企業労働法実務入門  書式編

 とても実務的な書籍です。

 前著「企業労働法実務入門」は、基本的な労働法を解説していました。その姉妹本として登場したのが、この書式編です。書式編であるが故に、多くを期待することには無理があります。それでも、基本的な書式がたくさん掲載されていますので、人事の実務に役立つことでしょう。

 例えば、「過半数代表者の選出に関する要綱(P67)」、「過半数代表者の選出についての告示(P69)」などが載っています。昔と比べ、事業場の過半数代表者の選出について厳しくチェックされる時代です。代表者の選出ルールや従業員への通知に関する雛形が載っていますので、労働基準監督署の臨検に備えるためにも重宝するでしょう。

 働き方改革に挑む企業がたくさんあると思います。いかに残業を減らすかが課題となっている企業も多いことでしょう。上司から残業しないように指示をされても、なかなか従えない部下がいるかもしれません。そのとき、「残業禁止命令書(P260)」が参考になるでしょう。

 最近では、マタニティ・ハラスメントという言葉も出てきました。出産に伴い軽易な業務に転換してもらう場合には、どのように説明したらよいのでしょうか。そのとき、「軽易な業務に転換させるにあたっての説明文(P210)」が役立つかもしれません。

 従業員を懲戒処分する場合、弁明の機会を与えるケースが多いと思います。そのとき、「弁明の機会の付与に関する通知書(P173)」が参考になるかもしれません。

 いずれも簡単な書式ではありますが、手元に置いておけば文書作成のヒントになってくれます。実務家の皆さんにお薦めしたいと思います。 

著    者:企業人事労務研究会

出 版 社:日本リーダーズ協会

発 売 日:2016年5月

カテゴリー:実務書(労働法)

 

 

労基署は見ている。

 まるで、小説のようです。

 労働基準監督官が何を考えながら臨検を実施しているかが伝わってきます。著者は、元労働基準監督官でありご自身の半生を思い起こしながら語ってくれます。労働基準監督署の組織・人事異動、様々な経営者や書類送検するときの検事の対応、そして、監督官の人となりが描写されています。

 労働基準監督官には、「公務員の仕事の一つとして監督官をしている者」と「監督官というプライドで仕事をしている者」の概ね2種類の人がいるそうです。そして、仕事として割り切っている人が3分の1、プライドを追求する人が3分の1、残り3分の1はどちらにでも転がる可能性のある人で構成されているとのことです。監督官も普通の人間なのですね。私たちは、勝手に監督官像を膨らませているのかもしれません。これは、内部にいた人だからこそ実感をもっていえることでしょう。

 最近は、元労働基準監督官の書いた書籍がたくさん出版されています。臨検の概要や対応ノウハウを求めるならば、どの書籍を手にしてもハズレは少ないと思います。しかし、労働基準監督署の臨検について、感覚的に迫ってくる書籍は、さほど多くはないでしょう。実務で臨検に関わった人事担当者でなくとも、臨検の臨場感を味わうことができる書籍です。臨検を肌で感じたい人には、うってつけの本だといえます。是非、お勧めしたいと思います。 

著    者:原  論

出 版 社:日本経済新聞出版社

発 売 日:2017年3月

カテゴリー:新書(労働法)

 

 

Q&A 人事・労務専門家のための税務知識<第3版>

 税務で苦労している人事担当者はいらっしゃいませんか?

 人事担当者は、税金の専門家というわけではないでしょうが、所得税や住民税を源泉徴収し年末調整を実施している人がたくさんいると思います。労働法のような深い知識は必要ではないにしても、それ相応の知識は必要でしょう。従業員からいろいろ聞かれたりしますので、苦労する人も多いと思います。

 そんな時、オールマイティーに役立ってくれるのが本書です。例えば、「控除証明書が間に合わない時の年末調整」、「定年再雇用時の退職金」、「従業員が死亡した時の退職金」、「海外出張に配偶者が同伴した時」、「副業がある場合の源泉徴収」など、税務上どのように対処すればよいのでしょうか。このような様々なケースに対応するためのQ&Aが、200以上載っています。もちろん全てのケースに対応できるわけではありませんが、第一段階の一通りのことには対処できると思います。本書の構成は、平凡なものですが地味に役に立ってくれます。

 著者は、社会保険労務士、かつ、税理士です。人事を理解した上で税務を解説してくれるので分かりやすくなっているのだと思います。労務管理のための税務について簡便に書かれた書籍は、少ないのが実態ではないでしょうか。1度手に取っていただくと良いかもしれません。 

著    者:安田 大

出 版 社:中央経済社

発 売 日:2012年5月

カテゴリー:実務書(税法)

 

 

監督署は怖くない! 労務管理の要点

 「監督署は怖くない」のだそうです。

 そうはいっても、労働基準監督官に書類送検をされた結果、大手企業の社長が辞任に追い込まれるこのご時世です。労働基準監督官の臨検(立入調査)を歓迎する人事担当者はいないでしょう。そして、労働基準監督官は、ある日突然やって来ます。会社が臨検を断ることはできません。逃げられないのであれば、正面から向き合う他ないのかもしれません。

 労働基準監督官の臨検は、ランダムに実施されるわけではありません。厚生労働省が策定する「地方労働行政運営方針」および都道府県労働局が策定する「行政運営方針」を踏まえて、毎年、監督指導計画が作成されます。この書籍には、外部の人間では分かりにくい監督指導計画書の具体例があったり、サービス残業などの未払い賃金の遡及期間に関する説明があったり、大変役立ちます。また、労働基準法の前身である工場法時代の監督制度に関する解説もされていますし、最近の厚生労働省の対応状況も紹介されています。

 単なるノウハウ本ではなく、人事担当者が知りたい“もう一歩”について言及されているので、とても参考になるでしょう。労働基準監督官の臨検に対して正面から向き合うために、自己研鑽に励む人事担当者にお勧めしたいと思います。 

著    者:角森 洋子

出 版 社:労働調査会

発 売 日:2016年9月

カテゴリー:実務書(労働行政)

 

 

労働条件変更の基本と実務

 「第四銀行事件」と「みちのく銀行事件」は、両方とも55歳以降の賃金が減額された銀行の事案です。過半数組合の同意が得られている点も共通しています。しかし、前者では変更が有効とされ、後者では無効とされました。判例中の判例ともいうべき2つの裁判ですが、いわゆる“不利益変更”の問題です。人事担当者なので、私は知っている。けれども、いざ思いだしてみると「何だっけ?」というような事柄をズバッと明快に解説してくれる書籍です。

 就業規則の不利益変更で悩む人事担当者も多いかもしれません。例えば、休職と復職を繰り返す従業員について、前後の休職期間の通算規定を改めて設ける場合です。これは、不利益変更に該当しますので、簡単なことではありません。しかし、不可能というわけでもありません。この他にも、さまざまな労働条件の不利益変更について、裁判例の解説にとどまることなく実務的な対応方法を交えながら、考え方を解説してくれます。

 不利益変更について解説する書籍はたくさんあると思いますが、ここまで分かりやすいものは多くはないと思います。具体的な事例にかなり踏み込んだ解説もされています。また、合併により2社の労働条件を統一する場合などは、少なからず不利益変更の問題がでてきますが、そのような時にも役立つでしょう。久しぶりにアンダーラインを引きまくった書籍です。お勧めできる1冊だと思います

著    者:石嵜 信憲 編著、橘 大樹・石嵜 裕美子 著

出 版 社:中央経済社

発 売 日:2016年9月

カテゴリー:実務書(労働法)

 

 

取締役の法律知識<第3版>

 人事の本ではなく、取締役の本です。

 著者は、この書籍の第1の特徴として「取締役会に出席したとき、1人で決定するときなど、具体的な場面に即して」、「経営判断の原則」について、力を注いで解説したことを挙げています。取締役として知って置かねばならないことが書かれているわけです。ですので、取締役ではない人事担当者には、直接関係なさそうです。ところがどっこい、これが結構、参考になるのです。

 例えば、取締役、執行役、監査役、それぞれの違いと役割を解説してくれます。そして、執行役は会社法上のものですが、執行役員は法律上のものではないので、会社ごとに定義が異なります。そのため、会社によっては経営者に近い存在であるケースもあれば、従業員に近い場合もあり得ます。また、従業員との雇用契約に基づく「給与」が「労働の対価」であるのに対し、取締役との委任契約に基づく「報酬」は、経営のプロとしての「業務遂行の対価」である点が異なると解説されています。会社法が改正され、ますます理解が困難になる中、分かりやすく解説してくれるのでありがたいです。

 専門分野ではないものの、新聞レベルよりはもう少し知識を持っていたい。そんな人事担当者にお薦めできる書籍です。新書ですので、手軽に素早く知識を習得することができるでしょう

著    者:中島 茂

出 版 社:日本経済新聞出版社

発 売 日:2015年4月

カテゴリー:新書(会社法)

 

 

会社が「泣き」を見ないための労働法入門

 サッと読むのにちょうど良いと思います。

 労働法を体系的に学ぶというよりは、“会社が「泣き」を見ないため”特定のトピックに焦点を絞った書籍です。ブラック企業や過重労働など最近の動向を念頭に置き、以下のような章構成になっています。

 第1章:「ブラック企業」問題

 第2章:サービス残業

 第3章:過重労働

 第4章:パワーハラスメント

 第5章:若者の使い捨て

 第6章:その他の課題(追い出し行為等)

 第7章:ブラック企業と思われない組織づくり

 タイトル通り、入門書として書かれていますので詳細な部分までは立ち入らず、適切な文章量と平易な言葉使いのおかげで簡単に理解することができます。分かりやすさを重要視しているのでしょう。人事担当者が読むだけでなく、部下を抱える管理職に読んでもらうのもよいと思います。

 著者である北岡先生は、元労働基準監督官であり行政から見た視点が活かされていると思います。いわば、監督官から会社へのアドバイス集といえるかもしれません。入門書とは言いながら必要な情報も揃っていますので、あまり労働法に詳しくない人が、とりあえず1冊よみたいときに適しているような気がします

著    者:北岡 大介

出 版 社:日本実業出版社

発 売 日:2014年5月

カテゴリー:実務書(労働法)

 

 

「雇止めルール」のすべて

 2018年問題への対応はお済みですか?

 2018年問題とは、2013年4月に施行された改正労働契約法が5年を経過し、有期雇用従業員が無期転換権を行使できることを指しています。つまり、反復更新された労働契約が5年を超えた場合には、契約社員が正社員に近い存在になることを意味します。仮に、それを回避したい会社は、5年を経過する前に「雇止め」を実施するでしょう。その「雇止め」は有効になるのでしょうか?そもそも「雇止め」はどのような場合に、有効とされるのでしょうか。著者は、「雇止め」に関する基本について解説し、このような疑問に答えてくれます。

 また、この書籍では7つの要素から「雇止め」の効力をスコア化し、その有効性を検証する試みが為されています。次の事例であれば、「合計3点で、雇止めは無効になる」ことが予想されます。これら7つの要素から100件以上の裁判例について検証したコメントが載っているのです。自社の「雇止め」が有効とされる可能性が高いか否かの予想に役立つでしょう。

①永続性のある業務を担当している                   ±0点

②更新回数3回以上または通算雇用期間が3年超             +1点

③正社員とは、職務の点でも、権限・責任の点でも異なる          -1点

④毎回、契約書を作成しているが、面談や成績の検証はしていない     ±0点

⑤特段の事情がない限り更新するのを原則としている             +2点

⑥上司による更新を期待させる言動があった               +1点

⑦本件雇止め以前に、雇止めの実績がいくつかある            ±0点

 「雇止め」の問題で頭を悩ませている人事担当者はたくさんいるでしょう。2018年問題への対応も含め、「期間の定めのある労働契約」について、今後の方向性を見定める重要な参考書といえそうです

著    者:渡邊 岳

出 版 社:日本法令

発 売 日:2012年12月

カテゴリー:実務書(労働法)

 

 

労働基準監督署への対応と職場改善

 来てほしくないもの、でしょう。

 労働基準法の番人とされる労働基準監督官は、ある日突然やって来ます。それは、労働基準監督署が実施する臨検のことです。臨検が実施された事業場では、是正勧告書が発せられているケースが多くあります。そして、会社が是正勧告書を受け取ると、法違反状態を是正し指定された期日までにその報告書を提出しなければなりません。ただでさえ通常の業務で忙しい人事担当者にとっては、できれば避けて通りたいと思うところでしょう。そのような時の対処法が書かれた書籍です。是正勧告書のサンプルやその解説が少ないのは残念ですが、著者は元労働基準監督官であり、長年、臨検を実施してきた立場から、臨検や労働基準法などについて丁寧に解説してくれます。

 また、この書籍に中には、「コーヒー・ブレイク」というコラムが16箇所登場します。過去にあった出来事を記述しているのですが、労働基準監督官としての感想が記されており、現場の雰囲気が伝わってきます。その中で、労働基準監督官として初めて臨検を実施した時の記述があります。「緊張して見れども見えずという状態で、社長さんの話を聞くのが精一杯」だったそうです。労働基準監督官も人間だな〜、と親近感がわくでしょう。

 労働基準監督署への対策本で1冊購入したいとき、迷ったらこの書籍はいかがでしょうか

著    者:角森 洋子

出 版 社:労働調査会

発 売 日:2010年7月

カテゴリー:実務書(労働行政)

 

 

日本の雇用終了 〜労働局あっせん事例から

 日本は解雇規制の厳しい国だといわれることがありますが、本当はそうでもない実態が描かれています。

 この書籍は、厚生労働省からデータ提供を受けた研究者が、労働局で扱われた「あっせん」事例について、詳細に事例分析をしたものです。申請内容の内訳では、「雇用終了」が66.1%、「いじめ・嫌がらせ」が22.7%、「労働条件引下げ」が11.2%となっており、「雇用終了」に関する事案が特に多くなっているのがわかります。

 まず、気になるのは「あっせん」が成立した場合の解決金額で、72.8%が「40万円未満」で解決しています。また、「10万円以上20万円未満」で解決したものが最も多く24.3%を占めています。労働審判では、全体の約8割が200万円未満の金額帯に属していることと比較すると相場の違いに驚かされます。

 その他には、次の記述も気になります。

 「雇用終了に至る最大の原因がそれら「能力」自体よりも、会社の側からみて許し難い「態度」の不良性にある」(P103)

 「解決金額は当事者の態度(気迫)によって左右される」(P233)

 解雇などの問題について判例を参照する人事担当者は多いと思いますが、そういった表舞台に出てこない事例が山のように登場します。労働法の世界だけでは語れない世の中の実態を勉強するのに大変役立つ書籍といえるでしょう

著    者:労働政策研究研修機構 編

出 版 社:労働政策研究研修機構

発 売 日:2012年3月

カテゴリー:学術書(個別労働紛争)

 

 

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