有期雇用・入退社等
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A.「均衡処遇」を意識し、労使の対話を重視すべきです。
パートタイム・有期雇用労働法第9条は、「職務の内容が通常の労働者と同一の短時間・有期雇用労働者」について「差別的取扱いをしてはならない」と定めています。これは、「均等処遇」と呼ばれており、仕事の内容や人事異動の範囲など全てにおいて正社員と完全に同じケースですので、事例としては少数派になるでしょう。
同じく第8条は、「短時間・有期雇用労働者の〜待遇のそれぞれについて」、「不合理と認められる相違を設けてはならない」と定めています。これは、「均衡処遇」と呼ばれており、不合理な格差は許されないが、ある程度説明がつく範囲であれば許容されることになります。通常は、こちらのケースが多く想定されるでしょう。そのため、「均衡処遇」としてある程度説明がつく範囲内に格差を縮小しなければなりません。また、従業員の同意や交渉過程は、「その他の事情」として、不合理性を否定してくれますので、時間をかけた丁寧な説明をすることも重要です。
いわゆる正社員は、長期的な人材活用を念頭に置いた雇用グループになりますので、短期的な雇用を想定する短時間・有期雇用労働者と本当の意味での同一労働同一賃金までは求められないと考えることが可能です。
Q.労働者派遣法の改正により、派遣期間の制限はなくなったのでしょうか?
A.無期雇用では制限なし、有期雇用では原則3年の制限があります。
2015年9月30日施行の労働者派遣法では、派遣元企業の雇用形態によって、派遣期間の制限の有無が決まります。
改正法では、派遣元企業で「無期(期間の定めのない)雇用契約」を結んだ労働者について、派遣先企業での派遣期間に制限はありません。以前から、政令で定める業務(いわゆる26業務)については、派遣期間の制限がありませんでしたが、派遣労働者の担当する仕事の種類によっては派遣期間が制限されていましたので、働きたくとも働けない派遣労働者が存在しました。法改正により、業務による区分がなくなりましたので、今後は「無期雇用契約」を結んだ派遣労働者が、様々な種類の仕事に進出することで、派遣期間の制限を気にする必要のないケースが増えるかもしれません。この場合、派遣労働者の雇用の安定性は高まるでしょう。
一方、派遣元企業で「有期雇用契約」を結んだ労働者は、派遣先企業で「原則3年」を超えて働くことができなくなりました。もともと、労働者派遣法には正社員の保護措置として、「常用代替防止」の考え方が強くあります。これは、正社員の仕事が派遣労働者に奪われることを防止するため、労働者派遣が短期間となるように制限しているのです。ただし、「原則3年」には例外規定があり、それを利用すれば長期的に労働者派遣制度を活用できることになります。この点では、経済団体等から評価をされているようです。
労働者派遣法は、「派遣労働者の保護」、「正社員の保護」、「労働者派遣の活用」など、利害が相反する中でバランスを取る必要があり多くの問題をかかえていますので、今後も法改正は続くことが予想されます。
Q.契約社員が無期転換すると仕事の内容は変化するものでしょうか?
A.長期の能力開発が可能になり、生産性の高い仕事を担当するかもしれません。
労働契約法は、同一使用者との間で更新された労働契約が通算5年を超え、本人から申し出があった場合には、期間の定めのない労働契約に転換することを定めています。期間の定めがない点では、いわゆる正社員と同様の状態になりますので、一般的には定年まで働く長期の雇用関係に入ることを意味します。ただし、別段の定めがない限り、直前の有期労働契約の内容で更新されますので、仮に時給制の契約社員であれば、“期間の定めのない”時給制の契約社員が誕生するのであって、正社員に自動的になるわけではありません。
有期雇用(期間の定めのある労働契約)は、1年間など短期の設定になるのが通常でしょう。正社員が長期雇用であるのに対して、非正規労働者は短期間の有期雇用契約を結ぶのが一般的です。一部の専門人材を除けば、非正規労働者が能力開発に時間のかかる生産性の高い仕事を担当することは困難でしょう。すると、正社員は非定型的で判断を伴う生産性の高い仕事を担当し、非正規労働者はそうではない定型的な仕事を担当することが多くなります。これは、そのまま賃金格差の問題につながっているとも考えられます。
短期雇用を前提とした非正規労働者が無期転換すれば長期の能力開発が可能になり、より高い生産性を発揮することが期待できます。会社は教育投資(研修など)をして、その成果を回収しようと考えるでしょう。生産性の向上に伴い賃金が上昇することは理にかなっています。非正規労働者の無期転換は、会社を成長させると伴に賃上げのカギになるのかもしれません。
A.適用範囲に気を遣う必要があります。
多くの会社には就業規則が2つ以上あると思います。正社員と非正社員では、就労条件が異なるのが通常でしょうから、雇用区分に応じて2つ以上に分ける必要が出てきます。そのため、就業規則でもっとも重要なのは、適用範囲といっても良いでしょう。それぞれの雇用区分をきちんと定義し、いずれの就業規則が適用になるかを明確にしなければなりません。
いわゆる正社員は、期間の定めのない労働契約を結ぶのに対して、非正社員は有期雇用契約であるのが通常でしょう。仮に、正社員の就業規則に、「この就業規則は、期間の定めのない社員に適用する」と書かれていれば、有期雇用契約から無期転換した社員にも適用されることになります。改正労働契約法の施行により、無期転換が法制化されるまでは、このような条文をよく見かけました。しかし、期間の定めの有無だけでは、雇用区分の定義ができなくなったわけです。
無期転換社員に正社員の就業規則を適用しないのであれば、正社員の就業規則に無期転換社員の適用除外を明記し、新しい専用の就業規則を設けることがトラブルの予防になります。または、無期転換する前から適用されていた就業規則に、「この規則に定める労働条件は、(略)無期労働契約での雇用に転換した後も引き続き適用する(厚労省モデル)」と記述することで、適用範囲を明確にすることもできます。なお、有期雇用社員にはもともと定年の定めがありませんので、改めて無期転換後の定年について考える必要が出てきます。
Q.始末書を提出しない従業員を再度、懲戒することは可能でしょうか?
A.始末書は強制できませんので、顛末書の提出を求めると良いでしょう。
懲戒処分には、「戒告、譴責、減給、出勤停止、降格、諭旨退職、懲戒解雇」などがあり、就業規則でどういった場合に懲戒処分になるかの事由が列挙されている必要があります。企業によって懲戒処分の種類や呼び方は多少異なり、戒告と譴責の違いが明確でないケースもあるようですが、口頭によるものが「戒告」、始末書を提出させるものが「譴責」と呼ばれることが多いようです。
比較的軽い処分である譴責は、将来を戒めるために始末書の提出を伴うものと思われますが、本来、思想について強制することは許されないことですので、始末書を提出しないからといって更に懲戒処分を課すことには問題があります。この点につき、代表的な裁判例である福知山信用金庫事件(大阪高裁 昭53.10.27)では、始末書の「提出の強制は個人の良心の自由にかかわる問題を含んでおり」、「提出しないこと自体を企業秩序に対する紊乱行為とみたり特に悪い情状とみることは相当でないと解する」とされています。
譴責処分はその告知をもって既に成立していますので、始末書の提出要請に本人が従わなかったとしても仕方のないことになります。しかし、それでは示しがつかないと言われそうです。その場合には、顛末書の提出を求めると良いでしょう。顛末書は、企業として事実確認のために経緯やその顛末を報告させる業務報告書の位置付けです。将来を戒めるために提出を求めるものではなく、業務の報告を求めるわけですから通常の業務命令として成しえます。この業務命令に従わないのであれば、改めて懲戒処分の対象にすることは可能でしょう。
A.事由について、懲戒解雇は限定列挙、普通解雇は例示列挙といわれています。
就業規則には、解雇の事由が記載してあります。この事由に該当した場合に、解雇が実施されることになります。仮に、事由が明らかでない状態で解雇されることになれば大問題です。
就業規則の解雇の事由は、限定列挙と例示列挙、どちらなのかという論争があります。懲戒解雇の場合には、罪刑法定主義の考え方から就業規則に限定列挙されていなければならないが、普通解雇の場合にはそこまで求められず例示列挙が許される、というのが通説と言ってよいでしょう。
ここでいう限定列挙とは、就業規則に記載されている事由に限って、解雇ができるという意味です。一方、例示列挙とは、就業規則に記載されている事由は、あくまでも例示であるので、完全に一致する事由が記載されていなくとも解雇ができる、という意味になります。ただし、就業規則の解雇事由には、「前各号に準ずる止むを得ない理由があるとき」といった条項を設けているのが一般的ですので、実質的にはあまり問題にならないようです。いずれにしても、解雇の事由について適性に記載することが法律上のリスクを軽減することになります。
Q.私傷病休職の期間満了で復職できない場合、解雇することになりますか?
A.就業規則に定めがあれば、自動退職として問題ないでしょう。
休職は、労働基準法等に定めのあるものではありません。会社ごとの取り決め、つまり就業規則に従うことになります。そのため、休職の要件や休職期間の長さ等については会社によって千差万別です。
私傷病休職は、従業員の私傷病のために長期にわたり労務提供不能の状態になるので、本来は普通解雇の対象になります。しかし、いきなり解雇することはあまりに酷であるため、猶予期間として位置づけられるのが休職制度といってよいでしょう。そして、休職期間が満了するまでに復職することができなければ、改めて解雇することになります。
一方、退職事由に「休職期間が満了するまでに復職できないとき」と書かれている就業規則をよくみかけます。この記述に従えば、自動退職扱いとなりますが、この規定は有効なのでしょうか?この点につき、労働基準法コンメンタール(厚生労働省労働基準局編)では、「当然契約が終了するという定めが契約の当初よりなされているのであるから、一般には、定年制の場合と同様に契約の自動的終了事由が定められたものと解し、休職期間満了による契約の終了は解雇ではないとみるべきではなかろうか」と記載され、事前に就業規則に定められているのであれば、自動退職となることを肯定しています。
以上のように、私傷病休職の期間満了により退社する場合には、解雇と自動退職の2通りがあり得ますので、就業規則の“規定ぶり”について注意をする必要があるでしょう。
A.不可能ではありませんが、正当な理由が必要になるでしょう。
試用期間には、2つの意味があると思います。労働基準法と就業規則が定めるものです。
労働基準法は、労働者を解雇しようとする場合、少なくとも30日前にその予告をしなければならないと定めています。これは、解雇を禁止しているわけではなく、予告という手続きの遵守を求めるものです。ただし、試の使用期間中の者(14日以内)であれば、その手続きを取らなくともよい例外が記載されています(労基法第21条)。ここは、手続規制の問題です。解雇には正当な理由が求められます。
就業規則で試用期間を定めることは会社の自由です。試用期間を3箇月と定めれば4箇月目に本採用になるでしょう。この時、本採用しないのであれば、試用期間満了をもって解雇することになります。既に14日を超えていますので当然に解雇予告が必要な状態です。ここでも、解雇には正当な理由が求められます。
一方、労働契約法第16条は「解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。」と定めています。この規定も解雇を禁止しているわけではありませんが、解雇予告や試用期間の有無とは別に、解雇には正当な理由が求められていることがわかります。
どのような場合であっても、解雇を行う場合には正当な理由が求められます。他の長期勤続の労働者を解雇することに比べれば、解雇予告の不要な14日間や試用期間満了による場合は、解雇の事由に求められる客観性・合理性の程度が緩和されることになるかもしれません。しかし、具体的には裁判で個別に判断されることになりますので、解雇を前提にした対応策をとることには注意が必要です。
A.転籍には個別同意が必要ですので懲戒処分は問題でしょう。
基本から確認しましょう。民法625条第1項は、「使用者は、労働者の承諾を得なければ、その権利を第三者に譲り渡すことができない。」と定めています。つまり、“従業員の同意がない限り”、出向や転籍を命じることはできないということです。
しかし、一般的には従業員に対して個別の同意など取らず、出向させているケースがほとんどではないでしょうか。これは、「出向させる場合があり、命令に従わなくてはならない」ことが就業規則で明確になっていれば、これをもって従業員からの“包括的同意”があったとみなされるからです。この点について、「出向規定は合理性があり、従業員の個別の承諾がなくとも出向義務が生ずる」ことは、「正当として是認できる」と最高裁が判断しています。(ゴールド・マリタイム事件 最高裁2小判決 平4.1.24)
一方、転籍についてはどうでしょうか。出向が元の会社と雇用関係を継続しながら新しい会社で働くのに対して、転籍は元の会社と雇用関係を終了した上で新しい会社で働く点で異なります。この場合には、退職という重要な意思決定と地位の変動がありますので、大原則に戻り従業員の“個別の同意”が必要とされます。つまり、従業員の“個別の同意”がない場合には原則として転籍させることはできませんので、懲戒処分については見合わせていただくことになるでしょう。