人事の本100冊

 どの本を読めば、仕事の役に立つのか? 読んでみないとなかなか分からないものです。

 このコーナーでは書評という大所高所からではなく、人事担当者の皆様のお役に立つかどうかの視点から、簡単に書籍のご紹介をしたいと思います。少しずつ定期的にご紹介していきますので、時々、チェックしてみてください。このコーナーが人事担当者の皆様の少しでもお役に立てば幸いです。

 

労働経済・人的資源管理など

●考える力を高めるキャリアデザイン入門

●活用労働統計 2025

●新しい人事労務管理【第7版】

●賃金とは何か ~職務給の蹉跌と所属給の呪縛

●仕事と賃金のルール ~「働き方改革」の社会的対話に向けて

●人的資本の論理 ~人間行動の経済学的アプローチ

●改訂新版 ベア・定昇の実際 ~これからの賃金決定と配分政策

●日経連の賃金政策 ~定期昇給の系譜

●日本の会社のための 人事の経済学

●日本の労働経済事情(2023年版) ~人事・労務担当者が知っておきたい基礎知識

●メンバーシップ型雇用とは何か ~日本的雇用社会の真実

●日本型人材育成の有効性を評価する ~企業内養成訓練の日仏比較

日本の人材育成とキャリア形成 ~日英独の比較

日本のキャリア形成と労使関係 ~調査の労働経済学

●能力主義管理研究会オーラルヒストリー ~日本的人事管理の基盤形成

●データブック国際労働比較 2023

●あなたを変える行動経済学

●雇用か賃金か 日本の選択

●日本社会のしくみ ~雇用・教育・福祉の歴史社会学

●女性自衛官 ~キャリア、自分らしさと任務遂行

●虹を渡った人たち ~ボクの心に火を点けた 挑戦者の物語

●ジョブ型雇用社会とは何か ~正社員体制の矛盾と転機

●AIの経済学

●日本的雇用・セーフティーネットの規制改革

●人事の組み立て ~脱日本型雇用のトリセツ~

●統計で考える働き方の未来 ~高齢者が働き続ける国へ

●労働経済

●企業中心社会を超えて ~現代日本を<ジェンダー>で読む

●働き方改革の世界史

●ブラック職場があなたを殺す

●治療と就労の両立支援ガイダンス

●年金不安の正体

●欧州の教育・雇用制度と若者のキャリア形成

●働き方の哲学 〜360度の視点で仕事を考える

●「AIで仕事がなくなる」論のウソ

●その幸運は、偶然ではないんです!

●心療内科産業医と向き合う職場のメンタルヘルス不調

●悪いヤツほど出世する

●「超」進学校 開成・灘の卒業生 〜その教育は仕事に活きるか

●仕事と人間性 動機づけ―衛生理論の新展開

●生涯発達の心理学

●経営学で考える

●戦後労働史からみた賃金

●Excelでできる統計データ分析の仕方と人事・賃金・評価への活かし方

●なぜ日本企業は強みを捨てるのか

●労働時間の経済分析 〜超高齢社会の働き方を展望する

●「就活」と日本社会 〜平等幻想を超えて

●検証・学歴の効用

●アメリカ自動車産業 〜競争力復活をもたらした現場改革

●日本の雇用と中高年

●雇用再生 〜持続可能な働き方を考える

●仕事と組織の寓話集 〜フクロウの智恵

●わかりやすい労働統計の見方・使い方

●日本労使関係史 1853-2010

●若者と労働 〜「入社」の仕組みから解きほぐす

●組織デザイン

●現代雇用論

●もの造りの技能 〜自動車産業の職場で

●能力主義管理 〜その理論と実践

●日本産業社会の「神話」 〜経済自虐史観をただす

●大卒就職の社会学 〜データからみる変化

●人的資源管理論 【理論と制度】 第3版

●賃金とは何か―戦後日本の人事・賃金制度史

●Excelで簡単 やさしい人事統計学

●人材を活かす企業  「人材」と「利益」の方程式

●仕事の経済学 [第3版]

 

↓ 以下をご覧ください。

考える力を高めるキャリアデザイン入門

 キャリアデザインに関する書籍です。

 藤村博之、德山誠、齋藤典子、斎藤貴久が共著で執筆を分担したものです。各章は以下の通りです。キャリアデザインに興味をお持ちの方は、参考になるかもしれません。

 第01章-キャリアとは何か、第02章-大学で学ぶ意味、第03章-社会を見る目を養う~新聞を読み比べる、第04章-労働の連鎖を追ってみる、第05章-アルバイトは就業経験になるのか、第06章-働くことの意義~身近な人に聞いてみる、第07章-やりがいはどこで生まれるのか、第08章-ライフキャリアと職業キャリア~女性の視点から、第09章-ライフキャリアと職業キャリア~男性の視点から、第10章-グローバル人材とは、第11章-仕事の未来を考える、第12章-変化対応力を鍛える、第13章-世界の中の日本、終章-考える力を高める

【あとがきの一部】

 本書のもとになったのは,2018 年度に法政大学で行われた「キャリアデザイン入門」という講義です。藤村が基本構想を描き,德山,斎藤,齋藤の3名との議論を通して,14 回の講義を創り上げました。3 週ごとに集まり,それぞれが作成した講義資料を持ち寄って,よりよい内容にするように研鑽を重ねました。その意味で,本書の各章は,4 人の共同作業の結果であるといえます。

著    者:藤村博之/編、德山誠、齋藤典子、斎藤貴久

出 版 社:有斐閣

発 売 日:2022年12月(第3刷)

カテゴリー:教科書(キャリアデザイン)

 

 

活用労働統計 2025

 初任給が止まりません。

 初任給は定期昇給しませんので、その上昇はベースアップということになります。物価上昇への対応というよりは、採用力を確保するために実施する意味合いが強いでしょう。では、どの程度引き上げるべきか? 答えはありません。競合他社の水準や自社の支払能力などを勘案して、実現可能なレベルを検討することになるでしょう。なお、初任給だけを引き上げると賃金カーブが歪んでしまうので調整が必要です。そのため、賃金表全体の改定に影響します。

 そんな時、コンパクトで必要なデータを揃えているのが、この書籍です。日本経団連、連合、東京都産業労働局または厚生労働省の賃上げに関する統計が載っています。また、過去50年以上にわたる毎年の賃上げ状況について、たった1ページを見るだけで把握することもできます。そして、大まかではありますが、業種別や規模別に確認することも可能です。その他にも、雇用・労働に関するデータが盛りだくさんです。

 巻末の「用語の解説」は、知識の整理にも大変役立ちます。「名目賃金」と「実質賃金」の違いや、「労働力人口」や「完全失業者」の定義など、普段何気なく使っている用語について簡潔に説明してくれます。また、「主要統計一覧」では、どのような調査が存在しどれを調べればよいか、当りをつけるのに重宝します。とりあえず知りたいことが何でも揃う。そして小さく軽くて扱いやすい。人事担当者にとってハンディなデータ資料集の決定版といえるでしょう。

著    者:生産性労働情報センター 編

出 版 社:日本生産性本部 生産性労働情報センター

発 売 日:20251

カテゴリー:資料集(雇用、労働など)

新しい人事労務管理【第7版】

 新任人事担当者の育成にお薦めします。

 初版が刊行されたのは1999年5月、既に第7版となりました。出版事情の厳しい中、長期間にわたって支持されてきたといってよいでしょう。執筆は、佐藤博樹先生、藤村博之先生、八代充史先生という豪華メンバーです。若い時から企業内部に入り込み実態を調査し、実証的に研鑽を積み上げてきた強者揃いであり、雇用・労働の議論をここまで引っ張ってきた研究者です。ある意味では、企業の人事について人事担当者よりも深い見識を持っているといって過言ではありません。

 この書籍の読者には、大学生も想定されていますが、企業の人事担当者のことが十分に意識されています。経営と人事の位置関係や実務的な人事制度についてなど、人事部門の所管する業務が網羅されており、人事の業務分掌を作る際にも役立ちます。ですので、人事部門のマネージャーが部下の業務分担を見直す場合にも、大変参考になる書籍だと思います。可能であれば部下に1冊ずつ買い与え、レポートを提出させるような使い方ができると、新任人事担当者の能力開発に大いに役立ってくれると思います。

 「部下に読ませたいナンバーワン」という位置付けが、ピッタリくるこの一冊です。

著   者:佐藤 博樹、藤村 博之、八代 充史

出 版 社:有斐閣

発 売 日:2023年12月

カテゴリー:学術書と実務書の中間(人事労務管理)

賃金とは何か ~職務給の蹉跌と所属給の呪縛

 「上げなくても上がるから上がらない日本の賃金」とオビにあるのを見て、その通りと思った次第です。これは、労使交渉で無理に賃金を「上げなくても」、定期昇給で個人の賃金は「上がるから」、結果として賃金水準が「上がらない日本の賃金」と読むことになります。この本の中(P289)にも出てきますが、過去30年間、先進7か国の賃金が軒並み上昇しているのに対し、日本だけがフラットな賃金カーブを描いています。これをもって、日本はひど過ぎるという論調がはびこっているように感じます。しかし、他国とは事情が異なります。ジョブ型社会では「日本のような定期昇給という仕組みはない」と、著者のような発信力のある人にはっきり言ってもらえると、実務を担当する人間はとても助かります。

 次のような記述も登場します。「明治時代に日本で工業化が軌道に乗り出した頃、日本の労働市場の特徴はその高い異動率でした。」 雇用の流動性を高めたいと考える現在とは、異なる日本社会が存在したわけです。当時、従業員の定着率を高めるために会社がとても苦労した時代です。いわゆる終身雇用が日本の文化的背景からくるものだというコンサルタントを信用してはいけない、とも言えます。

 この本は、歴史解説の要素が強く実務に使える書籍という感じではありませんが、人事担当者として備えておくべき素養を与えてくれます。「賃金とは何か」、「ジョブ型雇用社会とは何か」について、改めて学びたい人にお勧めします。

著   者:濱口 桂一郎

出 版 社:朝日新聞出版

発 売 日:2024年7月

カテゴリー:新(賃金史

仕事と賃金のルール ~「働き方改革」の社会的対話に向けて

 「普通」を疑うことは、重要です。

 人事担当者は、人事制度を運用しています。一般社員は、上司によって評価され定期昇給します。そして、選抜された結果、管理職になっていく人もいます。それが普通の会社だといってよいでしょう。自分たちの普通は、どこの国でも普通のことだと思っていたりします。一方、他国と異なる部分は日本が遅れていると解釈し、欧米を美化する風潮が未だにあるように思います。

 この書籍では、繰り返し同じ表現が出てきます。英米の企業に「人事考課はない」と記述されています。著者は、たくさんの企業を調査しこの事実に驚いたそうです。つまり、ジョブ型雇用が普通である英米では、一般社員は評価されないということです。他の研究者も同様の指摘をしていますので、自分自身の普通を確認する必要があるでしょう。

 また、日米の自動車工場の調査事例が出てきます。日産・ホンダ・トヨタとGMの比較です。著者は、次のように述べます。これらの「本質的違いは内部労働市場の相違である。」GMには「組合員内部の階層性は存在せず、したがってキャリアも存在しない。他方、」日本の工場には「複数の階層があり、個々人は人事考課を通じて昇格(昇級)していくキャリアが存在する。重大な違いである。」と記述されています。米と日本の企業の違いがくっきり出ています。キーワードは、キャリアの断絶です。日本は、一般社員から管理職まで昇進ルートが連続していますが、米ではそうでないケースが多いということです。

 この書籍に記載される調査は、少々時期が古いため批判される部分もありそうですが、伝統的な労働経済学の知見がふんだんに盛り込まれています。長い研究者生活を費やして著者が得た見識を提供してくれる書籍だと思います。通念を確認したいと思う知的欲求豊かな人事担当者にお薦めします。

著    者:石田 光男

出 版 社:法律文化社

発 売 日:2023年10月

カテゴリー:一般書(労働経済

人的資本の論理 ~人間行動の経済学的アプローチ

 流行ってますね、“人的資本経営”。

 ゲーリー・ベッカーの『人的資本』の和訳版が日本で発行されたのは1976年です。ほぼ半世紀前になります。人的資本を新しいもののように扱う書籍があったとすれば、疑った方がよいかもしれません。ベッカーといえば、1992年にノーベル経済学賞を受賞したシカゴ学派の学者として有名です。著者は、シカゴ大学大学院でベッカーの薫陶を直接受けたというのですから、非常に限られた研究者の一人といえるでしょう。

 著者は、アダム・スミスの『国富論』から始まる歴代の人的資本理論の基本をおさらいしてくれます。ドーリンジャー&ピオレの「内部労働市場論」など懐かしく感じる人もいるでしょう。また、「シグナリング理論」の解説は面白いと思います。情報が不完全な状態では、新卒採用における大学ブランドが優秀さのシグナルになると言われたりします。それを残業に当てはめ、「残業が減らない一要因としては、残業はプラスのシグナルとして、また定時に帰宅することはマイナスのシグナルとして解釈されることの懸念があるのだろう。」と記述しています。頷く人事担当者が結構いるかもしれません。

 著者いわく、本書は「専門書に近い一般書」だそうです。ベッカーの『人的資本』には、多くの数式が登場しますが、本書では「(中学生でもなじめる二次方程式を上限に)難しい数式」は使用せず、「図表をふんだんに」使う工夫をしたそうです。流行のものではなく、本物の人的資本理論について勉強したい人事担当者にお薦めしたいと思います。

著    者:小野  浩

出 版 社:日本経済新聞出版

発 売 日:2024年4月

カテゴリー:専門書に近い一般書(人的資本理論

改訂新版 ベア・定昇の実際 ~これからの賃金決定と配分政策

 ベース・アップ、できていますか?

 ベア(ベース・アップ)は、ベース(賃金表)をアップ(プラス方向への書換)させることですが、実施されない期間があまりに長かったため、その手法が継承されていない会社があるかもしれません。いわゆる春闘でメディアに登場する昇給額や率は、たいてい「定昇+ベア」の数値です。人事担当者が実務に臨む時には、定昇とベアを分ける必要があります。定昇とベアは、「加減」ではなく「乗除」の関係になります。

 定昇(定期昇給)は、人事制度の運用そのものなので悩みませんが、ベアは政策的に実施するのでどのように配分するかの意思決定が必要です。例えば、初任給と中高年への対策では、ベアの配分は大きく異なる方向になるでしょう。適切な意思決定をするためには、日頃から自社の賃金カーブの状況を把握しておく必要があります。ベアの配分は、頭を使う仕事といってよいでしょう。ちょっとした数学の世界です。

 上記のような賃金実務を実施する人事担当者は、当然に勉強が必要です。その助けになるのが本書です。ベアが盛んだった頃、ベストセラーになっていたと思います。著者である「楠田 丘」先生は、職能資格制度の普及に尽力された方です。キャリアを積んだ人事担当者の中には、セミナーでお世話になったりこの書籍で勉強したりした人が数多くいるだろうと思います。

 今となっては懐かしい部類の書籍ですが、実務的に詳細に理解できるよう書かれており、今日でも大変役立ちます。図書館でも構いませんし中古であれば入手できるようですので、一度手に取っていただく価値のある書籍だと思います。人事担当者として定昇とベアの実務について、基本的な手法を理解しておくことは重要でしょう

著    者:楠田  丘

出 版 社:経営書院

発 売 日:1991年4月

カテゴリー:実務書賃金実務

 

 

日経連の賃金政策 ~定期昇給の系譜

 「賃上げ」とは、何かが理解できます。

 かつて「財界労務部」と呼ばれた日経連(日本経営者団体連盟)の足跡をたどることで、定期昇給の果たした役割を理解することができます。日経連は、2002年に経済団体連合会と統合し、経団連(日本経済団体連合会)として現在に至っています。

 戦後、労働組合の過激なベース・アップの要求により賃金上昇圧力を抑えきれず、企業の経営権が脅かされる時代がありました。そこで、日経連は経営者が経営権を奪還するために、定期昇給による賃上げを提起します。その都度、労働組合に要求されるベース・アップよりも、制度的な定期昇給による賃上げの方が低額で済むと考えたわけです。

 日経連は、「定期昇給は内転原資により賄われるため、企業の財務的追加負担はほとんどない」と考えていたそうです。これは、階段のようなものと言ってもよいでしょう。階段の各段(20歳~60歳の約40段)に1人ずつ、従業員が立っているとします。一番下の段に20歳の新入社員が乗るのと同時に60歳の定年退職者は一番上の段から降りることを繰り返します。毎年、1段上がることで各自の賃金は上昇しますが、この人員構成が維持される限り常に40人分の賃金が発生するので、人件費全体はあまり変動しないことになります。

 もう一つ、日経連が定期昇給を提起したのには大きな理由があるそうです。「1950年代から60年代における日経連の最大の関心は、定期昇給においては考課的昇給の確立であった。経営側が従業員を自らの意志で序列化し、賃金に基づく企業内の秩序を維持することが、賃金決定における労働側からの「経営権の奪還」と意味づけられるものであった。」と記述されています。このような歴史が現在につながっているのですね。賃上げが注目される今だからこそ、その歴史を学ぶのも面白いと思います。

著    者:田中 恒行

出 版 社:晃洋書房

発 売 日:2019年2月

カテゴリー:賃金(学術書)

パソコン|モバイル
ページトップに戻る