労使協定・労働者代表
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A.労使協定による経過措置の終了により、対象者の限定はできなくなりました。
高年齢者雇用安定法は、定年を65歳未満に定めている会社に対して雇用確保措置を義務付けています。雇用確保措置は、(1)定年制の廃止、(2)定年の引上げ、(3)継続雇用制度の導入の中から一つを選択しなければなりません。このうち継続雇用制度の導入が67.4%で最も高くなっています(2024年「高年齢者雇用状況等報告」の集計結果)。
継続雇用制度は、原則として希望者全員について受け入れる必要があります。ただし、2012年度までに労使協定により対象者を限定する基準を定めていた場合には経過措置が設けられました。代表例として、正社員時代の人事評価に基づき一定レベル以上の従業員に対象者を限定する基準が挙げられます。しかし、経過措置の終了により2025年4月1日以降は希望者全員が継続雇用制度の対象になります。これは、年金の支給開始年齢の引上げ(60歳から65歳)が終了することで、労使協定による経過措置もその役目を終えたわけです。
これにより希望者全員が継続雇用制度の対象者になるわけですが、解雇事由に該当するような場合は別の話です。厚生労働省の「高年齢者雇用安定法Q&A」には、「心身の故障のため業務に堪えられないと認められること、勤務状況が著しく不良で引き続き従業員としての職責を果たし得ないこと等就業規則に定める解雇事由又は退職事由(年齢に係るものを除く。)に該当する場合には、継続雇用しないことができます。」と記載されています。つまり、対象者を限定することはできませんが、例外はあると言えるかもしれません。
A.事業場の同一性が認められれば、引き継がれると思われます。
合併には、吸収合併と新設合併がありますが、どちらの場合であっても合併後の会社は、合併前の会社の権利義務関係を包括的に承継することになりますので、労働協約、就業規則および雇用契約は当然に引き継がれることになります。
しかし、労使協定は事情が異なります。本来、労使協定は法律で禁じられていることを許される“免罰効果”を発揮するものであり、労使の権利義務を定めたものではないからです。例えば、36協定(時間外・休日労働に関する労使協定)は、労基法で定める法定労働時間を超えて労働させても罰則が適用されない効果を発揮するものです。これは、権利義務関係には含まれませんので、原則として合併後の会社には承継されないことになります。
一方、合併とは異なるものの会社分割に関する指針(平成12年労働省告示第127号)には、賃金控除協定と36協定に関する次の記述があります。「これらの労使協定については、会社の分割の前後で事業場の同一性が認められる場合には、引き続き有効であると解され得る」とされていますので、会社分割後の事業場に場所的および人的な変動等がなければ、労使協定は承継されることになるでしょう。反対に、会社分割後の事業場に大きな変動があった場合には、改めて労使協定を締結する必要があります。これは、会社分割に関する指針ですが、合併の場合であっても同様に解することが可能だと思われます。
A.まずは労働基準法に登場する14個の労使協定を把握する必要があるでしょう。
労基法の条文を読んでいると、次のフレーズが14箇所、登場することに気がつきます。
『労働者の過半数で組織する労働組合があるときはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がないときは労働者の過半数を代表する者との書面による協定』
これが労基法でいうところの労使協定であり、労働組合または労働者の代表と会社が取り交わす合意文書ということになります。本来、労使協定は法律で禁止された事項について、法違反とは取り扱わない「免罰効果」を与えるためのものです。そのため、コンプライアンスの観点から非常に重要であり、労働基準監督署の臨検の際には不備を指摘されやすい書類の1 つになります。
労基法に登場する労使協定を条文番号順に並べると、下記の14個になります。該当する制度を採用している場合には、原則として事業場ごとに労使協定の備えつけが必要です。なお、労使協定は就業規則と同様に、労働者がいつでも閲覧できるような体制を取る必要があります(労基法106条第1項)。ただし、文書として配付することは義務付けられておらず、パソコン等で自由に閲覧ができれば問題ないでしょう。
【労働基準法に登場する14の労使協定】
① | 第18条 | 第2項 | 貯蓄金の管理に関する労使協定 |
② | 第24条 | 第1項ただし書 | 賃金控除に関する労使協定 |
③ | 第32条の2 | 第1項 | 一箇月単位の変形労働時間制に関する労使協定 |
④ | 第32条の3 | フレックスタイム制に関する労使協定 | |
⑤ | 第32条の4 | 第1項 | 一年単位の変形労働時間制に関する労使協定 |
⑥ | 第32条の5 | 第1項 | 一週間単位の非定形的変形労働時間制に関する労使協定 |
⑦ | 第34条 | 第2項ただし書 | 一斉休憩の適用除外に関する労使協定 |
⑧ | 第36条 | 第1項 | 時間外及び休日労働に関する労使協定(36協定) |
⑨ | 第37条 | 第3項 | 月60時間超に係る割増賃金を代替休暇とする労使協定 |
⑩ | 第38条の2 | 第2項 | 事業場外労働のみなし労働時間制に関する労使協定 |
⑪ | 第38条の3 | 第1項 | 専門業務型 裁量労働制に関する労使協定 |
⑫ | 第39条 | 第4項 | 年次有給休暇の時間単位付与に関する労使協定 |
⑬ | 第39条 | 第6項 | 年次有給休暇の計画的付与に関する労使協定 |
⑭ | 第39条 | 第9項ただし書 | 年次有給休暇の賃金を標準報酬日額とする労使協定 |
A.本来、労使協定は免罰効果を与えるものです。
労働基準法にはさまざまな労使協定が登場します。例えば、労基法第32条は労働時間について1週40時間、1日8時間と上限を定め、それを超えた場合には労基法第119条に基づき、「6箇月以下の懲役又は30万円以下の罰金」に処せられます。ただし、36協定(時間外・休日労働に関する労使協定)の締結・届出により、その範囲内であれば労基法の罰則は適用されません。これは、免罰効果と呼ばれます。法定労働時間を超えて従業員に残業をさせれば罰則が適用されるはずですが、その刑事責任について問われない効果を36協定が発揮しているわけです。
なお、36協定はこの免罰効果を与えるだけですので、36協定を締結したからといって、直ちに残業をさせられるわけではありません。この場合、残業を命じることができる根拠は36協定から発生するわけではなく、労働契約の一部である就業規則等に規定されることで初めて可能になります。
一方、育児介護休業法等にも労使協定は登場します。例えば、従業員が育児休業を申し出た場合でも入社1年未満の従業員であれば、労使協定に定めることによって適用を除外することが可能です。仮に、労使協定を結ばずに入社1年未満の従業員に育児休業を取得させなければ当然に違法状態になります。しかし、もともと育児介護休業法には、このことに関する罰則がありませんので罰せられることはありません。つまり、免罰効果を発揮する余地がないのです。もちろん罰則がないからといって法律を無視して良いはずはありませんが、本来、免罰効果のために存在した労使協定が、少しずつ位置づけを変化させている代表例ということができます。
A.労使協定は免罰効果を得るもの、労働協約は契約です。
労使協定は、法律に規定があるものについてその法的効果を発揮します。本来であれば違法なものであっても、該当する労使協定を締結・届出等することで適法なものとして扱われます。法律に罰則の規定があれば、罰せられない効果(免罰効果)を発揮します。反対に言えば、法律に定めがないものについて労使協定を締結しても、法的効果を発揮しないということです。
労働協約は、労働組合と合意した内容を文書にしたものですので、法律とは関係なく様々な約束をすることができます。つまり、労働組合と会社が交渉し労働条件を取り決めた契約書なのです。なお、労働組合が事業場の過半数の従業員を組織していれば、労働者代表として労使協定を結ぶことになるでしょう。この場合には、「労使協定=労働協約」になるので、2つの間に違いはないことになります。
賃金は、通貨で直接その全額について毎月1回以上、一定の期日に支払わなければなりません。これは、「賃金支払の5原則」と呼ばれます。賃金は、通貨で支払う必要があるので現物支給は許されません。しかし、労働基準法第24条第1項は、その例外として「労働協約に別段の定めがある場合」には、通貨以外のもので支払うことができると定めています。ここでは、従業員代表者を選出して締結する労使協定が想定されていません。労働協約は、労働組合と締結するものなので労働組合の存在しない会社では賃金の現物支給をすることはできないことになります。ここでも、労使協定と労働協約が異なる取り扱いをされています。
A.有効期間が必要なものと、そうでないものがあります。
労使協定にもいろいろありますが、労働基準法に登場する14の労使協定のうち有効期間の定めをしなければならないものは下記の5つになります。ただし、労働協約として労使協定を締結する場合、労働協約は一定の要件で破棄が認められていますので有効期間を定めなくとも問題はありません。また、「一箇月単位の変形労働時間制に関する労使協定」は、もともと就業規則に定めることで導入できるため、労使協定を結ぶケースは少ないかもしれません。
労使協定は、そもそも労使で合意のうえ締結するものなので、有効期間をどのくらいの期間にするかも労使にまかされています。ただし、下記のように通達で目安が示されていますので参考にするべきでしょう。なお、「時間外及び休日労働に関する協定(36協定)」については、1年間で残業の限度時間を設定する必要があるので有効期間を1年とするのが通常です。労働基準監督署は、1年以外の有効期間を定めた36協定が提出された場合、その次に提出する36協定の有効期間を1年とするよう行政指導しているようです。
これらのことを勘案して労使で有効期間を決めれば良いわけですが、将来的な見直しのタイミングなど柔軟に対応していくためには、全ての労使協定について有効期間を設けるのも一つの考え方かもしれません。
【有効期間の定めが必要な5つの労使協定】
内容 | 有効期間 | |
① | 一箇月単位の変形労働時間制に関する労使協定 | 3年以内が望ましい(平11.3.31 基発169号) |
② | 一年単位の変形労働時間制に関する労使協定 | 1年程度が望ましい(平6.1.4 基発1号) |
③ | 時間外及び休日労働に関する労使協定(36協定) | 1年間が望ましい(平11.3.31 基発169号) |
④ | 事業場外労働のみなし労働時間制に関する労使協定 | 一定の期間(昭63.1.1基発1号) |
⑤ | 専門業務型 裁量労働制に関する労使協定 | 3年以内が望ましい(平15.10.22 基発1022001号) |
Q.労使協定を締結したら、全て届け出る必要があるのでしょうか?
A.労使協定は、届け出るものと出ないものがあります。
労使協定にもいろいろありますが、労働基準法に登場する全部で14の労使協定の場合、労働基準監督署へ届け出る必要のあるものは、2つの例外を除き下記の6つになります。
2つの例外とは、まず「一箇月単位の変形労働時間制に関する労使協定」が挙げられます。労使協定を締結することで一箇月単位の変形労働時間制を導入した場合には、労働基準監督署へ届け出る必要があります。しかし、もともと就業規則に定めることだけで導入できるため、実質的には労使協定を結ぶ可能性は低いでしょう。もう一つは、「フレックスタイム制に関する労使協定」です。改正労働基準法(2019年4月1日施行)により、1箇月を超え3箇月までを清算期間とするフレックスタイム制の導入が可能となりましたが、1箇月を超える清算期間の場合には、労働基準監督署への届け出が必要になります。
余談になりますが、労働基準監督署へ届け出なければならない6つの労使協定を 「爺、一切、金貯まらず」(じじい いっさい かね たまらず)と、ゴロ合わせで覚えることができます。
【労働基準監督署に届出義務のある6つの労使協定】
① | 時- | 時間外及び休日労働に関する労使協定(36協定) |
② | 事- | 事業場外労働のみなし労働時間制に関する労使協定(法定労働時間超) |
③ | 1- | 1年単位の変形労働時間制に関する労使協定 |
④ | 1- | 1週間単位の非定形的変形労働時間制に関する労使協定 |
⑤ | 裁- | 裁量労働制に関する労使協定(専門業務型) |
⑥ | 金- | 貯蓄金の管理に関する労使協定 |
A.要件を満たせば、本社で一括して届け出ることもできます。
労働基準法は、事業場を単位として適用されますので、36協定届も事業場ごとに提出しなければなりません。ただし、一定の要件を満たせばまとめて提出することも可能であり、次の3つのルートがあります(令7・3・28基発0328第8号)。
第1に、本社と各事業場の協定内容が同一であることを条件に、書面で提出する方法です。この場合には、事業場数分の36協定と事業場の一覧表等を用意した上で、本社を管轄する労働基準監督署に届け出ます。ただし、協定を結ぶ過半数代表者も同一である必要があるので、実質的には全社を組織する労働組合がなければ活用できません。これは、厚労省内の配送システムのようなものですので会社にとってのメリットはあまり大きくないでしょう。
第2に、本社と各事業場の協定内容が同一であることを条件に、e-Govから電子申請を行う方法です。この場合には、各事業場で異なる項目等を記載した一括届出事業場一覧の電子ファイルを用意することになります。なお、協定を結ぶ過半数代表者が異なっていても構わないので、事務の効率化に貢献するかもしれません。
第3に、労働条件ポータルサイト「確かめよう 労働条件」から電子申請を行う方法です。このサイトでは、36協定の内容が本社と異なっても複数の事業場で同一であれば、一括して届け出ることもできます。この場合には、所要事項を入力することで一括届出事業場一覧はシステムが自動作成してくれます。少しずつ届け出る形態の幅が広がってきていますので、自社にフィットする手法を選択されると良いでしょう。
A.可能ですが、事務の省力化には寄与しないでしょう。
36協定には、原則として有効期間を定めなければなりません。通達では、「時間外労働協定について定期的に見直しを行う必要があると考えられることから、有効期間は1年間とすることが望ましい」とされています(平11.3.31基発169号)。つまり、新しい36協定届を年に1度は労働基準監督署に提出することになります。これを面倒だと感じる人事担当者は、36協定の中に自動更新条項を設けることで事務の省力化を図りたいと考えるかもしれません。
36協定に自動更新条項を設けることは可能です。ただし、何もしないで自動的に更新されるわけではありません。通達では、「協定の有効期間について自動更新の定めがなされている場合においては、(中略)当該協定の更新について労使両当事者のいずれからも異議の申出がなかった事実を証する書面を届け出ることをもって足りる」とされています(昭29.6.29 基発355号)。この書面について労働基準監督署は「特に書式はないので任意の書面を提出してください」と言うわけです。
その結果、1年に1度、この任意の書面を所轄の労働基準監督署に提出することになります。そうであれば通常通りのフローで対応した方がよいかもしれません。事務の省力化の観点からは、大きな効果を期待できるものにはならないでしょう。