労働時間・休日休暇

↓ 以下をご覧ください。

労働時間制度の類型整理

Q.労働時間の管理制度には、どのようなものがありますか?

A.3グループあると考えれば、分かりやすいかもしれません。

 労働時間の管理制度にもいろいろあるでしょうが、労働基準法では条文番号順に下記3つのグループがあると考えれば分かりやすいかもしれません。

 第1は「労働時間管理グループ」です。第32条にぶら下がって、原則とは異なる変形労働時間制等の条文が4つ並んでいます。これら条文の形は違えども、まさに労働時間を管理するための制度です。第2は「時間計算みなしグループ」です。第38条にぶら下がって、3つのみなし労働について書かれています。「みなし労働」は、実際に働いた時間ではなく事前に取り決めた労働時間として計算するものです。いわば、労働時間を計算するための例外的なルールであり、労働時間の管理制度とは異なる趣です。第3は「適用除外グループ」です。第41条にぶら下がって、高度プロフェッショナル制度について書かれています。これは、労働時間を管理するものというよりは、労働時間を管理しないための制度といえます。

 労働基準法の労働時間に関する条文は一見複雑に見えますが、条文の並び方に注目することで整理がつきやすくなり、理解を深めることにつながると思います。

(1)第32条は「労働時間」として、原則論が書かれています。

  第32条の2(1箇月単位の変形労働時間制)

  第32条の3(フレックスタイム制)

  第32条の4(1年単位の変形労働時間制)

  第32条の5(1週間単位の非定型的変形労働時間制)

(2)第38条は「時間計算」として、労働時間の通算等が書かれています。

  第38条の2(事業場外労働)

  第38条の3(専門業務型裁量労働制)

  第38条の4(企画業務型裁量労働制)

(3)第41条は「適用除外」であり、管理監督者等の適用除外について書かれています。

  第41条の2(高度プロフェッショナル制度)

 

高度プロフェッショナル制度の年収要件

Q.高度プロフェッショナル制度の年収要件とは

A.平均年収の3倍を上回る水準とされています

 改正労働基準法が定める「高度プロフェッショナル制度」を導入するためには、様々な要件があります。その中でも、年収要件が気になるところでしょう。年収については1,000万円を超える金額がイメージされていますが、法律に明記されているわけではありません。厚生労働省の「省令」で定められるため、引き下げの可能性が心配されるからです。

 改正労働基準法は、年収要件について「年間平均給与額の三倍の額を相当程度上回る水準」と定め、「毎月勤労統計における毎月きまつて支給する給与の額を基礎」とするとしています。毎月勤労統計調査(平成29年分確報)によると、毎月きまって支給する給与は「260,776円」となっていますので、これを年収に換算し3倍すると約940万円になります。つまり、毎月勤労統計調査の金額が下がるか、労働基準法が改正されない限り、年収要件が極端に下がることは考えにくいでしょう。

 仮に、年収1,000万円超が対象者であれば、さほど大きな問題にはならないと考えることもできます。国税庁の「民間給与実態統計調査」によると、年収1,000万円超の給与所得者は約4.5%(平成29年分)であり、その多くは役員および管理監督者として既に労働時間管理の適用除外者だと想像できるからです。

 なお、「高度プロフェッショナル制度」の対象者は、労働基準法の「労働時間、休日、深夜労働」の規定が適用除外されます。一方、管理監督者は、「深夜労働」の規定が適用除外されておらず、夜22時以降の労働に対しては、深夜勤務手当が必要になります。この点には注意をしておく必要があるでしょう

 

フレックスと長いコアタイム

Q,コアタイムだけのフレックスタイム制を採用することはできますか

A.コアタイムが長すぎることには問題があるでしょう。

 フレックスタイム制においてもっとも重要なことは、従業員自身に「始業及び終業の時刻をその労働者の決定に委ねる」ことだといって良いでしょう。ここでは、在社する時間の長さが問題になります。フレックスタイム制では、コアタイム(必ず勤務する時間帯)を設定することができます。出社時刻と退社時刻を従業員自身が決定できる制度ですので、コアタイムを設けておかないと打合せをするのも大変です。例えば、コアタイムを10:00〜15:00位に設定しているケースをよく見かけます。

 一方、コアタイムを長く設定することで、9:00〜18:00勤務のような通常の労働時間管理をしながら、割増賃金を節約しようと考える会社があるかもしれません。仮に、休憩時間が1時間の会社でコアタイムを9:00〜18:00にすると、コアタイムだけで実働8時間になります。この場合は、コアタイム=1日の標準労働時間ということになるでしょう。これでは、始業・終業の時刻を従業員の自由意思に委ねているとは言えないと思われます。法律上の制約ではありませんが、少なくとも1時間位はフレキシブルタイム(出勤・退社の時間帯)として、従業員の自由意思で決定できないと、せっかくのフレックスタイム制の意味がなくなってしまうのではないでしょうか。

 ちなみに厚生労働省の通達では、「フレキシブルタイムが極端に短い場合、コアタイムの開始から終了までの時間と標準となる1日の労働時間がほぼ一致している場合等については、基本的には始業及び終業の時刻を労働者の決定にゆだねたこととはならず、フレックスタイム制の趣旨には合致しないものであること(昭63.1.1基発1号)」とされています

 

事業場外みなし労働とは

Q.事業場外労働のみなし労働時間制とは?

A.「外」かつ「把握困難」な場合に採用できる手法です。

 労働時間を把握するには、タイムカード等の客観的な記録方法をとるの原則ですが、直行直帰のように出社しない場合にはそれが困難です。この原則に対して例外的に考えられたのが、事業場外労働のみなし労働時間制といえるでしょう。

 労働基準法第38条の2には、「労働者が労働時間の全部又は一部について事業場外で業務に従事した場合において、労働時間を算定し難いとき」と記述されています。ここでいう「事業場外」が第1要件、「労働時間を算定し難いとき」が第2要件と考えられます。事業場外つまり会社の外であることは当然ですが、労働時間の算定の可否が問題となります。

 この件に関する厚生労働省の通達には、“ポケットベル”の出てくるものがあります。現代の若者には、ポケットベルについて説明をしなければ理解できないでしょう。それだけ時代が変化したということです。現在では、GPS(全地球測位システム)機能を備えたスマートフォンが普及しています。いつ、どこにいるかを客観的に把握することが可能です。事業場外労働のみなし労働時間制が法定された時代と比較して、「労働時間を算定し難いとき」は限られたケースになってきたと考えられます。労働基準監督署の臨検では、「労働時間を算定し難いとき」について説明を求められる場合がよくあります。結果として、行政指導を受けることもありますので注意が必要でしょう

 

残業時間の端数処理

Q.1日の残業時間について、30分単位で集計してもよいでしょうか?

A.集計単位は任意のものですが、1分単位が原則です。

 よくあるご質問です。従業員の労働時間把握義務を果たし、時間外勤務手当を支給することはたいへんなことです。人事担当者であれば、事務処理を効率的に処理したいと考えることでしょう。

 割増賃金について、厚生労働省の通達(昭和63年3月14日基発第150号)では、「1か月における時間外労働、休日労働及び深夜業の各々の時間数の合計に1時間未満の端数がある場合に、30分未満の端数を切り捨て、それ以上を1時間に切り上げること」は、「常に労働者の不利となるものではなく、事務簡便を目的としたものと認められるから〜違反としては取り扱わない」とされています。つまり、30分未満を切り捨てることは従業員にとって不利ですが、30分以上を切り上げれば有利になりますので許容範囲だといっているわけです。ただし、これは1か月単位で集計する場合のことであり、日々の端数処理は認められていません。日ごとの残業時間は、「1分単位」で把握することが大原則だといってよいでしょう。

 仮に、1日ごとの残業時間を30分単位で把握する場合、全てについて切り上げるのであれば、従業員にとって不利はありませんので可能と考えられます。しかし、それではコストがかさんでしまいます。例えば、30分単位ではなく5分単位であれば、切り上げたとしても会社の負担は軽くなり、事務処理も軽減されますので現実的かもしれません。なお、端数処理については、労働基準監督署の臨検があった場合、疑いの目を持たれることもありえますので注意が必要です

 

安衛法と労基法で違う労働時間

Q.長時間労働に伴う医師面談が必要とされる時間は、どのように計算するのでしょうか

A.週40時間を超えた時間数ですが、労基法の時間外労働とは異なります

 月80時間超の長時間労働となり、疲労の蓄積が認められる従業員から申し出があった場合、原則として会社は医師による面接指導を受けさせなければなりません(安衛法66条の8、安衛則52条の2および3)。このケースと労基法の時間外労働の計算方法は異なりますので注意が必要です。労基法では、1週40時間・1日8時間を超えた場合または法定休日に労働させた場合、時間外・休日労働となります。一方、安衛法が定める医師面談が必要とされる時間は、「休憩時間を除き一週間当たり四十時間を超えて労働させた場合におけるその超えた時間」です。計算式で表現すると「1か月の総労働時間数(労働時間数+延長時間数+休日労働時間数)−(計算期間(1か月間)の総暦日数/7)×40」となります(平18・2・24基発0224003号)。

 例えば、1日の所定労働時間が8時間、月の所定労働日数が20日、歴日数が30日、結果としての時間外労働72時間と法定休日労働8時間の場合、労基法と安衛法を対比すると下記のような計算式になります。

【労基法の時間外・休日労働時間の計算】

  時間外労働72時間+法定休日労働8時間     = 80.0時間

【安衛法の医師面談が必要とされる時間の計算】

  8時間×20日+72時間+8時間 −(30÷7)×40 ≒ 68.6時間

 労基法では80時間、安衛法では68.6時間となり、11.4時間の差異が生じています。その月の歴日数と所定労働日数の関係等で、様々な組み合わせがありますので、人事担当者は事前に確認しておく必要があるでしょ

 

遅刻・早退の控除と減給の制裁

Q.「遅刻・早退の時間」と「残業時間」を相殺することは問題でしょうか?

A.遅刻・早退と残業の時間を相殺することはできません。

 ご存知の通り、労働基準法37条は週40時間および1日8時間を超える労働をさせた場合には、原則として最低25%増の割増賃金を支払うよう定めています。もし、遅刻・早退の時間を1箇月分の残業時間と相殺すると、通常労働時間(100%)とそれよりも高い割増率(125%以上)の残業時間を相殺しますので、従業員にとってはマイナス25%以上となります。これは、従業員にとって不利益になりますし、当然のこととして違法になります。ただし、1日という単位の中での相殺は、法定労働時間である8時間を超えたところから割増賃金が発生しますので、法律上の問題とはならないでしょう。

 また、会社によっては遅刻・早退が3回あった場合に、欠勤1日分として賃金から控除することを就業規則に規定しているケースを見かけます。ノーワーク・ノーペイの原則に基づき、働かなかった分を控除することは何ら問題ありませんが、それを超えて控除する場合には、「減給の制裁(労基法91条)」に該当し、違法となる場合がありますので注意が必要です。

 

休職と欠勤の違い

Q.休職と欠勤は、どのように異なりますか

A.休職は労働を免除する期間、欠勤は労働義務の不履行といえるでしょう。

 多くの就業規則には、休職について記述されており、私傷病など一定の事由に該当した場合には、休職することができると思います。ただし、労働基準法などには休職に関する定めはなく、休職を制度として設けるか否かは会社の自由です。そのため、休職期間の長さや賃金の支払いについては、会社によって対応に差があります。

 一方、欠勤は労働契約で約束している労務の提供について履行できないことを指しますので、いわば契約違反となります。しかし、私傷病の場合など届け出ることで、会社が欠勤を認めるケースが少なくありません。例えば、交通事故などで長期療養が必要な場合、最初の1箇月間を欠勤として処理し、その後3箇月間を休職期間とするようなケースです。その際、欠勤も休職も会社を休むという点においては同じです。しかし、欠勤は労務提供の不履行をやむを得ず認められるのに対し、休職はルールとして就労が免除される点で異なります。私傷病などにおいては、欠勤は休職までの前置期間という位置付けがありますので欠勤期間は相対的に短く、休職期間の方が長めに設定されることが一般的でしょう。

 また、欠勤の場合はノーワーク・ノーペイの原則に従い賃金控除の対象となるのが基本だと思われますが、休職中の賃金については、会社によって様々です。そのため、就業規則などに賃金の有無についてきちんと記述しておくことが重要になるでしょう

 

勤怠管理と固定残業代

Q.勤怠管理を簡便化するため、固定残業代にすることは問題でしょうか?

A.違法ではありませんが、毎月精算する必要があるでしょう。

 時間外労働に関する割増賃金について、例えば月20時間相当として月額固定の手当として支給するケースがあります。これ自体は、違法ではありません。

 固定残業代について判例では、「通常の賃金部分と時間外・深夜割増賃金部分が明確に区別でき、通常の賃金部分から計算した時間外・深夜割増賃金との過不足額が計算できるのであれば、その不足分を使用者は支払えば足りると解する余地がある。」(徳島南海タクシー事件 高松高裁判決平11.7.19、最高裁三小決定平11.12.14)とされています。つまり、時間外手当を月額で固定するためには、①月額固定額が何時間分に相当するかを事前に明確にすること、および、②実際にした残業時間と予定していた残業時間を月ごとに精算し、実際の残業時間が上回った場合には差額を支給すること、がその要件となるわけです。人件費を抑制するための施策として、固定残業代とすることには意味がないということになります。

 一方、日本ケミカル事件(最高裁一小判決30.7.19)では、採用条件確認書の記載や説明の内容等で根拠が明確であり、実際の勤務状況と大きくかい離しないのであれば違法にはならない旨の判断がされています。前出の判例の判断枠組みを緩和しているようにも見えますが、実務上は前記2要件を踏まえた方が無難と思われます。

 また、会社は労働時間を把握することが要請されており(平13.4.6基発339号)、時間外手当を月額で固定化したからといって、残業時間を管理する手間を省くことはできません。そして、2019年4月1日施行の改正安全衛生法では、法律として初めて労働時間の状況を把握する義務が定められましたので注意が必要です

 

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