労使協定・労働者代表
↓ 以下をご覧ください。
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A.労使協定による経過措置の終了により、対象者の限定はできなくなりました。
高年齢者雇用安定法は、定年を65歳未満に定めている会社に対して雇用確保措置を義務付けています。雇用確保措置は、(1)定年制の廃止、(2)定年の引上げ、(3)継続雇用制度の導入の中から一つを選択しなければなりません。このうち継続雇用制度の導入が67.4%で最も高くなっています(2024年「高年齢者雇用状況等報告」の集計結果)。
継続雇用制度は、原則として希望者全員について受け入れる必要があります。ただし、2012年度までに労使協定により対象者を限定する基準を定めていた場合には経過措置が設けられました。代表例として、正社員時代の人事評価に基づき一定レベル以上の従業員に対象者を限定する基準が挙げられます。しかし、経過措置の終了により2025年4月1日以降は希望者全員が継続雇用制度の対象になります。これは、年金の支給開始年齢の引上げ(60歳から65歳)が終了することで、労使協定による経過措置もその役目を終えたわけです。
これにより希望者全員が継続雇用制度の対象者になるわけですが、解雇事由に該当するような場合は別の話です。厚生労働省の「高年齢者雇用安定法Q&A」には、「心身の故障のため業務に堪えられないと認められること、勤務状況が著しく不良で引き続き従業員としての職責を果たし得ないこと等就業規則に定める解雇事由又は退職事由(年齢に係るものを除く。)に該当する場合には、継続雇用しないことができます。」と記載されています。つまり、対象者を限定することはできませんが、例外はあると言えるかもしれません。
A.事業場の同一性が認められれば、引き継がれると思われます。
合併には、吸収合併と新設合併がありますが、どちらの場合であっても合併後の会社は、合併前の会社の権利義務関係を包括的に承継することになりますので、労働協約、就業規則および雇用契約は当然に引き継がれることになります。
しかし、労使協定は事情が異なります。本来、労使協定は法律で禁じられていることを許される“免罰効果”を発揮するものであり、労使の権利義務を定めたものではないからです。例えば、36協定(時間外・休日労働に関する労使協定)は、労基法で定める法定労働時間を超えて労働させても罰則が適用されない効果を発揮するものです。これは、権利義務関係には含まれませんので、原則として合併後の会社には承継されないことになります。
一方、合併とは異なるものの会社分割に関する指針(平成12年労働省告示第127号)には、賃金控除協定と36協定に関する次の記述があります。「これらの労使協定については、会社の分割の前後で事業場の同一性が認められる場合には、引き続き有効であると解され得る」とされていますので、会社分割後の事業場に場所的および人的な変動等がなければ、労使協定は承継されることになるでしょう。反対に、会社分割後の事業場に大きな変動があった場合には、改めて労使協定を締結する必要があります。これは、会社分割に関する指針ですが、合併の場合であっても同様に解することが可能だと思われます。
A.まずは労働基準法に登場する14個の労使協定を把握する必要があるでしょう。
労基法の条文を読んでいると、次のフレーズが14箇所、登場することに気がつきます。
『労働者の過半数で組織する労働組合があるときはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がないときは労働者の過半数を代表する者との書面による協定』
これが労基法でいうところの労使協定であり、労働組合または労働者の代表と会社が取り交わす合意文書ということになります。本来、労使協定は法律で禁止された事項について、法違反とは取り扱わない「免罰効果」を与えるためのものです。そのため、コンプライアンスの観点から非常に重要であり、労働基準監督署の臨検の際には不備を指摘されやすい書類の1 つになります。
労基法に登場する労使協定を条文番号順に並べると、下記の14個になります。該当する制度を採用している場合には、原則として事業場ごとに労使協定の備えつけが必要です。なお、労使協定は就業規則と同様に、労働者がいつでも閲覧できるような体制を取る必要があります(労基法106条第1項)。ただし、文書として配付することは義務付けられておらず、パソコン等で自由に閲覧ができれば問題ないでしょう。
【労働基準法に登場する14の労使協定】
① | 第18条 | 第2項 | 貯蓄金の管理に関する労使協定 |
② | 第24条 | 第1項ただし書 | 賃金控除に関する労使協定 |
③ | 第32条の2 | 第1項 | 一箇月単位の変形労働時間制に関する労使協定 |
④ | 第32条の3 | フレックスタイム制に関する労使協定 | |
⑤ | 第32条の4 | 第1項 | 一年単位の変形労働時間制に関する労使協定 |
⑥ | 第32条の5 | 第1項 | 一週間単位の非定形的変形労働時間制に関する労使協定 |
⑦ | 第34条 | 第2項ただし書 | 一斉休憩の適用除外に関する労使協定 |
⑧ | 第36条 | 第1項 | 時間外及び休日労働に関する労使協定(36協定) |
⑨ | 第37条 | 第3項 | 月60時間超に係る割増賃金を代替休暇とする労使協定 |
⑩ | 第38条の2 | 第2項 | 事業場外労働のみなし労働時間制に関する労使協定 |
⑪ | 第38条の3 | 第1項 | 専門業務型 裁量労働制に関する労使協定 |
⑫ | 第39条 | 第4項 | 年次有給休暇の時間単位付与に関する労使協定 |
⑬ | 第39条 | 第6項 | 年次有給休暇の計画的付与に関する労使協定 |
⑭ | 第39条 | 第9項ただし書 | 年次有給休暇の賃金を標準報酬日額とする労使協定 |
A.本来、労使協定は免罰効果を与えるものです。
労働基準法にはさまざまな労使協定が登場します。例えば、労基法第32条は労働時間について1週40時間、1日8時間と上限を定め、それを超えた場合には労基法第119条に基づき、「6箇月以下の懲役又は30万円以下の罰金」に処せられます。ただし、36協定(時間外・休日労働に関する労使協定)の締結・届出により、その範囲内であれば労基法の罰則は適用されません。これは、免罰効果と呼ばれます。法定労働時間を超えて従業員に残業をさせれば罰則が適用されるはずですが、その刑事責任について問われない効果を36協定が発揮しているわけです。
なお、36協定はこの免罰効果を与えるだけですので、36協定を締結したからといって、直ちに残業をさせられるわけではありません。この場合、残業を命じることができる根拠は36協定から発生するわけではなく、労働契約の一部である就業規則等に規定されることで初めて可能になります。
一方、育児介護休業法等にも労使協定は登場します。例えば、従業員が育児休業を申し出た場合でも入社1年未満の従業員であれば、労使協定に定めることによって適用を除外することが可能です。仮に、労使協定を結ばずに入社1年未満の従業員に育児休業を取得させなければ当然に違法状態になります。しかし、もともと育児介護休業法には、このことに関する罰則がありませんので罰せられることはありません。つまり、免罰効果を発揮する余地がないのです。もちろん罰則がないからといって法律を無視して良いはずはありませんが、本来、免罰効果のために存在した労使協定が、少しずつ位置づけを変化させている代表例ということができます。
A.労使協定は免罰効果を得るもの、労働協約は契約です。
労使協定は、法律に規定があるものについてその法的効果を発揮します。本来であれば違法なものであっても、該当する労使協定を締結・届出等することで適法なものとして扱われます。法律に罰則の規定があれば、罰せられない効果(免罰効果)を発揮します。反対に言えば、法律に定めがないものについて労使協定を締結しても、法的効果を発揮しないということです。
労働協約は、労働組合と合意した内容を文書にしたものですので、法律とは関係なく様々な約束をすることができます。つまり、労働組合と会社が交渉し労働条件を取り決めた契約書なのです。なお、労働組合が事業場の過半数の従業員を組織していれば、労働者代表として労使協定を結ぶことになるでしょう。この場合には、「労使協定=労働協約」になるので、2つの間に違いはないことになります。
賃金は、通貨で直接その全額について毎月1回以上、一定の期日に支払わなければなりません。これは、「賃金支払の5原則」と呼ばれます。賃金は、通貨で支払う必要があるので現物支給は許されません。しかし、労働基準法第24条第1項は、その例外として「労働協約に別段の定めがある場合」には、通貨以外のもので支払うことができると定めています。ここでは、従業員代表者を選出して締結する労使協定が想定されていません。労働協約は、労働組合と締結するものなので労働組合の存在しない会社では賃金の現物支給をすることはできないことになります。ここでも、労使協定と労働協約が異なる取り扱いをされています。
A.有効期間が必要なものと、そうでないものがあります。
労使協定にもいろいろありますが、労働基準法に登場する14の労使協定のうち有効期間の定めをしなければならないものは下記の5つになります。ただし、労働協約として労使協定を締結する場合、労働協約は一定の要件で破棄が認められていますので有効期間を定めなくとも問題はありません。また、「一箇月単位の変形労働時間制に関する労使協定」は、もともと就業規則に定めることで導入できるため、労使協定を結ぶケースは少ないかもしれません。
労使協定は、そもそも労使で合意のうえ締結するものなので、有効期間をどのくらいの期間にするかも労使にまかされています。ただし、下記のように通達で目安が示されていますので参考にするべきでしょう。なお、「時間外及び休日労働に関する協定(36協定)」については、1年間で残業の限度時間を設定する必要があるので有効期間を1年とするのが通常です。労働基準監督署は、1年以外の有効期間を定めた36協定が提出された場合、その次に提出する36協定の有効期間を1年とするよう行政指導しているようです。
これらのことを勘案して労使で有効期間を決めれば良いわけですが、将来的な見直しのタイミングなど柔軟に対応していくためには、全ての労使協定について有効期間を設けるのも一つの考え方かもしれません。
【有効期間の定めが必要な5つの労使協定】
内容 | 有効期間 | |
① | 一箇月単位の変形労働時間制に関する労使協定 | 3年以内が望ましい(平11.3.31 基発169号) |
② | 一年単位の変形労働時間制に関する労使協定 | 1年程度が望ましい(平6.1.4 基発1号) |
③ | 時間外及び休日労働に関する労使協定(36協定) | 1年間が望ましい(平11.3.31 基発169号) |
④ | 事業場外労働のみなし労働時間制に関する労使協定 | 一定の期間(昭63.1.1基発1号) |
⑤ | 専門業務型 裁量労働制に関する労使協定 | 3年以内が望ましい(平15.10.22 基発1022001号) |
Q.労使協定を締結したら、全て届け出る必要があるのでしょうか?
A.労使協定は、届け出るものと出ないものがあります。
労使協定にもいろいろありますが、労働基準法に登場する全部で14の労使協定の場合、労働基準監督署へ届け出る必要のあるものは、2つの例外を除き下記の6つになります。
2つの例外とは、まず「一箇月単位の変形労働時間制に関する労使協定」が挙げられます。労使協定を締結することで一箇月単位の変形労働時間制を導入した場合には、労働基準監督署へ届け出る必要があります。しかし、もともと就業規則に定めることだけで導入できるため、実質的には労使協定を結ぶ可能性は低いでしょう。もう一つは、「フレックスタイム制に関する労使協定」です。改正労働基準法(2019年4月1日施行)により、1箇月を超え3箇月までを清算期間とするフレックスタイム制の導入が可能となりましたが、1箇月を超える清算期間の場合には、労働基準監督署への届け出が必要になります。
余談になりますが、労働基準監督署へ届け出なければならない6つの労使協定を 「爺、一切、金貯まらず」(じじい いっさい かね たまらず)と、ゴロ合わせで覚えることができます。
【労働基準監督署に届出義務のある6つの労使協定】
① | 時- | 時間外及び休日労働に関する労使協定(36協定) |
② | 事- | 事業場外労働のみなし労働時間制に関する労使協定(法定労働時間超) |
③ | 1- | 1年単位の変形労働時間制に関する労使協定 |
④ | 1- | 1週間単位の非定形的変形労働時間制に関する労使協定 |
⑤ | 裁- | 裁量労働制に関する労使協定(専門業務型) |
⑥ | 金- | 貯蓄金の管理に関する労使協定 |
A.本社と各事業場について、36協定の内容が同一であれば可能です。
36協定の内容が本社と同一であれば、本社と各事業場の36協定を一括して届け出ることができます。電子申請であれば簡便でしょう。ただし、労働基準監督署への「36協定届」は一括できますが、各事業場で保存する「36協定書」は今まで通り各事業場で締結しなければなりません。一方、書面で提出する場合には本社を所轄する労働基準監督署の「配送作業室」に各事業場の36協定届を全て提出しなければならないので、一括届出のメリットはあまり感じられません。
一括届出の要件として、次の5つのことが求められます。
①本社代表者と労働組合本部の長が締結した協定であること
②労働組合が事業場毎に過半数労働者を組織していること
③36協定の内容(協定当事者を含む)が同一であること(労働保険番号、事業の種類、事業の名称、
事業の所在地、労働者数、協定の成立年月日、を除く)
④事業場の一覧表を提出すること
⑤一覧表等に「協定内容が同一」、「事業場毎に過半数労働者を組織する労働組合」であることを明示すること
この要件にあるように、各事業場の過半数代表者が同一であることを求められるので、労働組合のない多くの企業は、活用することができませんでした。しかし、2021年3月から要件が緩和され、電子申請により届け出る場合に限り、協定当事者が各事業場の労働者の過半数で組織した労働組合でなくても、本社一括届出を行うことが可能になりました。厚生労働省が、わかりやすいリーフレットを公開しているので参考になると思います。
【時間外労働等協定届の一括届出について】
https://jsite.mhlw.go.jp/tokyo-roudoukyoku/content/contents/001017660.pdf
A.可能ですが、事務の省力化には寄与しないでしょう。
36協定には、原則として有効期間を定めなければなりません。通達では、「時間外労働協定について定期的に見直しを行う必要があると考えられることから、有効期間は1年間とすることが望ましい」とされています(平11.3.31基発169号)。つまり、新しい36協定届を年に1度は労働基準監督署に提出することになります。これを面倒だと感じる人事担当者は、36協定の中に自動更新条項を設けることで事務の省力化を図りたいと考えるかもしれません。
36協定に自動更新条項を設けることは可能です。ただし、何もしないで自動的に更新されるわけではありません。通達では、「協定の有効期間について自動更新の定めがなされている場合においては、(中略)当該協定の更新について労使両当事者のいずれからも異議の申出がなかった事実を証する書面を届け出ることをもって足りる」とされています(昭29.6.29 基発355号)。この書面について労働基準監督署は「特に書式はないので任意の書面を提出してください」と言うわけです。
その結果、1年に1度、この任意の書面を所轄の労働基準監督署に提出することになります。そうであれば通常通りのフローで対応した方がよいかもしれません。事務の省力化の観点からは、大きな効果を期待できるものにはならないでしょう。
A.36協定の限度時間を超えてしまう場合の特別措置です。
労働基準法第32条は、労働時間について1日8 時間、1週40時間と上限を定め、それを超えた場合には罰則が適用になります。ただし、36協定(時間外および休日労働に関する労使協定)を締結し届け出ると、協定の範囲内であれば罰則は適用されません。免罰効果と呼ばれるもので、36協定を結ぶ最大の理由といってよいでしょう。
36協定は、3階建てのビルのようなものだと思います。左図をご覧ください。1階部分には「原則としての労働基準法」が存在し残業が禁止されている状態なので、1階の天井には残業「0時間」としてあります。2階部分には「例外としての36協定」が登場します。36協定には限度基準が定められており、1箇月では45時間までの残業が認められますので、2階の天井には残業「45時間」としてあります。通常は、ここで終了です。
ただし、それではどうしても足りない非常事態に対応するのが、3階部分の「例外の例外としての特別条項」ということになります。特別条項に制限はありませんので、ここでは任意に3階の天井を残業「80時間」としました。労使が協定した特別条項の延長時間(ここでは80時間)を超えてしまうと違法状態になります。労使が合意すれば、何時間でも残業が認められますので、この青天井の状態が問題視されてきました。
2019年4月施行の改正労働基準法は、この青天井に“フタ”をする制限を設けました。時間外労働について1年間で720時間、休日を含み1箇月で100時間未満かつ2箇月〜6箇月を平均して80時間以下としなければなりません。法改正によって、休日労働を含むという別枠の管理基準が設けられましたので、勤怠管理の重要性が一層高まったといえるでしょう。
Q.お昼の電話当番は、内勤の女性が交替制で担当しています。問題でしょうか?
A.一斉休憩の適用除外に関する労使協定が必要です。
労働基準法34条は、労働時間が6時間を超える場合には45分以上、8時間を超える場合には60分以上の休憩時間を“一斉に”与えることを定めています。ただし、運輸交通業など一部の事業については適用が除外されています(労基則31条)。以前は、労働基準監督署長の許可を受けることで、一斉休憩の適用除外が認められていましたが、法改正により許可制度が廃止され、現在では労使協定による適用除外が認められています。なお、法改正以前に適用除外に関する許可を取得している場合は、現在でも有効です。
一斉休憩の適用除外に関する労使協定には、①対象となる従業員の範囲、②休憩の与え方、について定めることが必要です(労基則15条)。このような労使協定を結んだ場合には、ローテーションなどにより休憩を与えることが可能となります。ですので、適用を除外される事業でない場合、適法に労使協定を結んでいなければ、お昼休憩を一斉に与えなければなりません。
一方、御社では内勤の“女性”がお昼当番を担当しているとのこと。合理的理由があれば別ですが、理由もなく女性にのみ担当させているのであれば、男女雇用機会均等法に抵触する可能性がありますので検討が必要でしょう。
A.フレックスタイム制には、必ず労使協定が必要です。
フレックスタイム制による労働時間管理を実施するためには、就業規則に規定を設けた上で、次の6項目を記載した労使協定を結ばなければなりません。なお、改正労働基準法(2019年4月1日施行)では、清算期間が1箇月から3箇月まで延長されました。1箇月以内であれば良いのですが、1箇月を超えるフレックスタイム制を採用する場合には、労働基準監督署への届け出も必要になります。
①対象となる従業員の範囲
②清算期間
③清算期間における総労働時間
④標準となる1日の労働時間
⑤コアタイム(任意)
⑥フレキシブルタイム(任意)
完全週休2日制の会社がフレックスタイム制を導入するケースでは、1日8時間相当の労働であっても曜日の巡りによって、清算期間における総労働時間が法定労働時間の総枠を超えた場合には割増賃金を支給する必要があり、不本意に感じる会社も多かったことでしょう。しかし改正労働基準法により、総労働時間について「清算期間内の所定労働日数×8時間」と労使協定に定めることで、解決が図られています。
また、割増率が異なることから法定休日に勤務した場合には、フレックスタイム制を適用しないことを労使協定で明確にしておくことも大切でしょう。
Q.事業場外労働のみなし労働時間制には労使協定が必要ですか?
A.2つのケースがあります。残業が想定される場合には必要です。
事業場外労働のみなし労働時間制は、「事業場外」で「労働時間を算定し難いとき」に導入可能です。導入した際の労働時間について、労働基準法第38条の2には「所定労働時間労働したものとみなす」と記述されていますので、みなす時間は所定労働時間になるのが原則です。この場合には、労使協定を結ぶ必要はありません。
一方、労働基準法第38条の2ただし書には「通常所定労働時間を超えて労働することが必要となる場合においては、(中略)通常必要とされる時間労働したものとみなす」と記述されています。つまり、残業する必要がある場合は「所定労働時間+残業時間」となることを指しています。この場合には労使協定を結ぶ必要があり、通常必要とされる時間(残業時間を含む)について、労使で合意しなければなりません。労使協定には、有効期間の定めが必要であり、労働基準監督署への届け出義務もあります。
上記のように、事業場外みなし労働には、「所定労働時間」と「所定労働時間+残業時間」とみなす場合の2種類があります。それによって労使協定の必要性が異なるわけです。会社によっては人件費削減のために、残業相当時間があるにもかかわらず、所定労働時間とみなしているケースがあるようです。実態とは異なるみなし時間は、もちろん問題になります。労働基準監督署の臨検で、みなす時間について指摘されることがあるので注意が必要でしょう。
なお、労使協定が必要なケースで法定の要件を満たした場合でも、みなすことができるのは事業場外の部分ですので、オフィス内の労働時間については別途把握し、みなし時間と合算した上で割増賃金を支給する必要があります(資料参照)。
Q.専門業務型 裁量労働制の労使協定の変更について教えてください。
A.本人同意の取得など、労使協定に追加する必要があります。
裁量労働制には、専門業務型と企画業務型の2種類があります。就労条件総合調査(令和4年)によると、専門業務型で2.2%、企画業務型で0.6%の導入割合になっています。導入するための要件が厳しいことから、どちらも低い導入率になっているようです。導入するためには、専門業務型は労使協定、企画業務型は労使委員会の決議が必要です。労働基準法施行規則が改正(2024年4月1日施行)され、専門業務型裁量労働制の労使協定の必要記載事項が追加されたので注意が必要です。
労使協定に追加しなければならない項目は、「制度の適用に当たって労働者本人の同意を得ること」、「制度の適用に労働者が同意をしなかった場合に不利益な取扱いをしないこと」、「制度の適用に関する同意の撤回の手続」の3つです。本人同意の取得などは、既に企画業務型の場合には義務付けられていましたが、改めて専門業務型にも設定されたものです。なお、制度の運用状況に関する記録の保存について労使協定に記載する必要がありますが、「同意」が追加項目になったことで「同意及び同意の撤回」の記録の保存についても同じく記載することが必要です。
今回の追加項目は、改正前から制度を導入していた企業にも適用されるので、継続して導入する事業場では改めて締結した労使協定について、2024年3月までに労働基準監督署へ届出する必要があります。
A.まず、「賃金控除に関する労使協定を締結」し、就業規則に記載しましょう。
賃金は、その全額を支払うことが必要であり、いわゆる“給与天引”をすることはできません。これは、労働基準法第24条に「賃金支払いの5原則」が定められているからです。具体的には、①通貨で、②直接、③全額を、④月1回以上、⑤定期的に、支払うことを使用者に求めています。ただし、法令の定めによる場合や労使協定を結んだ場合には、賃金の一部を控除して支払うことが可能となります。
法令の定めによる場合とは、所得税や社会保険料について控除することを指しており、それ以外の生命保険料などを控除するためには、「賃金控除に関する労使協定」を締結しなければ労働基準法違反となります。この労使協定は、有効期間の定めや労働基準監督署への届け出も必要ありませんので簡単に作成することができるでしょう。しかし、労働基準監督署の臨検では、労使協定を締結せずに給与天引をしていることについて、是正勧告を受ける例が散見されますので注意が必要です。
生命保険料以外にも、財形貯蓄、持株会の拠出金、銀行からの借入金の返済など、この労使協定を締結しなければならないものはたくさんありますので、その場合には必ず締結しましょう。また、就業規則に記載することも忘れてはなりません。
Q.労働者代表の退職により、新しく労使協定が必要になりますか?
A.協定の成立当時に、過半数労働者を代表していれば問題ありません。
労働組合がない場合には、労使協定を締結するために原則としてその都度選挙などの方法により、事業場の過半数を代表する労働者を選出しなければなりません。これは、企業単位ではなく事業場単位であり、パート労働者などの非正社員を含めた人数を合計した過半数を代表していることが要件となります。
労使協定は成立から一定の期間存続することになりますので、時間の経過とともに労働者代表の退職や労働者の過半数を組織していた労働組合の過半数割れという状況も起こりえるでしょう。そもそも労働者の人数は、業績の影響によって変動するものですので、一旦成立した協定をやり直していたのでは、労使協定の安定性を損なうものになってしまいます。そのため、成立した当時の状況が重視され、協定の成立時に事業場の過半数労働者を代表していれば問題はありません。なお、労働基準法コンメンタール(厚生労働省労働基準局編)では、「協定当事者の要件として要求している労働者の過半数を代表するという要件は、協定の成立要件であるにとどまり、協定の存続要件ではないと解されよう」と記述されています。
様々な労使協定を結ぶ場合や就業規則変更の意見聴取をするために、労働者代表を選出しなければなりませんが、①管理監督者でないこと、②投票・挙手等の方法により適性に選出されたこと、が必要であり適性に選出されない場合は、その協定自体が無効となることがあるので注意が必要です(労基則第6条の2第1項)。労働者代表は、目的を明らかにして選出するプロセスが重要になります。
A.改めて選出した方がよいでしょう。
就業規則を変更する場合には、労働者代表や労働組合の意見を必ず聴かなければなりません。ただし、会社と労働者代表等が合意する必要はなく、「反対である」という意見を聴くことでも法律の要件を満たします。ここで気になるのは、本当に労働者を代表しているのか、という部分です。就業規則変更届の意見書や労使協定の締結が必要となる場合、事業場ごとに過半数の労働者を代表していなければなりません。事業場の過半数を組織する労働組合であれば問題ありませんが、そのような労働組合のない会社では、選挙など民主的な手法により労働者代表を選出する必要が出てきます。
労働組合ではないものの労働者の互助会的な親睦会がある場合、慣例的に親睦会の会長を労働者代表としているケースをみかけます。親睦会の会長であっても、労働者代表の選挙等の結果として選出されたのであれば問題ありませんが、親睦会の会長という資格のみでは労働者代表にはなれません。労働者代表は、目的を明らかにして選出するプロセスが重要なのです。
労働者代表は、管理監督者でないことはもちろんのこと、「法に規定する協定等をする者を選出することを明らかにして実施される投票、挙手等の方法による手続により選出された者であつて、使用者の意向に基づき選出されたものでないこと」と規定されていますので注意が必要です(労基則6条の2第1項)。
A.その都度、選出した方が無難でしょう。
労働基準法には14の労使協定が登場します。当然のことながら、労使協定を結ぶのは会社と労働者の代表です。事業場の過半数を組織する労働組合があればスムーズかもしれませんが、そのような労働組合のない会社では、労働者代表について選挙など民主的な手法によりその都度選出する必要が出てきます。その手間を省くため、労働者代表の任期制を実施したいと考える会社もあります。
任期制それ自体は有効と考えられますが、留意すべき部分もあります。例えば、労働者代表を選出する選挙の時に、労働者に対して締結予定の労使協定すべてについて事前に明らかにする必要があります。また、実際に労使協定を結ぶ時点と労働者代表の選出時点はずれるので、この点も気がかりです。なぜなら、一定の時間が経過することにより、労働者の構成などが大きく変動した場合には、労使協定を結ぶ時点で本当に労働者の過半数を代表しているかが不明確になってしまうからです。そして、労働基準監督署の臨検で労使協定の不備を指摘され、当初に予定されていなかった労使協定を結ぶ場合も問題でしょう。
労働者代表は、結ばれる労使協定ごとにその都度選出されるのが原則といってよいでしょう。労働者代表の任期制は、便利な部分がある反面適切な運用が求められますので、その都度選出した方が無難と言えるかもしれません。
A.正社員だけでなく、パートタイマーを含む全ての労働者が母集団となります。
労働基準法には、お決まりの文句として「当該事業場に、労働者の過半数で組織する労働組合がある場合においてはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がない場合においては労働者の過半数を代表する者との書面による協定」というフレーズが登場します。これは、労使協定のことですね。労働組合がない場合には、事業場ごとに労働者の代表を選出することになりますが、「労働者の過半数を代表する者」の母集団の範囲が疑問になるかもしれません。
この点について、厚生労働省の通達(昭46.1.18基収6206号)では36協定の労働者の範囲として、「法第9条の定義によるべきが妥当と考えられる」とされています。労働基準法第9条で「労働者」とは、事業に使用され賃金を支払われる全ての労働者を指しています。“全て”ですので、管理監督者、長期欠勤・出張・休職期間中の者を含めて母集団の範囲とされます。また、出向社員については、出向先にとっても当該事業場の労働者ですので、母集団の範囲に含まれることになるでしょう。