賃金水準サーベイ

↓ 以下をご覧ください。

統計調査の入手方法「e-Stat」

Q.統計調査のデータを入手するには、どうすればよいですか?

A.「 e-Stat 」を活用するのが早いでしょう。

 一昔前であれば、政府刊行物センター等に行って出版物になっているものを購入するのが通常でしたが、現在ではインターネットを通じて無料で簡単に入手することができます。ネットサーフィンをしながら探すこともできますが、政府統計の総合窓口である「e-Stat」を活用するのが早いでしょう。代表的な賃金統計である「賃金構造基本統計調査」を例にとり、その手順を確認したいと思います。

 まず、「ヤフー」や「グーグル」などの検索サイト欄に「e-Stat」と入力し、検索ボタンをクリックします。そして、「政府統計の総合窓口(e-Stat)」のページに入ったら、そのキーワード検索欄に「賃金構造基本統計調査」と入力し検索ボタンをクリック後、選択候補の中から改めて「賃金構造基本統計調査」を選択します。以降は、入手したいデータ(該当年別、労働者の種類別、産業分類別など)によって、該当項目を選択していくことになります。

 「e-Stat」のデータは膨大でありメニューの階層が深いので、慣れないと使いにくいと思う人がいるかもしれません。その場合は、統計データをコンパクトにまとめた出版物で確認してから「e-Stat」を使うのもよいでしょう。そのような時は「活用労働統計」が重宝します。情報が限られていることから短時間で把握することができると思います。

 また、様々な統計について総務省統計局が「統計メールニュース」を無料で配信していますので、日頃から統計に関する情報を集めておくのもよいのではないでしょうか。

 統計メールニュース・サービス URL⇒ http://www.stat.go.jp/info/mail/index.htm

 

賃金水準の確認方法

Q.コーヒーの商社です。自社の賃金水準をチェックする良い方法は?

A.賃金構造基本統計調査を用いるのがよいでしょう。

 

自社の賃金水準がどのようなレベルにあるのか、人事担当者であれば当然気になるでしょう。いろいろなチェック方法があるでしょうが、やはり賃金構造基本統計調査を用いることが王道といえます。
 賃金構造基本統計調査は、日本政府が政策決定のために指定する基幹統計の一つです。基幹統計は、あまたある統計の中で53(令和元年5月24日現在)しか存在しない選び抜かれた統計なのです。統計としては、最高レベルのものであり安心して使用できます。また、賃金構造基本統計調査は、業界別の平均値だけでなく、性別、学歴別、年齢階級別など、個人の属性別のデータを詳細に確認することができます。
 この統計を用いる際には、まず御社の属する業界が「日本標準産業分類」の中で、どのように分類されているかを確認しなければなりません。コーヒーの商社であれば、大分類Ⅰ(卸売業・小売業)、中分類52(飲食料品卸売業)、小分類522(食料・飲料卸売業)、その中の5226(茶類卸売業)と位置づけられるでしょう。本来であれば、5226(茶類卸売業)の賃金データを使用したいところですが、集計単位として公表されていません。実際に使用するのは、中分類または大分類ということになるでしょう。
 全ての統計に共通していえることですが、統計で分かるのはある部分であり全てが分かるわけではありません。そのため、正解として捉えるのではなく、参考データとして用いるスタンスが必要だと思われます。
 

賃金水準を比較する方法

Q.自社の賃金水準を同業他社と比較したいのですが、統計以外に何かよい方法はありませんか?

A.ベンチマークを試みるか、または有価証券報告書を活用することもできます。

 自社の賃金水準を同業他社と比較する場合に、統計などの資料を活用する他には、ベンチマークをする方法が考えられます。ベンチマークをする場合には、同業者組合などでお付き合いのある企業に対して、自社のモデル賃金と相手先企業のモデル賃金を相互に交換してもらえるよう、お願いをすることになります。若しくは、労働組合を通じて同様のことができるケースも見受けられます。

 実際の支給データを交換することは、賃金という秘匿性から困難だと思われますので、やむを得ずモデル賃金ということになりますが、モデルが実態を表しているかどうかは分かりませんので注意が必要です。

 このようなベンチマークが難しい場合に、副次的な手法として有価証券報告書を活用することも考えられます。株式上場会社であれば、必ず有価証券報告書を発行していますので、従業員数、平均年齢、平均年収が記載されています。あくまでも参考程度ですが、チェックしてみる価値はあるのではないでしょうか。

 

地域別賃金水準の把握

→ 関連資料

賃金構造基本統計調査(左図棒グラフ部分)は、都道府県別にも集計されていますので、地域別の賃金水準比較が可能になっています。この調査は約150万人分のサンプル数を有する巨大な調査ですが、都道府県別、業界別、男女別、学歴別、企業規模別に分割するとサンプル不足となり、統計が不安定になる可能性があります。ですから、そういった点に注意しながら、都道府県別の集計データを扱わないといけません。

 また、初任給はどの企業でも新卒採用の際には公表しているのが通常であり、安心して使用できるものですので、都道府県別に大学卒および高校卒に分けて初任給の水準比較をするのもよいと思われます。

退職金の統計

Q.自社の退職金水準をチェックするには、どのような統計があるのでしょうか?

A.中央労働委員会の賃金事情等総合調査や東京都の中小企業賃金・退職金事情が代表的なものです。

 賃金に関する統計は、賃金構造基本統計調査等、優れた統計がたくさんありますが、退職金に関するものとなるとやや難しくなります。

 退職金は勤続期間と退職時の賃金が強く影響しており、個人の退職するタイミングによって支給額は大きく変動します。また、一時金を年金化することもありますので、個人差の大きい退職金の平均値を算出したとしても、他の賃金統計のような精緻な分析は難しいということです。そして、退職金は退職しなければ支給されないので、月例給与のようなサンプル数を確保することは困難です。

 そこで、退職金については、モデル退職金として統計をとるケースがあります。退職した実在者ではなく、モデル賃金と退職金支給率を組み合わせて、モデル退職金を作成するわけです。

 中央労働委員会による「賃金事情等総合調査」および東京都による「中小企業賃金・退職金事情」は、退職金の統計としては信頼性が高いものですが、以上のような経緯からあくまでも参考データとして捉える必要があります。

 

定期昇給の賃金統計

Q.定昇、ベアに関する統計には、どのようなものがありますか?

A.状況により異なるでしょうが、「賃金引上げ等の実態に関する調査」が使いやすいかもしれません。

 定期昇給やベース・アップの世間動向を調べたい場合、たくさんの調査や統計がありますが、まずは厚生労働省のデータから確認してはいかがでしょうか。

 厚生労働省では、7月頃に「民間主要企業春季賃上げ要求・妥結状況」、11月頃に「賃金引上げ等の実態に関する調査」を公表しています。これらの調査には、それぞれ特色があります。前者は、資本金10億円以上かつ従業員1,000人以上の労働組合のある企業(約300社)について集計したもの、後者は、常用労働者100人以上を雇用する企業(約2,000社)について集計したものです。端的にいうと大企業と中小企業以上という違いがありますので、前者の数値が高く出るのはもっともなことでしょう。

 この他には経団連や連合の集計結果もあります。ただし、どちらも特定の団体のものであり、データが偏らないようにサンプル抽出されているわけではありませんので、世の中全体を平均した結果であるような錯覚に陥らないよう注意が必要でしょう。

 このように、定期昇給やベース・アップの調査には、特色がありますので自社に適したものを選択する必要があります。なお、「賃金引上げ等の実態に関する調査」では、「賃金の改定の決定に当たり最も重視した要素」についても調べています。これによると、「企業の業績」が最も重視されていますので、世間相場は“あくまでも参考”として捉えることが重要かもしれません

 

ベースアップの実施方法

Q.「ベースアップ」は、どのように実施したらよいのでしょうか?

A.定期昇給の実施後、定額と定率に分けて実施するのが一般的だと思われます。

 賃金実務を担当する人事担当者でも、ベースアップを実施していない企業では、実務の経験が乏しくなっているかもしれません。ベースアップ(ベア)については誤解も多いようですので、基本を確認しておくことは大切でしょう。

 春闘における昇給率(額)は、定期昇給(定昇)とベースアップ(ベア)を一体として、“定昇ベア込み”で決定されることが多いと思われます。定昇は、制度として運用されるものであり交渉の必要がないものですので、評価の結果等が集計されれば自動的に算出されます。その後、“定昇ベア込み”のトータル部分から定昇部分を除いた残りが、ベアの部分になります。一方、ベアとは、“ベース=賃金表”をアップさせることを言いますので、個人の賃金に直接反映させるものではありません。まずは、前年度の賃金表にベア率(額)を反映し、新年度の賃金表を作成してから、個人の賃金を変更することになります。

 なお、ベアを実施する場合には、定率及び定額による配分が考えられますが、実際にはどちらか一方ではなく、定率と定額をミックスして配分する企業が多いのではないでしょうか。この場合、“定率”部分を厚く配分すると、高賃金ほど金額が大きく、低賃金ほど金額が小さくなります。一方、“定額”部分を厚く配分すると、高賃金ほど昇給率が低く、低賃金ほど昇給率が高くなります。一般的に、中高年者の賃金を是正したいときは“定率”部分を厚く、若年層を是正したいときは“定額”部分を厚く、配分することになります。どのようにベアを配分するかは、その会社の賃金の状態、または、政策により異なることになります

 

定期昇給で上昇しない人件費

Q.定期昇給で人件費が上昇しないというのは本当ですか?

A.本当です。しかし、実際にはそうもいかないでしょう。

→ 関連資料

 定期昇給は、よくエスカレーターに例えられます(左図)。
まず、20歳の新入社員が1階で上り方向のエスカレーターに乗ると考えます。次に、定年退職予定者は60歳になる時に、今まで長く乗ってきたエスカレーターを2階で降ります。このエスカレーターは40段で構成されており、各段には1歳刻みで20歳から59歳までの社員が1人ずつ乗っています。1階で1人乗ってくる(入社)度に、各段に乗っている社員が階段を1段(1歳)ずつ上り、最上段の社員が降りること(定年)を繰り返すと、エスカレーターに乗っている人数は常に40人であり変化しないことになります。

 このような人員構成の会社はほとんどないでしょうが、新卒定期採用と定年制度がこのエスカレーターのように運用されていれば、人件費はさほど変化しないことになります。ただし、早期退職や新卒採用の凍結などで、人員バランスが崩れていれば、このエスカレーターは機能しません。定期昇給の原資は、人員構成によって左右されるともいえます。結果として、人件費が上昇しないはずの定期昇給でありながら、実際には昇給原資で企業経営を悩ませることになっているのが現状かもしれません

 

定期昇給とベースアップ

Q.賃上げ5%は達成可能でしょうか?

A.経営サイドの英断が必要になりそうです。

 毎年春が近づくと「定昇ベア込みで●円(●%)獲得」などと春闘のニュースが流れます。ベアが注目されるようになったのは比較的最近のことだと思います。長期におよぶ景気の低迷で、ベアの実務を経験したことのない人事担当者がいてもおかしくありません。

 いわゆる“賃上げ”は、定期昇給とベースアップで構成されます。前者は人事制度上のものであり、後者は交渉等で決定されるものです。定期昇給は、評価制度と賃金制度を運用した結果、半自動的に上昇することになり交渉の必要はありません。一方、ベースアップは賃金表(ベース)の書き換えのことであり、消費者物価の変動による実質賃金の確保などの観点から労使交渉で議論が交わされるわけです。ベースアップは交渉等に基づくため交渉相手である労働組合のない企業では実現が難しいものだと思われます。

 「賃金引上げ等の実態に関する調査(2021年)」によると賃上げは1.9%になっています。仮に賃上げ5%を達成するためには、この公表値に対してさらに2.7%程度のベースアップを乗じることが必要です。労働組合の推定組織率が16.9%(2021年公表値)と低迷する現状においては、労使交渉に委ねることで社会全体のベースアップを実現することは困難かもしれません。大幅な賃上げを達成するためには、経営サイドの英断が必要になりそうです。

 

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