能力主義管理 〜その理論と実践

 人事制度を検討している人事担当者にお薦めします。

 「今日においては企業の属する世界が、急速にインターナショナルな拡がりを示しているので、人事管理面において、インターナショナルな場でも十分通用し得る様式を求めていかなければならない。すなわち人事管理国際競争において十分競争力をもつものでなければならない。」 人事管理に関する記述について、この書籍の77ページから引用しました。 

 40年以上前(昭和44年2月25日)に発行された書籍ですので、グローバル化の必要性が今に始まったものではないことがわかります。この書籍は名著として名高く、それゆえ平成13年4月に32年の時を経て復刻されたものです。

 年功制や職能給・職務給など、現在でも議論となるトピックを扱い、能力主義管理の重要性を説いていますが、人事のテーマは昔から大きく変わっていないのかもしれません。人事制度を構築する場合には、様々な局面で悩むことがあると思いますが、昨今のトレンドに惑わされないよう“足元を見つめ直す”のに役立ってくれるのではないでしょうか。

 往年の人事担当者からすれば、日本の人事制度史を思い出すことができるリカレント・ヒッツと言えるかもしれません。

著    者:日経連能力主義管理研究会

出 版 社:日本経団連出版

発 売 日:2001年4月

カテゴリー:実務書(人事管理)

 

 

日本産業社会の「神話」 〜経済自虐史観をただす

 「あなたの誤解が日本を衰退させる!」

 この本の“オビ”に書かれたキャッチコピーです。私たちが当然と思っていること、それは迷信であり、“他国の冷静、的確な状況把握”、“他国と日本を直接比較した研究結果の活用”が重要だと、著者である小池先生は述べています。

 この書籍の論点からすると中心ではないかもしれませんが、人事担当者の立場からすると、次の神話は気になるところでしょう。

 ●日本の人事評価は中心化傾向が強すぎるが、アメリカの人事評価はメリハリが効いている、という神話(p.35)。

 ●日本の賃金は属人給だが、アメリカの賃金は職務給である、という神話(p.96)。

 これらの内容は、著者が述べるように、“証拠がやや足りない”部分もあるのかもしれませんが、それでも十分に説得力を持って語りかけてくれます。日本にはびこる神話を批判的に見つめ直す良い視点を与えてくれる書籍ではないでしょうか。また、平易な文章で書かれており、労働経済学を専門としない人でも気軽に読むことができる本でもあります。

 今まで神話に煩わされてきた人事担当者にとっては、“痛快時代劇?”を見るように、スッキリとする一冊になるかもしれません。

著    者:小池 和男

出 版 社:日本経済新聞出版社

発 売 日:2009年2月

カテゴリー:経営書(労働経済)

 

 

大卒就職の社会学 〜データからみる変化

 “シューカツ”、大変ですよね。

 新卒採用は人事担当者にとって大変な仕事ですが、学生さんからすれば、人生の大勝負。“勝ち組”にならなければいけない、と思っている学生さんも多いのではないでしょうか。

 65歳までの継続雇用が進む中、20歳代の就職は厳しさを増すばかりですが、いつ頃から就職活動は大変になったのでしょうか?また、どういった学生さんが大変なのでしょうか?それとも以前と変化していない部分もあるのでしょうか?この本は、そういった素朴な疑問に対して、様々なデータに基づき解説してくれます。

 学業に専念できる環境整備として、就職活動の解禁日を遅くすることが重要だと、学校や企業から提言されていますが、昨今、この就職協定のタイムスケジュールが変動しています。人事担当者であれば、こういった採用スケジュールで悩むことでしょう。この書籍の中では、就職活動のタイムスケジュールにスポットを当て、学校ブランド群別に分析しているところが面白く分かりやすくなっています。学校のブランド力が内定に関係があるかどうかの一端をうかがい知ることができます。

 採用活動を実施する側の人間として、アカデミックに“シューカツ”を考えたい人事担当者にお薦めしたいと思います。

著    者:苅谷 剛彦/本田 由紀 編

出 版 社:東京大学出版会

発 売 日:2010年3月

カテゴリー:学術書(教育社会学)

 

 

人的資源管理論 【理論と制度】 第3版

 この書籍の169ページ。

 『 「全体から逆算して項目評定の鉛筆を舐める」管理職が28.1%と3割近くもいる 』 、 『 評価制度の「精緻化」によって評価の「精度」を上げられるという「信仰」がある 』  

 どちらも、“あるある”と言いたくなりそうな内容です。

 人的資源管理は、略してHRM(Human Resource Management)と表現されることも多いと思いますが、日本語がアルファベットやカタカナになると“カッコ良さ”がつきまとい、実態と乖離したニュアンスを醸し出すことがあります。著者である八代先生は、“人的資源管理”と“労務管理”や“人事管理”に違いはないというスタンスで本書を書かれており、その点からも人事担当者が正面から向き合うべき内容のオンパレードです。

 大学の学部生のテキストとして執筆されたそうですが、それだけでは”もったいない”。実務を経験した中堅人事担当者が、ご自身の知識を整理するために役立つ書物と言えそうです。

著    者:八代 充史

出 版 社:中央経済社

発 売 日:2019年8月

カテゴリー:学術書(人的資源管理論)

 

 

賃金とは何か―戦後日本の人事・賃金制度史

 「職能資格制度」の生みの親。

 楠田丘と言えば、泣く子も黙る賃金の専門家。齢を重ねても衰えを知らない鉄人です。たくさんの人事担当者が楠田理論を学び、育ったことでしょう。その楠田先生の伝記を通じて、“賃金とは何か”に迫る歴史本とも言える書籍です。

 皆さんは、オーラルヒストリーって、ご存知ですか? オーラル=口述、ヒストリー=歴史で、ヒアリングを通じて政策情報に関する遺産を学問的に後世へ伝えるために、実施されている学術的プロジェクトです。この本は、研究者が専門家にヒアリングをした結果を文章に残し、研究活動に役立てていこうという試みなのです。

 このオーラルヒストリーという手法をもって、第二次世界大戦後の日本の人事・賃金制度がどのように変化していったかを、生き字引である楠田先生の記憶を辿り明らかにしていくことで、手に取るように当時の状況を把握することができます。

 賃金の歴史を学びたい若手人事担当者、または、楠田理論と共にキャリアを重ねた人事担当者が自分の職業人生を振り返るためにも、有意義な書物だと思います。

著    者:楠田 丘

出 版 社:中央経済社

発 売 日:2007年4月

カテゴリー:学術書(オーラルヒストリー)

 

 

Excelで簡単 やさしい人事統計学

 “エクセルって使えますか?

 総ページ数149ページ。その薄さのおかげで、カバンに入れても邪魔になりません。数式があまり出てこない代わりに、エクセルの操作画面の説明が出てきます。要するに、パソコンが使える人なら理解することができます。

 統計というと難しくてあまり仕事に関係のないもの。そう思っている人も多いのではないでしょうか。使わなくても人事の仕事はできますが、使えると仕事がはかどるツールになってくれるかもしれません。

 人事担当者は、研究者が欲しくてもなかなか手に入らない自社の賃金データという良質なデータを持っています。それを活用しないのは、もったいないです。この本は、自社の賃金を分析するために、賃金構造基本統計調査など公表されている統計も紹介してくれますし、決して統計全般を説明するのではなく、ピンポイントで人事担当者が必要になる基本中の基本に限って説明してくれています。

 統計の入門書というよりは、人事担当者のための実務書であり、統計を理解するよりも使えればよいと考える実務家向きの書籍だといえるでしょう。 

著    者:大阪大学大学院国際公共政策研究科人事統計解析センター

出 版 社:日本経団連出版

発 売 日:2006年8月

カテゴリー:実務書(統計学)

 

 

人材を活かす企業  「人材」と「利益」の方程式

 フェファー先生、“なるほど”です。

 「市場から買い入れたもので競争力の維持や大きな成功を実現できない。自社が買えるものは、他社も買えるからである。」 つまり、人材について言えば、人材育成なくして企業は差別化できないし、競争力は伸びないのです。この部分だけでも人材育成の必要性や重要性を痛感させられます。また、賃金制度のあり方を考える場合にも、大変参考になる次の記述が、この書籍の171ページにあります。

 ①賃金は、多くの経営者が思うほど重要ではなく、労働コストを削減しても競争力の獲得にはつながらない

 ②業績給や出来高給は人々の支持が高くても、実際は問題が多く、調査結果によると、マイナスに作用することが多い

 ③給与の査定制度を導入すれば、生産性の問題がすべて解決すると信じるのは、破滅への道である

 アメリカの学者にこのように言われると、日本の成果主義とは何だったのだろうかと改めて思います。これが本当かどうかは、是非、お読みいただき真偽のほどをお確かめください。

 人により考え方は異なっても、参考にはなるはずです。

著    者:ジェフリー・フェファー 著/守島基博 監修/佐藤洋一 訳

出 版 社:翔泳社

発 売 日:2010年10月

カテゴリー:経営書(人材活用)

 

 

仕事の経済学 [第3版]

 労働経済学の重鎮である小池和男先生の名著であり、私たちが持つ数々の“通念”が非常に曖昧なものであることを、圧倒的なデータから教えてくれる書籍です。

 三種の神器と呼ばれた「終身雇用、年功賃金、企業別労働組合」は、日本の本当の姿だったのか?

 欧米と比較して日本は特殊なのか?

 年功賃金が発達した理論的背景とは?

このような様々な疑問に答えてくれます。

 人事担当者となって日が浅い方が読むのも良いですが、人事としてキャリアを重ねた皆さんに読んでいただくと非常に参考になると思われます。この本は、労働経済学の決定版です。読んで損はありません。

著    者:小池 和男

出 版 社:東洋経済新報社

発 売 日:2005年2月

カテゴリー:学術書(労働経済学)

 

 

 

労働法関連

●労働法 判例50!

●1冊でわかる!育児・介護休業法、雇用保険法、次世代法

●会社法入門 第三版

●3訂版 会社は合同労組・ユニオンとこう戦え!

●職業別 雇用契約書・労働条件通知書 作成・書換のテクニック

●ベーシック労働法 第9版

●わかりやすい労働衛生管理 改訂3版

●労働法はフリーランスを守れるか ~これからの雇用社会を考える

●社労士のための労働事件 思考の展開図

全訂版 労務管理における労働法上のグレーゾーンとその対応

●実務詳解 職業安定法

●解雇の金銭解決制度に関する研究

●「元労働基準監督官」がつくる就業規則・諸規程用例集

●労働判例百選 [第10版]

●新版 残業代請求の理論と実務

●すぐに使える 衛生委員会の基本と実務 第2版

●教養としての「労働法」入門

●企業組織再編と労働契約

●実践!! 業務委託契約書審査の実務

●第2版 これ1冊でぜんぶわかる! 労働時間制度と36協定

●逐条解説 労働基準法

●労働法の基軸 〜学者五十年の思惟

●テレワーク導入の法的アプローチ

●改訂版 労使協定・労働協約 完全実務ハンドブック

●就業規則モデル条文【第4版】

●【改訂版】企業労働法実務入門 〜はじめての人事労務担当者からエキスパートへ

 

↓ 以下をご覧ください。

労働法 判例50!

 一言でいうと、馴染みやすい判例解説の教科書です。

 労働判例を学ぶのであれば「労働判例百選」でしょう。コレがなければ話になりません。著名な労働法の研究者が勢揃いして、厳選された111の判例について解説してくれます。ただし、文字が小さい。余白は少ない。つまり、見にくいのです。労働法の初学者が学ぶにはハードルが高いかもしれません。そこで、というわけでもないでしょうが、判例を50に限定し読みやすさを追求したものとして登場したのが本書でしょう。労働判例百選と同じ有斐閣が出版しています。

 この書籍は、労働判例百選と同様に3構成で編集されています。労働判例百選では、「事実の概要」→「判旨」→「解説」と進行しますが、ここでは「事案をみてみよう」→「判決文を読んでみよう」→「解説」という感じです。大学生を意識してか、少しでも平易で馴染みやすい表現を採用しようとする姿勢が伝わってきます。また、分野ごとに問題提起をした上で基本について解説・整理してから個別の判例解説に入るので、読み手の理解度を少しでも高めたいという姿勢も伝わってきます。

 就業規則と労働基準法の関係性が理解できると、ぼちぼち判例にもチャレンジしたいと考えるものでしょう。この書籍は、初めて労働判例に挑みたいと考える人事担当者にピッタリだと思います。本屋さんで手にとり、パラパラ見ていただくと良いかもしれません。

(でも、もう少しだけ字が大きいと良いのですが、若者向きということでしょうか、有斐閣さん・・・。)

著    者:大木正俊、鈴木俊晴、植村 新、藤木貴史

出 版 社:有斐閣

発 売 日:20254

カテゴリー:教科書(労働法)

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