Q.なぜ、就業規則は必要なのでしょうか?
A.法律の定めというよりも、効率的な会社運営に必要だからです。
労働基準法第89条には、「常時十人以上の労働者を使用する使用者は、次に掲げる事項について就業規則を作成し、行政官庁に届け出なければならない。」として、就業規則の作成及び届出の義務が定められています。法律上の遵守義務なので、当然に就業規則は必要なものです。一方、たくさんの従業員が協働する職場では、労働条件を統一的に管理する必要性が出てきます。個人ごとの労働契約を管理することだけでは、効率的な集団的労務管理を実現することはできないからです。
例えば、ほとんどの就業規則には、人事異動や出向に関する条文があるでしょう。仮に、この条文が存在しないとしたら、会社は従業員を人事異動させることができません。会社は強力な人事権を持っているのが通常でしょうが、個別の労働契約に特別の条項でもない限り会社にその権限は発生しないのです。その権限の根拠は、就業規則の定めによって発生しています。
また、ほとんどの就業規則には、時間外労働に関する条文があるでしょう。仮に、この条文が存在しないとしたら、会社は従業員に残業をさせることができません。従業員に残業をさせる場合、36協定が必要なことは誰でも知っています。この36協定を含め多くの労使協定の目的は免罰効果にあります。免罰効果とは、文字通り罰則の適用を免れる効果を発揮するものです。そのため、36協定は各従業員に対して時間外労働を命じる根拠にはならないのです。時間外労働を命じる権限は、就業規則の定めによって発生しています。
上記のように、就業規則のおかげで個別の労働契約で定めずとも効率的な会社運営ができることになます。就業規則の重要性をきちんと認識しなければなりません。
Q.同一労働同一賃金について、就業規則の注意点はありますか?
A.「不合理な労働条件」とならないようにする必要があります。
企業によって様々だとは思いますが、契約社員就業規則やパートタイマー就業規則などの名称をよくみかけます。いわゆる正社員とは異なる働き方の雇用グループですので、正社員とは別の就業規則が必要になることは容易に想像できます。
契約社員等の就業規則を作成する場合には、パート有期雇用労働法を念頭に置く必要があるでしょう。第8条には「基本給、賞与その他の待遇のそれぞれについて、(中略)不合理と認められる相違を設けてはならない」と記述されています。これは、正社員と契約社員等の間に処遇の格差があったとしてもバランスが必要だという考え方です。正社員と異なる雇用区分で処遇水準に格差が存在するのはよくあることです。その場合でも、不合理といえるレベルでなければ許容されることになります。いわゆる同一労働同一賃金に関する規定の一部です。
就業規則は、労働時間や賃金についてのルールを規定しています。正社員と契約社員等で別々の就業規則が適用され、ある程度の処遇格差が許容されるとしてもバランスが必要になるわけです。例えば、慶弔休暇や特別休暇、休職、諸手当などについて、明確な理由もなく処遇格差が存在すれば不合理とされます。裁判例では、会社が敗訴しているものがたくさんあるので要注意です。また、契約社員等から処遇格差について説明を求められた場合、会社には説明する義務もありますので、説明できる範囲内の処遇格差である必要があります。
A.正社員の就業規則を適用しないのであれば必要です。
就業規則で一番重要なものは、「適用範囲」といっても過言ではないでしょう。適用範囲が明確になっていない就業規則は、正社員だけでなくパート社員を含む全ての従業員に適用される可能性があります。例えば、退職金規程がパート社員に適用されたら、困る会社がたくさんあることでしょう。労働条件を定めていれば、その他の規程も就業規則の一部となります。
正社員の就業規則をパート社員にも適用するなら別々の就業規則は必要ありません。しかし、パート社員が正社員と完全に同じということは、あまりないのではないでしょうか。例えば、一つの賃金規程が両者に適用されることになれば、パート社員に対しても正社員と同じように諸手当を支給することになります。こう考えると、パート社員には正社員とは別の就業規則を設ける必要性が高そうです。
また、労働契約法の定めにより無期転換したパート社員の問題もあります。「期間の定めのある者」に適用すると書いてあるパート就業規則をよく見かけます。パート社員専用の就業規則であっても、このような適用範囲を定めていると、無期転換したパート社員には適用できなくなりますので、部分的な改定が必要となるでしょう。
A.見出しをつけ、条項号の3階層が分かりやすいと思います。
法律上の問題ではありませんが、従業員にとって分かりやすい就業規則とするためには、構成についても気にする必要があるでしょう。
まず、見出しはあった方が良いと思います。一条ずつ見出しがあれば、読みたい条文だけをピンポイントで探すことができます。例えば、「第2条(適用範囲)」のようにカッコ付きにすると見やすいでしょう。その際、見出しは条文番号の後ろに設けた方が良いと思います。労働基準法は、条文番号よりも先にカッコ付きの見出しが出てきます。縦書きなので構わないのかもしれませんが、条文番号は通し番号ですので、数字が最初にあった方が見やすいように思います。
次に、条文は「条・項・号」の3階層が分かりやすいと思います。労働基準法では、4階層になる場合には、「イ・ロ・ハ」を用いています。3階層までであれば、何とか読みこなせるとしても、4階層だと改行と文章量が多くなり読みにくくなるのではないでしょうか。4階層目を設けたくなった場合には、次の条文番号を採番した方が、従業員にとって分かりやすい就業規則になると思います。
また、一つの条文の中にたくさんの「項」を設けている例を見かけることがあります。一般的に「項」には見出しが付いていませんし、この場合にも文章量が多くなり読みにくくなるので、次の条文番号を採番した方が良いかもしれません。なお、条文の数が多くなった場合には、「章」や「節」を設けてもよいと思いますが、少ない条文数の場合には無理をして章立てにする必要はないでしょう。いずれにしても、 従業員にとって分かりやすいことが重要です。
Q.届出が必要な就業規則に、旅費規程は含まれるのでしょうか?
A.”相対的必要記載事項”に該当し、届出る就業規則に含まれます。
会社の設立当初であれば1つの就業規則で足りるかもしれませんが、組織が大きくなるに伴って別規程として細分化されるのは一般的なことでしょう。賃金規程がよい例だと思いますが、多くの会社に様々な就業規則体系が存在するのをみかけます。
就業規則には、必ず定めなければならない“絶対的必要記載事項”と、定める場合には記載しなければならない“相対的必要記載事項”があります。旅費は“絶対的必要記載事項”として列挙されていませんので、ここで問題となるのは、旅費規程が“相対的必要記載事項”に当たるか否かです。
労働基準法89条第10号は、“絶対的必要記載事項”のほか「当該事業場の労働者のすべてに適用される定めをする場合」について、就業規則を作成し届出ることを求めています。これがいわゆる“相対的必要記載事項”のことです。旅費規程は、労働者のすべてに適用される日当の金額や交通費の支給基準を定めているのが通常でしょうから、“相対的必要記載事項”に該当することになります。
なお、旅費に関する定めについて、通達(昭25.1.20基収3751号、平11.3.31基発168号)では次のように記述されています。「旅費に関する事項は、就業規則の強制的記載事項ではないから、就業規則中に旅費に関する定めをしなくても差支えないが、旅費に関する一般的規定をつくる場合には 〜就業規則の中に規定しなければならない」
A.就業規則には、必ず記載しなければならない絶対的必要記載事項があります。
常時10人以上の従業員を使用する会社は、下記に関する事項について就業規則を作成し、所轄労働基準監督署へ届け出なければなりません(労基法89条)。これは、作成した場合だけでなく変更したときも同様です。下記①〜③の項目は、絶対的必要記載事項とされ必ず就業規則に記載しなければならないものです。④〜⑪の項目は相対的必要記載事項とされ、ルールを決めた場合には就業規則に記載することになります。
なお、就業規則の作成・変更については、事業場ごとに過半数を代表する労働組合または従業員に意見を聴く必要があります。この従業員の代表者等が、会社からの一方的な指名などにより選任されていた場合には、実質的に過半数の従業員の信任を得ていないことになってしまうので注意が必要です。
(絶対的必要記載事項)
① | 始業及び終業の時刻、休憩時間、休日、休暇並びに労働者を2組以上に分けて交替に就業させる場合においては就業時転換に関する事項 |
② | 賃金(臨時の賃金等を除く。以下この号において同じ。)の決定、計算及び支払の方法、賃金の締切り及び支払の時期並びに昇給に関する事項 |
③ | 退職に関する事項(解雇の事由を含む。) |
(相対的必要記載事項)
④ | 退職手当の定めをする場合においては、適用される労働者の範囲、退職手当の決定、計算及び支払の方法並びに退職手当の支払の時期に関する事項 |
⑤ | 臨時の賃金等(退職手当を除く。)及び最低賃金額の定めをする場合においては、これに関する事項 |
⑥ | 労働者に食費、作業用品その他の負担をさせる定めをする場合においては、これに関する事項 |
⑦ | 安全及び衛生に関する定めをする場合においては、これに関する事項 |
⑧ | 職業訓練に関する定めをする場合においては、これに関する事項 |
⑨ | 災害補償及び業務外の傷病扶助に関する定めをする場合においては、これに関する事項 |
⑩ | 表彰及び制裁の定めをする場合においては、その種類及び程度に関する事項 |
⑪ | 前各号に掲げるもののほか、当該事業場の労働者のすべてに適用される定めをする場合においては、これに関する事項 |
A.何らかの方法で労働者に周知されていれば、効力が発生します。
どこの会社でも、ときどき就業規則を改定することがあるでしょう。ご存知のように、「常時10人以上の労働者を使用する使用者」は、就業規則を改定する場合、事業場毎の過半数を代表する労働者の意見を聞かなければなりません。労働組合があればあまり問題にはなりませんが、そうでない場合には労働者代表の選出に注意をはらう必要があります。会社からの一方的な指名等ではなく、選挙等の民主的な手法によることが求められているのです。なお、労働者代表からの意見聴取をしていなくとも就業規則自体の効力に影響はありません。その場合には、意見聴取義務違反として労働基準法の罰則が適用されることになります。
労働者代表の意見書の取得など準備が整えば、事業場を管轄する労働基準監督署長に「遅滞なく」届け出なければなりません。この「遅滞なく」とは、具体的な期限を指定しているわけではありませんが、なるべく早く届け出た方がよいでしょう。なお、労働基準監督署長に届け出が遅れたり、届け出ていなかったりしても就業規則自体の効力に影響はありません。その場合には、届出義務違反として労働基準法の罰則が適用されることになります。
そうすると、就業規則の効力が発生するのは、どの時点なのか、という疑問に至ります。この点につき、最高裁は次のように述べています。「就業規則が法的規範としての性質を有するものとして、拘束力を生ずるためには、その内容を適用を受ける事業場の労働者に周知させる手続きが採られていることを要するものというべきである」(平15・10・10最高裁 フジ興産事件)
以上のように、何らかの方法で労働者に周知されたときに、就業規則は効力を発生することになります。
A.労使協定を含め、いつでも従業員が閲覧できる方法を取る必要があります。
労働基準法第106条第1項には、「就業規則、〜協定〜を、常時各作業場の見やすい場所へ掲示し、又は備え付けること、書面を交付することその他の厚生労働省令で定める方法によつて、労働者に周知させなければならない。」と書かれています。
従業員に周知ができていれば問題はないので、就業規則を印刷して個別に配布する義務を会社が負っているわけではありません。最近は、IT環境が整備され職場にパソコンが配備されているのが通常でしょう。社内のイントラネットの掲示板等に就業規則を掲載し、いつでも従業員が閲覧できる体制を取っているのであれば、この義務を果たしたことになります。
ここで注意すべきは、就業規則だけではなく労使協定が含まれている点です。36協定をはじめとする各種労使協定は、就業規則と同様に周知する義務が会社にあります。イントラネット等に就業規則を掲載していても、労使協定を掲載していないことは、法律の義務を履行できていないことになります。労使協定の周知義務違反により、労働基準監督署の是正勧告を受けるケースもありますので注意が必要でしょう。
Q.給与規定の場合、「規定と規程」どちらが正しいのでしょうか?
A.正しくは、「給与規程」とするべきでしょう。
就業規則には、いろいろな規程が付属するのが一般的でしょう。平成10年の労働基準法改正までは一部の規則に制限されていましたが、現在では委任規定を設けなくとも自由に別規則化することができるようになりました。規程の名称はさまざまですが、“○○規定”という名称の“規程”を見かけることがあります。この規定と規程の違いについて疑問を持つ方も多いようです。
歴代の内閣法制局長官が執筆者として名を連ねる『法令用語辞典』*では、次のように書かれています。“規定”は、「1個の法令における個々の条項の定をいう」とされる一方、“規程” は、「一定の目的のために定められた一連の条項の総体を一団の定として呼ぶときに用いる」とされています。つまり、“規定”が指すのは細かな個別の条文であり、“規程”はより大きな条文がまとまったものを指しています。例えば、「第○条の規定」は個別の条文であり、「●●規程」は規則の名称として用いることになります。
法律で使用方法が強制されているものではありませんが、できればこの用法に従い根拠を明確にする方が使いやすいのではないでしょうか。
*佐藤達夫編[1950]『法令用語辞典』学陽書房(初版)