了 〜労働局あっせん事例から

 日本は解雇規制の厳しい国だといわれることがありますが、本当はそうでもない実態が描かれています。

 この書籍は、厚生労働省からデータ提供を受けた研究者が、労働局で扱われた「あっせん」事例について、詳細に事例分析をしたものです。申請内容の内訳では、「雇用終了」が66.1%、「いじめ・嫌がらせ」が22.7%、「労働条件引下げ」が11.2%となっており、「雇用終了」に関する事案が特に多くなっているのがわかります。

 まず、気になるのは「あっせん」が成立した場合の解決金額で、72.8%が「40万円未満」で解決しています。また、「10万円以上20万円未満」で解決したものが最も多く24.3%を占めています。労働審判では、全体の約8割が200万円未満の金額帯に属していることと比較すると相場の違いに驚かされます。

 その他には、次の記述も気になります。

 「雇用終了に至る最大の原因がそれら「能力」自体よりも、会社の側からみて許し難い「態度」の不良性にある」(P103)

 「解決金額は当事者の態度(気迫)によって左右される」(P233)

 解雇などの問題について判例を参照する人事担当者は多いと思いますが、そういった表舞台に出てこない事例が山のように登場します。労働法の世界だけでは語れない世の中の実態を勉強するのに大変役立つ書籍といえるでしょう

著    者:労働政策研究研修機構 編

出 版 社:労働政策研究研修機構

発 売 日:2012年3月

カテゴリー:学術書(個別労働紛争)

 

 

有期雇用法制 ベーシックス

 有期雇用について勉強したい人事担当者にお薦めです。

 改正労働契約法が施行され有期雇用法制が注目されている中、“期間の定めのある従業員”の労務管理は重要なテーマになっています。この書籍は、有期雇用法制に焦点を絞り、労働基準法14条(契約期間等)、労働契約法17条(契約期間中の解雇等)、18条(有期労働契約の期間の定めのない労働契約への転換)、19条(有期労働契約の更新等)、20条(期間の定めがあることによる不合理な労働条件の禁止)、について逐条解説しています。

 労働法に関する書籍には、基本事項を“広く浅く”解説しているものがたくさんありますが、それだけでは満足できない人事担当者も多いのではないでしょうか。その点では労働法の研究者が改正労働契約法の影響についてポイントを整理し、“狭く深く” 解説しているのでとても参考になります。また、改正労働契約法18条の“5年無期転換ルール”について、諸外国の状況にもふれています。日本では5年を超えて労働契約を反復更新すると従業員に無期転換権が発生しますが、ドイツは2年、オランダは3年、イギリスは4年、韓国は2年だそうです。

 昨今、ジョブ型正社員も話題となっており、“期間の定めのある従業員”と“いわゆる正社員”との位置関係を明確にする必要性に迫られています。これからの雇用区分を考えていくには、気になる1冊といえるでしょう

著    者:荒木尚志 編著

出 版 社:有斐閣

発 売 日:2014年6月

カテゴリー:学術書(労働法)

 

 

労働法入門 新版

 「フランスの皇帝ナポレオン・ボナパルトには、甥がいた。」 

 この本の2ページ目です。けっしてフランスの歴史本ではありません。労働法にとっては、ナポレオンに甥がいようといまいと関係ない話ですが、後にナポレオン三世となるこの甥は、当時の労働者の現状を分析した書籍を執筆していたそうです。このような歴史上の人物を登場させながら、労働法が成立していく背景が解説されています。一方、はしがきには働くよりも趣味に生きる「末広さん」が登場します。仕事の都合で休暇の予定を変更するよう上司から言われ、悩むシーンが出てきます。もし「末広さん」がフランスで働いていたならば、そんな問題は起こらないそうです。このような例を通して日本の労働法の特色を解説してくれます。

 ただわかりやすく労働法をなぞっただけでは、読者に興味を持ってもらえないので工夫をしたそうです。もちろん興味をひくだけでなく、体系的に労働法がわかりやすく解説されています。そして、最後の部分では「国家」と「個人」と「集団」の組み合わせを論じ、これからの労働法改革の方向性が示されています。明確に書かれてはいませんが、従来の労働組合とは異なる“労使協議制の法制化”を提言しています。

 “労働法入門”というタイトルの本はたくさんありますが、手始めの1冊として万人にお薦めできる本だといえるかもしれません

著    者:水町勇一郎

出 版 社:岩波書店

発 売 日:2019年6月

カテゴリー:新書(労働法)

 

 

元法制局キャリアが教える 法律を読む技術・学ぶ技術 [改訂第3版]

 「及び」と「並びに」の使い方に問題はありませんか?

 話し言葉であれば、気にするほどのことはないでしょうが、社内通達を発信する人事部のような部署で文案を作成する担当者であれば、必要になってくるかもしれません。この点について著者は、次のように記述しています。

 『 「及び」は一番小さなグループ分けのときだけに使い、その他のグループ分けのときには「並びに」を使ってその意味を表します。「鉛筆及び消しゴム並びにお弁当を忘れずに・・・」という具合です。「並びに」は、その部分でグループ分けがあるという合図といえるのです。』

 非常にわかりやすい解説だと思います。その他にも、「みなす」と「推定する」や「却下」と「棄却」の違いなど、知っていると重宝しそうな豆知識のオンパレードです。著者は、衆議院法制局で働いた経験を活かしてこの書籍を執筆したそうですが、平易な言葉を用いて読みやすく、専門書といった雰囲気はあまり感じません。手軽に読むことができますので、若手人事担当者の勉強用、“又は”ベテラン担当者の知識の整理にいかがでしょうか?(ちなみに、この“又は”と“若しくは”の使用法も解説されています。)

著    者:吉田 利宏

出 版 社:ダイヤモンド社

発 売 日:2016年5月

カテゴリー:実務書(法律)

 

 

労働法 第7版

 今までの労働法学者とは、一味違います。

 ホテルで実施されるようなセミナーでもジーンズで登壇し、この人は本当に東京大学の教授なのだろうか、と疑問に思わせておいて、カラタケを割ったような解説に頷かされてしまいます。労働法は難しいと感じても良いはずなのに、あまりそういう感覚にとらわれないのは、著者の情報処理能力とそのルックスが、スマートだからかもしれません。このような著者が執筆した労働法のテキストが、この書籍です。

 労働法のテキストでありながら、第1編では労働経済学が登場し、いわゆる三種の神器と呼ばれる「長期雇用慣行、年功的処遇、企業別労働組合」が解説されています。また、労働経済学の重鎮である小池和男先生の「仕事の経済学」から日欧比較の賃金グラフを引用し、年功賃金を分かりやすく解説してくれています。著者曰く、「労働法をめぐる問題を考察するにあたっては、その基盤にあるものに思いを致すことが重要」だからだそうです。このような読み手に対する配慮もあり、非常に分かりやすいと評判で、既に第7版になりました。

 労働法のテキストと言えば、まず思い浮かぶのは菅野和夫先生の「労働法」ですが、そのボリュームに圧倒されハードルが高いと感じる人事担当者も多いかもしれません。そういう場合は、まずこの書籍から読んでみるのも良いでしょう。ただし、この書籍も500ページを超えていますので、それなりの努力は必要です。体系的に労働法を理解するために本気で勉強したいが時間も節約したい。そのような人事担当者に向いているかもしれません

著    者:水町勇一郎

出 版 社:有斐閣

発 売 日:2018年3月

カテゴリー:学術書(労働法)

 

 

実務の現場からみた労働行政

 いしざき節満開です。

 労働法弁護士として有名な著者が、「サービス残業、偽装請負、名ばかり管理職」の3つの側面から語ったものであり、行政指導を是として解説する他の書籍とは一線を画しています。目次を見ると、次のようなタイトルが並んでおり、これだけでも他の書籍とは違う雰囲気を感じます。

 「 行政には「頭を下げていうことを聞くな」 」

 「 確定していない判決に振り回されてはいけない 」

 「 自社の足元をしっかり見る 」

 「 問題の本質は労働者の「安全と健康」にある 」

 やや過激な表現もありますが、いちいち納得させられる解説がなされていると思われます。

 サービス残業問題で悩む人事担当者もいらっしゃるでしょう。この書籍の123ページ以降では、サービス残業に関する遡及支払期間は、2年間ではなく3箇月間を前提とするべき、との貴重なアドバイスがされています。ひょっとすると、朗報になるかもしれません。その他、管理監督者についても詳細に解説されており、他の専門書よりも一歩深く踏み込んでいると評することができるでしょう。

 終盤のページには、次のような記述があります。「もう還暦を迎えたのですから、「労働行政被害110番」をつくりたいくらいなのです。」 なかなかここまで、言う人は少ないでしょう。法律を順守しようとするがゆえに、行政の行き過ぎた指導に警鐘を鳴らしているのだと思います。労働法に関する書籍としては、珍しいタイプだとは思いますが、違う角度から臨むことで、人事担当者としての実務能力を高めてくれる書籍といえるでしょう。

著    者:石嵜信憲

出 版 社:中央経済社

発 売 日:2009年6月

カテゴリー:実務書(労働法)

 

 

労働審判制度の利用者調査 〜実証分析と提言

 “早くて、おいしい。” 

 牛丼ではなく、労働審判制度の満足度です。この書籍は、東京大学社会科学研究所の実施した「労働審判制度利用者調査」について、分析・提言としてまとめられたものです。労働審判制度については、“和解金は?” “弁護士費用は?” など、利用したことのない企業にとっては分からないことがたくさんあります。労働審判はその迅速性から大変高い評価を受けていると言われてきましたが、本当はどうなのかを教えてくれる書籍です。

 例えば、解決金については、使用者側・労働者側とも全体の約8割が200万円未満の金額帯に属し、結果の評価については、労働者側では59.5%が「満足している」と回答しているのに対し、使用者側では52.5%が「満足していない」と回答しており、結果の評価が逆転しています。また、弁護士費用については、使用者側・労働者側とも約半数が“高い”と回答しており、その理由についても丁寧に考察されています。

 分析編では経済学的アプローチからやや難解なところもありますが、貴重なデータのオンパレードですので、個別労働紛争が気になる人事担当者にとっては、必須の1冊といえるかもしれません。

著    者:菅野 和夫、仁田 道夫、佐藤 岩夫、水町 勇一郎 編著

出 版 社:有斐閣

発 売 日:2013年3月

カテゴリー:学術書(労働審判の制度分析)

 

 

賃金の法律知識

 賃金に関する素朴な疑問は、たくさんありますよね。

 給与計算の仕事をしていると “ふと、気になること“ が出てきて、掘り下げたくてもつい業務をこなすことが優先になってしまう。そんなことを感じる人事担当者も多いのではないでしょうか。例えば、“賃金は月1回以上支払わなければならないのに、なぜ通勤手当は6箇月ごとに支給することが違法にならないのか?” これは、労働基準法の賃金5原則に反した取り扱いですが、実務ではよくあるお話です。

 このようなQ&A形式で、明確に解説してくれるのが本書です。数ある賃金の解説書の中でもこれほど分かりやすく記述している書籍は、そんなに多くはありません。 著者は元労働基準監督官だけあって細かな実務の積み上げから書かれており納得させられます。

 給与計算の担当者なら手元に置いておきたい1冊となるでしょう

著    者:中川 恒彦

出 版 社:労働法令協会

発 売 日:2005年9月

カテゴリー:実務書(労働法)

 

 

部下をもつ人のための人事・労務の法律〈第6版〉

 “人事担当者の入門書”ではありません。

 管理職になると部下の労務管理を担当するわけですから、労働基準法の基本的なことを知っていないといけないでしょう。また、会社と部下の間に立ってマネジメントをするには、管理職の職務権限や契約に関する知識なども必要です。

 労働法の解説書は、探せばいくらでもあるわけですが、入門書と言いながら難解だったり、詳細な部分にこだわったりする書籍も多いと思います。部下に接する上司のための法律書は意外に少ないのではないでしょうか。この点について著者である安西先生は「そこで、部下をもつ人のために必要な法律上の知識のうち、基本的な事項をまとめたものが本書です。」と、範囲を限定したことを記しています。いわば、“上司になったら読む本”といっても過言ではないでしょう。

 新書ですから気軽に読むこともできますので、人事部門から各部門の管理職へお薦めできる副読本として、ご紹介いただくと良いかもしれません。 

著    者:安西 愈(あんざい まさる)

出 版 社:日本経済新聞出版社

発 売 日:2016年11月

カテゴリー:新書(労働法)

 

 

労働事件審理ノート[第3版]

 裁判官の引継書であり、労働裁判のバイブルとして弁護士に愛用されている書籍です。

 他の訴訟と比較して労働裁判を担当することは、裁判官であっても大変な苦労を伴うらしく、「労働事件で得た知識、ノウハウは、先任の裁判官から後任の裁判官に引き継がれることもなく、後任の裁判官は、先任の裁判官と同じ苦労を繰り返すのが常」だそうです。そのため、先輩裁判官が後輩への技能伝承のために書いた引継書とでも言うべき性格をもった書籍です。

 解雇など事件の類型ごとに、1.要件事実→ 2.典型的な争点→ 3.基本的な事実関係→ 4.基本的な書証→ 5.訴訟運営上のポイント→ 6.関連書式という流れで構成されており、裁判のことを詳しく知らない者にもわかりやすく記述されています。中でも、裁判の証拠として提出すべき必要な書類が列挙されていますので、“いざ”という時の準備には、とても参考になるでしょう。

 昨今、個別労働紛争が増加していますので、人事担当者のたしなみとして読んでおくのも良いのではないでしょうか。 

著    者:山口 幸雄、三代川 三千代、難波 孝一 編

出 版 社:判例タイムズ社

発 売 日:2016年12月

カテゴリー:実務書(労働法)

 

 

新しい労使関係のための 労働時間・休日・休暇の法律実務 [全訂7版]

 『採用から退職までの法律知識』は、もう読みましたか?

 労働法のバイブルとして名高い書籍ですので、既に熟読されている人も多いことでしょう。実は、もう1冊、姉妹本とも言うべき実務書が、この本です。

 “採用から退職までの法律知識”は、タイトル通り人事全般の解説書になっていますが、その労働時間関連の“部分”を更に詳細に述べたものです。かの本も1,000ページを超えるボリュームですが、この本はそれ以上で、机に寝かせて置くよりも、立たせておいた方が使いやすい、という本です(そして重い)。

 事業場外みなし労働や裁量労働など、“もう一言の説明”が欲しい人、または、労働基準法に関する本を何冊も読んだけれども、未だ満足できない納得できない、そんな人向けの本です。労働時間に関して、この本よりも詳細に記述しているものはなかなかありません。人事としての一般的な知識範囲を超えており、プロユースといったところでしょうか。

 労働時間に関する知識を自分の武器として、キャリアを重ねたい人事担当者にお薦めしたいと思います。 

著    者:安西 愈(あんざい まさる)

出 版 社:中央経済社

発 売 日:2010年7月

カテゴリー:実務書(労働法)

 

 

詳説 労働契約法 [第2版]

 「小さく生んで大きく育てる」

と、労働契約法の成立時に、この書籍の著者の1人である菅野先生は、おっしゃったそうです。

 労働契約法は施行時点で全19条、非常に小さな法律です。新しいことが書いてあるわけではなく、判例で既に固まっているものを、法律の形にしただけだと非難する人もいたようです。しかし、この法律も改正法が成立し、順調に育っているといえるのかもしれません。

 労働契約法は、就業規則の不利益変更、解雇、雇い止め、など人事担当者として熟知しておかなければならないものが盛りだくさんです。しかし、文章量は少なく条文を読んだだけでは、その背景にあるものを理解することはできないでしょう。ですので、何らかの解説書が必要になります。

 この書籍の巻末には、研究会の報告書や審議会の答申などが、参考資料として付属しており、法成立までの経緯を追うことも可能です。日本の労働法を代表する3人の研究者による書籍であり、クオリティに心配はありません。

 この機会に、労働契約法をマスターしたいと思われる人事担当者にお薦めしたいと思います。

著    者:荒木尚志、菅野和夫、山川隆一

出 版 社:弘文堂

発 売 日:2014年5月

カテゴリー:学術書(労働法)

 

 

日本の雇用と労働法

 本を嫌いな方にお薦めします。だって新書ですから・・・。

 著者である通称“hamachan先生”といえば、超一流の研究者でありながら、キングブロガーの異名を持つ一風変わった出で立ちの方です。この先生のホームページをチェックしている専門家も多いことでしょう。

 日本はメンバーシップ型の雇用契約を結ぶ国であり、欧米流のジョブ型の雇用契約とは異なる雇用システムを持つ。ここから、この本はスタートします。この“メンバーシップ型” 雇用契約は、一言で日本の雇用システムの多くを物語っています。

 法政大学の授業用に執筆されたとのことですが、新書でありながら雇用システム、歴史、労働法と、よくこのスペースに押し込むことができると感心させられます。新書とは異なる次元に存在する書物だと思った方が良いでしょう。

 労働法を苦手としている人でも、この本なら好きになれるかもしれません。それだけ、分かりやすく面白く、深く、本当に勉強になる本です。

著    者:濱口 桂一郎

出 版 社:日本経済新聞出版社

発 売 日:2011年9月

カテゴリー:新書(雇用と労働法)